ダイハツ・コペン エクスプレイ(FF/5MT)
誠実なるスポーツカー 2015.05.19 試乗記 個性的なエクステリアデザインで“新ジャンル感”を追求したという、ダイハツのオープン軽「コペン エクスプレイ」。5段MTモデルで、その素顔に迫った。“たたき上げ”のオープン軽
最近みんな、「ダイハツ・コペン」のことを忘れかけているのではないだろうか。思い起こせば去年の初夏、コペンが復活した時には大歓迎だった。あれから1年、コペンの名前が挙がることはまれになってしまった。
しかしそれもしょうがないのである。マツダの「ロードスター」が絶賛され、「ホンダS660」がおもしろいと評判になっているここが、コペンにとっての踏ん張りどころだ。
と、なぜかコペンを応援するような口ぶりになっているけれど、応援したくもなるじゃありませんか。
F1やルマンで勝ったことのあるホンダやマツダと比べれば、スポーツカーメーカーとしてのブランド力は劣る。アッチが親の地盤や顔の広さを活用できる2世議員、2世タレントだとすれば、コッチは徒手空拳のたたき上げだ。しかもアッチはFRとミドシップで、FFのコペンと比べるといかにも本格派っぽい。サラブレッドだ。
普通に考えれば、コペンは圧倒的に不利だ。でも、せっかく自動車界を盛り上げようとガンバってくれたコペンを、このまま見殺しにしてもいいのか。
ダイハツには縁もゆかりもない人間ですが、ここはひとつ、コペンを盛り上げる秘策を考えたい。
「敵を知り己を知れば百戦あやうからず」に従って、まずはいつの間にかバリエーションが増えているコペンのモデルラインナップをおさらい。
2014年6月に2代目となるダイハツ・コペンが登場。先陣を切ったのは、ベーシックな「コペン ローブ」だった。同年11月にはタフでアグレッシブなデザインのダイハツ・コペン エクスプレイが加わった。エクスプレイとは「Extra PLAY(もっと楽しい)」からの造語である。
そしてコペン エクスプレイが登場した1カ月後、今度はビルシュタインのダンパーなどでコペン ローブの走りを強化した「コペン ローブS」が追加されて現在に至る。
ちなみに第3の矢として、初代コペンを思わせる、丸いお目々のコペンの予約も始まっている。こちらは、年内にも発表される見込みだ。
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替えがきかない個性派ボディー
エンジンを始動するまで、もう少々お付き合いください。つまりコペンは大きく分けて、(1)コペン ローブ、(2)コペン エクスプレイ、(3)丸目のコペン(仮称)の3兄弟ということになる。
ここで気になるのが「着せ替え可能」だというコペンのコンセプトだ。しかしこれが誤解を受けやすい。つい、3つのバリエーションを自由に行き来できるのかと思ってしまうけれど、そうではない。
入念な取材準備で知られるwebCG編集部のS氏によれば、(1)⇔(2)の着せ替えはできない。(2)⇔(3)も不可で、(1)⇔(3)だけができるという。
ただしS氏の調査によれば、(1)⇔(3)の着せ替えはかなりの金額(現時点で未公表。数十万円か?)を要するという。
つまりダイハツが「DRESS-FORMATION」とうたう着せ替えコンセプトは、原則的に(1)(2)(3)の各モデルそれぞれで楽しむ遊びだということになる。
カメレオンのように千変万化することこそダイハツ・コペンがブレイクするきっかけになるのではないかと期待していただけに、ちょっと残念だ。愛川欽也さんがご存命だったら、「はい消えた!」とおっしゃったかもしれない。
しかし、そんな重たい気持ちも、エンジンを始動して走りだせば軽くなる。
繊細さはないけれど、がちっと入るシフトを1速に入れる。低回転域からトルクがあるエンジンなので、クラッチ操作には気を使わなくても大丈夫。すーっと軽快に発進する。
じっくり丁寧に作られている
乗り心地は硬い。不快に感じるほどではないけれど、首都高3号線の路面のつなぎ目では、ビシッと突き上げる。でもそれが不快に感じないのは、安定感を保ったまま、思った通りに動くからだ。ボディーもがっちりしている。高速コーナーや車線変更のたびに、「素直なスポーツカーだな」と感じ入る。「いいクルマ」ではなくて、「いいスポーツカー」だと感じるところがミソである。
道中、ホテルの駐車場で小休止。撮影のために屋根をしまう。ここで、電動で屋根を格納できるのがコペンの強みであると確認する。
マツダ・ロードスターの手動ほろも、運転席に座ったまま開け閉めできる優れモノであり、好きモノなら開け閉めする所作を楽しめる類いのものだ。ではあるけれど、駅の階段だってエスカレーターを使う人のほうが多いように、手動と自動があれば自動を選んでしまうのが人間の性(さが)というものである。
トランクルームに屋根を格納すると、想像以上に荷物が積めないことが発覚する。パートナーと自動車旅行に出られることがホンダS660と比較した場合の明確なアドバンテージになると思っていただけに、これは痛かった。
しかし、箱根山中に入るとそんな痛みも和らぐ。イヤなクセのない、ナチュラルなハンドリングのよさがささいなことを忘れさせるのだ。
ビルシュタイン製ダンパーを備えたコペン ローブSには乗っていないけれど、標準の足まわりでコーナリングが十分に楽しいし、安定している。
オープンにしていると、乾いた排気音が耳に心地いい。ブレーキも、よく利くだけでなくペダルのタッチもしっかりしていていい。ステアリングの手応えを通じて、路面からの情報がしっかりフィードバックされる。
つまり、全体にフィールがいい。ただよくできているとか、よく走るというだけでなく、もう一段上の「味わい」まで求められるクルマだ。国産A5和牛だとか関サバだとか嬬恋の齋藤さんのフルーツトマトだとかいった、特別な素材は使っていないかもしれない。けれども、予算の範囲内でじっくり素材を吟味して、丁寧に調理したという印象を受ける。誠実に作られたスポーツカーだ。
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走りの質で選べるクルマ
というわけで、ダイハツ・コペン エクスプレイには謝りたい。マツダ・ロードスターやホンダS660と勝負するにあたって、真っ向勝負を避けていたのだ。荷物が載るとか屋根の格納が電動だとか、着せ替えができるとか、変化球で勝負しようとしていた。
もっと言えば、いずれ発表される丸目のコペン(仮称)で、ゆるキャラを目指すのもアリだと思っていたのだ。例えばスポーツカー版の「くまモン」とか「ふなっしー」的な存在になるのも、コペンが生き残る道のひとつだと計算していた。
なぜなら、真っ向勝負しても、スポーツカーとしてのブランド力や駆動方式やエンジンレイアウトにこだわるエンスージアストの目をこっちに向けさせることは難しいと考えていたからだ。
昔からのマニアに訴えかけるよりは、SUPER GTにアニメファンが押し寄せるように、別のフィールドからお客さんを集めるほうが手っ取り早いのではないか。
でも、そうではなかった。コペンは、手頃な価格で手に入るコンパクトなスポーツカーとして、ロードスターやS660と真っ向勝負すべきだ。それくらい、しっかりと作られている。変化球で逃げずに直球勝負、正面突破だ。
(文=サトータケシ/写真=峰 昌宏)
テスト車のデータ
ダイハツ・コペン エクスプレイ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1280mm
ホイールベース:2230mm
車重:850kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:5段MT
最高出力:64ps(47kW)/6400rpm
最大トルク:9.4kgm(92Nm)/3200rpm
タイヤ:(前)165/50R16 75V/(後)165/50R16 75V(ブリヂストン・ポテンザRE050A)
燃費:22.2km/リッター(JC08モード)
価格:181万9800円/テスト車=191万6633円
オプション装備:オフビートカーキメタリック塗装(5万4000円) ※以下、販売店装着オプション ETCユニット<取り付け費込み>(2万4840円)/カーペットマット<高機能タイプ、取り付け費込み>(1万7993円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:2019km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:297.3km
使用燃料:19.7リッター
参考燃費:15.1km/リッター(満タン法)/16.7km/リッター(車載燃費計計測値)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。