ジャガーFタイプR75 P575クーペ(4WD/8AT)
不滅のジャガーネス 2023.11.14 試乗記 2012年にジャガーのスポーツカー復活を高らかに宣言した「Fタイプ」の生産が間もなく終了を迎える。くしくも目の前にあるのはジャガー史上最強の575PSを生み出す5リッターV8モデル。これを味わい尽くして別れのあいさつとしたい。幻のV型12気筒DOHCユニット
2025年以降、販売される新車の100%BEV化を目標としているジャガー。そのタイミングが近づきつつある2023年9月、日本市場での一部モデルの受注終了が発表された。Eセグメントの「XF」および「XFスポーツブレーク」とDセグメントの「XE」については12月19日、そしてスポーツクーペ&ロードスターのFタイプについては11月21日というのがその時程だ。
SUV陣はまだ後の発表になると思われるが、クルマ好きのオッさん的にはやはり、内燃機を積んだサルーンと2ドアモデルがジャガーからいなくなってしまうという現実に、いや応なく世の中が変わりつつあることを実感する。
第2次大戦後、SSカーズからジャガーカーズとして本格的にブランドの構築に臨んだジャガーにとって、最も重要なマーケティングファクターは一線級のパフォーマンスを持つスポーツカーのラインナップだった。それを支えるための内燃機を、ジャガーは折につけて開発してきたわけだ。
最も有名なのは「XK120」や「Cタイプ」~「Eタイプ」に搭載された直列6気筒DOHCユニットだろう。1950年代当時としては最先端の設計だったこのXK型は、ルマンの3連覇でスポーツカーとしてのジャガーの名を知らしめる文字どおりの原動力となった。このユニットは後にジャガー最大のヒット作となるEタイプのみならず、ミドルサイズセダンの「マーク2」にも搭載されたことで、ジャガーにはスポーツサルーンのイメージも加わることとなった。
1960年代にはフォードやフェラーリに席巻されたルマンでの勝利を再び狙うために、V型12気筒DOHCユニットが開発された。が、当時の経営難や合従連衡などの余波を受けて参戦計画そのものが頓挫。その12気筒ユニットを搭載する「XJ13」は1台がつくられたのみでロードゴーイングモデルとしての発売はお蔵入りとなる。しかしその設計をベースとしてSOHC化された8S型は「Eタイプ シリーズ3」や「XJ-S」などのクーペのみならず、サルーンの「XJ」や当時傘下にあったデイムラーブランドの「ダブルシックス」にも搭載されるなど、世界で最も多く12気筒ユニットを販売するメーカーとしてもその名が知られることとなった。
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ジャガー史上最高の575PS
このV型12気筒と直列6気筒の双方のパフォーマンスをカバーすべく、1990年代に開発されたのが、AJ-V8と呼ばれるV型8気筒DOHCユニットだ。このエンジンの開発にあたってはトヨタが初代「レクサスLS」のためにつくった1UZ-FE型を徹底的に解析、参考にしたといわれている。AJ-V8はその後、第3世代へと進化。今回のFタイプにも積まれるAJ133型5リッタースーパーチャージドユニットはXJやXF、さらに「Fペース」などにも搭載されてきた。575PSのアウトプットは、「XE SVプロジェクト8」のような特殊な銘柄を除けばジャガー史上最強だ。つまり、これをパワーで上回るジャガー製内燃機はもう現れないということになるとともに、ジャガー製内燃機を搭載する2ドアモデルもFタイプが最後となる。
もちろん仕事を通じてだが、思い起こせばスポーツカーとしてのジャガーを体験する機会には恵まれた。日本ではXK120にEタイプは3.8リッターSr.1から12気筒のSr.3、そしてオーナーのご厚意で希少な「XKSS」も試乗することができたし、このFタイプの海外試乗会に赴いた際には、アトラクションでジャガーのヘリテージ部門が管理する「Dタイプ」に乗る機会もいただいた。
なんとかの大足にはペダルが干渉するほど狭いフットウェルに苦闘しながら回していくそれは、見た目の印象とは裏腹に意外なほどに骨太なフィーリングだったことを思い出す。往時は最も高性能な直6だったXKユニットが飛ばし変速もできるほどのトルク型という特性はいかにもイギリス車らしいところだが、これがチューニングいかんでは別物のようにたけだけしく吹け上がる。好事家が歓喜した理由にL型のそれが重なって見えるのは日本のクルマ好きだからだろうか。
その野趣とは裏腹に、動きのしなやかさにほれぼれさせられるのが足まわりのしつけだ。ピッチやロールを拒むわけではないけれど、じんわりと減衰力を立ち上げて路面とのコンタクト感をしっとりと伝えながら、大きなバウンドはピタッと収める。社名と重ねてネコ足と称され続けてきたジャガーの振る舞いは、レーシングカーのDタイプでさえそう感じさせる。
往時のジャガーは先進技術の採用にとても積極的なメーカーだった。XK型のDOHCはひとつの象徴だが、Eタイプでは4輪ディスクブレーキの採用のみならず、後軸側にはデフにディスクを近づけたインボード式を用いている。バネ下重量の軽減による路面追従性の向上を狙ったこのメカニズムは、40年以上にわたってジャガーの各モデルに用いられ、ネコ足の評価の源となってきた。
全幅の信頼を置ける身のこなし
ジャガーがことのほかしなやかなフットワークにこだわった理由は、イギリスの路面環境を見れば一目瞭然だ。丘陵地で上下にバウンドしながら当たり前に曲がりくねる郊外路を70~100km/hの制限速度で走るにしても、しっかりと接地するよく動くアシが必然的に求められることになる。以前はそういう地域的事情がクルマに色濃く反映されていたものだが、グローバリゼーションの波を受けた21世紀以降は、いつしか動的な国際標準が欧州車となり、BMWよりハンドリング志向のキャデラックみたいな話も表れるほどキャラクターの平準化が進んでしまった。
ちょうど10年前、自分が初めてFタイプに触れた時のインプレッションがwebCGに収められているが、読み返してみても多く触れていたのは足まわりのネタだ。そのくらい、Fタイプのフットワークの柔軟性はスポーツカーカテゴリーにおいて突出していた。が、今回、10年後のFタイプに乗ってみると、さすがに古くなったかと思うところはある。
それは主に低中速域での振る舞いだ。575PSを与えられた当初は、この大パワーをFR(ベースのシャシー)で御するというのになんと丸い乗り味だろうと感動したものだが、ライバルたちが客筋に合わせて日常性を重視してきたこともあって、平時の乗り心地についてはキャッチアップされた感がある。
でも、ワインディングロードを走ってみると、その身のこなしはやはりジャガーのそれだった。なじみの道だったことを差し引いても、久しぶりの575PSに身構えるどころか、全幅の信頼を置いてアクセルを踏んでいける。とりもなおさず、操作に対する動きの優しさが、クルマが自分の手下にあるという安心感をもたらしてくれるからだ。
ハンドリングにカミソリ的な切れ味があるわけでもなければ、地面にかみつくような制動力があるわけでもない。でも、全部の調子がきれいに整っていてとにかく肌なじみがいい。四肢をじわーっと踏ん張らせての旋回中にギャップを踏んだ際の上屋のバウンドや姿勢の収まりには、メルセデスにも比する包容力が感じられる。ヒタヒタ走るという往年のモデルへの形容はさすがに似つかわしくないが、路面への吸い付きっぷりはやはりただ者ではない。
BEV専業になってもきっと大丈夫
30年近くにわたってジャガーのフラッグシップユニットとして君臨してきたAJ133型は、いかにもアメリカ市場に好まれそうだった当初の粗野な印象からは別物のように滑らかで軽やかなフィーリングを得るに至った。もはやスーパーチャージャーの存在は音だけでなくフリクションの面でもうかがえない。かといってスカスカに軽々しいわけではなく、ごく低回転からの肉厚でフラットなトルクと高回転域のパワーの伸び感はしっかりシンクロしている。速さ自体もゲップが出るほどだが、それはさておき音と振動の両面で内燃機ならではの高揚感をしっかり感じさせてくれるところがうれしい。むせび泣くような高音ではなく、耳に優しい中高音辺りがピークにくる、その高ぶらせ方がまたジャガーらしく感じられる。
歴史においてもカテゴリーにおいてもスポーツカーの層が分厚いイギリスで、思えばジャガーはそのど真ん中にいたのかもしれない。先進技術を貪欲に実装しながら、航空力学を基にしたデザインをまとうという、全盛期のひたすら前のめりなクルマづくりがよみがえれば、パワートレインがモーターになってもエポックメイキングなスポーツカーを提案してくれるのではないだろうか。
……と、そういう期待も抱く一方で、燃やしてナンボのオッさんワールドから油くさいジャガーがいよいよご勇退なさるという事態にはやはり悲しみを覚えてしまう。EタイプがSr.2なら300万円台、12気筒ならさらに安くホイッと買えた30代のころ、気の迷いでいっちょ乗るかと思ったこともある。が、どう背伸びしても似合わないことに気後れして、自らジャガーは50代からと言い聞かせながら、気づけば「RX-7」と心中状態で今に至ってしまった。
それは拙の失敗談だが、いつかはジャガーを自らの車歴に加えたいと思い描いていた方も、なかにはいらっしゃるのではないだろうか。かようにジャガーとは、いつの世もクルマ好きの心を惑わす罪なヤツなのである。願わくは、この先もそうあってほしい。
(文=渡辺敏史/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
ジャガーFタイプR75 P575クーペ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4470×1925×1315mm
ホイールベース:2620mm
車重:1670kg
駆動方式:4WD
エンジン:5リッターV8 DOHC 32バルブ スーパーチャージャー
トランスミッション:8段AT
最高出力:575PS(423kW)/6500rpm
最大トルク:700N・m(71.4kgf・m)/3500rpm
タイヤ:(前)265/35ZR20 99Y/(後)305/30ZR20 99Y(ピレリPゼロ)
燃費:8.4km/リッター(WLTCモード)
価格:1790万円/テスト車=1932万8000円
オプション装備:ライトオイスターウインザーレザーパフォーマンスシート<エボニー×ライトオイスターインテリア>(0円)/ブレーキキャリパー<ブラック>(5万円)/2ゾーンクライメートコントロール(9万5000円)/20インチ“スタイル5061”ホイール<サテングレーフィニッシュ>(43万3000円)/ステアリングホイール<ヒーター付き>(4万1000円)/フルエクステンデッドレザーアップグレード(13万3000円)/固定式パノラミックルーフ(14万6000円)/プライバシーガラス(7万3000円)/カーペットマット<ヌバックエッジ>(9000円)/パークアシスト(10万7000円)/地上波デジタルテレビ(13万1000円)/12way電動シート<ヒーター&クーラー、メモリー機能付き>(21万円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:1896km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:344.6km
使用燃料:50.1リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.9km/リッター(満タン法)/7.8km/リッター(車載燃費計計測値)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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