スバルWRX S4 2.0GT EyeSight(4WD/CVT)
細やかな改良がもたらす好循環 2015.07.31 試乗記 年次改良を受けたスバルのスポーツセダン「WRX S4」に試乗。エントリーグレード「2.0GT EyeSight」を借り出し、再チューニングを受けたという足まわりの出来栄えをチェックした。注目は変更された足まわりのセッティング
なんで「インプレッサ」じゃだめなの?
なんで乗り心地こんなにキツいの?
……と、上記2点の理由により、僕とWRX S4との相性は概してあまりいいものではなく、その旨はかつてこちらの記事で書かせていただいたことがある。
まぁインプレッサうんぬんの件は、スバルの商品企画における大人の事情もあるのだろう。こっちは従来の「レガシィB4ターボ」的な位置づけだからして、その名は使いたくないと。それは察せなくもない。が、同じWRX銘柄で傍らに「STI」がありながら、なんでこっちはもっと穏やかなキャラクターにしようと思わないわけ? という疑問は幾度かの試し乗りの機会では、どうしても晴れなかった。
と、そんな最中に舞い込んだのがS4の年次改良の話だ。その目玉は安全装備のアップデート。先んじて「レヴォーグ」に搭載された「アドバンスドセイフティパッケージ」がこちらにも展開されたというものだ。後ろ側方からの接近車の警告機能をはじめ、オートハイビームやサイドビューモニター、そして前方車への接近警告をフロントガラスに映し出す「アイサイトアシストモニター」の4アイテムがセットオプションとなっている。また、「2.0GT-S EyeSight」(以下、GT-Sグレード)には新たに245/40R18サイズのタイヤ&ホイールやサンルーフがオプションとして用意された。そのほか、センターコンソールに配されるUSBアウトレットを2Aにして電子機器への給電量を高めるなど、細かいところまでユーザーの声をくみ上げていることが伝わってくる。
と、それらと併せて記載されていた変更点が、「2.0GT EyeSight」(以下、GTグレード)のサスペンション変更だ。具体的にはフリクションを最適化した新型ダンパーを採用することで、微小入力域から減衰を働くようにして乗り心地を向上……とされている。
おお、早速変更されたのか。どんなもんだか興味津々……と思っていたところに、編集部から試乗のオファーが舞い込んだ。恐らくは前回の遺恨を踏まえての再戦ということだろう。もちろん二つ返事でお引き受けしての試乗当日と相成った。
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ライバルに比肩する快適さ
数台用意された試乗車のうち、首尾よくGTグレードをゲットすることに成功。が、新しくなったとはいえS4、登場1年未満にしての年次改良ゆえ、当然ながらその外観に違いはない。履いているタイヤもダンロップの「SP SPORT MAXX 050」なら、そのサイズも225/45R18とまったく同じだ。ちまちまとインテリアをみても、意匠や加飾の面で変化は感じられない。個人的には、見続けているとちょっと切なくなるカーボン風味のプリントを施した化粧パネルもそのまんまだ。
撮影場所は某施設の敷地内。路面は本場のベルジャンロードのような扇状ではないものの、規則正しくスクエアな石が敷かれた石畳だった。そこでの20km/h以下の細かな移動くらいでは、件(くだん)のダンパー変更の差異は感じられない。従来型はアスファルト表面の粒も時にジャリジャリと感じさせるほど、良くも悪くもインフォメーションが鮮やかだったが、それと比べれば「もしかしてマイルド?」という程度である。
が、撮影を終えて公道へと出掛けてみると、印象が変わる。劇的ではないが、些細(ささい)でもない。おいおい、なんか違うぞこれ。それは“既納”のユーザーだけでなく、従来型をディーラーで試乗したという方にもわかるほどの違いであるはずだ。
最もわかりやすいのは、目地段差やマンホール設置部の微妙な凹凸など、人為的な施工でできた路面変化を通過するときだろうか。従来型はパシッという確かな受け止め感とともに車体を細かく上下させていたが、新型ではドシンとアタリが鈍くなり、上屋の動きも軟質に感じられる。もちろん、残響がほぼ感じられないほど動きはしっかり収束するのだが、乗り味は明らかに角が取れた。それは不等間隔で左右に続く路面のうねりや、大型トラックが頻繁に通る道路の停止線付近に多い、細かいピッチのウオッシュボード的な凹凸においても同様の印象で、完璧ではないにせよ、それらをいちいち拾っては忠実に上屋を揺するようなフィードバックが丸く収められている。
日常域の全般でフラットライドとまでは言わないが、以前は100km/hの向こう側からが本領だろうと思わせるものだったサスセッティングのフォーカスが、70km/h向こうくらいからに改められたという印象だ。つまり、「日本の高速巡航速度でもライバルとおぼしきモデルに引けをとらない快適性は担保できたかな」という仕上がりになっている。
年次改良で商品の“鮮度”を保つ
取材を終えて、S4のプロダクトゼネラルマネージャーに話を伺うと、今回のGTグレードの脚は、ダンパー側のオイルシールのフリクションを少し強めることで摺動(しゅうどう)圧を高めつつ、減衰力が微小入力から滑らかに立ち上がるようにチューニングし直したという。加えて、ダンパー本体の減衰特性は前側が“若干”、後ろ側は“まずまず”柔らかな側に設定したそうだ。コイルやスタビなどの金物、そしてマウントやブッシュ類といったゴム物に変更はないというから、従来型で僕が感じていた乗り味の硬さは、ダンパー特性そのものでかなり変化したことになる。加えて、ボディー側では適所への遮音材の追加なども全モデルで行われており、静粛性が高まったのも印象が変化した一因ではと指摘してくれた。
たかだか1年もたたないうちに、よく細かいところをまぁ……と褒めたたえるのは簡単だが、既納ユーザーにとってはこれ、聞き捨てならない話だろう。が、スバルやマツダのようにモデル数の少ないメーカーは、同じようなものを作っていても日々目先手先を変えて、商品の鮮度を保つことが重要な仕事となる。街場の店ほどネタを豊富に仕入れられないぶん、創意工夫で常連を飽きさせないようにするもの。そんなメシ屋を1、2軒、近所の和み所として持っている方ならば、そのニュアンスもおわかりいただけるだろう。本心はちょっぴりイラッとしても、そこで目くじらを立てないのが大人の振る舞いであり、それがうまく回るほどに自らの居心地もよくなっていく。思えばS4は、そういう好循環に加わりたいという趣旨のクルマでもある。
と、そこでゼネラル氏いわく、「ところでワタナベさん、245は乗っていただけました?」
月100台のクルマのために
へ? ニーヨンゴってなんですか? と問うてみれば、今回、GT-Sグレード用オプションとして設定した245幅のタイヤを装着するモデルの脚は、同じビルシュタイン脚でも専用のチューニングを施した自信作であると仰せられる。
ということは、だ。今WRX S4には、GT用とGT-S用、245タイヤのGT-S用と、都合3つの脚の設定があるということですか?
その問いにゼネラル氏いわく「そういうことになっちゃいました……」
国内月販目標300台のS4に、3つの脚。等分として、月100台。恐ろしい勘定である。
「じゃあ、今度245のほうも用意しますね」
その場で答える編集Hくんの活発ぶりがつらい。そのつらさは「うちらどんだけS4好きやねん」のみならず、「甘栗むいちゃいました」みたいなふんわりした感じでS4の脚の設定にまい進する、スバルに対する心配も含めての話だ。限られた経営資源がいかに有意義に使われているのか。こうなったらとことん付き合おう。読者各位におかれましては、また245タイヤを履いたS4の試乗記にお付き合いいただくことになるかと思いますが、どうかヨタだらけのインプレ、お許しくださいませ。
(文=渡辺敏史/写真=郡大二郎)
テスト車のデータ
スバルWRX S4 2.0GT EyeSight
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4595×1795×1475mm
ホイールベース:2650mm
車重:1540kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター水平対向4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:CVT
最高出力:300ps(221kW)/5600rpm
最大トルク:40.8kgm(400Nm)/2000-4800rpm
タイヤ:(前)225/45R18 91W/(後)225/45R18 91W(ダンロップSP SPORT MAXX 050)
燃費:13.2km/リッター(JC08モード)
価格:334万8000円/テスト車=351万5400円
オプション装備:ボディーカラー<クリスタルホワイト・パール>(3万2400円)/アドバンスドセイフティパッケージ+ウェルカムライティング&サテンメッキドアミラー<フットランプ付き>+トランクリップスポイラー(13万5000円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:883km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。