ジープ・ラングラー アンリミテッド 75thアニバーサリーエディション(4WD/5AT)/レネゲード 75thアニバーサリーエディション(4WD/9AT)
75周年を迎えたパイオニア 2016.05.17 試乗記 1941年に軍用車として生まれたジープが今年で誕生75周年を迎えた。それを記念してジープ各車に設定された限定モデル「75thアニバーサリーエディション」で米国ユタ州のモアブトレイルをたどり、オフロードのパイオニアの存在感と実力に触れた。四駆の聖地を行く
時は1940年、独軍の「シュビムワーゲン」の戦力貢献度に影響を受けた米軍が、軽快な戦地偵察車の開発条件を国内のメーカーに提示し、短期間の入札のもとに突貫で応じたメーカーのアイデアや生産力を集約して生産された車両――と、ジープのルーツはそんなところにさかのぼる。
第2次世界大戦の功労車が誕生して今年で75周年。それは終戦後、民生用としての多面的な展開を経て、今やジープというブランドはタフネスという位置づけも超えて、自然と自らの調和を重んじるオーガニックなライフスタイルのちょっとした象徴でもある。今やキラ星のごときSUVが居並ぶ、そのカテゴリーを真っ先に切り開いてきたパイオニアの存在感はやはり特別だ。
このアニバーサリーを祝うべく、ジープは今後さまざまな特別仕様車を企画し、この日本市場でも展開していく。それらが一堂に会した試乗イベントが行われたのはアメリカの中西部に位置するユタ州のモアブ。岩山に囲まれたこの乾燥地域は、映画のロケ地として有名なほか、近年ではロッククライミングやマウンテンバイクなどの聖地とされている。『ミッション:インポッシブル2』の冒頭でトム・クルーズが断崖絶壁を登るシーンといえば、そのシチュエーションが思い浮かぶ方も多いのではないだろうか。
と、そこは古くからジープジャンボリーというカスタマーイベントが行われる四駆の聖地でもある。そして有名なルビコントレイルと並んで、モアブトレイルはジープのモデル群の開発において欠くことのできないテストコースでもあるそうだ。今回、その地を走った75周年記念モデルは、「グランドチェロキー」「チェロキー」「レネゲード」そして「ラングラー」の4車種で、いずれも日本市場での限定販売が予定されている。
雨が降るのは年に10日か2週間くらいというモアブは、岩肌こそやや粗めのサーフェスだが、岩盤そのものがサラサラの赤土に覆われていて、表面的には滑りやすいコンディションだ。オフロード車にとっては基本である3アングルの適切な設定に加えて、グリップ変化に臨機応変に対応する駆動制御の賢さや、アクセル/ブレーキ双方のペダルコントロールのしやすさが求められる。
FFベースの4WDと侮るなかれ
ジープのスタッフはまず、このトレイルを走る試乗車たちがいずれも、ハードウエアはもとよりタイヤの銘柄すら変えていないまったくの「吊るし」であることを強調した。はた目にはタイヤのたわみを見るに、空気圧が低めに設定されているような印象だったが、前後の行程でオンロードを走った感触からいえば、仮に調整されていたとしてもそれは微細な範囲だと思う。
そのトレイルの中で僕が最も感銘をうけたのは、フィアットとの連携で生まれた、マニアにとっては煙たがられそうな横置きFFプラットフォーム系の2車、すなわちチェロキーとレネゲードが驚くほどの走破能力を備えていたことだった。
ともに本格的なオフロードでの試乗は初めてだったが、まずこの両車に共通するのは、先述のペダル類に加えて、ステアリングの初期操舵(そうだ)応答の穏やかな立ち上がり感など、性急さをしっかり抑えたインターフェイスのチューニングがなされていることだ。ご存じの通り、オフロード走行においてパワー&ドライブトレイン側の過敏な反応はグリップコントロールにとって足かせとなる。さらに個人的に思う、優れたオフロードカーはオンロードでも扱いやすいという論拠もここにあって、操作系のリニアリティーをきちんと考慮しているクルマは結果的にオンロードでの速度管理も意識せず楽々とこなすことができる。
さらに完璧なるオフロードカーは路面の際までタイヤを導ける見切りの良さも大事だが、その点、さすがにデザインを重視したこの両車にラングラーほど特筆するものはない。が、それを補えるものとしてオンロードでの快適性や俊敏さがある。……と思っていたら、そこはやはりジープブランドの一員だけあって、四駆の各輪駆動のコントロールが抜群に優れていた。
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ジープ一族だけのことはある
特に驚かされたのは、最も非力かつ見るからに雰囲気系物件だったレネゲードだ。搭載する四駆システムは本当に微妙な駆動の配分を確実にトラクションへと変えて、難所とおぼしき凹凸でもジリジリと前へと歩みを進めていく。さすがにアシの伸び縮みは短くてタイヤを中ぶらりんにさせることも多々あるわけだが、ついに一度もあご尻腹を打つこともなくラングラーと同じ行程を走破したのは意外だった。
いざその実力を知れば、FF系の車台をして極限まで前オーバーハングを詰めた結果の寸詰まり的なプロポーションも理解できる。与えられたのは最新のアーキテクチャとはいえ、オフロード走行においてそのメカニズムは、はっきりと不利。この走破性は、多分にエンジニアの経験値の豊かさがもたらすチューニングのうまさによるものだろう。
と、同時に悪路環境で感じるのは、上屋や足まわりといった基本骨格のしっかりした作りだ。ボディーに過大なねじりと大きな衝撃が入るモーグル的な凹凸の乗り越えでも操舵の確度はしっかり保たれており、内装は軋(きし)み音も漏らさない。過大な入力を前提にしているからこその堅牢(けんろう)さが、オンロードでは上乗せの安心感としてドライブフィールに反映される。
悪路に挑み続けるブランド
その最たるモデルといえば、やはりフルフレームのシャシーに前後リジッドサスを持つラングラーだろう。当然、普段使いでの乗り心地や敏しょう性はチェロキーにもレネゲードにもかなわない。が、日本の生活速度内であれば、基礎からして他とはまるで違うガッシリ感や、牧歌的な出力特性のV6エンジンが発するまったりとしたリズム感が、あまたのクルマとは全然違うラングラーだけの個性としてドライバーを包み込んでくれる。もちろん、悪路での圧倒的な性能は言うに及ばず。トレイルとしては世界一過酷であろうルビコンをもノーマルタイヤで走り抜けるポテンシャルをもってすれば、モアブのトレイルに不安はまったくない。
現行のJK型は登場から10年も間近く、フルモデルチェンジのうわさもチラチラ聞こえ始めている。が、個人的にはその必要は全く感じない。この究極の性能が、納得できる日常性とともに300万円台から手に入ると考えれば、ファミリーカーとしてもとてぜいたくな選択ではないだろうか。確かにジープブランドのモデルに共通するのは、別格の装備でもずぬけた燃費でもない。が、悪路を走破するという本懐を譲らないがゆえのちょっとした余剰こそが、彼らのプロダクトを唯一無二の選択とする源なのだと思う。
(文=渡辺敏史/写真=FCA)
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テスト車のデータ
ジープ・ラングラー アンリミテッド 75thアニバーサリーエディション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4705×1880×1845mm
ホイールベース:2945mm
車重:--kg
駆動方式:4WD
エンジン:3.6リッターV6 DOHC 24バルブ
トランスミッション:5段AT
最高出力:284ps(209kW)/6350rpm
最大トルク:35.4kgm(347Nm)/4300rpm
タイヤ:(前)255/75R17/(後)255/75R17
燃費:--km/リッター
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
※諸元は米国仕様のもの。
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:--
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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ジープ・レネゲード 75thアニバーサリーエディション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4260×1805×1725mm
ホイールベース:2570mm
車重:--kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.4リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:9段AT
最高出力:175ps(129kW)/6400rpm
最大トルク:23.5kgm(230Nm)/3900rpm
タイヤ:(前)225/55R18/(後)225/55R18
燃費:--km/リッター
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
※諸元は米国仕様のもの。
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:--
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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