第22回:ラウンドアバウト――環状交差点の“今”を見に行く(最終回)
リニアと高速道路と日焼けと、最後に警察庁の発表
2015.12.07
矢貫 隆の現場が俺を呼んでいる!?
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ラウンドアバウトとは関係ない話題だけれど、JR東海が2027年の開業を目指すリニア中央新幹線の、品川と名古屋の間に建設される駅は4つで、品川から出発したら3番目に止まる駅が飯田なのである。
ラウンドアバウトとは関係ない話題だけれど、新東名高速道路の浜松いなさJCTからまっすぐ北に向けて建設が進む三遠南信自動車道の終点は飯田(中央自動車道の飯田山本IC)なのである。
そう遠くない将来のリニアと高速道路。飯田、注目の気配あり、と言っておこう。
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紆余曲折の末
さて、飯田市でなぜラウンドアバウトなのか、である。
なぜ“今”なのか、である。
そもそもを言いだすと、都市計画道路整備の過程で東和町の交差点を改修する必要に迫られたのが事の始まりだった。ところが、ここは5枝(の道路)が集まる変則交差点なものだから話は簡単には進まない。昔はともかく、現在の道路構造令(=道路の統一性や安全性の基準を定めた道路法にもとづく政令)が5枝の交差点を認めていないのだ。そこには次のように書いてある。
道路は、駅前広場等特別の箇所を除き、同一カ所において同一平面で5以上交会させてはならない。
さて、困った。
交差点の改修ができないというのだから、そりゃ困る。
じゃ、どうする!?
ラウンドアバウトの実現までには紆余(うよ)曲折を経るのだが、そこのところを省略してざっくり話を進めると次のようになる。
「ラウンドアバウトはどうよ」
「おお、それはいい。それならば変則5枝もあり、だ」
せっかくのアイデアだったが、しかし、それもうまくいかない。まだ日本に存在しない形式の交差点なものだから、安全性はどうなんだ、とかいう懸念に代表される各方面からの慎重意見によってラウンドアバウト化に強烈な歯止めがかかってしまったのだった。
万事休す。
ところが、事態が急転する。そのきっかけとなったのは、あの不幸な出来事だった。東日本大震災である。
想像を絶する大災害。知ってのとおり、交差点の信号機が停電でつかなくなった地域もあって、それやこれやさまざまな要因が重なり、停電で交差点の機能が失われることのないラウンドアバウトがあらためて注目される結果になったのだ。
交差点をラウンドアバウトに改修(吾妻町は2011年、東和町は2012年)して行う社会実験が、飯田市でだけでなく、各地で本格的にスタートするのはそれからである。
疑問は解けた
飯田市の調査によると、調査対象者の半数以上が、ラウンドアバウト方式にした交差点の印象を「良くなった」「少し良くなった」と回答した。第21回でそう書いた。
実は、あの調査は、ラウンドアバウトの社会実験の最初期、吾妻町の交差点(=地域住民に『ロータリー』と呼ばれる円形の交差点だった)に路面標示や簡易建造物を設置しただけの、いわば“模擬ラウンドアバウト”のときに実施したものなのだ。という事実を考えると、現在(=2014年9月の改正道交法の施行後)の状況で、つまり、地域住民がラウンドアバウトになじんだ状況で調査を実施したなら、おそらく、ラウンドアバウトに対する好印象の数字は、もっと多くなっているのではあるまいか。自分の目で現場を見て、走って、そして地域住民の言葉を聞いて、そう思うようになった。
ラウンドアバウトであろうがなかろうが、形状に関係なく、交通量にも関係なく交差点で事故が起こる可能性はあるわけで、しかし、それが頻繁に発生し、その原因が交差点の形状にあるのとしたら「問題あり」となる。で、社会実験をしてみる。日交通量が1万台の交差点(第20回参照)、東和町と吾妻町のラウンドアバウトの安全性はどうか? 円滑性は? 環境は? 等々を。
ラウンドアバウトの社会実験は、飯田市だけでなく全国の各地で2年ほどにわたって実施された。そして、2013年6月、実験の結果をふまえて道交法が改正されている。ラウンドアバウトは、これまでとは決定的に異なる通行方法をとる(=交差点侵入時、基本的に一時停止しない)交差点として位置づけられることになったのだ。施行は2014年9月1日。つまり、私が白い「ロードスター」で飯田市に向かうちょうど1年前のことである。
飯田市でなぜラウンドアバウトなのか。
なぜ“今”なのか。
最初に抱いた、このふたつの疑問。
答えを、改正道交法施行から1年後のラウンドアバウトを走って見つけた私だった。
さて、その私が次に成すべきは?
言うまでもない。
伊那名物「ソースかつ丼」を食する、である。
ソースかつ丼。
そーすカツ丼。
ソースかつ丼に意識を集中させてロードスターを走らせる私。想定外の事態に小さな衝撃を受けたのは、伊那市に向かう中央道のサービスエリアの洗面所で、だった。
鏡に映った自分の顔……。
鼻の頭が真っ赤に日焼けしているではないか。
ロードスターをオープンで走り続けたら、いつの間にやら日に焼けてしまっていたのだ。
当たり前だと言われたら返す言葉がないけれど、それでも私は、ひとこと言いたい。
事前に読んだ、たくさんの試乗記のどこにも「日に焼けるぞ」とは書いてなかったじゃないか――と。
警察庁がラウンドアバウトに関する発表を行ったのは、私がこの原稿を書き終えたのと同じ日、12月3日のことである。その内容は、改正道交法の施行から1年が過ぎたラウンドアバウトの運用状況を調査したものだというから、つまり、本連載と同じである(発表の中身も本連載と似たようなものだった)。
やっぱり、誰も同じことを考えるんだなぁ。
「施行から1年が過ぎた環状交差点の“今”を見てみたい」――と。
(文=矢貫 隆)

矢貫 隆
1951年生まれ。長距離トラック運転手、タクシードライバーなど、多数の職業を経て、ノンフィクションライターに。現在『CAR GRAPHIC』誌で「矢貫 隆のニッポンジドウシャ奇譚」を連載中。『自殺―生き残りの証言』(文春文庫)、『刑場に消ゆ』(文藝春秋)、『タクシー運転手が教える秘密の京都』(文藝春秋)など、著書多数。
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