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第347回:世界の“YORII”になれる日が来るのか?
ホンダ最新の生産拠点、寄居完成車工場見学記

2016.06.07 エディターから一言 高山 正寛
2013年に稼働したばかりの、ホンダ最新の寄居完成車工場。
2013年に稼働したばかりの、ホンダ最新の寄居完成車工場。 拡大

ホンダの国内生産拠点としては8番目の工場となる寄居完成車工場の内部が公開された。世界最新鋭の工場を通して見えてきた、ホンダの次時代戦略とは? 自動車産業における工場のあり方なども交えつつ追いかけてみた。

寄居工場の鳥瞰(ちょうかん)写真。栃木プルービンググラウンドと同じ設計のテストコースが設けられている。
寄居工場の鳥瞰(ちょうかん)写真。栃木プルービンググラウンドと同じ設計のテストコースが設けられている。 拡大
「ヴェゼル」のボディーにロボットがボンネットなどの蓋物(ふたもの)を取り付けているところ。使用されるエネルギー、工程の数、人の手間、作業スペースの広さと、寄居工場ではあらゆる視点での効率化が図られている。
「ヴェゼル」のボディーにロボットがボンネットなどの蓋物(ふたもの)を取り付けているところ。使用されるエネルギー、工程の数、人の手間、作業スペースの広さと、寄居工場ではあらゆる視点での効率化が図られている。 拡大
本田技研工業の八郷隆弘社長。2015年7月の就任記者会見では「現場とのコミュニケーションを強めていくこと」を最初の課題として挙げるなど、生産や開発の現場を重視する社長として知られている。
本田技研工業の八郷隆弘社長。2015年7月の就任記者会見では「現場とのコミュニケーションを強めていくこと」を最初の課題として挙げるなど、生産や開発の現場を重視する社長として知られている。 拡大

稼働は2013年7月 ホンダ自慢の最新鋭工場

のっけから何だが、筆者は工場見学が大好きだ。何より自分の知らないことをたくさん吸収できる。もちろん取材で行っているわけではあるが、クルマに限らずモノ(商品)が組み上がっていく工程を見るのは50歳を超えてもドキドキするものだ。

さて、ホンダの寄居完成車工場(以下寄居工場と表記)、思い起こせば2006年5月に建設計画を発表した際にも話題にのぼったが、その後2008年9月に世界中を襲ったリーマンショック、これでホンダをはじめ多くの企業がつまずいたことは説明の必要はないだろう。全面的な影響を受けたわけではないだろうが、この寄居工場もそれなりの方針変更を余儀なくされたことは想像に難くない。

結果として建設が再開されたのが、私の記憶では2010年7月。2013年7月に稼働までこぎつけた点は素直にすごいと思う。

2016年に入り、報道機関に内部が公開されるようになった寄居工場。今回は自動車メディアやアナリスト、そしてわれわれのような自動車系ジャーナリスト約70名(ざっくり数えてみました)がメディア向け見学会として取材したのだが、一番の「お楽しみ」は実は八郷隆弘社長との懇談だったりする。実際、八郷社長は現地でわれわれを迎えてくれて、見学の際も同行、そして最後はグループごとに分かれた意見交換会までフル参戦、正直こちらが恐縮してしまうほどで、厳しい質問にも笑顔でしっかりと答えてくれた。ホント、ヨイショ抜きでただただありがたい。

ホンダの製造分野における総本山

さて、「工場リポート」といえば、やれ敷地面積だ、最新鋭の組み立て技術だといった話にとかく終始しがちだが、それではあまりにもフツーすぎる。結局、ホンダは報道陣にこれを見せて何を伝えたかったのだろうか。

ホンダの説明によれば、寄居工場の目指す姿は「競争力ある生産技術を確立し、海外生産拠点へ技術を発信し続ける次世代のグローバルマザー工場を目指す」とある。

マザー工場……ざっくりとした意味では、海外展開する生産拠点の建設に際し、その生産システムや生産技術のモデルとなる工場のことをいう。最先端技術の研究や開発のほか、それぞれの拠点ごとに現地状況に合わせた“最適化”(人材の育成も含め)が必要となる「製造」分野の、総本山のようなものである。

すでにホンダは、「Nシリーズ」をはじめとする軽自動車の事業について、生産だけでなく企画なども三重県の鈴鹿工場に集中させる取り組みで成功をおさめている。車種に応じて“最適化”を行うことで、効率化などのさまざまなメリットを生み出すことができるわけだ。寄居工場はおおもととなる埼玉製作所の中にある3つの工場のうち、「フィット」「ヴェゼル」「グレイス」「シャトル」を主に生産、つまり共通のプラットフォームを持つコンパクトカーを担当している。ちなみに、同じ埼玉製作所の中でも、1964年に誕生した歴史ある狭山完成車工場は「アコード」「オデッセイ」「ステップワゴン」「フリード」などを担当。そして両工場に最先端の環境エンジンを供給するのが小川エンジン工場。この3つで小型車から中・大型車までを幅広くカバーしている。

コイル状の鋼板から部材を切り抜く工程には、レーザーを用いた「レーザーブランキング」という工法を採用。プレス式とは違って部品ごとに金型を交換する必要がなく、さまざまな形の鋼板をすばやく、大量に、高い精度で切り抜くことができる。
コイル状の鋼板から部材を切り抜く工程には、レーザーを用いた「レーザーブランキング」という工法を採用。プレス式とは違って部品ごとに金型を交換する必要がなく、さまざまな形の鋼板をすばやく、大量に、高い精度で切り抜くことができる。 拡大
切り出された鋼板を部品の形に成形するプレス工程では、(1)大まかな成形、(2)余った部位のカット、(3)細かな成形、(4)穴あけなどの緻密な成形という4つの工程を担う4台のプレスマシンを一直線に配置。ひとつの部品につき6~7秒を要したサイクルタイムを、3.3秒に短縮している。
切り出された鋼板を部品の形に成形するプレス工程では、(1)大まかな成形、(2)余った部位のカット、(3)細かな成形、(4)穴あけなどの緻密な成形という4つの工程を担う4台のプレスマシンを一直線に配置。ひとつの部品につき6~7秒を要したサイクルタイムを、3.3秒に短縮している。 拡大
金型交換の時間を短縮するために新設された自動金型ラック。左右の棚に全157種類の金型が収められており、搬出、搬入には大型のクレーンを使う。この設備の導入により、これまで30分以上かかっていた金型交換の「前段取り」と呼ばれる作業の時間は、約10分に短縮された。棚の耐荷重は40tで、震度6の地震に耐える設計となっている。
金型交換の時間を短縮するために新設された自動金型ラック。左右の棚に全157種類の金型が収められており、搬出、搬入には大型のクレーンを使う。この設備の導入により、これまで30分以上かかっていた金型交換の「前段取り」と呼ばれる作業の時間は、約10分に短縮された。棚の耐荷重は40tで、震度6の地震に耐える設計となっている。 拡大

大きくアピールされる低炭素化と自動化

もともと狭山と小川に工場がある以上、今後のクルマ造りの核となるマザー工場を作るのならば、近隣である方が望ましい。

実際、サプライヤーも含めた物流や人材配置なども考えると、必然的にこのエリアに工場を建設することになるのだが、同時にこれまで取引先から中継基地を経て工場に納入してきたフロアマットやルーフライニングなど10部品に関しては、中継基地を廃し、工場内に“サプライヤーパーク”を設置することで物流面のコストや効率を高めているという。

またこの工場の目的の中に「低炭素化」が掲げられているが、前述の取り組みによって年間504tのCO2を削減。このほかにも2.6MWのメガソーラー発電システムを設置したほか、組み立てなどを行う従業員に効率よく空調を効かせることができる居住空間空調の採用などにより、従来より使用エネルギーを40%も減らすことに成功している。高断熱・高気密仕様の建屋などともあいまって、これら合計で年間では3508tのCO2が削減できるという。

工場を見て一番感じたのがやはり自動化である。細かいことは写真のほうにいくつか書き記してあるが、車体組み立てラインでも11カ所にわたり自動化が採用されており、どの工程の説明を聞いても、これまでの……言い換えれば狭山工場と比較して○○%効率化、というフレーズが多い。もちろん狭山工場が遅れているわけではない。寄居工場で生まれたノウハウは狭山工場へもフィードバックされるし、そしてグローバルにも展開される。マザー工場の役割というのはこういうものであることも理解できた。

各部品を組み合わせ、クルマの基本となる形を作る溶接工程。寄居工場では先にインナー骨格を溶接し、次の工程で外板を貼り付けるという手順を採用。治具の小型化や生産効率の向上を実現するとともに、完成車の軽量化にも寄与しているという。
各部品を組み合わせ、クルマの基本となる形を作る溶接工程。寄居工場では先にインナー骨格を溶接し、次の工程で外板を貼り付けるという手順を採用。治具の小型化や生産効率の向上を実現するとともに、完成車の軽量化にも寄与しているという。 拡大
フロントとリアの足まわりを組み付ける「マルチサスペンションマウント工程」。車体が浮かないように下に引っ張りながら、下から差し入れるようにして足まわりが組み付けられる。
フロントとリアの足まわりを組み付ける「マルチサスペンションマウント工程」。車体が浮かないように下に引っ張りながら、下から差し入れるようにして足まわりが組み付けられる。 拡大
タイヤ取り付けの作業は、左右2台ずつ、計4台のロボットで行う。まずはロボ1がタイヤを受け取っている間にロボ2が車体の位置を測定。次いでロボ1がタイヤを取り付け、ロボ2がナットを締め付ける。この作業を前輪、後輪と2度繰り返すことで、4輪の装着が行われる。
タイヤ取り付けの作業は、左右2台ずつ、計4台のロボットで行う。まずはロボ1がタイヤを受け取っている間にロボ2が車体の位置を測定。次いでロボ1がタイヤを取り付け、ロボ2がナットを締め付ける。この作業を前輪、後輪と2度繰り返すことで、4輪の装着が行われる。 拡大

自動車の進化と世界戦略に見る寄居の重要性

見学後の意見交換会では各メディアやジャーナリストからも八郷社長や同席した河野丈洋寄居工場長らへ積極的な質問が飛んだ。

言葉を選びながらではあるが、ホンダの首脳陣からは現在の国内販売の厳しい状況を感じ取ることができた。これはホンダに限ったことではないが、生産能力が向上してもそれを受け入れるだけの市場が現在の国内にどれだけあるのか、と疑問符も付く。

それでも、今後本格化するであろう自動車の“電動化”を視野に入れたものづくりを考えた場合、あるいはホンダが掲げる、中国やヨーロッパ、北米など世界6極体制を進化させるというビジョンをかんがみると、マザー工場の役割はわれわれが思う以上に重要だ。八郷社長が語った「ホンダらしい製品の開発が急務である」という言葉に今後われわれが期待する部分は大きい。

(文=高山正寛/写真=本田技研工業、webCG)
 

埼玉製作所の鎌田雅之所長(手前)と、同寄居完成車工場の河野丈洋工場長(奥)。寄居工場については低炭素化や自動化などに加え、労働災害をいかに起こさないようにするかについても腐心したという。
埼玉製作所の鎌田雅之所長(手前)と、同寄居完成車工場の河野丈洋工場長(奥)。寄居工場については低炭素化や自動化などに加え、労働災害をいかに起こさないようにするかについても腐心したという。 拡大
八郷社長は今後の本田について「(世界生産)500万台の規模で生き延びていきたい」「四輪も二輪も汎用(はんよう)機器もやっているのがホンダの強み。新しいモビリティーを提案できたらと考えている」と述べた。
八郷社長は今後の本田について「(世界生産)500万台の規模で生き延びていきたい」「四輪も二輪も汎用(はんよう)機器もやっているのがホンダの強み。新しいモビリティーを提案できたらと考えている」と述べた。 拡大
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