第413回:LOVE! ターミナルで働くクルマたち
2015.08.28 マッキナ あらモーダ!空港の構内車両
みなさんは、海外の空港に着陸したとき、飛行機の窓から最初に何を探すだろうか。ターミナルの建物? 駐機している他の航空機? ボクの場合は、滑走路の周辺を往来する構内車両である。
大学時代、初めてロンドンのヒースロー空港に着陸したとき、構内車両のほとんどがフォードだったのを今でもよく覚えている。コスト重視の選択だから仕方ないのだが、今より純粋な自動車ファンだったボクとしては、その無国籍な風景にちょっぴりがっかりした。
いっぽう、コスト重視でもうれしかったのは、それから数年後、パリのシャルル・ド・ゴール空港に降り立ったときである。1992年に発売された初代「ルノー・トゥインゴ」がエールフランスをはじめとする構内車として早くもちょこちょこと走り始めていた。それはそれはかわいらしかったものだ。
イタリア各地の空港で使われているクルマといえば、昔も今もフィアット車である。「パンダ」「プント」といったモデルのほか、トルコ工場製のバン「ドブロ」もよく見かける。かつてポーランドで生産されていた「セイチェント」も現役で見かけるのは、そのコンパクトなボディーの機動性が評価されているのだろう。
かわって少し前からミュンヘン空港では、「フォルクスワーゲンup!」が使われている。サイズからして、このモデルも空港用に増えてくると思われる。
スイスのチューリッヒ空港では、キアのミニSUV「ソウル」が活躍するようになった。真意は定かではないが、自動車産業をもたない国ならではの、フレキシブルな選択の結果としたら、それはそれで面白い。
VIP用から護送車まで
欧州の大きな空港では、ファーストクラスや航空会社の上級マイレージステータスをもつ乗り継ぎ客を運ぶための高級車が往来するようになって久しい。「メルセデス・ベンツSクラス」「ポルシェ・カイエン」「ポルシェ・パナメーラ」などが代表的な使用車である。
少し前、東京に行く際、イタリアでの出発が遅れたことがあった。乗り継ぎ地であるフランクフルト空港では、タラップから降りたところに、「TOKYO」のカードを持ったスタッフが立っていた。東京行きの出発時刻に間に合うよう、ゲートまで直に運んでくれるらしい。幸い、前述の高級モデルが余っていたらしく、ボクの前には静かに「S500」が……と書きたいところだが、実際にやってきたのはフォードのミニバン「トランジット」である。カーブするたび冷たい鉄板むき出しの内装に体をぶつけながらボクは運ばれたのだった。
送迎といえば、こんな光景も見たことがある。シチリア島のトラパニ空港でのことだ。ターミナルから乗った連絡バスがタラップの前に着いたのに、なかなかドアが開かず降りられない。やがて護衛車を従えた覆面パトロールカーが横付けされたので何かと思えば、クルマの中にいたのは国会議員であった。そして彼は一般客より先に飛行機に乗り込んでいった。
イタリアの高速道路で、議員による大名行列のような車列が周囲のクルマを蹴散らすようにして走るのは有名だが、それは空港でも同じなのである。
いっぽうフランスのパリからイタリアに戻ると、パトロールカーが横付けされていたことがあった。一瞬「また議員が乗ってるのかよ」と思ったが、なにやら様子が違う。やがてわかったのだが、パトロールカーが待っていたのは、ボクのすぐ後ろ、最後列に並んで座っていた2人であった。彼らは、ほかのお客さんが降りても、機内にとどまっていた。連絡バスの中から見ていると、やがて2人が降りてきた。そしてつないだ手を上着で隠したまま、パトロールカーに乗り込んだ。そう、護送中であったのだ。
異国で励ましてくれる、あの一台
最後にボク個人が、一番好きな空港構内車といえば、わが家に最も近い地フィレンツェ空港内で使用されているクルマである。スクーターの「ベスパ」で知られるピアッジョ社の「ポーター」というモデルだ。ちなみにピアッジョ本社があるポンテデラは同じトスカーナ州内。いわば地元産品である。
そのポーターは、日本の「ダイハツ・ハイゼット」をベースとしている。東京から十数時間の旅路を経てイタリアに帰るたび、ボクをタラップの外で迎えてくれるそのけなげな姿は、「俺も日系。これからもお互いこの地で頑張ろうぜ」と呼びかけてくれている気がしてならない。
大きな空港でSクラスやパナメーラのお迎えを受けることはないボクだが、イタリアの小さな地方空港で、この小さな日本オリジンのクルマに励まされているのである。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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