アウディA4アバント2.0 TFSIクワトロ(4WD/7AT)【試乗記】
驚きの気持ちよさ 2016.05.10 試乗記 2016年4月に国内販売がスタートした、最新型の「アウディA4アバント」に試乗。6代目となったアウディブランドの代表的ワゴンは、どんなクルマに仕上がっているのか? 走行性能や乗り心地、使い勝手を報告する。ライバルたじたじのスペック
試乗会で新型A4アバントに乗った。セダンから2カ月遅れで発売されたワゴンモデルである。
4735mmのボディー全長は、セダンと同寸。「メルセデス・ベンツCクラス ステーションワゴン」のようにリアのオーバーハングを延長する手当てはしていない。Cクラスワゴンは、セダンより6cm延ばして4730mm。「BMW 3シリーズ」と合わせたドイツ人気御三家のなかで、A4はもともと一番大柄なのである。
これまで日本の販売におけるA4のセダン/アバント比率は、半々か、アバントのほうが少し多いという。モデル構成はセダンと同じで、エンジンはデュアルインジェクターの直噴の2リッター4気筒ターボ。FFにはミラーサイクル燃焼の190psユニット、クワトロにはハイプレッシャーターボの252ps仕様が搭載される。
「BMW 320i」の2リッター4気筒ターボは184ps。Cクラスは「C250スポーツ」用の2リッター4気筒ターボでも211psだ。ボディーが大きいだけでなく、A4はこのクラスで最もハイスペックでもある。
今回試乗したのはクワトロ(626万円)。セダンのクワトロが597万円だから、ワゴン代は29万円である。252psの4WDと考えるとお買い得かもしれないが、善男善女の中型ドイツ車と思っていたA4もすいぶんな高価格車になってしまった。
とにかく滑らか
新型A4のうたい文句は「A4を超えたA4」である。8年ぶりにフルチェンジしたのだから、旧作を超えるのはあたりまえでしょ、とツッコミたくなるが、乗ってみると、うたい文句以上の進化を感じさせた。
総論を言うと、新型はとにかく滑らかである。エンジンも変速機も足まわりも、スムーズの一語に尽きる。小さなバリひとつ感じさせない。ドライブフィールも洗練が行き届いているから、運転していて気持ちいい。
積載荷重に備えて、ワゴンはセダンよりサスペンションを固めている。上屋が長いから、“後ろ”も重い。キャビンの空気量が増え、遮音性はセダンより落ちる。そうした一般論は新型A4にも当てはまり、この試乗会の直前、ロングドライブに使ったセダンのクワトロと比べると、多少、乗り味がザワついた感じはある。だが、ワゴンの多用途性という付加価値を考えれば、大きな問題ではない。
後席ありの平常時でも、荷室の奥行きは105cmとたっぷりしている。後席背もたれを前倒しすれば、カーペットの敷かれた部分だけで奥行き165cmの広い荷室フロアが現れる。
テールゲートの開閉は電動。荷室側壁に付くレバーを引くと、後席背もたれのロックが解除される。だが、解除されるだけで、バネや電動でパタンと倒れてはくれない。そのため、結局、リアドアを開けて、倒しに行かなくてはならないのが残念だ。
“速さ”が洗練されている
MLB evoプラットフォーム(車台)を採用した今度のA4は、最大で120kgも軽くなった。アバントクワトロの車重は、セダンの20kg増しにおさまる1680kg。メルセデスCクラスワゴンのC250スポーツより20kg重いが、こちらは四駆だ。
252psといえば、2.7リッターV6ツインターボだった2代目「S4」(265ps)に肉薄する。荒っぽさはみじんもないが、A4アバントクワトロは、悠揚迫らぬスピードワゴンである。
エンジン、変速機、ステアリングなどの特性に硬軟をつけるドライブセレクトは、オート、コンフォート、ダイナミック、エフィシェンシーの4種類。コンフォートやエフィシェンシーでも、踏めば速いし、最もスポーティーなダイナミックでも、とくべつ動力性能がハジけたり、ハンドルが重くなったりするわけではない。こうした可変キャラクター機構を与えるなら、もっと変化シロを大きくしたほうがいいように思ったが、マナーは基本的に高級ステーションワゴンである。
試乗車にはレザーパッケージが付いていた。ミラノレザーやウォルナットパネルなどがおごられる45万円のオプション装備だ。ダッシュボードが水平基調に変わったのが新型の特徴で、計器盤もバーチャルコックピットが採用された。速度計やタコメーターを最小化して、ドライバーの真正面でカーナビの地図が見られる最新の情報インターフェイスである。
思わずうなる安全装備
新型A4には、アウディ最新のセーフティーデバイスが与えられる。全モデルに標準装備のアダプティブクルーズコントロールには、トラフィックジャムアシスト機構が盛り込まれた。前走車をロックオンして、車間距離を保ち、白線を認識して自動操舵(そうだ)でレーン内走行を行う渋滞アシスト機構である。
渋滞といっても、65km/hまで作動する。現段階での位置づけは、あくまで「アシスト」だから、ハンドルに手を添えていないとやがて警告が発せられて、システムはキャンセルされる。しかし、このA4アバントは、筆者がこれまで経験したどんなレーンキープアシスト機構よりも自動操舵の腕前が確実で、しかも自信に満ちていた。スマホの操作など、ドライバーがハンドルから手を離して別のことができる“レベル3”の自動運転がすぐそこまで来ていることを実感させてくれる。それくらい信頼性の高いシステムである。
新型A4はすべてが滑らかで、それゆえに運転していてとても気持ちのいいクルマである。しかも、そこには最先端の自動運転機構がインストールされている。というか、ハードウエアのすべてが滑らかだからこそ、自動運転化が可能で、自動運転が生きるのである。ギクシャクの絶えないボロいクルマを自動運転化したって、ありがたみはない。
気持ちよく自動運転してくれるクルマは、自動を外して人間が運転しても気持ちいいのかもしれない。新型A4アバントに乗って、そう思った。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=峰 昌宏)
テスト車のデータ
アウディA4アバント2.0 TFSIクワトロ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4735×1840×1455mm
ホイールベース:2825mm
車重:1680kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:252ps(185kW)/5000-6000rpm
最大トルク:37.7kgm(370Nm)/1600-4500rpm
タイヤ:(前)225/50R17 94Y/(後)225/50R17 94Y(ミシュラン・プライマシー3)
燃費:15.5km/リッター(JC08モード)
価格:626万円/テスト車=730万5000円
オプション装備:レザーパッケージ<ミラノレザー+デコラティブパネル ウォルナットブラウン+エクステリアミラーの電動調節機構、格納機能、自動防眩機能、メモリー機能およびヒーター+前席電動調節機能+運転席メモリー機能+前席シートヒーター>(45万円)/Bang&Olufsen 3D アドバンストサウンドシステム(17万円)/マトリクスLEDヘッドライトパッケージ<マトリクスLEDヘッドライト+LEDリアコンビネーションライト+LEDインテリアライティング+ヘッドライトウオッシャー+バーチャルコックピット>(34万円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:764km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター(満タン法)/--km/リッター(車載燃費計計測値)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。