レクサスRC200t“Fスポーツ”(FR/8AT)
スポーツカーの味わい 2015.12.07 試乗記 レクサスのスポーツクーペ「RC」に、2リッター直4ターボエンジンを搭載する「200t」が登場。価格の面ではRCのエントリーグレードに位置づけられるものの、試乗してみれば、それは驚くほど“スポーツ度”の高いモデルだった。引き合いの多い新エンジン
トヨタの2リッター4気筒ターボ「8AR-FTS」型は、自然吸気3.5リッター級の性能をうたうダウンサイジング・ターボエンジンである。RC200tは、それを縦置きするFRとしては、同じレクサスの「IS」に続いて2例目。知っているかたも多いと思うが、その直後の「トヨタ・クラウン」が3例目だ。
「メルセデス・ベンツEクラス」や「BMW 5シリーズ」などの競合車の例を見れば、続いて「GS」に搭載されてもなんら不思議はなかったが、先ごろのマイナーチェンジでも「GS200t」の設定はかなわなかった。ひとまずGSへの搭載予定はないということだろう。
国内のトヨタ系モデルでいうと、この2リッターターボは「マークX」と「アルファード/ヴェルファイア」「ハリアー」あたりは技術的に搭載可能だろう。時期的に考えると、マークXは来年に予想されるフルモデルチェンジのメダマとして、このエンジンを使うことになるかもしれない。
というわけで、新しいRC200tだ。RCシリーズ全体では、200tは純粋な追加モデルで、「RC350」や「RC300h」はそのまま残る。
先に登場したセダンの「IS200t」の場合、その上の「IS250」との差別化がビミョーな感がある。250より価格が安い200tのほうが、メカニズムや性能では逆にやや高度みたいな……。
その点、RCシリーズにはもともと250の設定はない。RC200tは直上の300hより40万円以上も安く、ISでの200tとは異なり、エントリーモデルという役割がハッキリしている。この2リッターターボエンジンは2014年7月発売の「レクサスNX」が初出だった。RCシリーズの発売はそれより後の2014年10月だから、そもそもRC200t追加を想定しての開発だったと思われる。
体感的にかなりパワフル
RC200tの登場と同時にRCシリーズ全体も一部改良されたというものの、外板色追加と最上級RC350の“Fスポーツ”にマニアックなオプション(フロントパフォーマンスダンパー、オレンジブレーキキャリパー、トルセンLSD)が登場したくらい。内外装デザインや性能面での手直しはない。
RC200tもNXやISのそれ同様に、トータルの動力性能は300hの2.5リッターハイブリッドに似たようなレベルといっていい。安価なエントリーモデル……と評するのはためらうくらいに、その走りはパワフルではある。
ごく低速からキック力では電動動力を使うハイブリッドに分があるものの、その直後に過給圧が立ち上がってからは、200tのほうが体感的に力強く速い。RCの“スポーツ風味”を重視するなら、200tにより大きな魅力を感じる向きが多いだろう。
NXなどの横置きレイアウトと比較しても、RC200tでは、このエンジン特有の「ガ行」のノイズはあまり気にならなかった。もともと縦置きレイアウトのほうが振動騒音をおさえやすいこともあろうが、組み合わせられるATが8段(横置きのNXや「RX」は6段)であることも、結果的にかなり効いているっぽい。
エンジン回転域を細かく刻んでくれる8ATでは、当然ながら6ATより不快な領域を使うケースが減る。実際、この2リッターターボはいかにも現代のターボらしく、低回転から十二分なトルクを出すので、あまり高回転まで引っ張らずに、ポンポンと早め早めにシフトアップしたほうが安定して速いペースを保ちやすい。
また、レクサスが使うアイシン・エィ・ダブリュ製の8ATは、変速スピードもシフトショックも、まるでクオーツ時計のように精緻で静かだ。わざわざマニュアル操作しなくても、黒子に徹しつつ、エンジンのいいところを引き出しながら走ってくれる。
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ハイブリッドゆずりの制御がキモ
前段で「過給が立ち上がってから……」と書いたが、トヨタの2リッターターボは同種エンジンのなかでも、過給ラグはかなり小さいほう。山坂道のコーナリングでも、あえて早めにスロットルを踏み込むような過給エンジン特有の運転はとくに必要としない。
さすがに自然吸気3.5リッターV6のRC350と比較すると“右足直結感”では一歩ゆずる。また、RC350は200tと同じギアレシオで、エンジン回転リミットは500rpmほど高く、4000rpm付近からさらにグッと力強さを増す伸びやかな爽快感があるが、そこが200tには望めない。それでも、この2リッターターボは同種エンジンのなかでは、十二分にドライバーとの一体感が得られるエンジンといっていい。
現代のエンジンは大半が電子制御スロットル……いわゆるフライ・バイ・ワイヤで、アクセルペダルと実際のスロットルが機械的に結合しているわけではない。この2リッターターボも当然のごとく電子制御スロットルだが、その制御にトヨタ得意のハイブリッドの思想を入れているのが特徴という。
ハイブリッドではまず、スロットルペダルを踏み込む量や速度から「その瞬間にドライバーが欲しがっている出力」を予測。その予測値に向けて、瞬間ごとに最適なエンジンとモーターの配分を制御する。
RC200tはもちろん電動動力を抱えていないが、スロットル制御の思想はハイブリッドに似ており、スロットル開度、燃料噴射、ウェイストゲートバルブ、バルブタイミングの4つで、予測値をもとにエンジンとターボチャージャーを統合制御しながらエンジンを回す。ピュアな内燃機関でこうした制御を採るのは、少なくともトヨタではこの2リッターターボが初。過給ラグ抑制にもそれは効いているらしい。
意外にオトナな乗り心地
RC200tの俊敏志向で姿勢変化が少ないシャシー特性は、RCシリーズ全体に共通する味わいである。ダウンサイジングエンジンを積んだFR車ということで、ノーズの軽さを期待したくなるのはマニアの常だが、この2リッターターボは残念ながらさほど軽くない。車検証の前軸荷重値でも、RC350比で10kgほど軽いだけだ。
よって、基本的なサスペンション設定もRC350とほとんど変わりないと予測されるが、2014年デビュー当時のRC350と比較すると、落ち着いた直進性やステアリング操作のきめやすさは着実に向上していて、ワダチなどの路面不整にもいい意味で鈍感になっている。このクラスで19インチを履くにしては、意外なほどオトナな乗り味である。
これは200tにのみ標準装備となったフロントパフォーマンスダンパーの効果が大きいのだろう。パフォーマンスダンパーは絶対的な車体剛性を引き上げるものではなく、走行中の車体の振動を吸収して、車体の微細なゆがみ(と戻り)を減衰するパーツだ。
フロントパフォーマンスダンパーは、先に発売されたISでは200tと350に標準化されたが、今回のRCではひとまず200tのみ。ほかには冒頭のようにRC350“Fスポーツ”にのみオプション設定される。ISとRCでこうした設定ちがいがある理由は、開発担当氏によれば「早い話が、間に合いませんでした」というのが真相らしい。
RCは一見するとISの2ドア版に思われるが、実際の車体構造はIS、GS、先代「IS C」のイイトコ取りをしたハイブリッド設計になっている。くだんのパフォーマンスダンパーを抱えるフロント周辺はどちらかというとGSに近い構造で、ISのそれをそのまま応用できない事情があるのかもしれない。
「RC350“Fスポーツ”」とはちがう味
今回のFスポーツなどの上級モデルに、リアルタイム可変ダンパーのナビ連動AVSが標準となるのは350や300hと同様だ。走行モードを切り替えるとダンパーとパワステが変わるが、ダイヤルひとつで別物……とならないのは、いつものレクサス。本格的なワインディングロードでは、もっとも硬い「SPORT S+」でも、微小なユラユラは収まりきらない。
せっかくのモード切り替えなら、少なくともSPORT S+は、BMWがやるように“極端なキレキレモード”にするのも一興と思う。しかし、こういうところはレクサスはけっこう生真面目。青筋を立てて走りたいなら、「RC F」を買えということだろう。
とはいえ、走行安定性や限界性能に不足はなく、そのぶん市街地や高速をSPORT S+で走ってもヒドい事態にはならない。あえてFスポーツを選ぶような好事家なら、最終的にSPORT S+に固定してしまうケースも多そうだ。
ちなみに、フロントパフォーマンスダンパーをオプション装着したRC350の“Fスポ”も別の機会に試してみたが、味わいはかなり異なる。トータルでの乗り心地は、静粛性も含めて200tのほうが快適で穏やかだ。
200t以外で唯一パフォーマンスダンパー装着可能なRC350のFスポは「LDH(レクサス・ダイナミック・ハンドリング)」も強制的につく。前輪の可変レシオステアリングと後輪ステアリングを組み合わせたLDHは、細かい切り返しなどではイージーかつ機敏だ。しかし、コーナーを先読みしてステアリングを切っていく古典的なスポーツ運転では、反応がどうにも一定しないクセは残る。
この種の高額クーペにあえて“スポーツカーの味わい”を求めるなら、別格のRC Fを例外とすれば、現時点ではこの200tのFスポが最右翼だろう。RCとしては価格も安い。モデルチェンジ間近の「日産スカイラインクーペ」は古すぎるし、失礼ながら、もはや走りもかなり粗野である。
(文=佐野弘宗/写真=高橋信宏)
テスト車のデータ
レクサスRC200t“Fスポーツ”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4695×1840×1395mm
ホイールベース:2730mm
車重:1620kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8AT
最高出力:245ps(180kW)/5800rpm
最大トルク:35.7kgm(350Nm)/1650-4400rpm
タイヤ:(前)235/40R19 92Y/(後)265/35R19 94Y(ブリヂストン・ポテンザRE050A)
燃費:13.0km/リッター(JC08モード)
価格:583万円/テスト車=655万4680円
オプション装備:プリクラッシュセーフティ―システム<ミリ波レーダー方式>+レーダークルーズコントロール<ブレーキ制御付き>(6万4800円)/クリアランスソナー&バックソナー(4万3200円)/ボディーカラー<ラディアントレッドコントラストレイヤリング>(16万2000円)/ブラインドスポットモニター+リアクロストラフィックアラート(6万4800円)/3眼フルLEDヘッドランプ+LEDフロントターンシグナルランプ(11万3400円)/レーンディパーチャーアラート+オートマチックハイビーム(3万7800円)/“マークレビンソン”プレミアムサラウンドサウンドシステム(23万8680円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:1012km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:258.9km
使用燃料:27.4リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:9.4km/リッター(満タン法)/8.7km/リッター(車載燃費計計測値)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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