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スバルWRX S4 STI Sport R EX(4WD/CVT)

スバリストは感涙せよ 2022.04.06 試乗記 佐野 弘宗 「スバルWRX S4」がフルモデルチェンジ。新しいシャシーに新しいエンジン、さらに電子制御式可変ダンパーなども採用した新型は、スポーツセダンとして新たな境地に達している。「でもMTが……」とおっしゃるあなたにも、ぜひ試していただきたい仕上がりだった。

コンセプトカーを忠実に再現

WRX S4(以下、WRX)は、現在のスバルでもっとも高性能なスポーツモデルだ。クルマの基本的な成り立ちは先代同様に「レヴォーグ セダン」というべきものだが、レヴォーグとWRXの最大のちがいは市場環境である。レヴォーグは豪州など一部の海外市場でも販売されるが、あくまで日本市場がメインの商品だ。対してWRXは北米が圧倒的なメイン市場となり、北米では主に20~30代のヤングファミリー世代に支持されている。

ホイールアーチや車体下部をブラックアウトさせた新型WRXを最初に見たとき、これをSUV風味と受け取った人は(筆者を含めて)少なくないと思う。しかし、このデザインの源流となった2017年の「ヴィジヴ パフォーマンス コンセプト」を見ると、それは後付け風のオーバーフェンダーやエアダム、サイドステップなどから着想を得たことが分かる。

新型WRXのエクステリアデザインは、ヴィジヴ パフォーマンス コンセプトをできるだけ忠実に再現することがテーマだったそうだ。しかし、例の部分をブラックアウトするだけでは「デザインは機能に従う」というスバルの流儀に反する。そこで使われたのが、以前より研究されていた「空力テクスチャー」である。それは表面にわずかな凹凸(WRXの場合は六角形のハニカム模様)を成形することで、空気の剥離を抑制して、操縦安定性を引き上げる技術である。今回はそれが前後バンパー、ホイールアーチ、サイドシルの樹脂部分のほぼ全面にあしらわれる。

また、新型WRXでは先代より後席空間が広くなり、リアを強く絞り込んだ造形からは想像しづらいが、トランク容量もわずかに拡大している。これも北米での主要顧客がヤングファミリーであることが最大の理由だ。北米におけるWRXは、かの地ではパーソナルカー的に使われることも多い「フォレスター」より、後席や荷室への要求が厳しいくらいなんだとか。ところ変われば……である。

2021年11月に国内導入が発表された新型「スバルWRX S4」。試乗車は最上級グレード「STI Sport R EX」。
2021年11月に国内導入が発表された新型「スバルWRX S4」。試乗車は最上級グレード「STI Sport R EX」。拡大
ボディーサイズは全長×全幅×全高=4670×1825×1465mm。先代モデルよりも全長が75mm拡大し、より伸びやかなスタイリングになった。ホイールベースの拡大分は25mm。
ボディーサイズは全長×全幅×全高=4670×1825×1465mm。先代モデルよりも全長が75mm拡大し、より伸びやかなスタイリングになった。ホイールベースの拡大分は25mm。拡大
大胆に使ったブラックの樹脂パーツが新型を特徴づけている。
大胆に使ったブラックの樹脂パーツが新型を特徴づけている。拡大
マフラーは左右2本ずつの4本出し。リアバンパーも真っ黒に処理されている。
マフラーは左右2本ずつの4本出し。リアバンパーも真っ黒に処理されている。拡大
ブラックの樹脂パーツの表面には六角形のディンプル加工が施されている。
ブラックの樹脂パーツの表面には六角形のディンプル加工が施されている。拡大
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8段ATのようにふるまうCVT

新しい2.4リッターターボの最高出力275PS/最大トルク375N・mというピーク性能は、先代WRX(S4が300PS/400N・m、「STI」が308PS/422N・m)と比較すると、見劣りするのは否めない。6000rpmという低めのレブリミットも、8000rpmまで回った先代STIはもちろん、先代S4の6500rpmにもゆずる。

実際に走らせてみても、6000rpmまでデッドスムーズに回るがドラマチックな展開があるわけではなく、エンジンの存在感は先代よりずいぶんと控えめだ。とはいえ、スロットルレスポンスは軽やかで鋭く、過給ラグの小ささは印象的。速さはまあ十分である。

ドライブモードセレクトをもっともアグレッシブな「スポーツ+」にすると、パワートレインも「S♯」となり、スロットルは“即全開?”的な制御になる。ただ、先代より飛躍的に向上したシャシー性能やトラクション能力は、完全にその上をいっており、いかように振り回しても動力性能に過激さはない。

変速機は、スバルに2種類あるCVTのうちの大容量型をベースに変速スピードを極限まで高めたもので、「スバルパフォーマンストランスミッション(SPT)」と銘打つ。基本はCVTだが、無段階変速になるのはパワートレインがもっとも穏やかな「I」=ドライブモードでいうと「コンフォート」か「ノーマル」で穏やかに走っているときだけだ。アクセルを深めに踏み込むと即座にステップ変速制御に移行するし、それ以上のドライブモードで、パワトレ制御が「S」や「S♯」になると、徹頭徹尾8段ATとして作動するのだ。

しかも、「S♯」もしくはマニュアルモードでは「DCTを上回る変速スピード」との触れ込みどおり、素晴らしくリズミカルなATとなる。変速スピードに文句はなく、その構造から予想できるように変速ショックはきわめて小さい。しかも、そんな超速ステップ変速のまま箱根を小一時間走ってもオーバーヒートしなかったのは、CVTとしてたいしたものだ。

最新世代の「スバルグローバルプラットフォーム」とフルインナーフレーム構造を採用。構造用接着剤を積極的に使うなどしてボディー剛性を強化している。
最新世代の「スバルグローバルプラットフォーム」とフルインナーフレーム構造を採用。構造用接着剤を積極的に使うなどしてボディー剛性を強化している。拡大
最高出力275PS/最大トルク375N・mの2.4リッター水平対向4気筒ターボエンジン「FA24」を縦置きで搭載する。
最高出力275PS/最大トルク375N・mの2.4リッター水平対向4気筒ターボエンジン「FA24」を縦置きで搭載する。拡大
スバルのハイパフォーマンス車といえば……のボンネットのエアスクープは健在。
スバルのハイパフォーマンス車といえば……のボンネットのエアスクープは健在。拡大
フロントフェンダー後部には、車両側面の空気の流れを整えるエアスクープが空けられている。
フロントフェンダー後部には、車両側面の空気の流れを整えるエアスクープが空けられている。拡大

ストローク感豊かな足まわり

新型WRXに搭載される4WDシステムは、現在日本で手に入るスバルとしては数少ない「VTD AWD」である。そして、今回の「STI Sport R EX」のサスペンションには電子制御の連続可変ダンパーが備わる。ここであえて結論的にまとめると、スバルの高性能4WDスポーツをお好みの諸氏にとって、このクルマはエンジンこそ正直いって物足りないだろうが、変速機は及第点プラスアルファ、そして乗り心地とハンドリングは最高……と評される可能性が高いのではないだろうか。

そのフットワークは、とにかくしなやかだ。もっとも柔らかい「コンフォート」モードでの乗り心地はちょっとした高級車で、「ノーマル」モードではその快適さをほぼそのままに、高速でのフラット感を高めている。ドライブモードを「スポーツ+」にすると、ダンパーがさらに引き締まり、荒れた路面では細かい上下動が出るようになるが、跳ねることはない。

どのモードを選んでもアシさばきは豊かなストローク感が印象的である。なかでも中間の「ノーマル」モードの調律がピタリとバランスよく決定版的にまとまっているのは、クルマそのものの基本設計が正しい証左だろう。

2021年に開催されたプロトタイプ試乗会では、同じパワートレインやシャシーメカニズムをもつ「レヴォーグSTI Sport R」とサーキットで乗り比べる機会もあったが、剛性感や軽快感、乗り心地、そして操縦安定性に快適性、回頭性……のすべてでWRXに明らかに分があることも確認している。それをもってレヴォーグの魅力が色あせるわけではないが、新型WRXが純粋なドライバーズカーとしての魅力をきっちりと表現できていることは間違いない。

ドライブトレインは不等&可変トルク配分型4WD「VTD AWD」。フロント45:リア55を基本に、走行状況に応じてトルク配分を変化させる。
ドライブトレインは不等&可変トルク配分型4WD「VTD AWD」。フロント45:リア55を基本に、走行状況に応じてトルク配分を変化させる。拡大
インテリアはブラックを基本に、赤いステッチが控えめに配される。スバル車らしく前後左右とも視界のよさが際立っている。
インテリアはブラックを基本に、赤いステッチが控えめに配される。スバル車らしく前後左右とも視界のよさが際立っている。拡大
変速機は新たに「スバルパフォーマンストランスミッション」を名乗るようになったチェーン式CVT。低負荷の日常域以外は基本的に8段の有段変速となるよう制御されている。
変速機は新たに「スバルパフォーマンストランスミッション」を名乗るようになったチェーン式CVT。低負荷の日常域以外は基本的に8段の有段変速となるよう制御されている。拡大
ペダルレイアウトはご覧のとおり。ゴムの滑り止め付きのアルミペダルが全車で標準装備となる。
ペダルレイアウトはご覧のとおり。ゴムの滑り止め付きのアルミペダルが全車で標準装備となる。拡大

踏めば踏むほど曲がっていく

新型WRXは乗り心地がしなやかであると同時に、とにかく曲がる。どのモードでも基本的にストローク感のあるフットワークゆえに、接地感が素晴らしく濃厚で、この種のスポーツモデルとしてはロールも小さくはない。なのに、アクセルを積極的に踏めば踏むほど、グイグイと曲がっていく。

これは先述の4WDシステム=VTD AWDによるところも大きい。VTD AWDはセンターデフをもつ真正フルタイム4WDながら、45:55という後輪優勢の基本駆動配分をもたされている。後輪優勢のトルク配分だからこそ、アクセルを踏むほど曲がり込む。

さらにドライブモードを「スポーツ+」にすると、VTD AWDの制御でも新たに用意されたスポーツモードが起動する。滑りやすい路面などで安定性を高める効果があるセンターLSDの締結トルクを、「スポーツ」モードでは低く保つことで回頭性を高めるのだそうだ。

そうしたこともあって、ドライブモードは「スポーツ+」に設定しておくのが、新型WRXで山坂道を楽しんで走るときにも有用である。「スポーツ+」のダンパー制御は一般的なワインディングロードでも硬すぎることはなく、ハイグリップなクローズドコースでは逆に物足りないかもしれない。高速ワインディングや低ミューのミニサーキットといった、一般ドライバーが日常的に楽しみやすい舞台で溜飲の下がる調律なのも、S4のみとなった新型WRXの特徴のひとつといえるだろう。

こうした場面でその気で走ると、「コンフォート」モードはターンインがずいぶん鈍くなってしまう印象だが、アクセルを踏むほどにトルク配分効果でそれなりに走れてしまう。これもVTD AWDの美点かもしれない。

サスペンションはフロントがマクファーソンストラット式でリアがダブルウィッシュボーン式。ZF製の減衰力可変式ダンパーは「STI Sport」の専用装備となっている。
サスペンションはフロントがマクファーソンストラット式でリアがダブルウィッシュボーン式。ZF製の減衰力可変式ダンパーは「STI Sport」の専用装備となっている。拡大
RECAROシートとウルトラスエードはいずれもオプション(標準装備は本革)。座面は薄くて硬く、路面状況が手に取るように分かる。
RECAROシートとウルトラスエードはいずれもオプション(標準装備は本革)。座面は薄くて硬く、路面状況が手に取るように分かる。拡大
セダンとしての使い勝手が強化されているのも新型の特徴。後席のレッグルーム、ショルダールームとも先代よりも広くなったほか、座面もより大きくなった。
セダンとしての使い勝手が強化されているのも新型の特徴。後席のレッグルーム、ショルダールームとも先代よりも広くなったほか、座面もより大きくなった。拡大
11.6インチの縦型センターディスプレイは「STI Sport」に標準で、その他グレードにはオプション。ドライブモードはエアコンの利きなどまで細かく設定されている。
11.6インチの縦型センターディスプレイは「STI Sport」に標準で、その他グレードにはオプション。ドライブモードはエアコンの利きなどまで細かく設定されている。拡大

MT要らずの新型WRX

新型WRXはダブルピニオン式パワーステアリングによる正確で鋭いステアリングも売りなのだが、生来のすこぶる優秀な直進性、しなやかなサスペンション、踏めば曲がる4WD……という組み合わせなら、あえてもう少しマイルドな設定にするのも一興に思う。

というのも、webCG屈指のリアシート乗り心地鑑定士(?)である向後カメラマンは今回「新型WRXの後席はシートはとてもいいのに、走っていると少しふらつく」と評したからだ。新型WRXの軽くてクイックなステアリングの影響もあるのか、わずかな手の動きにもステアリングが敏感に反応してしまうのだ。これなら通常時のステアリング自体はもっとマイルドな味つけにしつつ、VTD AWDを最大限に利した「踏めば曲がる!」という二面的なキャラクターを前面に押し出したほうが、筆者的にはより好みである。

さらに末尾に「EX」が付く今回のグレードには最新の「アイサイトX」が標準装備である。同機能の詳細については、先日公開した「レガシィ アウトバックX-BREAK EX」の試乗リポートもお読みいただきたい。ただ、今回は走行中にドライブモードを切り替えたり、シフトをマニュアルモードにしたりしてもアダプティブクルーズコントロール(ACC)が途切れないことに、あらためて感心した。

この種の機能はすべてのパターンでの安全性確認が必要だから、ちょっとイレギュラーな組み合わせではACCをキャンセルしてしまうメーカーが、とくに日本には多い。しかし、こういう地味な部分のつくり込みでも手を抜かないのはスバルの美点である。ただ、その強すぎるこだわりが、逆にMT用の緊急自動ブレーキの開発を遅らせている理由だったりして……と思ってしまうと、心がモヤモヤするのも事実だが。

北米で用意される新型WRXのMT車には、相変わらず古典的なセンタービスカスLSD付きフルタイム4WDが組み合わせられている。ただ、今回のSPTとVTD AWDのデキをみるに、個人的には新型WRXをMTで乗りたいとはあまり思わなかった。

(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)

ステアリングシャフトではなくラック自体を直接アシストするダブルピニオン式のパワーステアリングは、この車格ではぜいたくなメカニズムだ。
ステアリングシャフトではなくラック自体を直接アシストするダブルピニオン式のパワーステアリングは、この車格ではぜいたくなメカニズムだ。拡大
トランクルームにはゴルフバッグが横向きに3個積める。4:6分割のトランクスルー機能も備わっている。
トランクルームにはゴルフバッグが横向きに3個積める。4:6分割のトランクスルー機能も備わっている。拡大
トランクリッドの後端がはね上げられ、コンパクトなスポイラーになっている。
トランクリッドの後端がはね上げられ、コンパクトなスポイラーになっている。拡大
リアコンビランプのインナーレンズは割れたガラスを散らしたようなデザインになっている。
リアコンビランプのインナーレンズは割れたガラスを散らしたようなデザインになっている。拡大
タイヤサイズは245/40R18で、試乗車は「ダンロップSP SPORT MAXX GT 600A」タイヤを履いていた。ブラック×切削光輝のホイールは「STI Sport」専用装備。
タイヤサイズは245/40R18で、試乗車は「ダンロップSP SPORT MAXX GT 600A」タイヤを履いていた。ブラック×切削光輝のホイールは「STI Sport」専用装備。拡大

テスト車のデータ

スバルWRX S4 STI Sport R EX

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4670×1825×1465mm
ホイールベース:2675mm
車重:1610kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.4リッター水平対向4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:CVT
最高出力:275PS(202kW)/5600rpm
最大トルク:375N・m(38.2kgf・m)/2000-4800rpm
タイヤ:(前)245/40R18 97Y/(後)245/40R18 97Y(ダンロップSP SPORT MAXX GT 600A)
燃費:10.8km/リッター(WLTCモード)
価格:477万4000円/テスト車=517万3520円
オプション装備:サンルーフ<電動チルト&スライド式>+RECAROフロントシート<STIロゴ入り>+ウルトラスエードシート表皮<ブラック/グレー&ボルドー、レッドステッチ>(33万円) ※以下、販売店オプション フロアカーペット<STI>(3万6740円)/ETC2.0車載器キット<ケンウッドビルトインナビ連動>(3万2780円)

テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:1355km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:509.6km
使用燃料:62.0リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:8.2km/リッター(満タン法)/8.2km/リッター(車載燃費計計測値)

スバルWRX S4 STI Sport R EX
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佐野 弘宗

佐野 弘宗

自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。

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