MINIジョンクーパーワークス(FF/6AT)
MINIの理想形 2015.06.16 試乗記 一番ホットなMINI、「ジョンクーパーワークス」の最新型に試乗。ワインディングロードでむちを当てると、速さだけではない、その驚くべき特徴が見えてきた。ますます増した特別感
初代“BMW MINI”時代は純正アフターマーケットキット(後にライン装着も可能となったけれど)として登場して、2代目ではれて独立グレードに昇格した「ジョンクーパーワークス(以下、JCW)」は、最新の3代目でも2代目同様の独立グレードという扱いである。
ひとまず3ドアハッチバックから登場した新世代JCWの価格は、MT車が398万円、AT車が415万円。ベースとなる「クーパーS」と比較すると、MTで80万円、ATで83万円のエクストラコストが必要……という計算になる。これは先代JCWとクーパーSの価格差と、実質的に同等と考えていいレベルだ。
ただし、先代JCW専用品がパワーアップしたエンジンとサスペンションチューンにとどまったのに対して、新型では、見るからに巨大なフロントディスクローター(とブレンボ製対向4ピストンキャリパー)や本格的に効きそうな全身エアロキット、そして専用スポーツシート……などが追加されることを考えると、実質値下げという見方もできる。
実際、今回の取材車のエクステリアに、ブラックボンネットストライプや18インチホイール(標準は専用デザインだが17インチ)といったオプションが装着されていたことを差し引いても、JCWの特別感は明らか。ボンネットのエアスクープは相変わらずダミー(インタークーラーへの冷却風は先代以降バンパーから導入している)だが、バンパー開口面積の大きさはクーパーSの比ではない。
リアルーフスポイラーも下側に気流を導くウイングタイプで、資料には「ダウンフォースを確保」と記されている本物の空力機能部品。クーパーSにあったフォグランプがJCWで省略されているのを残念と思う向きもあろうが、一応は「ブレーキ冷却ダクトを追加したために、フォグランプはあえて諦めた」というマニアックなウンチクが躍る。
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ライバルもたじたじのスペック
クーパーSの2リッター直噴バルブトロニック・ターボを、おもに過給圧アップでチューンしたエンジンの出力/トルクは231psと32.6kgm(オーバーブースト時は35.7kgm)。これは先代に比べて、出力で10%、トルクで23%の向上がうたわれている。ただ、それ以上に注目すべきなのは、その絶対性能がいわゆる“Bセグメント・ホットハッチ”で相変わらず、完全に一頭地をぬいていることだろう。
JCWと同クラスといえる競合車としては「ルノー・ルーテシアR.S.」や「フォルクスワーゲン・ポロGTI」、「プジョー208GTi」、そして日本未導入だが「フォード・フィエスタST」などが挙げられる。これら競合車のパワースペックは200ps/25kgm前後が相場であることを考えると、少なくともエンジン性能はJCWだけが明らかに強力なのだ。
この性能差を生んでいる最大要因は、ライバルが1.6リッター~1.8リッターの過給エンジンなのに対して、JCWが2リッター過給だからと思われる。2リッターターボで231psというJCWは、エンジン単体で見れば、現代のスポーツタイプとしては平均的。特別にカリカリチューンというわけではない
事実、JCWはクラスで圧倒的に最強エンジンとはいっても、扱いにくさはまるでない。レブリミットの6500rpmまでなんの引っ掛かりもないスムーズな吹け上がりが印象的。もっとも得意とするのは低中速での強力なレスポンスであり、トップエンドで爆発するタイプではない。
それはそうと、このJCW専用スポーツシートのデキには感心した。上半身から下半身の太ももまで確実に、しかし優しくホールドしてくれるし、滑りにくいシート生地も文句なし。ヘッドレスト一体型のハイバック型のシートバックも、ワインディングロードやサーキットでの安心感にひと役買っている。
SPORTモードで本領発揮
今回の試乗はヘビーウエットの箱根山坂道における短時間試乗に限られたし、取材車も18インチ(の、しかもランフラットタイヤ)と可変ダンパーのオプションが追加された仕様だったので、ここで断定的なことを書くことは控える。
可変ダンパーの減衰力パターンは、GREEN/MIDモード時のソフト志向制御とSPORTモード時のハード志向制御の大きく2つに分けられるが、少なくともソフトなモードでは、スプリングに対して絶対的にダンピングが不足するケースが少なくなかったことは指摘しておきたい。
その点、ハードなモードでは路面からのアタリこそ少しだけ増すものの、あらゆる場面で上屋の動きがしっかりと落ち着いて、すべての挙動に統一感が出て、明らかに運転しやすくなる。
それにしても不思議なのは、相変わらずのゴーカートフィールで、サスチューンは相当に硬いはずなのに、路面の不整で跳ねたりチョロついたり……がほとんどなく、路面にべったりと張りついて進路が乱されないことだ。
さらに、Bセグメントの車体に3.5リッター級の最大トルク、しかも前輪駆動……という三重苦(?)にもかかわらず、このヘビーウエットでトラクション不足を感じることがほとんどなかったことも感心する。JCWも基本的にリアがどっしり安定した“アンダーステアカー”なのだが、かなり乱暴に扱っても、ステアリングは強力に利き、無遠慮にパワーを解き放っても、無粋にアウトにはらんだり失速したり……というアゴを出すことがない。
それはトラクションコントロールが制限される“DTCモード”を稼働させても同様。というか、このDTCモードにおける「手のうちで適度に遊ばせてくれる」サジ加減は、相変わらず見事なもの。もっとも、これは以前から評価の高いDTCの制御技術に加えて、新型MINIそのものの基本フィジカル性能が上がったこともかなり効いているんだろう。
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ネックになるのはプライスタグ
ちなみに統合制御モードをSPORTにすると可変ダンパー制御以外にも、パワステやエンジンスロットル特性、そしてATの場合は変速スピードも引き上げられる。最速になった6ATの小気味よさは、ライバルのツインクラッチにもひけをとらない。
とにかく全身でロールやピッチングを抑え込んだゴーカートフィールのMINIは、サスペンションを引き締めて、メリハリのある入力をするほど走りに生気を帯びるタイプ。その意味では、JCWも“SRORTモード+DTCオン”の組み合わせで、すべてのフォーカスがピタリと合って、楽しく、そして扱いやすいクルマになる。
こうなったJCWはなるほどツッコミどころがほとんどなくなる。クーパーSや「クーパー」あるいは「ONE」に乗っても、どことなくピンとこなかった味わいが、ここで本来の姿に合焦した気になる。「ああ、結局、MINIはこういうクルマを目指しているんだろう」といや応なく納得させられるのだ。
現時点の3代目MINIにおいて、JCWは単純に一番速いだけでなく、操縦性や乗り心地の統一性、扱いやすさの点でもベストといってよい。
JCW最大の問題は価格だろう。このクルマがいかに高性能で、前記のライバルに対して内外装の仕立てや車体剛性に高価格なりの説得力があったとしても、このサイズで400万円とはやっぱりハードルが高い。
ちなみに各種オプションをテンコ盛りにした取材車は、じつに500万円オーバー(!)である。まあ、すべてが必須オプションとはいわないが、MINIを買うなら、いわゆる自動ブレーキの「ドライビングアシスト」(11万4000円)と内装デザインの花である可変イルミネーションの「MINIエキサイトメント・パッケージ」(2万3000円)、そしてスマートキーの「コンフォート・アクセス」(4万5000円)くらいは欲しいところ。そんなことをいっているとあっという間に400万円台半ばに手が届いてしまう。
価格に加えて、もうひとつ、新型JCWにあえてツッコミを入れるとすれば、エアロキットが標準化されたことだ。これによって、新型JCWはツルシ状態でも十分に「らしく」なって、買い得感も増したが、以前のように「普通のMINIと見せかけて、実はJCW」といったシニカルな楽しみ方はできなくなった。
(文=佐野弘宗/写真=田村 弥)
テスト車のデータ
MINIジョンクーパーワークス
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3875×1725×1430mm
ホイールベース:2495mm
車重:1280kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:231ps(170kW)/5200rpm
最大トルク:32.6kgm(320Nm)/1250-4600rpm ※オーバーブースト時:35.7kgm(350Nm)
タイヤ:(前)205/40R18 86W/(後)205/40R18 86W(ピレリ・チントゥラートP7)
燃費:16.6km/リッター(JC08モード)
価格:415万円/テスト車=515万7000円
オプション装備:ダイナミカ・レザーコンビネーション カーボンブラック(30万6000円)/18インチアロイホイール JCWカップ スポーク 2トーン<7.5J×18>(14万円)/エレクトリック・ダンパーコントロール(7万7000円)/ランフラット・タイヤ(3万円)/コンフォート・アクセス(4万5000円)/ブラック・ボンネット・ストライプ(1万7000円)/インテリア・サーフェス<ピアノブラック>(1万5000円)/MINIエキサイトメント・パッケージ(2万3000円)/ストレージ・コンパートメント・パッケージ(2万6000円)/シートヒーター(4万5000円)/ドライビングアシスト(11万4000円)/LEDヘッドライト<アダプティブヘッドライト付き>(2万4000円)/PDC<パーク・ディスタンス・コントロール/フロント&リア>(12万3000円)/Bluetoothハンズフリー・テレフォン・システム<Bluetooth拡張機能>(2万2000円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:548km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。