スズキ・エスクード(4WD/6AT)
実力は本物 2015.11.03 試乗記 生産国もクルマの構造も、なにもかもが従来モデルから一新された新型「エスクード」。ハンガリーから輸入される、FFベースのコンパクトSUVの実力を試す。エスクードよ、お前もか!
今や「クルマ世界遺産」のひとつに数えてもいいほどの存在となった「ジムニー」を擁するスズキ。同社が、それこそジムニーのように小柄なモデルと、大型クロカンばかりが幅を利かせていた四駆マーケットに1988年に投入したのが初代エスクードである。発売当初は3ドアとコンパーチブルのみだったが、1990年9月に5ドアモデル「ノマド」を追加。「遊牧民(ノマド)という名のクルマです」というキャッチコピーとともに販売を加速させ、一時代を築いたのである。
その後、他社からもこのクラスのモデルが続々と登場することになるのだが、そんな中でエスクードが譲らなかったのが、強固なラダーフレームと副変速機の採用による、本格的なオフロード走行も楽々とこなす走破性能だろう。
しかし、時代は変わった。ご存じの通り、現在は世界的なSUVブーム。本格的なオフロード性能以上に重視されるのが、オンロードにおける快適性である。
エスクードはこれまでも「ビターラ」の車名で欧州で販売されていたし、提携時代にはゼネラルモーターズにOEM供給され、同社のチャンネルで販売されていたこともあった。初代のころから世界戦略車だったのだ。同時に、3代目まではオンロードでの快適性を向上させつつも、やっぱりオフロードにおける高い走破性がセリングポイントのクルマだったはずだ。
そんなこともあって、新型を見た瞬間に脳裏をよぎったのは、「エスクードよ、お前もか!」という言葉だった。かのシェイクスピアの歌劇でジュリアス・シーザーが放った「ブルータスよ、お前もか!」とオーバーラップしてしまうほど驚いたのだ。いささか大げさと捉えられるかもしれないが、それは4代目がこれまでのラダーフレームを廃止してモノコックボディーをまとっていたからである。
3代目を併売する理由
正確に言えば、実は3代目もモノコックボディーとラダーフレームを一体化させた「ビルトインラダーフレーム構造」を採用していた。つまり、今回いきなりモノコックになったわけではなく、3代目の段階で次の方向性はおぼろげながら示されていたのである。
もちろん、著者はモノコックボディーを否定しているわけではない。環境性能なども考慮した場合、軽量化は絶対命題である。先に日本に導入された「SX4 Sクロス」とプラットフォームを共有化して、コストダウンを図るのも当然のことだ。いずれも文句を言う筋合いのものではない。
ただ、いかに好調なSUV市場とはいえ、この新型がどれだけ支持されるのかはスズキとしても手探りの部分があったのではないか。というのも、スズキは3代目モデルを「エスクード2.4」として併売している。新型の販売に力を入れつつ、クロカン志向のユーザー層にも対応しようとしているのだ。
前述したように、新型はSX4 Sクロスとシャシー関係を共有化するが、全長で125mm、ホイールベースで100mm小さい。つまり、わずか全長4175mmのコンパクトSUVである。しかし、それを感じさせないダイナミックな造形、特にフロントまわりにはエスクードの方程式ともいえる力強さを継承している。また、スッキリとした印象を与える理由としては、サイドアンダーミラーが装着されていないことも大きいだろう。
乗降性は良好だ。やや高めとはいえ、大人がスッと腰をスライドさせた位置にシートがあるので乗り降りは「2.4」よりも楽。身長160cmの筆者で感じるのだから女性でも違和感なく座れるはずだ。
スズキは、ホイールベースが10cm長いSX4 Sクロスをファミリーユースのモデルとして位置づけているようだが、アップライトな着座姿勢もあって、エスクードでもそれほど狭さは感じなかった。本国仕様にある大型ガラスルーフがあれば、さらに開放感が味わえるのだろうが。
従来モデルにはなかったヒラリ感
ボディーもエンジンも従来型から大きくダウンサイジング。エンジンはSX4 Sクロスと同じ1.6リッター直4だが、組み合わされるトランスミッションはSX4 SクロスがCVTなのに対し、こちらは6段ATが採用されている。
正直、エンジンに「これだ!」というほどのパンチ力はないが、新開発のATがかなりパワートレイン全体のフィーリング向上に寄与していると感じられた。このトルコン式AT、もともとはオフロード走行時にかかる負荷を考慮して採用されたもの。シフトパドルが標準装備されており、高速道路やワインディングロードではもちろん、オフロードでもステアリングから手を離さずに適切なギアを選択できる。また、スポーティーな走りだけでなく、長い坂道で適切なエンジンブレーキをかける際にもシフトパドルは有効。実用車ではコスト的に敬遠されがちな装備だが、これを採用した点は高く評価したい。
肝心の走りだが、先に述べた軽量化がここで大きく効いている。コーナーからの立ち上がりで、素直に「フットワークが軽い!」と感じられるのだ。試乗車は4WDだったが、それでも車重は1210kgと、このクラスとしてはかなり軽量。ステアリングの中立付近ではしっかり感も出ているし、切り始めに対するボディーの追従も早い。全高は1610mmあるが、ロール感は自然で、傾き自体もそれほど大きいものではない。
また、SX4 Sクロスですでに採用済みの走行モード切り替え機構付き4WD「ALLGRIP」だが、走行モードは基本AUTOに入れっぱなしでかまわない。走り出せばあとはクルマが適切に制御を行ってくれる。山坂道ではSPORTモードを選ぶにこしたことはないが、AUTOのままでもアクセルとシフトパドルを使えばある程度走れる。もちろんSPORTモードでは積極的に後輪に駆動力が配分され、そのぶん旋回性能が向上するのが誰にでも分かる味付けになっている。そこは気分で選べばいいだろう。今回の試乗では残念ながらSNOWモードやLOCKモードは試せなかったが、LOCKモードについては、SX4 Sクロスから制御を変え、より高い走破性を実現しているという。軽量化や快適性向上のためにモノコックボディーになってはいるが、電子制御の力で必要なオフロード性能を確保しているのはまさに“時代”なのだろう。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
モノグレード&2プライス構成という良心
さてこの新型エスクードだが、4WD車で234万3600円、FF車であれば212万7600円という、なかなか魅力的な価格が付けられている。カーナビをはじめとするAV機能はディーラーオプションだが、これは個人の好みで装着すればいいだろう。
気に入ったのが、メーカーオプションの設定が2種類のボディーカラーのみというところ。これが本当に分かりやすい。クルマによっては「○○パッケージ」と銘打ったものがあれこれと用意されていて、お店で悩んでいるうちに購入価格が上がってしまうケースも多いのだが、エスクードなら諸費用込みの乗り出し価格がイメージしやすい。
ちなみに、イメージカラーになっている「アトランティスターコイズパールメタリックブラック2トーンルーフ」という舌をかんでしまいそうな名前の色は4万3200円、「クールホワイトパール」は2万1660円。オプションカラーの価格設定が他車と比較して安いのも魅力だ。
また、安全に関するものでは、衝突被害軽減システムである「レーダーブレーキサポートII」を標準装備。さらにアダプティブクルーズコントロールも付いており、これが高速走行時に重宝する。この手の運転支援システムに関しては、各メーカーが日々研さんを重ねていることもあり、スズキのもの自体に突出したアドバンテージがあるわけではない。それでも、価格を抑えながらこれらを搭載した点は高く評価したい。
一方で、オートエアコンには左右独立温度調整機能がない。冬場はシートヒーターで対応すればよいのだが、このほかにもいろいろな部分でコストを削減している感じは伝わってくる。
駆動方式については、街乗り中心であればFF車で十分。実用燃費にも有利だろう。願わくは販売が好調になって、ボーナス商戦期にガラスルーフ車が設定されたり、同社が得意とするアウトドアブランドとのコラボモデルが登場したり、特別仕様車という形でいいので積極的にいろいろな展開を見せてほしい。
4代目に進化したエスクードは、現在販売のトップを走るCセグメントSUV「ホンダ・ヴェゼル」とも十分勝負できる一台に仕上がっている。
(文=高山正寛/写真=webCG、向後一宏)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
スズキ・エスクード
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4175×1775×1610mm
ホイールベース:2500mm
車重:1210kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.6リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6AT
最高出力:117ps(86kW)/6000rpm
最大トルク:15.4kgm(151Nm)/4400rpm
タイヤ:(前)215/55R17 94V/(後)215/55R17 94V(コンチネンタル・コンチエココンタクト5)
燃費:17.4km/リッター(JC08モード)
価格:234万3600円/テスト車=257万616円
オプション装備:ボディーカラー<アトランティスターコイズパールメタリックブラック2トーンルーフ>(4万3200円) ※以下、販売店オプション フロアマット(2万142円)/ナビゲーションシステム<スタンダードメモリーナビセット>(14万4018円)/ETC車載器(1万9656円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
拡大 |

高山 正寛
-
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”+エアロパフォーマンスパッケージ【試乗記】 2026.9.1 2020年のデビュー以来、間断なく進化を続けてきたコンパクトスポーツの「トヨタGRヤリス」。一般ユーザーの間ではもちろん、コンペティションの世界でもチューニングのかいわいでも光を放つ一台は、2026年モデルでどう進化したのか? その走りを報告する。
-
アウディQ3スポーツバックTFSIクワトロ150kWアドバンスト(4WD)【試乗記】 2026.8.31 フルモデルチェンジした「アウディQ3スポーツバック」に試乗。プラットフォームやパワートレインこそ従来型の改良版ではあるものの、内外装のデザインやインフォテインメント、効率性のすべてにおいて大幅な進化を遂げたという。その仕上がりやいかに。
-
トヨタbZ4XツーリングZ(4WD)【試乗記】 2026.8.29 「トヨタbZ4X」にワゴンのようなロングボディーを持つ「ツーリング」が登場。ただ長くなっただけではなく、今回試した4WDモデルではパワーもアップ。乗り味にも微妙な影響を及ぼしているから見逃せない。経路充電を試しつつ、370km余りをドライブした。
-
BMW 120オリジナル(FF/7AT)【試乗記】 2026.8.25 BMWの主要モデルに新グレードの「オリジナル」が設定された。位置づけとしては新たなエントリーグレードということになるが、BMWらしさを損なうことなく装備を厳選し、価格を抑えたのがポイントだという。「1シリーズ」の「120オリジナル」の仕上がりをリポートする。
-
トライアンフ・スラクストン400(6MT)【レビュー】 2026.8.25 カフェレーサーの本場である、イギリスのトライアンフがリリースした「スラクストン400」。車名のとおり、カジュアルに楽しめる400ccクラスのマシンではあるのだが、その実物からは、エントリーモデルとは思えない本物の香りが漂っていた。
-
NEW
ホンダがコンセプトモデル「アキュラ・ネクセラ ビジョン」を発表 次世代デザインを読み解く
2026.9.3デイリーコラム本田技研工業の米国現地法人アメリカン・ホンダモーターが、アキュラブランドの次世代デザインを示すというコンセプトモデル「ネクセラ ビジョン」を初公開した。バタフライドアを採用するこのスポーツカーは、次世代アキュラの何を表現しているのか。 -
NEW
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(後編)
2026.9.3あの多田哲哉の自動車放談ワインディングロードで新型「BMW iX3」のステアリングを握った多田哲哉さんは、その走りに感心した様子。どんなところが優れているのか、トヨタのエンジニアの視点で語ってもらおう。 -
新型「三菱パジェロ」の外装・内装を写真でチェックする
2026.9.2画像・写真5年間のブランクを経て、三菱のフラッグシップSUV「パジェロ」がついに復活! 「グランドカリスマ -泰然自若-」をコンセプトにデザインされた本格クロスカントリーモデルは、どのような姿をしているのか? 内外装の詳細を、写真で紹介する。 -
復活の決め手はこっくりさん!? 新生「三菱パジェロ」誕生の経緯とその狙い
2026.9.2デイリーコラム5年間の沈黙を経て、ついに登場した新型「三菱パジェロ」。スリーダイヤモンドが誇る荒野のフラッグシップは、いかにして復活を遂げたのか? 開発の経緯や内外装デザインの詳細、パワートレインに見るクルマの“狙い”をリポートする。 -
第127回:新型BMW X5(後編) ―迷走するBMW 結局アナタは“ノイエクラッセ”でなにがしたかったの?―
2026.9.2カーデザイン曼荼羅その姿が明らかとなるや、賛否両論を巻き起こしている新型「BMW X5」。このクルマは既存のBMW製SUVとはなにがちがうのか? そもそもBMWは“ノイエクラッセ・デザイン”になにを託していたのか? カーデザインの識者と、迷走するBMWの明日を探った。 -
BMW X1 sDrive20iオリジナル(FF/7AT)【試乗記】
2026.9.2試乗記BMWのコンパクトSUV「X1」に新グレードの「オリジナル」が登場。走りの楽しさをはじめとしたBMWらしさをキープしつつ、装備の厳選によって価格抑制を図った新たなエントリーグレードだ。都市部におけるドライバビリティーとユーザービリティーをリポートする。





























