プジョー308GTライン(FF/6AT)
「見栄え」と「出来栄え」の両立 2015.09.04 試乗記 プジョーのCセグメントモデル「308」に、スポーティーな装いが特徴の新グレード「GTライン」が登場。しなやかさが魅力とされる308の足まわりと、225/40ZR18という偏平タイヤが織り成す走りを試す。ゴルフ7に対する強力な“対抗馬”
取材だなんだでさまざまなCセグメント車を味見させてもらう機会をいただくと、いつも思うのは7代目「フォルクスワーゲン・ゴルフ」の完成度の高さだ。
言っても欧州くんだりでは最もポピュラーな大衆車だからして、各車とも基本的にはバランスよくまとめているわけだが、じっくり乗ってみるとやはり得意分野が満足度として際立ってくる。静的質感でいえば「アウディA3」、ハンドリングでいえば「フォード・フォーカス」、アドバンスドセーフティーでいえば「ボルボV 40」……と、あくまで個人的感想というやつだが、そんな感じで。
が、ゴルフ7はそれらを全方位で網羅し、相当なハイレベルでまとめている。先述のモデルたちを知った身で乗っても、正直なところ物足りなさは全然感じない。その上で、静粛性や快適性がクラスベストであることは疑いなく、それどころか上位セグメントをも食っちゃう出来栄えであることを考えれば、価格も十分納得させられるわけだ。どの方位からみても隙がないから面白みがないというのはお門違いで、その内容は嗜好(しこう)うんぬんでさばくようなもんじゃあない、コンパクトカーにおける絶対正義なわけである。
……でも、“ゴルフ推し”ってなんか予定調和的というか能がないというか、仕事してない風じゃね?
と、頭の片隅でどうしてもそう思ってしまうのは、そもそも判官びいきの癖が僕にあるからだろうか。ともあれCセグメントネタの仕事になると、そんなイチャモン体質に封をすることに相当必死である。いいものはいいんだから、素直にゴルフ7に降伏してしまえば楽だというのに、なぜそんなにあらがうわけよ?
その抵抗の理由となる存在として、一番強力なもの、つまりゴルフ7のオルタナティブとして最有力なCセグメントを問われれば、僕はプジョー308を挙げる。
新型「308GTi」に通じるデザイン
正直、これまでプジョーのCセグメントにそこまで感服した記憶はない。「306」は走りうんぬんはともあれ、スタティックな比較で当時の「ゴルフ3/4」に対してどうしても頼りなくはかなげな印象がつきまとっていた。「307」はその辺りが大きく改善されたものの、あろうことか走りまでがカチッとしすぎて、持ち味だった酔拳のようなドライブフィールが一気に薄れてしまったことが不満だった。「308」を名乗るようになった先代は、質感だ走りだ以前に「ロータス・エスプリ」ばりにボンネットから一直線というAピラーの圧迫感がすごすぎて、「この鬼瓦顔には毎日乗りたかないわ」という印象。思えば「206」の劇的なヒットに良くも悪くも翻弄(ほんろう)されたのが、ここ10年ばかしのプジョーだったのかもしれない。
新しい308に用いられる「EMP2」プラットフォームは、ハイテン鋼やアルミ材を適材配置することで軽量化、高剛性化を果たした、PSAの新世代を担う文字通りの屋台骨だ。ベースモデルで1270kgからという重量は、これまた「MQB」モジュールで劇的軽量化を果たしたゴルフ7と比べても30kgしか変わらない。これに130ps、23.5kgmを発生する1.2リッター3気筒の直噴ターボとアイシン・エィ・ダブリュ製の6段ATを組み合わせるというのが、日本でのラインナップに共通する成り立ちだ。恐らくはここに、先ごろ「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード」でお披露目された「308GTi」も遠からず加わるかたちとなるだろう。
ちなみに、試乗に供されたモデルは、新たに加えられた「GTライン」というグレード。専用形状のスポーツシートや小径ステアリングなどはレッドステッチでまとめられ、サイドスカートやLEDフォグランプといったアイテムが装着される。が、それをほかのグレードと見分けるには、フロントグリル内のライオン印を見るのが一番手っ取り早い。このアピアランス、先述の308GTiとかなりかぶっている点からみても、その前座的な役割も果たすものだろう。
偏平タイヤと小径ステアリングに感じる不安
そのGTラインに装着されるタイヤは225/40ZR18の「ミシュラン・パイロットスポーツ3」。詳細は発表されていないが、恐らくはこれも新しい308GTiが履くサイズだ。マットブラックの差し色が入るホイールの意匠も一緒。ちなみに308GTiは1.6リッター4気筒直噴ターボを搭載し、250psを発生する。これと同じタイヤなのだから、当然ながらGTラインの動力性能には余りあるぜいたくな履きものだ。
しかるべきパワーの伴わない車体に大径タイヤをかませたグレード。個人的に、苦手な物件である。というか、カッコ以外の意味が見いだせない。狭い路地では路肩のちょっとした凹凸でホイールを削ってしまうことばかりを心配しなければならないし、飛ばしても往々にしてタイヤのグリップとケース剛性に引っ張られてせっかくの基本特性が台無しになっているし、減りゃあ減ったで17インチ以上は2次曲線的に値段が高くなっていくし……というオチが乗らずともみえてくる。ましてやゴルフ7に対する308の最大の武器は、アタリが丸くて上屋の動きがおおらかなライドフィール、タイヤに頼らずとも骨格やアシのポテンシャルでしなやかに駆け抜けるコーナリングと、かなり走りによったものだ。
しかも、308はステアリング径がやたらと小さい。形状が真円でないだけに径は公表されていないが、感覚的には340mmくらいの印象だ。そうすることで、舵(かじ)の上べりよりさらに上側にマウントしたメーターを明確にみせるという狙いなわけだが、別にそんなことをしなくても……という以上に、そもそも小径ステアリングは操舵(そうだ)の入力が粗雑になりがちだ。僕が308で唯一最大と感じている弱点を握って、びゅんびゅんゲインの立ち上がりそうな大径タイヤを動かすのかと思うと、さらにげんなりしてくる。「スバルWRX S4」といい、編集のHくんが難儀な物件ばかりを僕にあてがってくるのは、恐らく締め切り遅れの報復だろう。
“インチアップ物件”としては秀逸な出来栄え
やれやれ……と思いつつ走らせると、この308 GTライン、しかし動きは思いのほか優しい。バネやダンパーの変更はないということだが、細かな凹凸を優しくなめして伝えてくれる。恐らくは、タイヤ自体の柔軟性や真円度も関係しているのだろう。目地段差などではその反応もカツンと硬質になるが、それもステアリングに小さく伝わるだけで鋭いピッチングとして現れない。わだちなどを走っても「ワンダリング」という言葉を使うのがはばかられるほど乗り味はフラットだ。バネ下の重さを隠しきれず、収まりきらないタイヤの上下動が時折ブルンと車体を震えさせるが、ハコの剛性がガッチリ確保されていることもあって、それがスッキリ減衰してくれるのは308の基本的な長所だ。清涼感ではさすがに標準車に譲るも、大径タイヤゆえのえげつなさは非常に小さい。“インチアップ物件”としてはかなり秀逸な出来栄えだ。
コーナーでの所作は明らかに初期応答が早くなり、高負荷での粘り気も高まっているのだが、一方で大入力時の車体の動きは、見事に標準車と同等の穏やかさが保たれている。大きなギャップを受け止めた後に、サスペンションが伸び、上屋が上方へと浮き上がる。その動きをいかに小さく、一撃でとどめるかは運転の安心感、そしてクルマのいいモノ感を大きく左右するファクターだ。ドイツならメルセデス、イギリスならジャガーと、そこが非常にたけている銘柄を挙げるなら、フランスでは間違いなくプジョーがそれに該当するだろう。308も例外ではなく、大入力時の余裕ある脚さばきはヘタなDセグメントも舌を巻くほどだ。
パッケージがまともで運転しやすくなったぶん、先代に対してデザイン上のインパクトがなくなったという印象を308に抱く人も中にはいるだろう。それを理由に、ゴルフ7の対抗とするには物足りないというならば、このGTラインは程よく華があるし、非常によくまとまっている。
が、ひとつ老婆心的に言わせてもらえば、308を検討するなら、それでもまずは“華不足”な普通のモデルを味見してみてもらいたい。乗り味でプジョーを知るに、明快なのはやはりそちらの方である。
(文=渡辺敏史/写真=荒川正幸)
テスト車のデータ
プジョー308 GTライン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4260×1805×1470mm
ホイールベース:2620mm
車重:1290kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:130ps(96kW)/5500rpm
最大トルク:23.5kgm(230Nm)/1750rpm
タイヤ:(前)225/40ZR18 92Y/(後)225/40ZR18 92Y(ミシュラン・パイロットスポーツ3)
燃費:18.1km/リッター(JC08モード)
価格:314万円/テスト車=339万3260円
オプション装備:メタリックペイント<マグネティック・ブルー>(5万9400円)/308タッチスクリーンナビゲーション(18万3600円)/ETC車載器(1万260円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:959km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:291.5km
使用燃料:26.6リッター
参考燃費:11.0km/リッター(満タン法)/10.6km/リッター(車載燃費計計測値)
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。