第450回:ああ、半年ぶりの東京・横浜!
「クルマ型シガレットケース」によろめいて
2016.05.20
マッキナ あらモーダ!
大塚家具でキョロキョロ
「北京モーターショー2016」取材の前後、東京に滞在した。
前回日本に来たのは、「東京モーターショー2015」のときだった。半年にわたる空白期間をアップデートしようとまず向かったのは、お家騒動で話題になった大塚家具であった。具体的には、新宿にあるIDC大塚家具 新宿ショールームである。
ただし、例の接客方法見直しは本当に実施されているようで、1階で近寄ってきたスタッフに「イタリアのポルトローナ・フラウを見せてください」と告げると、あとは自由に店内を散策できた。
残念ながら、久美子社長を見ることはできなかったが、もし彼女がいたら提案したかったのは、エレベーターのことだ。
ボクが訪れた平日昼過ぎは、お客さんよりも店員さんのほうが多かった。にもかかわらず、前身である三越南館時代そのままのエスカレーターが、地下1階から7階まで上り・下りともお客を乗せず淡々と動いているのは、なんともエネルギーを無駄にしているムードを与えてしまう。そればかりでなく、お客さんの少なさを目立たせてしまう。
いったん設置したエスカレーターの改造は難しいだろうが、せめて平日は人の接近を感知したら動く方式に変更できればと思う。昨今、エコフレンドリーな姿勢を示すことは、企業にとって決してマイナスではないだろう。
大塚家具のすぐそば、新宿駅南口には、新しいバスターミナルが完成していた。その名は「バスタ新宿」。イタリア語で「Basta」は「うんざりだ」を意味する。「新宿なんて、うんざりだ」になるが、アルファベットにすればBus terminalの略だろうから、「ま、いいか」と思った次第である。
「スバルサブレ」が東京で買える!
クルマに話を移せば、東京にずっと住んでおられる方は気がつかないかもしれないが、今回印象的だったのは、この半年で「日産NV200」のタクシーが爆発的に増えたことだ。
数年前、ひさびさに東京に降り立ったとき、「トヨタ・アクア」がいきなり増えていたのには及ばないが、それに準ずる増殖ぶりといってよい。
残念ながら、ボク自身は乗る機会に恵まれなかったが、高齢者が乗り降りしやすく、かつ車いすにも対応できるこうしたクルマの普及は歓迎すべきであろう。
タクシーといえば、シートバックのポケットに差し込まれたパンフレットだ。今回タクシーに乗ったら、「発毛クリニック」「ひざの軋(きし)み改善」が並んでいた。かつて、この手の広告といえば「電話秘書」だったのに。ここにも高齢化社会の進行がうかがえる。
2014年に完成した恵比寿の富士重工業本社ビルも、遅ればせながら訪ねてみた。
うれしかったのは、従来は、太田市の群馬製作所前のお菓子屋さん「伊勢屋」に行かないと入手が難しかった「スバルサブレ」など、スバルにちなんだお菓子が買えること。1階ショールームで確認できた。「トヨタ博物館カレー」よりも断然歴史が古いこのクルマ関連食品が、ようやく東京進出を果たしたのは朗報だ。
懐かしの自動車関連グッズに「ウォー!」
2016年5月1日、ボクが向かったのは、横浜産貿ホールで開催された、「元町サンセット 春季ワンダーランドマーケット」であった。テレビ東京の『何でも鑑定団』で「おもちゃ特別鑑定士」を務める、宇野規久男氏がオーガナイズする、おもちゃの“のみの市”である。今回で94回目になるという。
会場の産貿ホールには、数々のプロやアマチュアのセラー&コレクターがスタンドを広げていた。
一角ではオークションも開催されていた。閉会後、宇野氏に聞くと、「最近は海外からの参加も多いですね」と証言する。脇には、ちょうど香港からの2人組バイヤーが。
競り落とした品を見せてもらう。大量のトミカだ。日本のコレクターの間ではいまだマッチボックスなどの海外ブランドの人気が高いが、香港では日本のトミカが幅広い世代に人気という。ただし「箱入り美品」がマストらしい。
一方、数々の出展スタンドを散策しながら、ボクが思わず「ウォー!」と声を上げたのは、シガレットケース専門のスタンドである。
かつて日本で自動車を買うと、成約記念品として、金色や銀色のメッキが施された卓上シガレットケースがもらえたものだ。
わが家にも、ボクの幼年時代、「フォルクスワーゲン・ビートル」を買ったときにヤナセからもらったシガレットケースがあった。納車待ちの間、それを毎晩家族全員で眺めながら、実際にクルマがやってくる日を楽しみにしていたのを覚えている。
今回店を出していたのは、松井政則氏。日ごろの顔は、自動車パーツのサプライヤーの社員である。
若き日に「トヨタ・スポーツ800」を手に入れたほどのエンスージアストで、シガレットケース収集も趣味が高じたものだという。一時、憧れのクルマを手にいれたのを機に大放出してしまったものの、情熱は再燃したらしい。
しかし、あのシガレットケース文化、いつごろまで存在したのだろうか?
松井氏は「(A80型)スープラのころまではあったようです」と言って、実物を見せてくれた。
「そのあと、成約記念品はミニカーに取って代わられました」。
“人生初の原稿”と再会
松井氏のコレクションには、「日産オースチンA50ケンブリッジ」、初代「三菱デボネア」といったレア車が山のようにある。本欄で筆者が時折採り上げてきた幻のマツダ車「ロードペーサー」まであった。
気になるお値段だが、松井氏は、ほとんどに1万円札でおつりが来る値札をつけている。儲けよりも、シガレットケースをねたに咲く、来場者との話を楽しんでいるようだった。故・本田宗一郎の縁戚でもあるという松井氏は、極めて純粋なクルマ好きと察した。時間があれば筆者自身も、氏の営業妨害になるくらい、一台一台の話で盛り上がりたかった。
「チャイナタウンでよろめいて」は往年のアイドル相本久美子が1979年にリリースした持ち歌だが、チャイナタウンがある横浜で、シガレットケースによろめいてしまった筆者であった。もし、イタリア帰りのスーツケースに空きスペースがあったら、どれかひとつ買って帰りたかった。
実はそのワンダーランドマーケットで、もうひとつうれしかったことがある。
会場の入り口付近に並んでいた『モーターマガジン』誌だ。緑の「フィアットX1/9」が表紙の、1978年10月号である。
手にとって、無我夢中でページをめくる。あった、中学1年だった筆者が投稿したイラストが。いわば、生まれて初めて自動車雑誌に採用された“自分の原稿”である。
思い起こせば、日ごろあまり親しげな会話を交わさなかった亡父が、そのときばかりは町の書店でモーターマガジンを何冊も買ってきて、親戚一同に配ってまわったものだ。ボクとしては小っ恥ずかしかったが、今考えると、親としてはうれしかったのだろう。
すでにイタリアに住んで20年になるボクだが、日本は訪れるたび、いつも新しいモノと古いモノ、そして感傷と楽しさが入り交じる。それも自動車に対する長年の興味のおかげといえる。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
-
最終回:人それぞれに「最後のアルファ・ロメオ」 2026.8.27 イタリア・シエナで開催された「アルファ・ロメオ・スパイダー/GTV」のささやかなオーナーミーティングを、地元在住の大矢アキオが取材。あなたにとって最後で最高のアルファ・ロメオは、いつの世代のどのモデルですか?
-
第975回:ホンダ&スバルのTシャツがイタリアを席巻中 2026.8.20 イタリアで、ホンダやスバルをモチーフにした“日本車Tシャツ”が人気に。自動車をモチーフにしたアパレルの世界で、日本車や日本のブランドがもてはやされる理由とは? 素直に喜べないその背景を、現地在住の大矢アキオが考察する。
-
第974回:「民生用」と「軍用」をまたぐクルマたち――ルノーの最新戦術車両に思う 2026.8.13 ルノーのクロスオーバーSUV「ラファール」がまさかの軍用車に? ルノーと軍需との第1次大戦にまでさかのぼるつながりと、彼らが今ふたたび防衛産業と距離を詰め始めた理由、世界的に見られる軍用と民生用の垣根を超えたクルマの歴史を、大矢アキオが解説する。
-
第973回:静かになりすぎたクルマと「聴かせて、聴かせて隊」に思うこと 2026.8.6 最近イタリアでよく見かけるという、道行くスポーツカーやスーパーカーのドライバーに、豪快なエキゾーストサウンドをせがむ若者の姿。彼らの存在は静かになりすぎた四輪車に対するアンチテーゼか? 現地在住の大矢アキオが考察する。
-
第972回:黒船来襲も! イタリア自動車販売店は戦国時代 2026.7.30 イタリアで急速に進む、自動車販売店の統廃合と巨大グループの伸長。その背景にはどんな理由があり、私たちにどんな変化をもたらすのか? 現地在住の大矢アキオが、変わりゆく自動車販売のあり方を考察するとともに、消えゆく街かど自動車文化に思いをはせた。
-
NEW
トヨタ・ランドクルーザー“300”GRスポーツ(4WD/10AT)【試乗記】
2026.10.19試乗記トヨタの「ランドクルーザー“300”」にハイブリッドパワートレイン搭載モデルが登場。環境負荷低減のために牙を抜かれた……どころか、電気の力を味方に、さらに力強さを増しているから面白い。愛知県のオフロードコースで乗った印象をリポートする。 -
NEW
フェラーリが「日本上陸60周年」 記念祭から“ブランドの今とこれから”を読む
2026.10.19デイリーコラム「日本上陸60周年」を祝うファン感謝イベントを開催したフェラーリ。自動車界に燦然と輝くハイブランドは、いま何を目指しどこに行こうとしているのか? 経営トップの談話を交えながら推察してみよう。 -
日産キックスX e-4ORCE(前編)
2026.10.18思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「日産キックス」に試乗。デザインが新しいのはもちろんのこと、まさに下ろしたての最新のパワートレインを搭載。日産の大きな期待を背負ったコンパクトSUVである。箱根のワインディングロードでの印象を聞いた。 -
三菱eKクロスEV P(FWD)【試乗記】
2026.10.17試乗記三菱の軽乗用電気自動車(EV)「eKクロスEV」が、一部改良でデザインを刷新! 2022年発売の古参の一台は、台頭するライバルをどう迎え撃つのか? 最新モデルと比べても、キラリと光る魅力はあるのか? 軽EVのパイオニアが擁する一台の実力を確かめた。 -
写真で解説する「フィアット・グランデパンダ」
2026.10.16画像・写真ステランティスが「フィアットブランドの大きな柱のひとつとなる重要なモデル」と位置づける「グランデパンダ」が日本上陸。その具体的な見どころを、写真とともに解説する。 -
フィアット・グランデパンダ ハイブリッド ラプリマ(FF/6AT)【試乗記】
2026.10.16試乗記欧州を代表するコンパクトカーの一台である「フィアット・パンダ」が第4世代に進化。新たに「グランデパンダ」を名乗り、日本にやってきた。ずばり新型の見どころは車両の随所にちりばめられた初代モデルへのオマージュである。上位グレード「ラプリマ」の仕上がりをリポートする。