第437回:「PARIS MANGA」で再認識! 「デロリアン」の威力
2016.02.19 マッキナ あらモーダ!PARIS MANGAは今年も盛況
日本のポップカルチャーの祭典「PARIS MANGA & SCI-FI SHOW」(以下、PARIS MANGA)が、2016年2月6日と7日の2日間、フランス・パリで開催された。今回のPARIS MANGAは、21回目。年2回の開催で、関係者によると近年は8万1000人の入場者を記録した回もあるという。
参考までに、同じメッセ会場で開催されるパリモーターショー(通称:パリサロン)の2014年入場者数は16日間で約125万人だった。1日あたりでは約7万8000人で、PARIS MANGAの1日約4万人を大きく上回る。しかし、自動車ショーが6棟ものパビリオンを使用するのに対し、PARIS MANGAは1パビリオンでそれだけの数を動員してしまうのだから恐れ入る。
このイベントについては、このエッセイの第231回でもお伝えしたのだが、気がつけばボク自身、今回で5回目の訪問だ。
同じくパリで開催される「ジャパンエキスポ」(第304回参照)が、日系航空会社や日本の行政関係機関なども出展していて、どこかオフィシャルな香りがするのに対して、PARIS MANGAの雰囲気は、明らかに異なる。日本以外のアジア系グッズも少なくない。実際に、今回はKポップのカラオケ大会も人気を集めていた。
しかし、ボクはこれでいいと思っている。プッチーニのオペラ「ラ・ボエーム」の主人公たちがボヘミアンであったように、パリという街は異国のカルチャーがミックスされることにより、昔から独特の味わいが醸し出されてきたのだ。そのスリリングともいえる感覚こそが、PARIS MANGAの魅力のひとつだと、ボクは考えている。
千葉真一氏もやってきた!
今回のPARIS MANGAでは、これまで以上にゲストにビッグネームが並んだ。日本からやってきたのは、「JJサニー千葉」こと俳優の千葉真一氏(77歳)と、彼の門下生であるアクション俳優・大葉健二氏(61歳)だった。
千葉氏といってボクが真っ先に思いだすのは、往年の「トヨタ・カリーナ」のイメージキャラクター「足のいいやつ」である。しかしフランスの青少年たちが、「足のいいやつ」を知るはずもない。
しかし、「みんな、千葉氏を見にくるのか?」という心配は杞憂(きゆう)に終わった。2人のトークショーは、開演前から立ち見が出るくらいの満員となった。
千葉氏と大葉氏が軽い足取りでステージに駆け上がると、たちまち拍手が湧いた。質疑応答タイムに積極的に挙手していた青年に聞くと、15歳なのに、千葉氏が出演したアメリカ映画『キル・ビル』のVol.1とVol.2を見たという。
千葉氏は日本体育大学時代に体操でオリンピックを目指しながらも負傷してしまい、その夢を諦めざるを得なかったこと、1500本もの映画を撮ったことなど、これまでの人生を振り返った。また、1970年に自ら設立したJAC(ジャパン・アクション・クラブ)にふれ、「当時の日本には動ける俳優がいなかった。動ける俳優をつくるために作った」と、そのきっかけを回顧した。
大葉氏も、実は知られた存在だった。彼が1980年代初頭に主演した特撮テレビ番組『宇宙刑事ギャバン』が、フランスではたびたび放映されてきたのだという。氏は、この番組のタイトルが、東映で担当した吉川 進プロデューサーがフランスの俳優ジャン・ギャバンのファンだったため命名したものだというエピソードを紹介した。
来場者からの質問に答える中で、大葉氏は『クレヨンしんちゃん』における声優経験も披露。「やってみると大変難しくて、一人居残りをさせてもらってとり直した」といった思い出も打ち明けた。
ステージ終盤、千葉氏は「ハリウッドでの仕事が多いが、実は若い頃はアラン・ドロン、ジャン・ギャバン、そしてジャン・ポール・ベルモンドの映画が大好きだった」と告白。「いつかフランスの映画をフランスの方々と撮りたい」と語ると、来場者から一斉に拍手が送られた。
そして最後に、「宇宙刑事ギャバンの変身ポーズを!」という来場者のリクエストに応えて、大葉氏がアクションポーズを再現。ファンの興奮は最高潮に達した。
このクルマ以外は考えられない
スペシャルゲストは、さらに続いた。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズ3部作で、“ドク”ことドクター・エメット・L・ブラウンを演じた俳優クリストファー・ロイド氏(77歳)である。
日本のポップカルチャー・ショーでなぜハリウッド映画が? という疑問もあるだろうが、PARIS MANGAの正式名称は、冒頭で記したようにPARIS MANGA & SCI-FI SHOWだ。サイエンス・フィクションもアリ、なのである。
ステージでは『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のフランス版で声優としてロイド氏の吹き替えを担当した俳優ピエール・アテ氏(85歳)も登場。冒頭から2人で劇中の名場面を英仏双方の言語で再現して会場を沸かせた。
来場者からの「次の『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は?」との質問に、ロイド氏は「まだ何も決まっていない」としながらも、自身については「私は疲れを知らない。まだリタイアはしない」と意欲をのぞかせた。
3部作のうち、どれがお気に入り? との質問には、「ウエスタンあり、カウボーイあり、そしてロマンチックな恋愛まであり」との理由から、“ドク”にスポットが当てられた3作目をすかさず挙げた。
「次回作のタイムマシンは?」との質問が飛びだすと、ロイド氏は再び「次回作の計画はまだない」としながらも、「デロリアン」は今日みても十分クールで未来的。ほかのクルマは考えられないね」と力説。来場者たちも、熱心に聞き入っていた。
ジウジアーロは、やっぱり偉大
実は今回、ロイド氏がやってきたにもかかわらず、恐れ多くもステージのすぐ脇には、ある出展者によってデロリアンが運ばれ、“ドク”に扮(ふん)したスタッフとともに記念撮影できるコーナーが設けられていた。そして、有料にもかかわらず、多くの来場者が順番待ちの列を作っていたのだ。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は、第1作公開から、昨2015年で30年を迎えた。デロリアンDMC12に関していえば、その発表は1981年だ。35年前のクルマである。人間でいえば、いいおじさんの年齢だ。
にもかかわらず、今なお、人々に「クールなクルマ」と受け取られている。それもモーターショーなど見向きもしない若者たちが大半を占めるイベントで。
たしかにロイド氏が言う通り、デロリアンを超えるタイムマシンのベース車両は、今のところ見当たらない。それをデザインしたジョルジェット・ジウジアーロの才能に、いまさらながら恐れいる。
でも、ここにいる若者たちに「ジウジアーロ」って言ったところで、わかるかなぁ? わかんねえだろうなぁ……イェーイ!
若々しい会場のムードにそぐわない松鶴家千とせの昭和流行語を口にしてしまった。
個人的にデロリアンで思い出すのは、1990年代初頭の東京時代である。
ある日、中古車情報誌でデロリアンDMC12の中古車を発見したのだ。千葉県浦安市の店で、たしか300万円くらいだったと思う。しばらく掲載されていたこともあって、本気で買おうかどうか悩んだ。
当時勤務していた自動車誌編集部の先輩からは「ステンレスボディー磨きはカネヨンだな」などと冗談を飛ばされる一方で、「壊れるとかなり(お金が)掛かる」という現実的な忠告も受けた。それに加えて、ヤナセの営業マンの丁寧な接客に心打たれてしまったため、最終的には、デロリアンではなくビュイックを買ってしまった。
もしあのときデロリアンを手にしていたら? 先輩の言う通り修理に資金を注ぎ込みすぎて、到底イタリアになど渡れなかった? いや、異色自動車評論家として日本の自動車ジャーナリズム界で大成していたかもしれぬ。
そんな空想タイムトラベルをしながら、たこ焼きの香り漂う会場をあとにした筆者だった。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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