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ジャガーFタイプ S クーペ(FR/6MT)

来たれ! MT至上主義者 2016.01.07 試乗記 河村 康彦 ジャガーの2シータースポーツカー「Fタイプ」に、6段マニュアルトランスミッション搭載車が追加された。変速機の違いは、その走りをどのように変えるのだろうか?

期待高まる新グレード

「50年ぶりのピュアスポーツ」――そんなフレーズとともに、クーペに先がけてコンバーチブルボディーのFタイプがパリでグローバルデビューを果たしたのは、2012年の秋が目前となるタイミングだった。

それから指折り数えて半年ほど、待望の国際試乗会が開催されたのが翌2013年の5月。その時の感動は、いまでも忘れない。
マーケティング上では、ズバリ、「『911カブリオレ』と『ボクスター』のはざま」を狙ったことが明らかなこのモデル。なるほどそれは、そうしたポルシェの名作とも十分互角に戦えるだけの、走りのポテンシャルを味わわせてくれるスポーツカーだった。

ジャガー得意のオールアルミ製骨格は、時には、オープンモデルならではの“振動の残留感”は伝えたものの、ポルシェのオープンにも負けない高い剛性感をイメージさせた。6気筒のみのポルシェ製スポーツカーに対して、トップグレードに8気筒エンジン車を用意している点も、間違いなくジャガーの強みであった。
さらに、2013年末には、待望のクーペモデルも追加設定。コンバーチブルではあまりにも小さかったラゲッジスペースの容量が倍増すると同時に、「これぞジャガー」と快哉(かいさい)を叫びたくなるような、流麗なプロポーションを手に入れた。個人的にも、「このクーペこそ真打ち!」と強く思ったことを記憶している。

スポーツカーというものは、手を加え続けないとたちまち魅力が弱まってしまう、厄介な商品である。このブランドは、そうしたポイントも重々わかっているらしい。
今回テストしたFタイプ。それは、デビュー当初は設定されていなかった3ペダル式MTの持ち主なのだ。

ジャガーの2シータースポーツカー「Fタイプ クーペ」。今回は、その6段MT仕様をテストした。
ジャガーの2シータースポーツカー「Fタイプ クーペ」。今回は、その6段MT仕様をテストした。 拡大
スーパーチャージャーで過給される、「ジャガーFタイプ S クーペ」(MT車)の3リッターV6エンジン。ボンネットは“前ヒンジの後ろ開き”になっている。写真は右上が車体前方で、左下がキャビン側。
スーパーチャージャーで過給される、「ジャガーFタイプ S クーペ」(MT車)の3リッターV6エンジン。ボンネットは“前ヒンジの後ろ開き”になっている。写真は右上が車体前方で、左下がキャビン側。 拡大
テスト車の「スウェードクロス・パフォーマンスシート」。セットオプション「スウェードクロスインテリアパック」(46万3000円)に含まれる。
テスト車の「スウェードクロス・パフォーマンスシート」。セットオプション「スウェードクロスインテリアパック」(46万3000円)に含まれる。 拡大
「ジャガーFタイプ S クーペ」には、写真の「アンモナイト」を含む14色のボディーカラーが用意される。
「ジャガーFタイプ S クーペ」には、写真の「アンモナイト」を含む14色のボディーカラーが用意される。 拡大
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選べるだけでもありがたい!?

従来の8段AT仕様に加えて新たに導入された6段のMT仕様は、本国イギリスでは、クーペとコンバーチブル、両ボディーの6気筒エンジン搭載モデル全車に設定されている。

しかし、そもそも“AT王国”であり、新たに運転免許を取得する人の過半数が、2ペダル車のみしか運転できない限定免許を選択する日本市場に関しては、6段MT車はクーペの、それもより高い出力を発する心臓を持つ「S」グレードに限られた。
もっとも、日本市場の現状、あるいはそこに投入されるライバル輸入車の動向を見るにつけ、MTモデルが限定車ではなく通常のカタログモデル、つまり、希望するならいつでも手に入れられる状態とされたことは“英断”とたたえられるべきかもしれない。

冷静に考えれば、今の時代に、こうしたカテゴリーのモデルにあえてMTで乗りたいと思う人は、相当にストイック、かつ“プリミティブなピュアスポーツカー”好きであるはず。
となれば、それはコンバーチブルではなくクーペで、しかもよりハイチューンな心臓を搭載するモデルにこそ組み合わせるのが合理的だという判断には、納得がいく。インポーターが、さまざまな制約の中でこの仕様に絞ったのも、的を射ているわけだ。

かくして「端的に言えば、トランスミッションがMT化されただけ」であるFタイプ S クーペに乗り込んで、エンジンに火を入れる。
ところが、ふだんMT車に乗るようにクラッチペダルを踏み込みながら、ギアがニュートラル位置にあるのを確かめるべく左手でシフトレバーを探った時点で、「あれっ!?」と思ってしまった。

6段MT車は、日本では380psのV6エンジンを搭載する「Fタイプ S クーペ」に限ってラインナップされている。
6段MT車は、日本では380psのV6エンジンを搭載する「Fタイプ S クーペ」に限ってラインナップされている。 拡大
コックピットの様子。日本市場向けの「Fタイプ」は、全て右ハンドルとなる。
コックピットの様子。日本市場向けの「Fタイプ」は、全て右ハンドルとなる。 拡大
室内における荷物の収納スペースは、運転席と助手席との間にある小物入れ(写真中央)やカップホルダーなど、ごくわずか。
室内における荷物の収納スペースは、運転席と助手席との間にある小物入れ(写真中央)やカップホルダーなど、ごくわずか。 拡大
リアには、容量407リッターのラゲッジスペースが確保される。
リアには、容量407リッターのラゲッジスペースが確保される。 拡大

「レバーの位置」が問題

MTが組み合わされたFタイプに乗るのは初めてとはいえ、そのドライビングポジション自体に問題はない。
ペダル類はドライバーの正面に配置されており、気になるオフセットはなし。トーボード部分の左端、すなわちトランスミッション側はフロアがフットレスト状に成形され、実際にそれを有効に用いることが可能だ。こうして確かめるまでは、ペダルが1本増えることによる窮屈さを心配していたが、この点は難なくクリアしている。

問題は、肝心のシフトレバーの位置である。
MT化されたといっても、コンソール部分の造形は基本的にAT仕様と同様。ところが、AT仕様では「手元に近くて操作しやすい」と好意的に思えたレバーの位置は、MTになると「どうも手前過ぎて操作しづらい」と、そんな印象に変わってしまう。

先に紹介したFタイプ初の国際試乗会の折、自分自身の好みも踏まえて将来的なMT設定の可能性を問うた当方に対し、担当エンジニア氏は「顧客の希望によっては、今後も設定しないと全否定するわけではない」というコメントを寄せてくれた。
MT仕様追加までの時間を思えば、実際にその時点からMTの開発をスタートさせたと考えてもおかしくない。いずれにしても、インテリアの基本デザインが、ATをベースとして進められてきたことは間違いないはずだ。
このMT仕様のシフトレバーのレイアウトには、もともとAT用だったものを、操作量も、そして操作の頻度もはるかに多いMT用にただ置き換えたという“無理やり感”が漂うのだ。「わざわざMTを選ぶ」というこだわりの人に対して、そんな不自然さを少しばかり強いてしまうのを、残念に思う。

「ジャガーFタイプ」のセンターコンソールは左右非対称型で、助手席側にはグラブバーが設けられている。
「ジャガーFタイプ」のセンターコンソールは左右非対称型で、助手席側にはグラブバーが設けられている。 拡大
6段MTのシフトレバー。その手前には、走行モードの選択スイッチや、電気式パーキングブレーキのスイッチがレイアウトされる。
6段MTのシフトレバー。その手前には、走行モードの選択スイッチや、電気式パーキングブレーキのスイッチがレイアウトされる。 拡大
センターコンソールには、8インチのタッチスクリーンが備わる。各種インフォテインメントシステムの調整だけでなく、走りに関わる車両のセッティングも画面上で行う。
センターコンソールには、8インチのタッチスクリーンが備わる。各種インフォテインメントシステムの調整だけでなく、走りに関わる車両のセッティングも画面上で行う。 拡大
「Fタイプ S クーペ」の6段MT仕様車が0-100km/h加速に要する時間は5.5秒。同モデルの8段AT仕様車は、これを0.6秒しのぐ4.9秒。最高速度は、ともに275km/hで変わらない。
「Fタイプ S クーペ」の6段MT仕様車が0-100km/h加速に要する時間は5.5秒。同モデルの8段AT仕様車は、これを0.6秒しのぐ4.9秒。最高速度は、ともに275km/hで変わらない。 拡大

やんちゃなムードは控えめに

それでも、「すべての変速操作を自身の意思の下に行えるMTは、スポーツカーに必須のアイテム」と考えるコアなファンにとって、これが“最も価値あるFタイプ”になることは間違いない。「たとえATより高価でも、自分はやはりMT派」というような人には、AT車に対してちょうど50万円安という価格設定も、願ってもないプレゼントになるはずだ。

8段で構成されるATに比べれば、MTの各ギア間のステップ比がワイドになるのは、やむを得ない。特に2速と3速との間は離れ気味だ。それでも、回転レンジを問わずアクセルオンに即応して太いトルクを発するエンジンのキャラクターもあって、例えば緩加速で十分に用が足りる街乗りシーンでは、1速→2速→4速→6速といった“飛ばしのシフト”も問題なく許容してくれる。

レバーのレイアウトに課題を残したものの、シフトフィールそのものは、特に秀逸とは言えないまでも決して悪くはない。結構硬めなフットワークに、ガンガン曲がるハンドリングの感覚も、すべてが自身の手中にあるというテイストを好むようなMT好きならば、心の琴線に触れるところがきっとあるはずだ。

一方、トランスミッションがMTになったこととの関連とは考えにくいが、今回乗ったモデルの排気音が、これまでに経験したSグレードと異なっていたのは、あらたな発見だった。最初にエンジンに火が入った際の“ひと吠え”は、相変わらず派手なものの、かつては演出過剰とも思えたスロットルオフ時の破裂音はほとんど影を潜めて、随分とおとなしくなった印象を受けたのだ。
自分自身、エールを送っておきながら、このMTバージョンの仕上がりについては正直、「ちょっと肩透かし……」という印象は否めない。しかし、4WD仕様まで設定されるなど、ジャガーFタイプの勇猛果敢な進化へのチャレンジは、あらためて応援したくなる。

(文=河村康彦/写真=田村 弥)

テスト車には、コーナリング中のアンダーステアを抑制するオプション機能「トルクベクタリング・バイブレーキ」が搭載されていた。
テスト車には、コーナリング中のアンダーステアを抑制するオプション機能「トルクベクタリング・バイブレーキ」が搭載されていた。 拡大
メーターはアナログ式の2眼タイプ。その間に、マルチインフォメーションディスプレイがおさまる。
メーターはアナログ式の2眼タイプ。その間に、マルチインフォメーションディスプレイがおさまる。 拡大
最大120kgのダウンフォースを生み出す、リアスポイラー。速度に応じて自動的に立ち上がる。電動スイッチによる任意の操作も可能。
最大120kgのダウンフォースを生み出す、リアスポイラー。速度に応じて自動的に立ち上がる。電動スイッチによる任意の操作も可能。 拡大

シフトレバー右側には、排気バルブを開閉してエキゾーストノートを変化させるスイッチのほか、アイドリングストップ機能のオンオフスイッチ、リアスポイラーの調節スイッチなどが並ぶ。


	シフトレバー右側には、排気バルブを開閉してエキゾーストノートを変化させるスイッチのほか、アイドリングストップ機能のオンオフスイッチ、リアスポイラーの調節スイッチなどが並ぶ。
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テスト車のデータ

ジャガーFタイプ S クーペ

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4470×1925×1315mm
ホイールベース:2620mm
車重:1720kg
駆動方式:FR
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ スーパーチャージャー付き
トランスミッション:6段MT
最高出力:380ps(280kW)/6500rpm
最大トルク:46.9kgm(460Nm)/3500rpm
タイヤ:(前)245/40ZR19 94Y/(後)275/35ZR19 96Y(ピレリPゼロ)
燃費:9.6km/リッター(JC08モード)
価格:1078万円/テスト車=1301万7000円
オプション装備:アダプティブフロントライティング(9万1000円)/アクティブスポーツエグゾーストシステムスイッチ機能(1万円)/カーボンファイバールーフ(30万9000円)/リアパーキングコントロール+リアカメラパーキングコントロール(10万2000円)/ジャガースマートキーシステム(7万7000円)/オートエアコン<左右独立調節式、空気清浄機能付き>(8万7000円)/プレミアムカーペットマット(1万5000円)/ムードランプ(5万7000円)/トレッドプレート<イルミネーション付き>(4万6000円)/ヴァレイモード(1万1000円)/トルクベクタリング・バイブレーキ(25万7000円)/コンフィギュラブル ダイナミック Dynamic-iディスプレイ付き(15万4000円)/デジタルTVチューナー(12万1000円)/エクステリアスポーツデザインパック(33万5000円)/スウェードクロスインテリアパック(46万3000円)/19インチ Orbitシルバーフィニッシュ(10万2000円)

テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:1136km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1) 
テスト距離:344.0km
使用燃料:47.9リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.2km/リッター(満タン法)/8.7km/リッター(車載燃費計計測値)

ジャガーFタイプ S クーペ
ジャガーFタイプ S クーペ 拡大
「Orbit」と名付けられた、テスト車の19インチアロイホイール。「Fタイプ S クーペ」では、5種類の19インチホイールと9種類の20インチホイールが選べる。
「Orbit」と名付けられた、テスト車の19インチアロイホイール。「Fタイプ S クーペ」では、5種類の19インチホイールと9種類の20インチホイールが選べる。 拡大
荷室の床下には、写真のような予備スペースも用意される。
荷室の床下には、写真のような予備スペースも用意される。 拡大
「カーボンファイバールーフ」は、30万9000円のオプション。「Fタイプ クーペ」全モデルで選択可能。
「カーボンファイバールーフ」は、30万9000円のオプション。「Fタイプ クーペ」全モデルで選択可能。 拡大
(※写真をクリックすると、「ジャガーFタイプ S クーペ」の他のイメージが見られます)
(※写真をクリックすると、「ジャガーFタイプ S クーペ」の他のイメージが見られます) 拡大
河村 康彦

河村 康彦

フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。

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