ホンダ・ステップワゴン 開発者インタビュー
お客さまに学ぶ 2015.05.29 試乗記 ホンダ技術研究所執行役員
四輪R&Dセンター 車体・安全戦略担当
袴田 仁(はかまだ ひとし)さん
ファミリーユーザーに喜ばれるアイデアの源とは? 新型「ホンダ・ステップワゴン」の開発者に、開発の経緯と、そこに込められた思いを聞いた。
「わくわくゲート」に立ちふさがる壁
――今回のステップワゴンには、日本初導入となる1.5リッターのダウンサイジングターボエンジンを搭載していますね。このエンジンを採用した理由は何ですか?
これはホンダ全体のエンジン戦略の中で決まったもので、それほど多彩な中から選べるわけではなかったんですね。選択肢としては2種類ありまして、1つは2リッターの自然吸気(NA)、もう1つは、今回採用した1.5リッターターボですね。このエンジンについてはまだ開発途中でしたし、CVTとの組み合わせということで、希望のフィーリングにするまでには時間もかかりました。最終的には低回転域からトルクが出る、狙い通りのクルマになったと思っています。
――もう1つの目玉は、リアの「わくわくゲート」ですね。この装備については、企画のどのくらいの段階で思いつかれたのですか?
企画のスタートから1カ月ほどたった頃でしょうか。コンセプトづくりをしていく中で、私が「こういうドアを作りたい」というのをホワイトボードに描いたんです。でも、設計のメンバーからは「できないことはないですが、問題が多すぎます!」と、はっきり言われました。
――一番の問題点とは?
重量ですね。リアドアは9kgありますが、一番端に重いものが乗ることで、操縦安定性が悪くなることが予想されたんです。ドアのせいで操安性が悪くなったとは絶対に言われたくなかったので、徹底してリアまわりを固めつつ、重くなった分を周囲で軽量化しました。その結果、想像以上にしっかりした操安性のいいクルマができたと思っています。
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マイナス要素を取り除き、ホンダらしさを加味
――5ナンバーサイズのミニバンは、ユーザーの使い勝手や好みなどを考慮していくと、どれも同じようなモデルになってしまうのでは、と懸念する部分もあります。新型を出すにあたって、どのように開発に取り組まれたのですか?
「さあ、ミニバンやるぞ!」って考えたときに、「あ、これ家電製品だな」と思ったんです。非常に冷蔵庫的なもので、特に女性の方が厳しく評価するし、マイナス部分があるともうダメなんですね。基本的なところに欠いた部分があってはいけないということで、かなり頑張りました。ただ、ここまでは他社さんも同じだと思います。だからそれだけだと、みんな同じようなクルマになってしまいがちなんです。そこで、よりホンダらしさを出したいなということで、まずはお客さまがどんな風にミニバンを使っているのか、観察することから始めました。
――実際にユーザーが使っている現場を見に行かれた、ということですね。
そうです。例えばスーパーでしたら、お買い物が始まる昼過ぎから終わる夕方まで、ずっと張り付いていました。アウトレットやキャンプ場も含め、のべ40カ所ぐらいは足を運びましたね。それに幼稚園にもお邪魔して「子供たちがいまどうやって成長してるのかな」というのも見せてもらいました。
私自身は“DINKS(結婚後、子供を持たずに夫婦とも仕事を続けるライフスタイルのこと)”で、子供のいる家庭というものがあまり身近ではないものですから、その調査でとてもいろいろなことがわかりました。同時に、子持ちファミリーにとっては当たり前のことが、私には疑問に思えたこともありました。「どうして皆、こんな装備で我慢してるんだろう?」って。
そこで、コンビニフックを付けたり、照明の数を増やしたり、といったアイデアが生まれたんです。家電製品だと割り切る部分とホンダとして提供したい部分と、両方でちゃんとやっていったということですね。
ドアの雪辱はドアで果たす
――使い勝手をよくしていくと、どうしても所帯じみたクルマになっていくイメージもあります。便利だからといって、それだけでは受け入れがたいといった声も耳にしますが。
そうなんです。そもそも女性ってミニバンに乗りたいわけじゃないんですよ。ホントは「MINI」とか「フィアット500」とか、オシャレなクルマに乗りたいに決まっているんです。今回はのべ400人の女性にアンケートをして、女性視点での調査を行ったんですけど、やはり「これまでファッション性という部分では、あまり期待に応えられていなかったんじゃないか」ということになって、今回は少しでもステキなインテリアやエクステリアにしたいと思いました。
――具体的にはどのように進められたのですか?
ファッションデザイナーやインテリアデザイナーの方も含め、さまざまな分野で活躍されている女性たちに、女性がいいと感じるものについてヒアリングしてきました。その結果、ジェンダーニュートラルというコンセプトが導き出されたんです。北欧家具を例にとると一番わかりやすいんですが、本当にステキなものというのは男も女も関係ないということだったんですね。
例えば、加飾パネルに葉っぱのデザインを入れたものを男性デザイナーが女性メンバーに提案したんですが、彼女たちからは即却下されて。“男性が考える女性視点”がことごとくダメ出しされたことで、最終的にはいいところに落ち着いたかなと思っています。
――ところで、袴田さんはこれまでミニバンを開発された経験はおありだったのですか?
いえ、初めてです。これまでに携わってきたのは「HR-V」、4代目「インテグラ」の「タイプR」、2代目「フィット」などですね。HR-Vはヨーロッパですごく売れましたし、自分もすごくカッコイイと思ったんですけど、残念ながら日本では3ドアは売れない。日本ってカッコだけじゃ売れないんです。割り切っていいのはスポーツカーだけですね。ご家族を説得して買うようなクルマでは、絶対ユーティリティーを割り切ったらダメです。
ホンダは2代目のステップワゴンでも、安全性を重視して右側スライドドアを採用しなかったことでライバルに対して悔しい思いをしているんです。HR-V、ステップワゴンと2度もドアでやられているので、今回は「ドアで受けた悔しさはドアでリベンジしてやろう」という思いが強かったです(笑)。お客さまには「使ってみるまでこんなに便利だと思わなかった」と言っていただいています。うれしいですね。
熱い開発メンバーがいればこそ
――チョイ開け&出入り可能なわくわくゲートは、とても画期的ですよね。
「3列目のためのドアがなぜないのかな?」っていう思いはずっとありました。本当は横につけたかったんですが、それは難しいので、いったんはあきらめていたんです。でも、お客さまの観察をすることで再燃して、ああいうドアを付けたんです。実はあそこから乗り降りするには床面を下げなくてはならないので、一度はわくわくゲート+跳ね上げシートでいくぞと決めたんですが、「そんなのはホンダじゃない!」と怒る面倒くさいオヤジが開発にいまして(笑)。「ホンダなら床下収納にこだわれ!」と。「大変だからってあきらめるな!」って、私が言わなくちゃいけないことを、代わりに言ってくれました。
いま振り返ってみると、本当に跳ね上げにしなくてよかった! でも、採用されるかどうかは紙一重だったんです。ほかのところは決まったけど、あのドアだけはずっと保留だったので。わくわくゲート反対派(笑)には「最後に伊東社長(本田技研工業の伊東孝紳社長)につぶしてもらおう」という考えもあったようですが、社長は逆に、見た瞬間に喜んじゃって。彼ら、「ヤラレタ!」って顔していましたよ。
――ホンダらしいお話ですね。
ホンダらしさって千差万別なんですけどね。私の中で一番ホンダらしいと思う製品は、実は「スーパーカブ」なんですよ。お客さまを観察していて、出前持ちはクラッチが使えない、ということでクラッチをとってしまった。今回のクルマも、お客さまの観察から発想が出てきたという意味で、自分としてはいい改善ができたんじゃないかと思ってるんです。挑戦しないとホンダらしくないですからね。
(インタビューとまとめ=スーザン史子/写真=荒川正幸、本田技研工業、webCG)

スーザン史子
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