スマート・フォーツー(RR/6AT)/フォーフォー(RR/6AT)
よりクルマらしく 2015.08.12 試乗記 フルモデルチェンジを受けた「スマート」に試乗した。新型は2人乗りの「フォーツー」に4人乗りの「フォーフォー」を加わり、布陣が強化されたが、その実力は「スマート史上、最高傑作」になったか? ドイツ・ケルンからの第一報。初代スマートの意気やよし
全長は軽く5m超えにして、全幅はほとんど1.9m――そんな巨大ぶりが、まずは最新「メルセデス・ベンツSクラス」の第一の特徴である。しかし、実はこうした紹介フレーズが、そっくりそのまま今から24年も前にデビューした作品にも当てはまったことを知ると、ちょっとビックリしてしまう。
W140型として知られる1991年デビューの3代目Sクラス。それは、当時としてはまさにライバルを圧するそんなサイズ感の持ち主だった。
一方で、そのSクラス1台が占有する面積の上に、2台が駐車可能! と確かそんな宣伝文句とともにデビューをしたのが、当初は「シティクーペ」、後に「フォーツー」と名前を変えた2人乗りのマイクロコンパクトカー、スマートであったもの。
1997年に登場した初代モデルの全長は2.6m弱。それはまさに、翌98年まで生産された前出W140型Sクラスの、標準仕様でも5120mmに達する全長の中に、「2台が縦に並べられる大きさ」そのものだった。
まさか「巨大なSクラスの償い」というわけでもあるまい。が、駐車スペースの確保やひどい渋滞に悩む都市部の環境を改善すべく、かくもなりふり構わぬ勢いで“専有面積”の削減に挑んだことこそが、初代スマート最大の特徴であり、他の追随を許さない崇高な思想でもあったのだ。
理想と現実の間で
だからこそ、そんな初代モデルの考え方に賛同し、応援を続けてきた人にとってみれば、後に「ロードスター」や「ロードスタークーペ」などを追加し、果ては「フォーフォー」なる4シーターモデルにまで手を出したその後のスマートというブランドの歴史は、イコール“凋落(ちょうらく)の歴史”とさえ受け取られてもやむを得ないだろう。
ホイールベースを延ばし、低全高化してスポーツモデルを手がけるなどというのは、とことん小ささに挑むという当初のコンセプトと相いれないものであることは言うまでもない。
前述した目的のためにあえて開発されたRRレイアウトを反故(ほご)にし、何のヒネリもないFFハッチバックデザインを採用したフォーフォーに対しても、「そんなものはスマートの一員と認めない」と、そんな強硬な声が聞かれたのも半ば当然かもしれない。
が、見方を変えれば、そこまで大きな“宗旨替え”を受け入れなければ生き残れなかったブランドであった、という現実も知る必要があるはず。
フォーフォーのデビューを受けて、フォーツーへと改名を迫られた2人乗りのマイクロコンパクトカー。それは確かに、誰もがまねのできない崇高なコンセプトの持ち主であった一方で、当初パートナーを組んだ時計ブランド、スウォッチがその採算性の不透明さからたちまち撤退。実際、後に巨額の赤字を計上するなど、「それだけでは商売にならない」という事実を世界に示す結果ともなってしまったからである。
より“自動車らしい”プロポーションへ
というわけで、初期には眼中になかったに違いないアメリカでの販売も鑑み、初代モデルのテイストを残したまま大型化というテコ入れが行われた2代目を経て、昨年再度のフルモデルチェンジが行われて登場した3代目フォーツー。「全長は従来型キープ」とされる新型が、それでもその見た目のボリューム感を明確に高めたのは、全幅が一挙に100mm以上も増したからにほかならない。
ポップなスマートらしさは残しつつも、必要以上の“愛らしさ”は抑制するためか、あえていかつさが強調されたようにも見えるフロントフェイスを採用。それを含め、パッと見で“自動車らしさ”が増して見えたのは、初代モデルではほとんど無に等しかったフロントフードが今度は立派に存在することとも無関係ではないはずだ。
一方、短いホイールベースに加え、Aピラーからサイドシルまで、ドアをぐるりと取り巻く「トリディオンセル」が踏襲されたことで、サイドビューではスマートらしさが明確に健在。
もっとも、乗り込もうとした時、従来型よりもずっと大きな横方向へのスペースが必要になったことにはすぐに気が付いた。絶対的な幅が広がったことに加え、ドア長そのものも伸びたので、乗降時の横方向スペースは、これまでよりも明確に広くなくてはならない理屈なのだ。
上下開きのテールゲートは、今やこのモデルの重要なアイコン。実際、ほとんど“垂直”となるボディー後端部を壁際ぎりぎりまで近づけてもゲート開閉が可能なのは大きなメリットだ。
RRレイアウトを踏襲の上、全長もキープしたので、シート後方に残されたラゲッジスペースは従来型と同様、広くはない。ただし、例によって前方に水平近くまで倒れるパッセンジャー側シートをアレンジすれば、ちょっとビックリするくらいの荷物が載せられる。そもそも、現実的には“1+1シーター”と考えれば、そのユーティリティー性能は意外に高いのが歴代フォーツーでもあるのだ。
ワイドトレッド化の効果は抜群
今回、主にテストドライブしたのは、「ルノーとの共同開発」が伝えられる最高71psを発する1リッターの新開発3気筒エンジンを、やはり新開発された6段DCT(デュアルクラッチトランスミッション)と組み合わせた仕様。かくして、ようやくシームレスな変速が実現したのは、これまで2代のフォーツーを知る人には間違いなく朗報であるはず。ただし、0-100km/h加速が15.1秒というデータが示すとおり、時に「ちょっと鈍重」という思いが募ったというのも正直な感想だ。
2mに満たないホイールベースがもたらす、ちょっとチョッピーで特異な揺れのモードは、さすがに新型からも消え去ってはいない。が、低速でパッチ路面などを乗り越えた際の強めの突き上げ感が、テスト車にオプション装着された「スポーツパッケージ」の仕業でもあろうことは、標準仕様の足を備えたターボ付きモデルに乗り換えると、それがいくぶん緩和をされて感じられたことからも容易に想像ができた。
加えて、横風に対して耐性が甘いのは、残念ながら今回も相変わらず。その代わり、“ワイドトレッド感”がばっちり味わえたのがコーナリングシーン。ショートホイールベースにリアヘビーという組み合わせゆえ、コーナーを追い込むと比較的早期にアンダーステアが実感できる。が、もはや「転倒の恐怖」が脳裏をよぎるシーンが皆無になり、安定感が大幅に増したのは、フォーツー史上でも画期的な出来事であるはずだ。
ところで、新型フォーツーですさまじいのはその小回り性能である。カタログ上に表記される6.95mという最小回転“直径”を半分にすれば、何とその値は3.5mにも満たない。ちなみに、恐らくはこれまで世界トップだった「トヨタiQ」のそれは3.9m。実際、開発担当のエンジニア氏は「iQをしのぐべく頑張った!」と誇らしげだ。
静かでしなやかなフォーフォー
ところで、今度のスマートにはもうひとつ大きな話題がある。「フォーフォーの復活」がそれだ。そんな新型フォーフォーは、ハードウエア的にはいわばフォーツーのストレッチ版。しかも、こちらは新しい「ルノー・トゥインゴ」との共作という話題を耳にした人もいるはずだ。
かくして、こちらはターボチャージャーを加えた最高90psを発するエンジンに、やはり6段DCTを組み合わせた仕様でテストドライブ。と、そのテイストは予想以上にフォーツーとは異なっていた。思いがけずに静かでしなやか――そんなこのモデルでの印象は、端的に言って、フォーツーよりも「はるかに普通の自動車っぽい」ものだ。
全長で800mm、ホイールベースで621mmのプラスに加え、重量の上乗せ分も85kgほど。ターボエンジンの場合、排気量が100ccダウンとなることもあり、スタートの一瞬はやはり動きが鈍めに感じる。それに反応してアクセルペダルを踏み加えてしまうと、その後の飛び出し感が強めという傾向も認められる。
が、それでもひとたび走り始めればその動力性能に不満を感じる場面は多くない。加えて、フットワークのストローク感の豊かさはいわゆる“フランス車的”なもの。あれっ、ここのチューニングはもしかしてルノーが担当? ……と、よもやそんなことはあろうはずもないが、イメージ的にはそうしたテイストが感じられる乗り味といってもいい。
フロントシートで静かな印象が強いのは“エンジンが遠い”という物理的な事情も関係していそう。一方、いかにストレッチをしたとはいっても、リアシートは決して広いとはいえない。ヒール段差が少なく、ニースペースもタイトな空間レイアウトは、あくまで“2+2+α”シーター程度という表現にとどめたくなるくらいのものだ。
そんな心機一転のフォーフォーも加えた新生モデルは、世界的にはきっと歴代の中で「最も売れるスマート」となるはず。が、ことフォーツーに限っていえば、日本では今度も「レアでニッチなモデル」になることは確定的だ。
事実上、都市部は一律に全面駐車禁止の日本。この国では、特にそうした場所でこそ「小さなクルマを持つメリット」が皆無に等しいのだ。実際、これまでもフォーツーが売れてきたのは、パリやローマなどを代表に、「駐車は合法ながら、なかなか空きスペースが見つけられない」という都市部のマーケット。
もはやクルマの良しあしとは無関係。そんな社会の仕組みが変わらない限り、日本でフォーツーがヒットを飛ばす可能性は残念ながらゼロと言わざるを得ないのだ。
(文=河村康彦/写真=ダイムラー)
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テスト車のデータ
スマート・フォーツー
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2695×1663×1555mm
ホイールベース:1873mm
車重:935kg
駆動方式:RR
エンジン:1リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:6段AT
最高出力:71ps(52kW)/6000rpm
最大トルク:9.3kgm(91Nm)/2850rpm
タイヤ:(前)165/65R15/(後)185/60R15
燃費:4.1リッター/100km(約24.4km/リッター、欧州複合モード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
スマート・フォーフォー
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3495×1665×1554mm
ホイールベース:2494mm
車重:1025kg
駆動方式:RR
エンジン:0.9リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:90ps(66kW)/5500rpm
最大トルク:13.8kgm(135Nm)/2500rpm
タイヤ:(前)165/65R15/(後)185/60R15
燃費:4.2リッター/100km(約23.8km/リッター、欧州複合モード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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