BMW 225xeアクティブツアラー ラグジュアリー(4WD/6AT)
身近に味わえるゼロエミッション 2016.06.06 試乗記 日本での販売も好調な「BMW 2シリーズ」の“FFモデル群”に、新たな選択肢「225xeアクティブツアラー」が加わった。単なるハイブリッドではない、驚きの四駆のプラグインハイブリッド車(PHV)である。日本市場を取り巻く環境とその実力を検証してみた。販売の新しいけん引力
2014年12月の登場以来、Mr.Childrenの楽曲を使った日本オリジナルのCM展開(基本的にBMWは本国で作られたテレビCMを日本でも使う)などによって、これまでの顧客とは異なるターゲット層に訴求してきた2シリーズのアクティブツアラーと、7人乗りミニバンの「グランツアラー」。この2台が、「MINI」のプラットフォームを使ったFF車であることについて今更説明の必要はないだろう。
やや古い言葉かもしれないが、30代をコアとするニューファミリー層に的を絞ったその狙いは的中し、販売は好調。取材時点では日本におけるBMWラインナップの中で、「3シリーズ」に続く販売台数を稼いでいるという。このシリーズの登場で若干でも“割を食った”BMW車はあるのだろうが、販売現場で声を聞くと、その多くは純増、つまり他ブランドからの新規顧客の獲得に成功しているという。
グレード展開を見ても、導入当初はガソリン車のみだったところに、2015年5月にクリーンディーゼルエンジンを搭載した「218d」を追加するなど、手綱を緩めることなく攻めの姿勢を貫いている。ここに登場したのが、同社のサブブランドである「BMW i」の流れをくむPHVである。
このクルマの登場により、アクティブツアラーはガソリン、ディーゼル、PHVと3種類のパワーユニットを持つことになり、ブランドとプロダクトのどちらからも前述したユーザー層への強いアピール力を手に入れたことになる。
外よりも内側にPHVを感じる
基本造形はこれまでのアクティブツアラーから大きな変化はない。パッと見ただけでは、左フロントフェンダー脇に充電口が設置されている程度である。あくまでも比較的、という言い方に限定するが、日本人はこういうモデルに対して“特別感”を求める傾向がある。それがエクステリアの専用グリルであったり、インテリアの特別な仕立てであったりするのだが、他方で225xeに限らず欧州車の多くは基本造形を大事にする。「能ある鷹(たか)は爪を隠す」ではないが、こういう作り方はチャラくない“大人”の仕立てである。
インテリアに目を向けると、こちらも基本造形に大きな変更はないが、センターコンソール下に設置された「eDrive」のスイッチや、BMWお得意の横に長い8.8インチワイドディスプレイに表示されるエネルギーマネジメント情報などが、他のモデルとは異なる。そして、ここに関しては文句というか“確認”となるのだが、高電圧のリチウムイオン電池が後席下に搭載されたことで、40:20:40の3分割可倒機構は残っているものの、他のアクティブツアラーには採用されていた130mmのスライド機構とバックレストの角度調整機構が廃止となっている。
ラゲッジスペースに関しては、前述のリチウムイオン電池に加え、荷室床下に電気モーターを搭載しながら、5名乗車時の容量は400リッターを確保。載せる荷物の種類にもよるが、「218iアクティブツアラー」の468リッターよりは少ないものの、積載力は“実用十分”だと感じた。もちろんゴルフバックを積む際はちょっとしたコツが必要だが、2セットがギリギリ積める点は日本市場的には“合格”である。
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ひと粒で3度おいしい駆動方式
225xeには3シリーズのPHVとは異なる独自の駆動システムが採用されており、1.5リッター直3ターボエンジンで前輪を、88ps/16.8kgmの電気モーターで後輪を駆動する。これに3種類の作動モードを組み合わせることで、走行状況に応じた自動切り替えと、ドライバーの任意選択の両方により、FF/FR/4WDの3種類の駆動方式を堪能できる。
8.8インチのディスプレイ内の表示をチェックしていると、その動きはかなり面白い。FR信者は眉をひそめるだろうし、ここに感心してBMWブランドを選ぶ人もいないのだろうが、既存の“駆動方式論議”を離れ、他のベクトルから俯瞰(ふかん)すると、このシステムはとてもぜいたくで、お得感を覚える。
普段の駆動モードについては、デフォルトで「AUTO eDrive」モードを選んでおけば問題ない。電気モーターとエンジンのバランスを考慮したもので、約80km/hまではモーターだけの走行も可能だ。
一方、ゼロエミッションで走りたい時は「MAX eDrive」モードを使えば125km/hまでのEV走行が可能だ。この場合は後輪駆動となるが、モーター特有の過剰なトルク発生がうまくコントロールされているので、出だしはスムーズ。自然な操舵(そうだ)フィールも気持ちがいい。ただし、調子に乗って市街地や高速をこのモードで走っていると、“最長距離”という断りがあるとはいえカタログ上の42.4kmという航続距離を走ることはできない。もちろん、各自動車メーカーが調査した一日の平均走行距離(買い物や送迎などが多い)は30kmに満たないという声も聞かれているので、現状はこれでいいと感じた。
一方、バッテリーの充電量を減らさないようにする「SAVE BATTERY」モードを使えば、バッテリーの残量を最大50%まで回復させることが可能だが、シフトレバーをマニュアルモード側に倒すと積極的にエンジンによる発電が始まり、最大80%まで充電することもできる。
そんな走り方ができる225xeではあるが、モーターによる後輪駆動と比較するとエンジン駆動時の微妙な振動が気になってしまう。雑ではないが、モーターという比較できる動力源が同じ個体の中に存在してしまうので、エンジンの透過音などはもう少し抑えこんでもいいのではと感じた。
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マンションに住む方も必見
225xeアクティブツアラー ラグジュアリーの価格は488万円。ガソリンエンジンを搭載する218iのラグジュアリーは392万円なので、100万円近く価格がアップする。もちろん装備は充実しているし、何よりも225xeは4WD車にもなる3種類の駆動方式を持っているので、価格だけを見ての単純な比較はできない。「100万円差を回収するには何万km乗って……」と計算をするユーザーには218iや218dをオススメする。
個人的には、225xeは充電施設を持つことが難しい集合住宅(マンション)のユーザーに対しても、ゼロエミッションカーへの門戸を開くクルマだと思っている。マンションの管理や区分所有に関する法令によると、議決に際して建て替えでは5分の4以上、共用部分等の変更では4分の3以上の賛成票が必要である。筆者は充電設備はマンションの資産価値を向上させると考えているが、メンテナンスや電気料金の徴収などのハードルが高く、実際、後から導入できているマンションは極めて少ない。
要は、225xeは自分で発電できるので、普段は普通のハイブリッドカーとしてしか使えなくても、早朝や深夜の入出庫の際には確実にEVモードで走ってくれる。マンション住まいで、近隣に対する騒音などを気にしている人にはオススメ。充電設備がなくても購入をためらうことはない。ユーティリティー、燃費性能、走り、これらを総合的に高次元でバランスさせた、見方によっては「全部入り」の万能クルマなのである。
(文=高山正寛/写真=荒川正幸)
テスト車のデータ
BMW 225xeアクティブツアラー ラグジュアリー
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4350×1800×1550mm
ホイールベース:2670mm
車重:1770kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.5リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
エンジン最高出力:136ps(100kW)/4400rpm
エンジン最大トルク:22.4kgm(220Nm)/1250-4300rpm
モーター最高出力:88ps(65kW)/4000rpm
モーター最大トルク:16.8kgm(165Nm)/3000rpm
タイヤ:(前)205/55R17 91W/(後)205/55R17 91W(ブリヂストン・トランザT001)
燃費:17.6km/リッター(JC08モード)
価格:488万円/テスト車=539万6000円
オプション装備:メタリックペイント<グレーシャー・シルバー>(7万7000円)/電動パノラマガラスサンルーフ<チルト&スライドコンフォートオープン/クローズ機能付き>(20万9000円)/アドバンスド・アクティブセーフティーパッケージ<ドライビングアシスト・プラス+BMWヘッドアップディスプレイ>(13万円)/アドバンスド・パーキングサポートパッケージ(4万3000円)/BMWコネクテッドドライブ・プレミアム(5万7000円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:2376km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(6)/高速道路(4)/山岳路(0)
テスト距離:109.1km
使用燃料:7.4リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:14.7km/リッター(満タン法)/15.1km/リッター(車載燃費計計測値)
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