メルセデスAMG GLE63 S 4MATIC(4WD/7AT)/メルセデス・ベンツA180スポーツ(FF/7AT)
イケてるクルマであるために 2016.01.18 試乗記 メルセデスAMGが手がけたハイパフォーマンスSUV「GLE63 S」と、大幅改良を受けたCセグメントハッチバックモデル「Aクラス」。2台の試乗を通して、今日のメルセデスの強さの秘密を探った。メルセデス販売好調の理由
メルセデス・ベンツ&スマートの2015年1~11月の国内販売はたいへん好調で、2014年のそれまでの最高記録6万839台に比べても10%のプラスだった。
その要因として、
①2014年に全面改良を受けた「Cクラス」のモデルが充実し、フルイヤーでけん引した。
②「CLAシューティングブレーク」などAクラス系の派生戦略モデルが新たに加わった。
③「Eクラス」「Sクラス」が好調だった。
④ディーゼル、ハイブリッド、プラグインハイブリッドをそろえるなどの「エンジン革命」が受け入れられた。
とメルセデス・ベンツ日本では分析している。
12月上旬に大磯で開かれたフルラインナップ試乗会は2015年の集大成だった。新型車攻勢は一年を通して途切れることなく続き、秋に上陸したGLEの高性能モデルと、マイナーチェンジしたAクラスのステアリングを握る機会を得た。
メルセデス・ベンツは今後、ますます広がるSUV系を見直し、「Mクラス」と呼んでいたモデルのマイナーチェンジを機に、その名称をGLEに改名した。Eクラスと同等の安全性と快適装備を備える高級SUV、というクルマのキャラクターをよりわかりやすく設定し直したのだ。
アメリカ風からヨーロッパ風に
昨年秋に上陸したGLEの日本仕様は、3リッターV6ディーゼルターボの「350d」と5.5リッターV8ガソリンツインターボの「63 S」、2種類のパワートレインから構成される。ともに4MATICと呼ばれる四輪駆動システムを持つわけだけれど、63 SはメルセデスAMGが手がける超高性能のスペシャル仕様であり、フツウのメルセデスとは一線を画す。
2011年に登場した3代目Mクラスのフロントマスクを現行Eクラス風に仕立て直したおかげで、雰囲気はガラリと変わった。気品と威厳を得た。Mクラスはアメリカ中西部産の、鷹揚(おうよう)というか茫洋(ぼうよう)というか、アラバマな感じがあったけれど、GLEは立派なヨーロッパの貴婦人に生まれ変わった。
63 SはAMGだからして、怪物的アスリートならではの迫力がある。グリルのスリーポインテッドスターから生えた横バーが2本から1本になり、開口部の面積が増えた。熱量の増加に合わせて冷却用エアをより多く取り込む必要がある。SUVなのに最低地上高が20mm低められ、タイヤは295/35R21というスーパーカーサイズに拡大された。巨大なつや消しブラックのホイールからは真っ赤なブレーキキャリパーがチラリとのぞく。
ナッパレザーで覆われた内装はつくりも丁寧で、気分は極上だ。868万円のフツウのGLE350dのほぼ2台分のお値段であることを、静止していても納得させる。
ひとりのマイスターが1基のエンジンを組みあげるAMG謹製5.5リッターV8直噴ツインターボは、最高出力585ps/5500rpm、最大トルク77.5kgm/1750-5250rpmを生み出す。このV8は目覚めた瞬間から、迫力の排気サウンドを発し始める。爆発音の連続は、生命力に満ちた息吹のようだ。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
理性を残したスーパーSUV
走り始めは、チューニングカーっぽい。ステアリングが重くてフィールがなく、巨大なタイヤがドタドタしている。タイヤ、でかすぎ。
ところが、そういうある種の違和感は速度を増すにつれて雲散霧消する。具体的にはAMG専用セッティングのエアサスペンションの働きが大きいのだろう。
アクセルを床まで踏みつけると、車重2390kgの巨躯(きょく)がグワッと飛び立たんばかりに加速する。いったんスピードに乗ってしまうと、乗り心地はきんと雲のごとく快適になる。もちろん、きんと雲に乗ったことはありませんが、GLE63 Sはようするに異形の鬼の乗り物なのだ。モーレツに速い! 快適に速い! 速いことの面白さ、魔力、快楽を、SUVながらにして持っている。
とはいえ、である。GLE63 Sって、どういう人が買うのだろう……。車両価格1740万円出せるお金持ちがGLE63 Sで我慢する理由とは? 「Gクラス」の「AMG G63」が1900万円で買えるのに……。快適性も速さでもG63はGLE63 Sに負けるけれど、どちらが魅力的かといえば、クラシックなたたずまいを現代に伝えるG63ではあるまいか。
という疑問をメルセデス日本の広報のS氏にぶつけたところ、S氏はすかさずこう答えた。
「あ、SUVのAMGで右ハンドルはこれだけです」
ナルホド。GLE63 Sは、理性を残した魔王のためのSUVなのだ。レーダーセーフティーパッケージをはじめとする各種最新安全デバイスを満載する。これらを魅力に感じる人にとっては大きな魅力になるだろう。
マイルドになったAクラス
マイナーチェンジを受けたAクラスは、「A180スポーツ」に試乗した。マイチェンの主眼は、フロントのバンパーとリアのコンビネーションランプのデザインが変更になったことである。しかしながら、これらの変更はオーナーの人以外は見分けがつかないのではあるまいか。正直、筆者はわからん……。
しかるに運転してみると、記憶の中の「A180」よりグッと印象がよかった。タイヤがランフラットからフツウのラジアルに変更されたこともあって、乗り心地がマイルドになった。いや、依然硬いことは硬い。とりわけA180スポーツはフツウのA180に比べて車高が10mm落とされ、2サイズアップの18インチホイール&タイヤを履く。いかにもスポーツカーっぽい、硬めのセッティングである。
1.6リッター直噴の4気筒ターボエンジンの数値そのものは変わっていない。最高出力122ps/5000rpm、最大トルク20.4kgm/1250-4000rpmである。ところが、記憶の中の初期型の極端な出力特性とは味付けが異なるように感じられた。マイチェン前は、ふだんは燃費第一で、パワーもトルクも小出しにチョロっとしか供給しなかった。アクセルペダルをガバッと踏みつけると、突如蛇口が全開になってジャージャー水があふれ出すみたいに出力が立ち上がる。いわゆるドッカンターボ的だったのに、そういう極端さがなくなっている。
もっといいクルマに乗りたくなる
アクセル開度に応じて、プログレッシブにトルクが湧き出てくるようになった。だから運転しやすい。7段のツインクラッチ式トランスミッションの制御プログラムの改善が大きいという説もあるけれど、それだけではない(ような気がする)。メーカーは明言していないけれど、エンジンのコンピューターのマッピングが変わったように思える。
ただし、エンジンそれ自体は乗り心地や外見ほどにはスポーティーではない。トルクを虚心坦懐(たんかい)に供給する実用タイプで、ガンガン回して、楽しいなぁ、と歌いたくなる類いではない。
とはいえ、A180スポーツは、ヤングとヤング・アット・ハートな人向けの5ドアハッチバックである。何しろ老成していない。退屈な、いいクルマになることよりも、ファミリーカーとしては多少硬めの乗り心地で室内も狭いけれど、スポーティーでオシャレでイケてるクルマであろうとしている。でもって、たぶんあなたはA180スポーツでは満足できない。必ずや、上級移行したくなる。だって、ディーラーに行くたびに、メルセデスAMG GLE63 Sとか、嫌でも目に入る。
そこに3代目Aクラスの自動車としての魅力がある、といったら逆説的に過ぎてワケがわからないかもしれないけれど、つまり、青いことのステキさがあるのです。ビバ・ヤング!
現代のメルセデス・ベンツのフィールドは車種が増えたぶん、かつてのようにひとつの人格では語れなくなっている。そういう感じがした2015年の師走であったけれど、GLE63 SとA180スポーツとで共通項がないわけではない。それはダイ・ヤング、ステイ・プリティーってことだ。
(文=今尾直樹/写真=郡大二郎)
![]() |
テスト車のデータ
メルセデスAMG GLE63 S 4MATIC
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4855×1965×1760mm
ホイールベース:2915mm
車重:2390kg
駆動方式:4WD
エンジン:5.5リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:585ps(430kW)/5500rpm
最大トルク:77.5kgm(760Nm)/1750-5250rpm
タイヤ:(前)295/35ZR21 107Y/(後)295/35ZR21 107Y(ピレリP-ZERO)
燃費:7.4km/リッター(JC08モード)
価格:1740万円/テスト車=1751万1000円
オプション装備:ボディーカラー<ダイヤモンドホワイト>(11万1000円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:1160km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
![]() |
メルセデス・ベンツA180スポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4355×1780×1420mm
ホイールベース:2700mm
車重:1440kg
駆動方式:FF
エンジン:1.6リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:122ps(90kW)/5000rpm
最大トルク:20.4kgm(200Nm)/1250-4000rpm
タイヤ:(前)225/40R18 92Y/(後)225/40R18 92Y(コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト5)
燃費:17.6km/リッター(JC08モード)
価格:387万円/テスト車=413万5000円
オプション装備:レーダーセーフティーパッケージ<ブラインドスポットアシスト+ディストロニック・プラス+レーンキーピングアシスト+PRE-SAFE>(19万9000円)/ボディーカラー<サウスシーブルー>(6万6000円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:1570km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
-
BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
-
ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(FF/6MT)【試乗記】 2025.8.30 いまだ根強い人気を誇る「ホンダ・シビック タイプR」に追加された、「レーシングブラックパッケージ」。待望の黒内装の登場に、かつてタイプRを買いかけたという筆者は何を思うのか? ホンダが誇る、今や希少な“ピュアスポーツ”への複雑な思いを吐露する。
-
BMW 120d Mスポーツ(FF/7AT)【試乗記】 2025.8.29 「BMW 1シリーズ」のラインナップに追加設定された48Vマイルドハイブリッドシステム搭載の「120d Mスポーツ」に試乗。電動化技術をプラスしたディーゼルエンジンと最新のBMWデザインによって、1シリーズはいかなる進化を遂げたのか。
-
NEW
BMWの今後を占う重要プロダクト 「ノイエクラッセX」改め新型「iX3」がデビュー
2025.9.5エディターから一言かねてクルマ好きを騒がせてきたBMWの「ノイエクラッセX」がついにベールを脱いだ。新型「iX3」は、デザインはもちろん、駆動系やインフォテインメントシステムなどがすべて刷新された新時代の電気自動車だ。その中身を解説する。 -
NEW
谷口信輝の新車試乗――BMW X3 M50 xDrive編
2025.9.5webCG Movies世界的な人気車種となっている、BMWのSUV「X3」。その最新型を、レーシングドライバー谷口信輝はどう評価するのか? ワインディングロードを走らせた印象を語ってもらった。 -
NEW
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。