スバル・インプレッサスポーツ ハイブリッド2.0i-S EyeSight(4WD/CVT)
モトが取れる高級仕様車 2015.09.01 試乗記 「スバル・インプレッサスポーツ」の、ハイブリッドバージョンに試乗。ガソリンモデルや、先行して発売された「XVハイブリッド」との違いを含め、走りの特徴を報告する。低燃費車というよりスポーツタイプ
「インプレッサ」のカサ上げ版たる「XV」にハイブリッドが追加された時点で、こうなることは想像ができた。「プリウス」の影響で、国産Cセグメントは「ハイブリッドにあらずんばクルマにあらず」という状況になってしまっているからである。なにせ、あの「マツダ・アクセラ」ですら、よりによって宿敵と同じシステムを使って、事実上の日本専用モデルとしてハイブリッドを用意するくらいなのだ。
それにしても、技術的なハードルは皆無のはずなのにXVハイブリッドから2年も遅れたのは、そちらが想定以上に売れて、ずっと供給が追いつかない状態が続いていたからだろう。そして「XVでこれだけ売れるなら、インプにもハイブリッドがあればさぞかし……」と、インプ担当者が心中穏やかでない2年間をすごしてきたことも容易に想像できる。
ハイブリッド機構は変速機一体のモーターと荷室床下のニッケル水素バッテリーと補機類で完結しているので、クルマ自体はインプレッサのハッチバック(スバルにおける商品名は「インプレッサスポーツ」)そのものである。ただ、ハイブリッドでは全車の車体下部にエアロスカートが追加されるのは、2リッター車比で約25万円高という価格アップの整合性を考えてのことか。スバルのハイブリッドは、低燃費車というよりスポーツという位置づけである。
より進化したハイブリッド制御
このハイブリッドも当然、2014年秋に改良されたフェイスリフト版がベースだが、webCGで渡辺敏史さんも書いておられたように、外観の変化はハイブリッド専用エアロにかき消されていることもあって分かりにくい。ただ、内装では、立体的なハザードボタンとジョグスイッチが備わるセンターパネルが「レヴォーグ/WRX」と共通化されたことに気づく。外野としては「ここがレヴォーグ/WRXを、インプより上級と定義するキモだったんじゃ……」と余計なおせっかいを焼きたくなるが、インプは手動パーキングブレーキ(レヴォーグ/WRXのそれは電動)なので、センターコンソールだけは別物である。
これまでのXVハイブリッドは、良くも悪くも「よくできたアイドリングストップ車」という印象が強かった。機構的にはモーターのみのEV走行も可能なのだが、現実には減速時にエンジンストップして回生する以外は、いわゆるEV走行するケースはまれ。
ただ、発進時だけはまずモーターでタイヤをひと転がりさせてからエンジン始動するので、頻繁なストップ&ゴーでも、通常のアイドリングストップ車のような煩わしさがなかった。それゆえの「よくできた……」である。
今回のインプレッサでもハイブリッドのハードウエアは変わっていないが、(XVも含めて)ハイブリッド制御が見直された。簡単にいうと、EV走行の頻度を増したのだという。
実際、減速でいったんエンジン停止の回生モードに入り、その惰性にまかせてアクセルペダルをわずかに踏んで中低速巡航……といった場面で、気がつくと「エンジンが止まったまま走ってるやん!」というケースがまま起こるようになった。これは以前のXVハイブリッドではなかったことだ。ただ、それはあくまで走行途中に起こることで、トヨタのTHSのように、モーターで発進してそのままスルスルと加速することはない。なので、ハイブリッド感の希薄さは従来と大差ない。
重心の低さを感じさせる
もっとも、スバルのハイブリッドはあくまで“黒子”に徹するのが、そもそもの基本思想である。2リッター水平対向エンジンも、ハイブリッド用といっても燃焼サイクルを変えるところまで踏み込んでいないし、もとからあるトルコンもあえて残される。モーター出力もかぎられており、電気で上乗せされた性能は、普通の2リッター車より130~140kg増した車重で完全に相殺された感じ。低速でのピックアップはハイブリッドに分があるように思えなくもないが、高速も含めたトータル性能では、普通の2リッターのほうが快活である。
操縦性はライバルと比較しても明確に好印象だった。プリウスやアクセラ(のハイブリッド)が、単独で乗っても「後ろになんか背負っている感」が明確で、山坂道では後ろがグラリとするのに対して、インプにはそういうクセがまるでない。
リアに凝った独立サスペンションを使うわりには、荷室床下におさまるバッテリーも、似たような構成のアクセラよりも低く見える。フロントの水平対向エンジンも含めて、低重心化が成功しているのかもしれない。
ベースから100kg以上も重くなれば、サスチューンもむずかしかったと察するが、高速で目地段差を通過したときのまろやかな吸収力などには感心する。路面からの当たりも総じて滑らか、上屋の動きも抑制されており、ロードノイズも「おっ」と思うほど静かだ。
マニア筋では国産Cセグの双璧といえるアクセラに対して、インプレッサは、よりロール剛性重視で水平基調の身のこなしが特徴とされる。ステアリングから伝わる接地感はマツダに軍配だが、リニアに奥まで利くステアリングはスバルの真骨頂である。
重厚感こそ持ち味
スバルはハイブリッドをスポーツとして売り出したいようだが、前記の動力性能も含めて、今回のハイブリッド化でインプに上乗せされたのは、スポーツというよりラグジュアリー方面の魅力が大きい。減税分を差し引いて普通の2リッターモデル比で約20万円というハイブリッド代は、有利になるであろうリセールバリューも含めれば、サンデードライバーの走行距離でも数年でモトが取れるだろう。
ただ、スバルに「活発で軽快な操縦性」を求めるなら、ハイブリッドを選ぶべきかは悩ましい。ハイブリッドは重厚で操縦性も優秀だが、曲がりの爽快感は普通の2リッターに分がある。
これも渡辺敏史さんが書かれていたことだが、この期におよんで「アイサイト」がver.2(バージョン2)のままなのも気になる。ハイブリッド特有の「ECOクルーズコントロール」がハードルだったというが、バージョン3の開発時期を考えると、ハイブリッドを適用外にするのは不可解な気がしないでもない。
もしかして、このハイブリッドはこの世代かぎりで、次期ハイブリッドはアクセラと同じく、トヨタのアレだったりして? あるいは、スバルはハイブリッドをあくまで、余計な手間をかけるべきでない少量モデルと考えているのか。さもなければ、次のモデルチェンジできちんと対応する予定なのか。マニアとしては最後の可能性を期待したいが……。
(文=佐野弘宗/写真=郡大二郎)
テスト車のデータ
スバル・インプレッサスポーツ ハイブリッド2.0i-S EyeSight
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4420×1755×1490mm
ホイールベース:2645mm
車重:1500kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター水平対向4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:150ps(110kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:20.0kgm(196Nm)/4200rpm
モーター最高出力:13.6ps(10kW)
モーター最大トルク:6.6kgm(65Nm)
タイヤ:(前)215/50R17 91V/(後)215/50R17 91V(ダンロップSP SPORT MAXX 050)
燃費:20.4km/リッター(JC08モード)
価格:263万5200円/テスト車=311万6340円
オプション装備:有料ボディーカラー<ヴェネチアンレッド・パール>(3万2400円)/SDナビゲーション+リアビューカメラ+オーディオリモートコントロールスイッチ+外部入力端子+ピンジャック+HIDロービームランプ(25万9200円) ※以下、販売店オプション STYLE-Sパッケージ<工賃込>(6万2640円)/LEDアクセサリーライナー(5万5080円)/ETCキット<工賃込>(3万3480円)/フロアマット(3万8340円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:1814km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:700.4km
使用燃料:53.9リッター
参考燃費:13.0km/リッター(満タン法)/13.4km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。