ランドローバー・レンジローバー スポーツSVR(4WD/8AT)
上品な猛獣の楽しみ方 2016.03.18 試乗記 最高出力550psの過給機付き5リッターV8エンジンを搭載し、オンロードでの動力性能を突き詰めた「ランドローバー・レンジローバー スポーツSVR」。強烈なパフォーマンスとレンジローバーならではの上質感が織り成す、走りの魅力に触れた。ニュルで2番目に速いSUV
一昨年の2014年8月、ランドローバーは当時発売直前だった「レンジローバー スポーツSVR」が、あのニュルブルクリンク北コースにおいてSUV世界最速タイムを記録したと発表した。そのタイムは8分14秒。
これと同等の8分10秒前後のタイムをもつ歴代市販車の例としては「フォルクスワーゲン・ゴルフR」や「アストンマーティンV12ヴァンキッシュ」、そして1世代前だが「レクサスIS F」などがある。こうして同等タイムの歴代車名を列挙するだけでも、レンジスポーツSVRがいかに特別かが理解できるだろう。
もっとも、翌15年に「ポルシェ・マカン ターボS」が7分59秒を記録。このレンジスポーツSVRのSUV最速という称号は長くは続かなかった。現在のニュルブルリンク北コースは、もろもろの理由で市販モデルによる占有タイムアタックが禁止されている。なので、レンジスポーツSVRがSUV最速を奪い返すことは不可能となった。
ただ、上記にあげた猛者の間に、背の高いマカンやレンジスポーツが割って入っていること自体は純粋にすごい。
しかも、レンジスポーツSVRは車重2.5トンにも迫ろうかという超へビー級だ。レンジスポーツの次に重いマカン ターボですら2トンを切るから、かりに“ニュル・ウェイト・レシオ”なんて指数があったならレンジスポーツSVRが圧倒的1位である。また、ニュルアタックが再解禁されないかぎりは、レンジスポーツSVRのSUVでニュル2番目という座がこれ以降おびやかされることもない。
“体育会系”でも上質感を忘れない
レンジスポーツSVRの仕立ては、フロント周辺の大面積開口や大径ホイール……といったお約束メニューをきちんと押さえたものだ。しかし、もともとのレンジスポーツもレンジローバーの“スポーツ”であり、世界屈指の体育会系SUVという位置づけだから、SVRといっても手をつける範囲はかぎられている。まして、ランドローバーはセレブな上品さを失わないブランディングに慎重を期している。
よって“ニュル8分14秒!”と豪語するわりには、SVRの特殊感は意外とうすい。今回は22インチホイールのサマースポーツタイヤ(標準は21インチのマッド&スノー)を履いていたものの、今どきは22インチでもそんなに驚きはない(!)。
インテリアも、ダッシュボードだけを見ているかぎりはセレブだが、キャビン全体を見わたすと、ヘッドレスト一体でショルダーが張り出した強烈なスポーツシートに驚かざるをえない。こんなスーパーカーなシートを標準装備するSUVはほかにない。
こういうシートに座らせられると、条件反射的に、低めのシートポジションを取ってしまいがちだ。ちょうど、肩の高さでまっすぐ手を伸ばしてステアリングホイールを握るような感じ。しかし、それだと、どうにも落ち着かない。“もっと高いほうが……”と電動調整を繰り返していくうちに、最終的にはステアリングやダッシュボードをわずかに見下ろす小高いドラポジでしっくりとくる。これこそ、ランドローバーがいうところの「コマンドポジション」だ。
こうなるとクルマの四隅もピタリと把握できる。悪路だけでなく、SVRでコーナーのクリップを高速でねらうときにも、なんともありがたい。
刺激的なエンジンと癒やし系のシャシー
エンジンを始動すると、5リッターのスーパーチャージドV8はいきなりの爆音である。濁音成分の多い音質とブルブルという震動で、“鼻先にすんごいモノが載っている”感は濃厚だ。手元のボタンで“ダイナミック”モードにするとまさに嵐のごときで、盛大にアフターバーンまで加わる。エンジン音以外はさすがレンジローバーらしく静かなこともあって、とにかくエンジン音だけが突出している。
エンジンの基本設計はもちろん「ジャガーFタイプR」などと同じだが、SVRの特性に合わせたほか、スポーツフィールもさらに強調しているんだとか。
70kgmに達しようという最大トルクもすごいが、それでも「ポルシェ・カイエン ターボS」のように血の気が引く暴力的ワープ加速……とまでいかない。それはカイエンにわずかに譲るトルクと、150kg以上重いウェイト、そして機械式過給によるスロットルに直結したトルク供給によるところもある。
頂点クラスでありながら、どことなく一歩手前の寸止め感をうかがわせるのは、シャシーも同様だ。穏当な“オート”モードだと、身のこなしは(いい意味で)ほどよくルーズ。ランドローバーならではの癒やし系……というか貴族的なオフローダーテイストをわずかに残す。
それでもステアリング角度、そして車速や横Gが増すにつれて、フットワークがみるみる引き締まっていくのは、かつて“CATS”と呼ばれていたジャガー系の可変ダンパーに共通する。パワステも基本的に軽く、ドライバーに肉体的負担や余計な手間ヒマを要求しない点は、ジャガーとランドローバーの両方に貫かれるブランド思想だろう。
ドライブフィールに見るランドローバーらしさ
減衰力をけなげに変化させるオートモードも味わい深いが、SVRを“らしく”走らせるには、最初から引き締められていて、一発目のステアリング操作から鋭くターンインするダイナミックモードのほうが明らかに運転しやすい。根本的に重心は低くなく、絶対的に重いクルマなので、旋回途中からアシが締まっても間に合わないケースが少なくないからだ。
最初からダイナミックモードに設定して、本気でムチを入れたSVRはなるほどベラボーに速い。そして素晴らしく安定していてイージー。センターデフをもつ真正フルタイム4WDはアマチュアを挑発するほど曲がりたがるわけでもなく、それでいて、曲がりはじめれば、そこから積極的にスロットルを開けてもねらったラインを素直にトレースしていく。
唯一注文をつけたいのはブレーキで、踏みはじめがソフトなチューニングは優しくセレブに走りたいときには好適ではある。しかし、本気になったSVRの速度域ではもう少し初期からガツンと速度をそいでほしいし、絶対的な制動力も物足りないケースがなくはない。実際にSVRについているブレーキは見た目には十分にすごいのだが、この重量と速度なら、それこそフロントには8ポットキャリパーくらいは必要なのかもしれない。
それはともかく、SVRはどのモードでもフットワークは引き締まりすぎず、それなりにロールもして、適度に上下しながら、路面の荒れにもリニアに反応する。こうして“自分は高重心のヘビーな物体を高速で動かしているのだ”という実感をきちんと伝え続けるのは、いかにもランドローバーらしいところだ。
ハイパフォーマンスSUVのうまいしつけ方
純粋な運動性能だけでいうなら、正直いって、カイエンや「BMW X6 M」などのドイツ勢のほうが分かりやすく、アマチュアドライバーにとっての安心感も高い。
ただ、これらのドイツ勢……とくにポルシェのSUVは、物理法則を吹き飛ばすほどの安心感に、乗り手が無意識のうちに限界を超えてしまう(そして、気づいたときにはすでに手に負えなくなっている)リスクがつきまとう。
その点では、この種のクルマはランドローバーくらいに“寸止め”の味つけをしてくれたほうが、乗り手の心理的な歯止めにもなる。そして、結果的にトータルで安全性も高まる。これはムリヤリのこじつけではなく、おそらくランドローバーの長年のノウハウによる意図的な調律だろう。
鼻先にとんでもない猛獣を飼いつつも、それを強固なオリに入れて、少し離れたところから、肉体的な負担も必要以上のリスクもおかさず上品に楽しむ……。あえて文字で表現すれば、レンジローバー スポーツSVRはそんなクルマである。
これぞ真に上品な遊びの本質なのかもしれない。ランドローバーはそんなセレブの本質を分かっていて、SVRでもその本質をはずしていない。これはまあ、セレブのセの字とも無縁な私の勝手な妄想だけど……。それでいて、SVRはニュルでは信じがたいタイムをたたき出すというのだから、なんかキツネにつままれたような気分だ。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏)
テスト車のデータ
ランドローバー・レンジローバー スポーツSVR
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4880×2020×1800mm
ホイールベース:2920mm
車重:2410kg
駆動方式:4WD
エンジン:5リッターV8 DOHC 32バルブ スーパーチャージャー付き
トランスミッション:8段AT
最高出力:550ps(405kW)/6500rpm
最大トルク:69.3kgm(680Nm)/3500-4000rpm
タイヤ:(前)295/40R22 112Y/(後)295/40R22 112Y(コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト5)
燃費:7.3km/リッター(JC08モード)
価格:1605万円/テスト車=1861万5000円
オプション装備:インテリアトリムフィニッシャー<カーボンファイバー>(21万4000円)/4ゾーンフルオートエアコン(15万4000円)/プレミアムメタリックペイント(9万3000円)/Meridianシグネチャーリファレンス・オーディオシステム<1700W>(71万7000円)/22インチ スタイル108アロイホイール<295/40サマータイヤ装着>(30万9000円)/オートマチックハイビームアシスト(2万9000円)/フィックスト・パノラミックルーフ(25万7000円)/イルミネーテッド・フロントトレッドプレート(11万9000円)/ACC(23万7000円)/ウエイドセンシング+ブラインドスポットモニター(6万7000円)/アドバンスド・パークアシスト(20万1000円)/8インチデュアルビュータッチスクリーン(11万9000円)/ラゲッジスペースフレーム(4万9000円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:4449km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(7)/山岳路(0)
テスト距離:281.1km
使用燃料:50.3リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:5.6km/リッター(満タン法)/6.5km/リッター(車載燃費計計測値)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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