プジョー3008アリュール(FF/6AT)
“盛りだくさん”も良しあし 2016.04.12 試乗記 2014年にマイナーチェンジされたプジョーのクロスオーバーモデル「3008」が、新たにエンジンとトランスミッションをアップデート。それで走りはどう変わったのか? 乗り心地や使い勝手も含めた、最新型の印象を報告する。コツコツとアップデート
「プジョー308」からスピンオフしたクロスオーバーモデルが3008である。ポッチャリ系の5ドアボディーは、308より10cm長く、16cm高い。4WDではないが、最低地上高も308より4cmかさ上げしてある。
天井に大きなグラスルーフを備えることもあり、車重は308を200kg上回る1490kg。そのため、エンジンは直噴1.6リッター4気筒ターボだ。3気筒の直噴1.2リッターターボをメインとする308よりひとクラス上のスペックである。
3008が登場したのは2009年。現行308は2013年にモデルチェンジした2代目だが、3008はこれまでフェイスリフトを重ねながらアップデートしてきた。
今回試乗したのはこの3月に国内導入された新型で、機能面ではエンジン出力が156psから165psに向上したこと、アイシン・エィ・ダブリュ製の6段ATが最新バージョンの「EAT6」に換装されたことなどが新しい。
グレードは「アリュール」のみになり、価格は349万円。ちなみに「308アリュール」は279万円。ステーションワゴンの「308SWアリュール」は303万8000円である。
乗ればたちまちホリデー気分
3008をひとことで言えば、“盛りだくさんなクルマ”である。
晴天の日、高い運転席に乗り込むと、明るいのでびっくりした。グラスルーフは前席にはそれほど恩恵をもたらさないが、強く傾斜したフロントガラスがヒタイのほうまで延びているため、日当たり抜群。ATセレクターのあるセンターパネルはたっぷり大きく、ダッシュボード上面の平野はドーンと奥まで広がる。普通のハッチバックやセダンとは違う、乗ればホリデー気分のクルマである。
ダッシュボード中央には「MINI」に刺激されたような7連スイッチが並ぶ。そのうち3つはヘッドアップディスプレイ(HUD)用だ。カラーHUDに映る情報のひとつが「ディスタンスアラート」で、前走車との車間距離を0.5秒から3.0秒までの秒数で表示する。プリセットしたマイ車間距離を切ると、警告音で教える。といっても自動ブレーキ機能はないし、秒数で教えてくれても……。という中途半端さはあるが、話題のひとつではある。
センターコンソールのそばには「グリップコントロール」のダイヤルスイッチがある。トラクションコントロールのスノーモードは一般的だが、さらにサンドモード、マッドモードを追加した。雪と砂と泥で、果たしてそんなに駆動制御の変えシロがあるのか、効果があるのか、そもそも2WDでいいよという人が、砂地や泥濘(でいねい)地に入っていくだろうか、という疑問はあるが、これも3008のワン・オブ・盛りだくさんである。
期待にこたえる新エンジン
9ps微増して165psになった1.6リッター4気筒ターボは、BMWとの共同開発で誕生した直噴ユニットの発展型だ。プジョーではいまのところこの3008と「508」、シトロエンではDSブランドの「DS 5」と「DS 4」の一部に搭載されている。
プジョー/シトロエンでもBMW/MINIでも、今までこの系統のエンジンに裏切られたことはないが、新しい165psユニットも文句なしである。下からトルクがあり、回せばすごく気持ちいい。シフトパドルが欲しくなるエンジンだ。
4cmリフトアップされた足まわりは、308より歴然と硬い。ハイドロ・ニューマチック・サスペンションのシトロエンで、車高を上げたまま走っているような突っ張り感がある。荒れた舗装路ではややラフだ。プジョーとしては乗り心地のいいクルマではない。
しかし、ハンドリングはなかなかスポーティーだ。ワインディングロードを走ると、大柄な高床式スポーツワゴンという感じで、楽しかった。
オフロードでは試せなかったが、舗装路で先述のグリップコントロールを使ってみた。デフォルトはノーマルモードだが、試しにオンロードでマッドモードにすると、ほとんど変わらなかった。しかしサンドモードではアクセルペダルのレスポンスが鈍くなり、加速がかなり規制された。あとでトリセツを見ると、舗装路でサンドモードは使わないようにと書いてあった。
考えすぎなつくりが気になる
308よりボディー全長は10cm長いが、キャビンは通常の2列シート5人乗りである。
リアシートは広いだけでなく、居心地がいい。シート座面は高く、見晴らしにすぐれる。床が完全にフラットなので、足も自由だ。上はほぼグラスルーフの青天井。風のこないオープンカーに乗っている開放感だが、晴れていると人間がハウス野菜と化すので、これからの季節、昼間は電動サンシェード閉めっぱなしだろう。
テールゲートは3:1くらいで上下に分割して開く。かさのある重量物を滑らせて出し入れするようなときにはいいかもしれないが、しかし、それ以外のメリットはあるだろうか。
2分割の下側はホビーテールゲートと呼ばれ、開くとベンチシートとして使えるとカタログには書いてある。でも、車高が高いので、気軽に腰をかけられる感じではない。トラックのアオリを開いたようなこの状態だと、クルマから30cmくらい離されるため、荷室は遠くなる。上にはねあげるほうのテールゲートは丈が短くなり、閉めるときの取っ手は高い位置にある。身長160cm以下の人だと背伸びが必要だ。
といったように、盛りだくさんではあるが、必ずしも便利で使いやすいとは思えなかった。フランス車にしては、考えすぎである。それでも、ハイトな308がほしい、という人のクルマだろうか。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=峰 昌宏/取材協力=河口湖ステラシアター)
テスト車のデータ
プジョー3008アリュール
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4365×1835×1635mm
ホイールベース:2615mm
車重:1490kg
駆動方式:FF
エンジン:1.6リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:165ps(121kW)/6000rpm
最大トルク:24.5kgm(240Nm)/1400-3500rpm
タイヤ:(前)215/60R16 95H/(後)215/60R16 95H(ミシュラン・ラティチュード ツアーHP)
燃費:14.6km/リッター(JC08モード)
価格:349万円/テスト車=368万3050円
オプション装備:メーカーオプションなし ※以下、販売店装着オプション フロアマット<グレー>(1万6092円)/パイオニア・メモリーナビゲーション(16万5240円)/バックカメラハーネスキット(1458円)/ETCユニット(1万260円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:1135km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:350.2km
使用燃料:29.4リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:11.9km/リッター(満タン法)/11.9km/リッター(車載燃費計計測値)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。