ボルボXC90 T6 AWD R-DESIGN(4WD/8AT)
新しいボルボが始まる 2016.05.06 試乗記 フルモデルチェンジを受けて2代目となった「ボルボXC90」に試乗。スポーティーな装いが特徴の「T6 AWD R-DESIGN」を借り出し、走りやデザイン、機能性など、さまざまな角度からボルボ次世代製品群の第1弾となるモデルの出来栄えを確かめた。好感が持てる新世代のスタイリング
近ごろのSUVには高級サルーンのように豪華だったり快適だったり、スポーツカー並みに速かったりちゃんと曲がったりするモデルが当たり前のように存在していて、もはやちょっとやそっとじゃ驚いたりはしない。けれど、今回ばかりは驚いた。先代だって決して悪いクルマじゃなかったというのに、生まれ変わったボルボXC90は、あらゆる面で劇的といえるほどの進化を遂げていたのだ。もしかしたらこのクラスでは最も魅力的かも、と感じられるほどに。
パッと見の第一印象からして、引き付けられる。シンプルだけど印象的で心に残るそのスタイリングは、ボルボのデザインがこのモデルから新しいフェーズに入ったことをハッキリと意識させる。このモデルの次にボルボが発表したセダンの「S90」もそうだけど、安定感のある直線と穏やかな曲面が巧みに融合しながら塊を形成しているその姿には、どこにも間延びしたところがなく、といってシャープにも過ぎず、この手のクルマにありがちな過剰にも思える力強さの演出のようなものが感じられない。堂々とはしているけれど、威圧感がないのだ。
が、大きいなぁ……とは感じさせられる。それもそのはず。先代よりも全長は150mmも長い4950mm、幅は60mmも広い1960mm。大まかにいえば5m×2mの小山のようなハコなのだ。
快適性を高めるデザインの妙と機能性
だから、車内は素晴らしく広々としている。先代だって窮屈さなんてかけらもなかったが、ドライバーズシートに収まってみるとこれまで以上に広々“感”が得られるのは、インテリアデザインによるところも大きいのだろう。こちらもエクステリア同様、新型XC90から新しいフェーズに入っているわけだが、ダッシュボードが左右対称の水平基調ではなく、メーターナセルを起点にしてAピラーに向かってなだらかに下がっていく感じや、余分なスイッチを排除したシンプルさが、そうした感覚をもたらすのかもしれない。それに加えて、今回の試乗車はカーボンファイバーとレザーの組み合わせが際立っていた。他のグレードではウッドとレザーだったりもするのだけど、そうした異素材の合わせ方や、各部の色の組み合わせやトーンの作り方が巧みで、整然と美しく、視覚的に心地いい。そうしたところも、車内を快適に思わせる要因のひとつだったりするのだろう。
スイッチが減った分のほとんどの操作は、ダッシュボード中央にマウントされた9インチの縦型タッチスクリーン式ディスプレイが受け持つわけだが、直感的に操作できるそれはとても使いやすい。もうひとつすぐに気づいたのは、シートの座り心地のよさだ。たっぷりしたサイズや体へのあたりの柔らかさ、そして芯のムチッと詰まったようなシッカリ感にボルボらしさを覚えるのと同時に、XC90ではさらに快適さが増しているような印象なのだ。包容力がさらに高くなった感じ、といえばいいだろうか。しかも、こればかりは何かあったときにしか体感できないのだろうけど、このシートには縦方向の衝撃を吸収してくれるショックアブソーバーのようなものが仕込まれていて、事故の際に乗員を守ってくれるのだという。今や厳しい安全基準を満たすために世界中の自動車メーカーがクルマの安全性を大幅に高めているわけだけど、ボルボの安全に対する考え方は、基準を満たすということのずっと先にあるのだな、ということに気づかされる。
2トンの車体を2リッターで動かす
新しいXC90は、デザインだけでなく技術的な部分でもジェネレーションが新しい。ボルボはここ数年、“Drive-E”という新しいパワートレイン戦略を推し進めていて、ラインナップにあるモデルのエンジンを次々と2リッター以下の新しい4気筒へと変更している。それはいうまでもなく環境負荷の低減を狙ったものだが、新しいエンジンはガソリンにしてもディーゼルにしても、走りの面でも省燃費の面でもなかなかに素晴らしい。
XC90は、このDrive-Eのパワートレインとの組み合わせを想定してゼロから新設計された、SPA(スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャー)と呼ばれる新世代プラットフォームを採用した最初のモデルとなった。はじめから4気筒以下のエンジンしか想定していないために設計が効率的な上、モジュール化のおかげで構造や部品の面でも無駄がなく、生産の段階での環境負荷も軽減させる仕組みだ。もちろん単に効率のみを追ったものではなく、今や不可欠である軽量・高剛性、衝突安全の部分にも力が注がれていることはいうまでもないだろう。
今回の試乗車であるXC90 T6 AWD R-DESIGNは、その新しいプラットフォームに2リッター直列4気筒ターボ+スーパーチャージャーを搭載したスポーティーグレード。最高出力は320ps/5700rpm、最大トルクは40.8kgm/2200-5400rpm。単純に考えれば、排気量1リッター当たり160psというのは結構なハイチューンではあるが、けれどこのクルマ、車体の大きさからも想像できるとおり、車重は2トン超えの重量級だ。果たしてそれを2リッターの4気筒でまかなえるのかな? という単純な疑問はあった。
いや、自分は本当に古い人間なのだな、と痛感させられた。今どきのダウンサイジング系エンジンを小ばかにしていたわけではないけれど、まさかこんなに軽々と走ってくれるとは思っていなかった。発進直後から分厚いトルクがふつふつと湧き出してきて、滑らかに、そして軽やかに、大きな車体をスピードに乗せていくのだ。低回転域をスーパーチャージャーがしっかりと担っていることの証しである。そのままスロットルを踏み込んでいくと、今度はターボチャージャーの過給が加速を次第に力強く伸ばしていく。その連係プレイは見事のひとこと。段付き感もなければチカラの谷間のようなものも全くなく、スムーズそのものだ。それに結構速い。ストレスは全くない。しかも室内は極めて静かだから、4気筒エンジンであることを意識させられることもない。ドライブモードを“ダイナミック”にすると、思っていた以上に力強さが強調されて、望外にスポーティーな感覚を楽しむこともできる。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
スポーティーにも走れるけれど
そのスポーティーなテイストにも、シャシーはしっかりと応えてくれる。この巨体にして「ウソでしょ?」と感じられるくらい、素直に、素早くコーナーをクリアしてくれるのだ。この手のクルマとしては比較的機敏にノーズの向きを変え、重心の高さも車体の大きさも意識させず、気持ちよく曲がってくれる。たっぷりと長い足が奇麗に伸びたり縮んだりしながらしっかり路面を捉え続ける一方で、変なロールなど全く感じさせない姿勢の良さを保ってくれるから、安心感もある。22インチの「ピレリ・スコーピオン ヴェルデ」の踏ん張り具合もいい。攻めて走るようなクルマじゃないのは百も承知だが、やれば何てことなくできちゃうのである。
とはいえ、やっぱり最も心地よさを感じるのは、走行モードを“コンフォート”に保って、ゆるゆると湧き出すトルクに守られるようにして走るクルージング。たっぷりとした“密度感”のある足腰は、同時に柔軟でもあり、路面の細かな凹凸も感じさせないし、段差があっても不快な衝撃としてそれを伝えてこない。有り体にいえば、ものすごく快適なのだ。視界の高さもいい方向に作用して、疲れも少ないし、どこまででも走っていけそうな気分になる。いや、走っていきたくなる。今回は悪路を試すことはできなかったけれど、AWDシステムも備えているわけで、そういう意味では真の万能型グランドツアラーともいえるのかもしれない。このクラスのSUVはライバルが多く、それらの出来は総じて悪くない。XC90はそのランキングの上位の辺りに一気に躍り出た、という感じだ。
この新世代ボルボのスタイリングが気に入っているという人は、それだけで選んでも全く後悔することはないに違いない。そう断言できるだけの実力を、このクルマは十分に持っている。唯一の問題は、このT6にプラグインハイブリッド機構を付け加えた「T8 TWIN ENGINE AWD」が追加されているということ。これはチョイスに悩まされるかもしれないなぁ……。
(文=嶋田智之/写真=田村 弥)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
ボルボXC90 T6 AWD R-DESIGN
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4950×1960×1760mm
ホイールベース:2985mm
車重:2100kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ+スーパーチャージャー
トランスミッション:8段AT
最高出力:320ps(235kW)/5700rpm
最大トルク:40.8kgm(400Nm)/2200-5400rpm
タイヤ:(前)275/35R22 104W/(後)275/35R22 104W(ピレリ・スコーピオン ヴェルデ)
燃費:11.4km/リッター(JC08モード)
価格:879万円/テスト車=974万6000円
オプション装備:チルトアップ機構付き電動パノラマガラスサンルーフ(20万6000円)/Bowers&Wilkinsプレミアムサウンドオーディオシステム<1400W、19スピーカー>サブウーハー付き(45万円)/電子制御式4輪エアサスペンション+ドライビングモード選択式FOUR-Cアクティブパフォーマンスシャシー(30万円)
テスト車の年式:2016年型
テスト車の走行距離:3887km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:323.1km
使用燃料:47.6リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.8km/リッター(満タン法)/7.4km/リッター(車載燃費計計測値)
拡大 |

嶋田 智之
-
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】 2025.12.3 「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ドゥカティXディアベルV4(6MT)【レビュー】 2025.12.1 ドゥカティから新型クルーザー「XディアベルV4」が登場。スーパースポーツ由来のV4エンジンを得たボローニャの“悪魔(DIAVEL)”は、いかなるマシンに仕上がっているのか? スポーティーで優雅でフレンドリーな、多面的な魅力をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
NEW
バランスドエンジンってなにがスゴいの? ―誤解されがちな手組み&バランスどりの本当のメリット―
2025.12.5デイリーコラムハイパフォーマンスカーやスポーティーな限定車などの資料で時折目にする、「バランスどりされたエンジン」「手組みのエンジン」という文句。しかしアナタは、その利点を理解していますか? 誤解されがちなバランスドエンジンの、本当のメリットを解説する。 -
NEW
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
NEW
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RS
2025.12.4画像・写真およそ3年ぶりに、日本でも通常販売されることとなった「ホンダCR-V」。6代目となる新型は、より上質かつ堂々としたアッパーミドルクラスのSUVに進化を遂げていた。世界累計販売1500万台を誇る超人気モデルの姿を、写真で紹介する。 -
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。
































