スバルWRX S4 GT-H EX(4WD/CVT)
悩めるフラッグシップ 2022.05.23 試乗記 スバルの高性能スポーツセダン「WRX S4」がフルモデルチェンジ。そのラインナップのなかから、高いパフォーマンスと優れた実用性の両立をうたう「GT-H EX」に試乗した筆者が感じたことは? スバルのスポーツイメージをけん引する一台の仕上がりを報告する。薄れゆくかつてのイメージ
WRX=World Rally X
1990年代前半、初代GC系「インプレッサ」に設定されたそのグレード名は、もちろんラリーと深い関わりを持つものだ。95~97年と3連続でマニュファクチャラーズタイトルを獲得した時期と相前後して、世界ラリー選手権(WRC)にインプレッサで参戦し続けたスバルは、2008年を最後に19年間のワークス活動の幕を閉じた。
その後、海外におけるスバルのモータースポーツ活動はニュルブルクリンク24時間レースに舞台を移し、STIのオペレーションのもとSP3Tクラス屈指の強豪へと成長した。コロナ下で3年ぶりのエントリーとなる2022年、参戦車両は2リッター水平対向4気筒のEJ20型エンジンを搭載するVA系WRXとなる。
一方、市販車のほうの変遷を整理すると、インプレッサのいちグレードとして出発したWRXは、WRC撤退後の3代目GR系後期からインプレッサの名が外され、ひとつの車種として扱われるようになる。その後、4代目インプレッサがオーソドックスな4ドアセダン・5ドアハッチバックとなった一方で、WRXはさらに先鋭化。各部が専用設計となり、VA系を初代とするスバルWRXとして名実ともに独立した車種となった。
日本だと最近は「レヴォーグ」のセダン版という印象が強いが、実はWRXのほうが商圏は広い。むしろ日本向けにそのワゴン版としてレヴォーグを企画することで、北米での懸案だった「レガシィ」のサイズアップもちゅうちょなく行えて三方丸く収まるんじゃね? ……というのがスバルの皮算用だったのだろう。
だったらWRXじゃなくてNur Endurance XのNEXでもいいんじゃないの? と思いつつもそれでは空港行きの電車みたいだし、じゃあSubaru Endurance……はヤバいからSymmetrical Boxer Xでどうだとか、やり始めると徐々にDAIGO化していきそうな自分が居たたまれないので深く考えないようにしようと思う。が、ともあれWRC撤退から約14年、一時はスバルブランドの要であったWRXの名にまつわる“泥の王”的イメージを、今のお客さんが共有しているのかというと、ちょっと疑問だ。
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スタイリングやグレード名に感じるモヤモヤ
WRXはこの先、どこに向かおうとしているのだろう? スバル自身にもその迷いはあるのではないか。それは見た目にも表れているように思う。
フェンダーアーチモールなどにSUV的な印象も抱かせるそのデザインは、2017年の東京モーターショーでお披露目された「ヴィジヴ パフォーマンス コンセプト」のそれをトレースしたものだ。が、自由演技のコンセプトカーとは異なり、規定演技の量産車には寸法制約や生産性などの諸条件が絡んでくるのは周知の話。結果としてそれは、なんだか腰高でオーバーハングの長い不思議なたたずまいに見えなくもない。
よく言えば低く構える従来のスポーツセダン的イメージとは一線を画した新しさということになるのだろうが、そのメッセージはどうも生煮えに感じられる。が、そもそも日本でのセダンの顧客はX世代以前のかなりなオッさんたちであり、その嗜好(しこう)に合わせるよりも主力市場である北米のイマ的世代に映えれば御の字ということでもあるのだろう。
VA系WRXでは、S4(FA20+CVT+VTD-AWD)とSTI(EJ20+6MT+DCCD方式AWD)と、異なる2つのパワートレイン/ドライブトレインがラインナップの柱となっていたが、ご存じのとおりスバルのモータースポーツを支え続けてきたEJ20は生産終了となった。VB系の2代目WRXは現状、S4のみの展開となり、そのなかで「STIスポーツR」とGT-Hという2つのグレードで構成されている。この後、WRX STIが復活するか否かはわからないが、仮に復活したとしても、もはやどれが本気のSTIなのかもわからないほど名前が取っ散らかっている感もある。
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目を見張るCVTの進化
搭載されるエンジンは2.4リッター水平対向4気筒のFA24型のみ。FA20型をボアアップすることでショートストローク型となったそれは、筒内直接燃料噴射+ターボによって最高出力275PS、最大トルク375N・mを発生する。FA20型を積む先代より排気量が上がったにもかかわらずアウトプットがやや落ちているのは、環境性能にまつわるすり合わせの一面もあると聞く。ともあれ、最高出力や最大トルクの出力発生回転域は変わっておらず、燃費もほとんど変わりなしと、実利の面では効果の程があまりうかがえない。
……が、これと組み合わされるCVTのチューニングがエンジンのフラットな出力特性とピタリとかみ合い、新型WRX S4はすこぶる大人な走りをみせてくれた。発進ではやんわりと駆動力が立ち上がり、自然にアクセルを開けていっても回転がムダ吹けすることなく、トルクで押し出すようにじわじわと速度を高める等々、人間の感覚とシンクロするようきちんと配慮がなされている。強い加速が得たい時でもエンジンの回転域が先行するゴム感はなく、CVTの食いつきはダイレクトだ。さらにステップ変速に応じてブリップコントロールが働くなど、使い心地の面でも十分スポーツドライビングに応えてくれる。2.4リッターターボということでトルク容量の面では相当きついはずだが、サーキットでの連続走行でもなければ音を上げることはないだろう。
近年はホンダにせよトヨタにせよ、効率一辺倒だったCVTのドライバビリティー改善が顕著だが、とりわけスバルのそれの化けっぷりにはちょっと驚かされる。これなら週末に山を気持ちよく走りたいというユーザーの要求もしっかり満たしてくれるだろう。いまさらトルコンATやDCTには頼れない。もうこれしかないというスバルの意地が感じられる仕上がりだ。願わくはこのパワー&ドライブトレインを、日本仕様の新型「アウトバック」にも組み合わせてほしかった。
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「STI」の名を冠するグレードもあるのだから
……と、このメカニズムの洗練ぶりとともに、ちょっと驚かされたのが乗り心地の粗さだ。高速道路の目地段差では鋭い突き上げに、細かな凹凸の続く市街路では増幅する揺さぶりに、そして郊外路では大きなうねりに正直に追従しての強い上下動に、「ええっ?」と思わず声が漏れる。以前、クローズドコースで試乗した際には片りんすらみせなかった振る舞いだ。やっぱり実路でなければわからないことはある。
この点、ZFザックスの電子制御可変ダンパーを持つSTIスポーツRは柔軟性が高いという話も聞く。それを試せていない段階で断じることはできないが、STIスポーツRという名の勇ましさに対してのGT-Hとあらば、普通に柔なグレードを想像するわけで、その期待値と現実との差は著しい。同じスポーツセダンの体を成すよりハイパワーなモデルでも、今やここまでフィードバックがハードなクルマは見当たらないと思う。
SUV的なアレンジの腰高デザインとキャラクターと合致しないグレード名、そしてパワーの割にはパツパツのシャシー――。一体スバルは、WRXをどこへ向かわせようとしているのか? と、ここで先ほどの疑問がループする。
確かにWRXはスバルにおけるスポーティネスの頂点に位置する存在だが、たとえそうであったとしても、この走りの味付けは古すぎるだろう。それが顧客の嗜好か主力市場の要望かは知る由もない。でもスバルが存続のために取り込まなければならない“一見さん”が実機に触れても、この乗り心地ではちょっと引いてしまうのではないか。間違いない素性があることは他モデルの出来栄えからも明らかなのだから、WRXというモデルやGT-Hというグレードにふさわしい魅力とは何なのかを、ぜひ再考願いたい。
(文=渡辺敏史/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
スバルWRX S4 GT-H EX
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4670×1825×1465mm
ホイールベース:2675mm
車重:1600kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.4リッター水平対向4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:CVT
最高出力:275PS(202kW)/5600rpm
最大トルク:375N・m(38.2kgf・m)/2000-4800rpm
タイヤ:(前)245/40R18 97Y XL/(後)245/40R18 97Y XL(ダンロップSP SPORT MAXX GT 600A)
燃費:10.8km/リッター(WLTCモード)
価格:438万9000円/テスト車=468万5340円
オプション装備:サンルーフ<電動チルト&スライド式>+ウルトラスエードシート<ブラック/グレー、レッドステッチ>(22万円) ※以下、販売店オプション フロアカーペット<STI>(3万2780円)/ETC2.0車載器キット<ケンウッドビルトインナビ連動>(3万2780円)/ETCビルトインカバー(6820円)/フロアカーペット<WRX S4>(3万6740円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:1247km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(5)/高速道路(5)/山岳路(0)
テスト距離:212.4km
使用燃料:22.4リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:9.5km/リッター(満タン法)/9.7km/リッター(車載燃費計計測値)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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