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スマート・フォーツー エディション1(ミッドナイトブルー)(RR/6AT)

クルマはボロがいい 2015.12.17 試乗記 今尾 直樹 日本市場においては、カタログモデルでなく限定モデルとして年数回のペースで展開されることになった新型「スマート・フォーツー」。初代から持ち続けてきた“ユニークな個性”は継承されたのか? デビューを記念した限定車「エディション1」の走りをリポートする。

リッパになって帰ってきた

メルセデス・ベンツ日本のオフィスがあるビルのクルマ寄せで待つことしばし。地下駐車場の出口から現れた新型スマート・フォーツーは3世代目になってリッパになっていた。火星探査車もかくやのノッペリ感はなくなり、なんというか、革命を夢見てTシャツ、ジーパン姿で出て行ったわが子が、苦節16年、世間の荒波にもまれ、依然ファンキーな匂いを残しているとはいえ、三つぞろいのスーツを着て帰ってきた。Aピラーに明瞭なノッチがつき、全幅が100mm広がって恰幅(かっぷく)がよくなった。

でも、真横から見ると、寸づまりであることは変わらなかった。全長2755mm、ホイールベースは1875mmで、これより短い4輪の自動車というと「スズキ・ツイン」ぐらいしか筆者は思い浮かばない。定員4人の「トヨタiQ」とは、全幅は似たようなものになったけれど、後部座席がない分、数値で表せば、125mm短い。サイコロみたいである。

それでは、はっておくんなせえ。丁か半か。参ります、とドアを開けると、このドアがやたらにデカかった。しかも90度ガバチョと開く。日本の狭い駐車場では乗り降りに気をつかうかもしれない……と思わせるほどに。でもって、着座位置が高いことに驚いた。助手席のドアが遠いことにも。室内はマイクロコンパクトの狭さがない。

ポップな外観とは対照的に、ブラックで統一されたシックなインテリア。ヘッドレスト一体型のスポーティーなシートが採用される。
ポップな外観とは対照的に、ブラックで統一されたシックなインテリア。ヘッドレスト一体型のスポーティーなシートが採用される。 拡大
従来のスマートのコンセプトをほぼ引き継いだ外装デザイン。「トリディオンセーフティセル」とボディーパネルのコントラストが目を引く。
従来のスマートのコンセプトをほぼ引き継いだ外装デザイン。「トリディオンセーフティセル」とボディーパネルのコントラストが目を引く。 拡大
全幅は従来モデルより100mm広がって、1665mmに。真後ろからだと“フツウの”小型車に見える。
全幅は従来モデルより100mm広がって、1665mmに。真後ろからだと“フツウの”小型車に見える。 拡大
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回転半径の小ささに驚く

試乗車の「ミッドナイトブルー×ホワイト」のインテリアは、ブラックで統一されていて、スマートのポップカルチャー的要素は、抑えられている。今回から限定モデルとして展開されることになったフォーツーのエディション1は、この濃紺と白の2トーンのほか、「ラバオレンジ×ブラック」もある。そちらはダッシュボードとシート、ドアの内張り等をボディー色とコーディネートしている。ダッシュボードがオレンジになっていてハデだ。それぞれ限定220台、合わせて440台ポッキリである。既に残り台数のカウントは始まっているというから、こんな記事を読んでいる場合ではないです。すぐにお近くの販売店に連絡してください。価格はどちらも200万円程度である。お金はそのうちなんとかなるだろう。見ろよ、青い空、白い雲。

ミッドナイトブルーのフォーツーに乗り込んだ私はクルマ寄せでクルリとUターンした。まあ、なんと回転半径の小さいことでしょう。実際、フォーツーのステアリングはグルグルグルグル回る。浅田真央のトリプルアクセルと同じ3回転半。回すたびに前輪が切りこむ。トレッドが広がった分、前輪の舵角(だかく)を大きくできたのだ。

なにしろフロントのボンネットの下にはエンジンがない。なんにもない。ウォッシャー液のタンク等、補機類はあるけれど、第一にそこは衝突時の衝撃を和らげる空間としてある。スマートがルノーとの共同開発に踏み切りつつも、RR(リアエンジン/リアドライブ)を踏襲する高邁(こうまい)な理想主義が脈々と生きている。

ダッシュボードとドアパネルにはメッシュファブリック素材が採用される。「Loop(ループ)」と名付けられた楕円(だえん)形のインテリアモチーフが室内の各部に反復されている。
ダッシュボードとドアパネルにはメッシュファブリック素材が採用される。「Loop(ループ)」と名付けられた楕円(だえん)形のインテリアモチーフが室内の各部に反復されている。 拡大
センターコンソールの下部には、助手席側へと開く小物入れが設けられている。
センターコンソールの下部には、助手席側へと開く小物入れが設けられている。 拡大
短いオーバーハングと、全幅の拡大によってより大きく切れるようになったステアリングによって、3.3mという最小回転半径を実現。驚くほどに小回りがきく。
短いオーバーハングと、全幅の拡大によってより大きく切れるようになったステアリングによって、3.3mという最小回転半径を実現。驚くほどに小回りがきく。 拡大

もうメチャクチャ遅い

Uターンしてから地上に出るために坂を登る。遅い。もうメチャクチャ遅い。びっくりするぐらい遅い。ギアチェンジも遅い。ルノーが開発したデュアルクラッチ式の6段オートマチックを備えるわけだけれど、シングルクラッチのままでしょ、といいたくなるぐらい遅い。

エンジンは同じ1リッターの直列3気筒DOHCでも、先代の三菱製からルノー(との共同開発)製に一新された。自然吸気で、最高出力71ps/6000rpm、最大トルク9.3kgm/2850rpmと、軽自動車並みだ。車重は940kgある。軽より100kg以上重い。安全思想の具現のためには必要な重さだった、ということはさておき、ここで申し上げたいのは遅い、ということである。

おまけに乗り心地が悪かった。タイヤサイズが上がったのか? 先代同様前後ともに15インチではあるけれど、先代よりトレッド面が前後ともに広がっている。荒れた路面だとショックがでかい。いかにもバネ下が重い感じ。ショートホイールベースの悪癖を抑えるためもあって、基本的に足まわりは硬い。

電動のパワーアシスト付きのステアリングは低速で走っているとフィールがない。フロントの荷重がないからだろう……。

ドライブモードにはEとSがあって、Sにすれば、まだしも普通に走る。Sだと「ツイナミック」と名付けられたDCTの変速プログラムが速くなり、痛痒(つうよう)を感じなくなる。神谷町を抜け、霞ヶ関から首都高速に入る。60㎞/h巡航は存外静かである。路面が平滑であれば、乗り心地も悪くない。リアにある3気筒は静かで、中速トルクは十分に思えてくる。

本革巻きのマルチファンクション・ステアリングホイールを装着。チルト機能は備わるが、テレスコピック機能は用意されない。
本革巻きのマルチファンクション・ステアリングホイールを装着。チルト機能は備わるが、テレスコピック機能は用意されない。 拡大
「ツイナミック」と名付けられたデュアルクラッチ式の6段ATを搭載。ボタンひとつで「ECO」モードと「SPORTS」モードを切り替えることができる。
「ツイナミック」と名付けられたデュアルクラッチ式の6段ATを搭載。ボタンひとつで「ECO」モードと「SPORTS」モードを切り替えることができる。 拡大
荷室のフロアボードの下には、新開発の1リッター直3自然吸気エンジンがおさまる。0-100km/h加速タイムは15.1秒(欧州仕様のデータ)
荷室のフロアボードの下には、新開発の1リッター直3自然吸気エンジンがおさまる。0-100km/h加速タイムは15.1秒(欧州仕様のデータ) 拡大
サスペンション形式は従来型と同様に、前がマクファーソン式で、後ろはド・ディオン式。
サスペンション形式は従来型と同様に、前がマクファーソン式で、後ろはド・ディオン式。 拡大

自由な感じがステキだ

高速道路に入る。直進安定性に不満はない。トレッドが広がったこともあるし、急な横風にブレーキ制御で対応する「クロスウインドアシスト」というデバイスを標準装備している。これが作動したかどうは定かではないけれど、ともかくただ前をのみ見て走っていると、後ろに座席があるがごとく、つまりホイールベースの短さが気にならない。

硬い足まわりは最近のメルセデス、たとえば現行「Aクラス」の初期型にも共通している。硬いことがスポーティヴネスの表現なのだ。

今回、中央道経由で河口湖近辺まで往復したわけだけれど、浮かんだのは故徳大寺有恒さんのお言葉だった。

「クルマはボロがいい」

乗り心地はよくないし、ギアチェンジは遅い。アウトバーンでテストした人によると、100km/hからの加速は昼寝ができるほどのんびりしているという。絶対的動力性能そのものも遅い。荷物は日常の食品ぐらいしか載らない。
そういう意味で、ボロである。2座だから、街乗り用とはいえ、不便でもある。

だからこそ、フツウの生活から自由な感じがして、フォーツーに乗っている人はステキだ。ツイナミックをマニュアルでシフトしやれば、そこそこ速い。ギアダウン時には中ブカシを入れてくれる。ハンドリングは飛ばすとフィールもあって、楽しい。3気筒エンジンはアイドリング時にステアリングホイールをぶるぶる振動させるけれど、高回転時にはちょっと甲高いいい音を出す。都市内交通用といっても、ドイツ流、日本の基準ではトンデモナイ飛ばし屋向きのセッティングなのである。

1998年、都市の交通環境に革命を起こす、という大義を掲げて登場したスマート・フォーツーは、当初もくろんだような成功を得たとはいえないにせよ、累計150万台以上が販売され、パリやローマといった都市ですっかり定着した。

自動車は放っておくと、どんどんでかくなる。3代目にしてなお、太ったブタになることを拒否したフォーツーは、ボロかもしれないけれど心の錦である。「いっぽんどっこの唄」である。かくありたいものである。

(文=今尾直樹/写真=峰 昌宏)

スピードメーターの表示は180km/hまで。中央部には燃費などの情報を表示するカラーマルチファンクションディスプレイが備わっている。
スピードメーターの表示は180km/hまで。中央部には燃費などの情報を表示するカラーマルチファンクションディスプレイが備わっている。 拡大
直線か緩やかなカーブを走行中、突然の横風を受けて車両が不安定になった際にブレーキ制御で対応する「クロスウインドアシスト」が標準で備わる。(80km/h以上で作動)
直線か緩やかなカーブを走行中、突然の横風を受けて車両が不安定になった際にブレーキ制御で対応する「クロスウインドアシスト」が標準で備わる。(80km/h以上で作動) 拡大
ラゲッジルームの容量は260~350リッター(VDA方式)。助手席を前倒しすることで、長尺物の積載にも対応する。(クリックすると荷室のバリエーションが見られます)
ラゲッジルームの容量は260~350リッター(VDA方式)。助手席を前倒しすることで、長尺物の積載にも対応する。(クリックすると荷室のバリエーションが見られます) 拡大
アクティブセーフティーでは、レーダーセンサーを用いて先行車との車間距離をモニターし、衝突のおそれが生じた際にドライバーに警告する「衝突警告音機能」を備えている。
アクティブセーフティーでは、レーダーセンサーを用いて先行車との車間距離をモニターし、衝突のおそれが生じた際にドライバーに警告する「衝突警告音機能」を備えている。 拡大

テスト車のデータ

スマート・フォーツー エディション1(ミッドナイトブルー)

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2755×1665×1545mm
ホイールベース:1875mm
車重:940kg
駆動方式:RR
エンジン:1リッター直3 DOHC 12バルブ
トラスミッション:6AT
最高出力:71ps(52kW)/6000rpm
最大トルク:9.3kgm(91Nm)/2850rpm
タイヤ:(前)165/65R15 81T/(後)185/60R15 84T(ミシュラン・エナジーセーバー)
燃費:21.9km/リッター(JC08モード)
価格:204万円/テスト車=216万4900円
オプション装備:なし ※以下、アクセサリー装着:スマートベーシックキット(ETC車載器+フロアマット+スマートカラビナ(2万5000円)/ポータブルナビ(9万9900円)

テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:1450km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:397.4km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:14.4km/リッター(車載燃費計計測値)
 

スマート・フォーツー エディション1
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今尾 直樹

今尾 直樹

1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。

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