トヨタ・パッソ モーダ“Gパッケージ”(FF/CVT)
生活密着型コンパクトカー 2016.06.09 試乗記 軽よりも少し大きな小型車「ダイハツ・ブーン/トヨタ・パッソ」がフルモデルチェンジ。トヨタ版の上級モデルである「パッソ モーダ」を借り出して、“生活の足”としてのクルマのあり方を考えた。軽の技術でクルマを変える
ガソリンエンジンで走る自動車が生まれて130年。この間クルマはいろいろな方向に進化を遂げていったけれど、その中で最も重要なファクターは「普及」だったかもしれない。
当初のクルマはごく限られた富裕層のための高級車やスポーツカーばかりで、いわば趣味の対象だった。それがヘンリー・フォードの流れ作業が契機になって、大量生産によって価格が下がり、僕たち一般大衆がクルマを手にすることができるようになると、便利な道具としての側面がクローズアップされるようになった。
というか、今では多くの人が、快適に移動できて荷物も運べるという移動体としての部分に、大きな価値を認めているのではないだろうか。
クルマ好きの中には、「速くて豪華なクルマこそ素晴らしい」という伝統的な価値観を持つ人も多くいる。そういう人は概してクルマの家電化を嘆いたりするけれど、現実には自動運転社会が間近に迫ってきているわけで、家電のように誰もが安心して便利さを享受できるクルマを望む人は、僕たちが考える以上に多いはずである。
トヨタ・バッソも、そんなユーザーに向けた一台だと考えている。キャッチコピーは「軽じゃないK」としており、兄弟車のダイハツ・ブーンは「軽の技術でコンパクトを変えていく」とアピールしている。軽自動車が得意とする生活密着型の商品提案を、コンパクトカーのカテゴリーで展開したクルマだからだ。
標準車とカスタムの2本立て
軽自動車はボディーサイズや排気量に上限があり、速さや豪華さを追求するには限界がある。だから「ホンダS660」のような一部のスポーツタイプを除くと、クルマ好きはあまりこのジャンルに興味を示さない。しかし軽自動車がミニマムトランスポーターとして生まれたことを考えれば、規格の存在は十分理解できるし、新車販売台数の4割近くを占めているのだから、一定の支持が得られていると見るべきだ。
そんなユーザーへ向けて送り出された新型パッソには、シンプルで親しみやすい「X」グレードに加え、スマートかつ上品な装いの新グレード「モーダ(MODA)」もあり、取材車はこのモーダだった。ダイハツが軽自動車で展開する標準車とカスタムのペアを、コンパクトカーに導入したものと考えればよいだろう。
価格は標準車よりもモーダのほうがやや高いけれど、「ムーヴ」などの例から察すると、販売台数はモーダのほうが多いのだろうと勝手に想像していた。ところが発売の約1カ月後に発表されたパッソの受注台数は、おおむね6:4でXのほうが多かった。
個人的に、この種のラインナップで好感を抱くのは、間違いなく標準車のほうである。パッソの場合もXグレードのシンプルな仕立てに軍配を上げたくなる。特にバンパー周辺の造形は秀逸だと思っている。そう考える人が自分以外にも多いのか、カスタム人気が根強い軽自動車とはマーケットの状況そのものが違うのか、いずれにせよ興味深い結果である。
居心地がよく、運転もしやすい
ドアを開けて運転席に乗り込もうとして、アクセスのしやすさに感心した。サイドシルがかなり低いのに対し、シートは乗り降りしやすい高さにあったからだ。このあたりは軽自動車の美点をそのまま受け継いでいる。それでいて全高は1535mmだから、機械式の立体駐車場に楽に収まる。考え抜かれたサイズだ。
前席は座面の厚みがたっぷり取られており、幅はもちろん軽自動車より余裕があって、なかなか心地いい。ところが両手を前に伸ばすと、ステアリングが遠い。シートのハイトアジャスターを上げていくと、ちょうどよくなった。逆に言えば、小柄な人でも不満のない運転環境が得られそうだ。
後席はコンパクトカーとしてはかなり広い。この点にも軽自動車の経験が生かされている。シートアレンジは背もたれを前に倒すだけとシンプルだが、その代わり前席同様座面には厚みがあって、中央席にもヘッドレストと3点式ベルトが用意されているなど、使うことより座ることに重点を置いた設計だ。軽自動車よりロングランを行う可能性が高いことを想定しているのだろうか。
今回は東京都内や高速道路といった試乗でよく使うルートのほかに、地方の生活道路も走ってみた。1リッター直列3気筒自然吸気エンジンとCVTのコンビが、最も似合っていたのはこうしたシーンだった。高速道路ではターボ付き軽自動車のほうが余裕があるという印象だったのに対し、地方の道では自然吸気エンジンの文字通り自然なレスポンスと力の盛り上がりが運転のしやすさにつながる。
地方は移動をクルマに頼る人が多いので、朝夕の渋滞は東京以上という場所も多い。この日も実際に渋滞にはまった。そんなシーンでも、自然吸気エンジンとCVTのコンビは気持ちをリラックスさせてくれた。
地方道では水を得た魚のよう
以前、試乗会でパッソに乗っていちばん衝撃的だったのは、ステアリングフィールだった。操舵(そうだ)に対して正確に切れるのだが、フィードバックがほとんどなく、積極的に走ろうという気持ちがうせてしまった。たぶんクルマ好きからは芳しくない評価をもらうことになるだろう。
でもこの日の地方道では、それが欠点とは感じなかった。こういうフィーリングのほうが、通勤や買い物のようなシーンでは余計な気を煩わせない分だけ好ましいのではないか? とさえ思ったりした。
路面の悪いところでは、サスペンションがショックを伝えてくることもあるけれど、分厚いシートがそのショックを和らげてくれるので、結果としての乗り心地は不快ではない。そして全長3660mm、全幅1665mmというコンパクトなサイズは、狭い道での圧倒的な機動性を生み出している。
東京から東名高速道路に乗って、箱根の山を攻めるような走り方では、パッソの良さはこれっぽっちも理解できないだろう。当然だ、そういう人のために作られたクルマではないのだから。地方の道を流すパッソは、水を得た魚のようだった。人がクルマに乗る理由はさまざま。自動車ジャーナリズムに身を置く人間は、そのことを忘れずにクルマに対峙(たいじ)すべきという思いを新たにした。
(文=森口将之/写真=郡大二郎)
テスト車のデータ
トヨタ・パッソ モーダ“Gパッケージ”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3660×1665×1525mm
ホイールベース:2490mm
車重:910kg
駆動方式:FF
エンジン:1リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:69ps(51kW)/6000rpm
最大トルク:9.4kgm(92Nm)/4400rpm
タイヤ:(前)165/65R14 79S/(後)165/65R14 79S(ダンロップ・エナセーブEC300+)
燃費:28.0km/リッター(JC08モード)
価格:165万7800円/テスト車=198万6606円
オプション装備:ボディーカラー<ブラックマイカメタリック×ダークエメラルドマイカ>(5万4000円)/ナビレディパッケージ<バックカメラ+ステアリングスイッチ[オーディオ操作]>(2万9160円)/SRSサイドエアバッグ<運転席・助手席>+SRSカーテンシールドエアバッグ<前後席>+ELR付き3点式シートベルトプリテンショナー&フォースリミッター機構<左右席>(4万9680円) ※以下、販売店オプション スタンダードナビ(15万1524円)/ETC車載器ビルトインタイプ<ボイスタイプ>ナビ連動タイプ(1万7442円)/フロアマット<MODA>(2万7000円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:1163km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(7)/山岳路(0)
テスト距離:215.8km
使用燃料:11.5リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:18.8km/リッター(満タン法)/16.9km/リッター(車載燃費計計測値)
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森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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