第339回:軽のタイヤも“乗り心地”で選ぶ時代に!?
軽自動車用高級タイヤ「レグノGRレジェーラ」を試す
2016.04.12
エディターから一言
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ブリヂストンのプレミアムブランド「レグノ」から、まさかの軽自動車用タイヤ「GRレジェーラ」が登場した。「ダイハツ・ムーヴ」を使った比較試乗を通して、その実力をチェックするとともに、新製品のリリースに見るブリヂストンの戦略を探った。
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あのレグノから軽専用タイヤが登場!?
きっとそろそろ登場するのでは? と、漠然とそんな予想をしていた「ズバリそのもの」のタイヤが、ブリヂストンから登場した。レグノシリーズの一員として2016年2月15日に発売された、GRレジェーラがそれだ。
レグノの初代モデルが誕生したのは1981年。振り返れば、すでに35年となる歴史を持つこのブランドが当初狙っていたのは、主に高級輸入セダンなどへの装着を意識した「静かで快適なプレミアムタイヤ」というものであった。
実際、そんな新しいタイヤブランドの知名度を高めるため、テレビや雑誌の初期のCMに選ばれていたのは、ジャガーやメルセデス・ベンツなど、今で言うところの欧州プレミアムブランドの作品ばかりであったもの。
見方を変えれば、日本のコンパクトカーや軽自動車は、完全に蚊帳の外――それが、レグノの立ち位置でもあったのだ。
実はここに紹介をするのは、このブランドの立ち上げ当初には誰もが予想をしなかったであろう、“軽自動車用のレグノ”なる一品。ひとつ手法を誤れば、ようやく築き上げた高級タイヤというイメージに傷を付けかねないリスクを負いつつも、ついにこれまで「アンタッチャブル」だった軽自動車の世界への展開を敢行した裏には、もちろん綿密なるセールス戦略があったことは間違いない。
“ダウンサイザー”に活路を見いだす
高級輸入車を皮切りに、これまで比較的大型で高価な車両への装着を念頭に展開が図られてきたレグノの各タイヤ。それが、ここにきてついに軽自動車にまで触手を伸ばした背景には、新車に占める軽自動車の割合が年々上昇してきたことと、そこにはより大きい上級モデルを乗り継いできた経験を持つ、いわゆる“ダウンサイザー”が少なからず存在するという最近の調査結果があるという。
年齢を重ね、家族構成も変わったことで「より小さく、小回りの利くモデルに乗り換えたい」という理由から軽自動車に目を向ける新規のユーザーは、当然のように装備の充実度や快適性に関しては、「安いから」という理由で軽自動車を求める層とは異なる要求を持っている。端的に言えば、従来の軽自動車レベルの仕上がりでは「満足がいかない」という人が、相当数発生することが見込まれるわけだ。
そうした新しい傾向を“活路”と捉えたブリヂストンが、自社の軽自動車向けラインナップ内において最も優れた静粛性と快適な乗り心地を実現させ、ライフ性能を大幅に向上させつつ低燃費とウエット性能を両立させたのが、「軽自動車専用タイヤとして洗練されたグレートバランス」をうたうこのGRレジェーラなのだ。実際、軽自動車のユーザーからは「軽自動車用のレグノはないのか?」という声が数多く寄せられていたという。
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軽自動車用タイヤならではの難しさがある
車輪の径が小さいために、同一距離を進むためにはより多くの回転数が必要。加えて、一般的に駐車が頻繁で、その際には“据え切り”も多用されがちなど、快適性の向上はもとより耐摩耗性の確保などにおいても、「より大きな乗用車向けのタイヤより難しい点が少なくない」というのが軽自動車用タイヤの開発であるという。
一方、車両そのものの遮音・防音性能に関して、やはり軽自動車は登録車と同等とはいかない部分が多い。「軽自動車用タイヤで、効果的により高度な静粛性を実現させるための手法は、“小型車以上”のモデルの場合とは必ずしも同じではない」という担当エンジニア氏のコメントも、なかなかに印象的だ。
実際、「軽量」の意を持つイタリア語にも絡めて“レジェーラ”という名が与えられたこのタイヤには、既存のレグノの特徴的なテクノロジーである、高周波の共鳴音を減衰させるためにタイヤの溝内に刻み込まれた“消音器”が採用されていない。
そもそも、軽自動車ではそうしたノイズはほかの暗騒音に紛れて目立ちづらく、より高い走行安定性を実現させるために、ある程度高いブロック剛性も必要である。この点については、「あえて採用は見送り、“ノイズ吸収シート”を用いることで振動しがちなベルトの動きを抑制し、低・中周波のノイズを集中的に低減させることを目指した」と説明されている。
ちなみに、最小回転半径を抑えるために前輪の切れ角が大きくなりがちな軽自動車の場合、それゆえに人目に付きやすいパターンデザインの重要度も高いという。一部ブロックの表面に「REGNO」「Leggera」のロゴが刻まれているのは、そうしたこだわりの表れなのだ。
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平滑な路面ほど明確な差を感じる
そんな新作タイヤをダイハツ・ムーヴに装着。普及品である「エコピアEX20」を装着したムーヴと、首都高速をメインとした同じルートを、可能な限り同じペースで走行する、という方法で比較チェックを行った。
試乗会場であるホテルから最寄りの首都高入り口までしばらくは、信号でのストップ&ゴーなどを交えながらの一般路走行。少々荒れてザラ目状になった舗装路上を走行すると、エコピアでは“ザー”というロードノイズが明確に聞こえる。一方、レグノのそれは“サー”と「濁点が取れた」という感覚だ。
ただし、そのボリュームは予想をしたほどは変わらない。40km/h程度までという微低速シーンでは、細かな路面凹凸に対して、むしろ「エコピアの方がトレッド面の当たり方が、わずかながらも優しいのでは?」という印象を受けることもあった。
しかし、流れのよい首都高速に乗り、さまざまな路面の上を走行しているうちに、「どうやら舗装が新しくて平滑な場所の方が、違いがハッキリ分かる」という印象が得られることに気が付いた。
具体的には、開通からまだ1年で路面の荒れも少ない「山手トンネル」の新規部分で、今回のテストドライブで最も明確な差を感じとることができた。ノイズのボリューム全般が下がり、乗り味が確かにより上質に感じられる。地下鉄や配管類など、先だって地中に埋設されている障害物を避けるため、意外な“ワインディングロード”となっている首都高のこの区間では、横Gが発生するたびのふらつき感も幾分小さくなっており、そもそも軽自動車の中では「最も小型車に近い」感覚のムーヴの乗り味が、よりそうした傾向を強く感じさせてくれた。
一方、軽自動車用タイヤとしては恐らくハイエンドとなるだろうその価格からは、「ユーザーを選ぶタイヤ」という評価も当たっていそう。こんな新しいキャラクターを狙ったタイヤの登場は、この先の軽自動車づくりそのものにも影響を与えることになりそうだ。
(文=河村康彦/写真=宮門秀行)
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河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。