ランドローバー・レンジローバー スポーツSVR(4WD/8AT)
クロカンなのにピュアスポーツ 2015.06.24 試乗記 最高出力550psの過給器付きV8エンジンを搭載した「レンジローバー スポーツSVR」に試乗。オフロードコースとサーキットの両方で、その実力を試した。“オンロード”を極めた高性能モデル
この半年間で3人のスーパーカー仲間が、ドイツ製クロスオーバーSUVから、レンジローバー スポーツに乗り換えた。筆者のアドバイスも多少あったが、何よりも彼らを虜(とりこ)にしたのは、雰囲気とスタイル、そして第2世代となって本家と近しくなった性能だった。高級SUV界で今、イチオシ。そんなレンジローバー スポーツに、新たな過激グレードが加わった。
その名もSVRというからスーパーカーファンにはたまらない(分かる人には分かりますよね)。というのは冗談としても、随分と、クロスオーバー離れ、レンジローバー離れしたネーミングじゃないか。
開発に携わったのは、ジャガー・ランドローバー・グループの“特別車両企画製作部門”、スペシャル・ビークル・オペレーションズ(SVO)だ。クルマ好きは、この部署名を記憶に刻んでおいた方がいい。高性能モデルや超豪華仕様車、特別仕様、特注仕様などを企画・開発する社内組織である。
このレンジローバー スポーツSVRのほかに、レンジローバーのウルトラ豪華仕様である「SVオートバイオグラフィー」や、「ジャガーEタイプ ライトウェイト」の復刻版、「ジャガーFタイプ プロジェクト7」、を生み出した。近い将来、よりオフローダーとして特化した「レンジローバーSVX」も用意するという。
SVオートバイオグラフィーが贅(ぜい)を極めたモデルであるのに対して、SVRはオンロード性能を極めたモデル。しかも、それはレンジローバーの伝統であるオフロード走破性をまるで損なわずに達成した、というのがSVOエンジニアたちの言い分だ。それを確かめるべく、米国ニューヨーク郊外の会員制サーキット、モンティチェロ・モータークラブへ飛んだ。
伝統の悪路走破性能は健在
サーキットのピットには、鮮やかな「エストリルブルー」のレンジローバー スポーツSVRが何台も整列していた。順番を待って、インストラクターと共に乗り込む。前もって選んでおいたヘルメットは、後部座席にくくり付けておけという指示。どうして? いぶかしみつつ、運転席へ。
サーキットをいったん出て、オフロードコースへ向かった。なるほど、さすがはレンジローバーだ。やはりオフロード体験を主にしたいということなのだろう。
雑草が生い茂った坂を下ると、そこは本格的な林道だった。沼地あり、倒木あり、がれき無数にあり。とはいえ、過酷なオフロードも、レンジローバーにかかれば、多少揺れる凸凹な道のりでしかない。道なき道を想定した本格的なオフロードコースを、4WDローレンジのセレクトひとつで難なくクリアする。と、その先に、鉄製のスロープが見えてきた。ちょうど1台ぶんの大きさで、角度はおよそ30~40度程度。見るからに急ではある。恐る恐る登ってゆき、車体がスロープに載り切ったところで、待機指示が出される。すると、洗車隊がやってきて、高圧噴射で足まわりやフロア裏についた泥をきれいさっぱり(多分)落としてくれた。ものの3分で、下まわり洗車は完了。
そう、そこからがテストドライブの本番なのだった。
レンジローバー スポーツSVRにとって、レンジローバー伝家の宝刀であるオフ走行はあくまでも前菜にすぎなかった。そのままパーマネント・トラックに向かって、メインディッシュを頂くという寸法である。もちろん、それは、全開スポーツ走行という主菜。そのために、下まわりの洗車が必要というわけなのだった。
オフロードもサーキットもお任せあれ
前代未聞というべきだろう。本格オフロードを走破したすぐそのアシで、クルマをチェンジすることなく、サーキットトラックへ向かって走る、などというテストドライブメニューは! ランドローバーのエンジニア(と広報スタッフ)は、よっぽどこのSVO製SUVに自信をもっている。
コースインする前に、先ほど縛り付けておいたヘルメットをかぶり、姿勢をもう一度正して、呼吸を整えた。着座位置は高く、景色の見通しがいい。サーキットにコースインする直前のいつもの感覚とは、少し違っている。けれども、体をホールドしているのは、立派なスポーツシート。4座とも、それだ(5人乗り)。
インストラクターの指示で、はやる気持ちを抑え、まずはノーマルモード、フルオートマチックでウオーミングアップ。半年ほど前に走ったことがあったから、すぐにコースレイアウトも思い出された。アップダウンのきつい、テクニカルなコース。SUVの、しかもレンジローバーで走ろうとは、たとえ高額な会員になっていたとしても、フツウは思わないサーキットだ。
2周目からは、好きなモードでガンガン行け、と許可が出た。一応専門家を名乗っているとはいえ、見ず知らずの東洋人の運転でサーキットドライブに同伴しなきゃいけないなんて因果な商売だよなぁ、なんて気遣っているヒマはない。許されたラップはインとアウトを含めわずかに5周。「テレインレスポンス2」のモードを「ダイナミック」に切り替え、いきなり全開加速を試みた。
ドカーンと飛び出した瞬間、インストラクター氏がギュッと身構えたのが、横目にも分かった。
速さの中に味がある
「ジャガーFタイプ R」ゆずりの550ps V8スーパーチャージドエンジンが、ジャガー以上のうなり声をあげて、2.5トンの巨体をよどみなく引っ張る。強引かつ強力な加速だ。総アルミニウムのボディーに一瞬にして力が入り、それを隅々まで伝達しているかのような身の締まりが、この巨体に、ドライバーとの言いようのない一体感を生み出す。
そして、それはそのまま、空前絶後のドライバビリティーへとつながった。これはもう、背が高いスポーツカーだ。否、それだけならば、ドイツプレミアムブランドの高性能SUVだって同じだ。レンジローバー スポーツSVRがそれらと決定的に違うのは、なんと21インチのオールテレインタイヤのままで、不足するタイヤのグリップを電子制御が見事に補い、しかもそれは、ドライビングファンを失わなわないよう最低限にアレンジされている、という点だろう。
要するに、背が高いスポーツカーであるだけではなく、背が高いクロカン4WDのピュアスポーツカーなのである。
適度にロールするためコーナリング姿勢を保ちやすく、思い通りのラインをキープできる。タイヤが盛大に滑っているのが分かるが、まるで不安はなく、むしろ、巨体のスライドを楽しむ余裕がある。何が何でもサーキットで速いドイツのSUVとは違って、速さのなかに味があった。
一般道も走ってみたが、サーキットでの印象とは逆に、そこでは適度に締め上げられたアシのように感じられた。21インチタイヤをばたつかせることもなく、極上のフラットライドフィールを実現している。ひょっとしてノーマルより心地いいのでは、と、荒れた舗装路では思ってしまったほど。
本格的なオフロードから一般道、高速、そしてサーキットまでを、極上のレベルで走破する。レンジローバー スポーツSVRは今、無敵の大型SUVだと言っていい。
(文=西川 淳/写真=ジャガー・ランドローバー)
テスト車のデータ
ランドローバー・レンジローバー スポーツSVR
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4872×2073×1780mm
ホイールベース:2923mm
車重:2335kg
駆動方式:4WD
エンジン:5リッターV8 DOHC 32バルブ スーパーチャージャー付き
トランスミッション:8段AT
最高出力:550ps(405kW)
最大トルク:69.3kgm(680Nm)
タイヤ:(前)275/45R22 110Y/(後)275/45R22 110Y(「ピレリ・スコーピオン ヴェルデ)
燃費:12.8リッター/100km(約7.8km/リッター、欧州複合モード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
※諸元は海外仕様車のもの。
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロード/トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
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西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。
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