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第349回:メルセデス・ベンツのデザイナーが語る
“モダンラグジュアリー”と“ドリームカー”

2016.06.10 エディターから一言 内田 俊一
「メルセデス・ベンツSクラス カブリオレ」と、独ダイムラーのエクステリアデザイン シニアマネージャーを務めるアヒム・ディートリッヒ・バドシュトゥブナー氏
「メルセデス・ベンツSクラス カブリオレ」と、独ダイムラーのエクステリアデザイン シニアマネージャーを務めるアヒム・ディートリッヒ・バドシュトゥブナー氏。 拡大

メルセデス・ベンツは2016年6月2日、「Sクラス カブリオレ」をはじめとする3台のオープンカーを一斉に日本で発表した。発表会に合わせて来日したデザイナーに、新しいデザインコンセプトである“モダンラグジュアリー”とは何か、そして3台の“ドリームカー”について話を聞いた。

ステージ場に並べられた、右から「SL」と「Sクラス カブリオレ」「SLC」。メルセデス・ベンツでは、クーペやオープンカーなどが“ドリームカー”と呼ばれている。
ステージ場に並べられた、右から「SL」と「Sクラス カブリオレ」「SLC」。メルセデス・ベンツでは、クーペやオープンカーなどが“ドリームカー”と呼ばれている。 拡大
発表会において、メルセデス・ベンツのデザインコンセプト「モダンラグジュアリー」について説明するバドシュトゥブナー氏
発表会において、メルセデス・ベンツのデザインコンセプト「モダンラグジュアリー」について説明するバドシュトゥブナー氏。 拡大
発表会には長年メルセデス・ベンツを愛用しているというカメラマンの篠山紀信氏(写真右)も登場。会場を盛り上げた。
発表会には長年メルセデス・ベンツを愛用しているというカメラマンの篠山紀信氏(写真右)も登場。会場を盛り上げた。 拡大

モダンラグジュアリーと日本の文化

40年以上の時を経て復活したSクラス カブリオレと、フェイスリフトを施した「SL」「SLC」を同時に発表したメルセデス・ベンツ。メルセデスでは、同ブランドの伝統を象徴するクーペやカブリオレ、ロードスターを“ドリームカー”と呼んでいるそうだが、そのドリームカーをデザインしたダイムラーAGのエクステリアデザイン シニアマネージャー、アヒム・ディートリッヒ・バドシュトゥブナー氏がこれを機に来日。新たに掲げられたメルセデス・ベンツのデザインコンセプト、モダンラグジュアリーについて、そして、今回デビューしたドリームカーたちのデザインについて話を伺った。

――従来のラグジュアリーの概念とは一線を画すモダンラグジュアリー。このワードをメルセデスの新しいデザイン哲学に据えたわけですが、これはどういうものなのでしょうか。

アヒム・ディートリッヒ・バドシュトゥブナー氏(以下、バドシュトゥブナー。敬称略):そもそもラグジュアリー、贅沢(ぜいたく)さ、豊かさという概念は国や文化によって違っています。ロシアや中国、アメリカなどでは「もっとたくさん」「もっと大きく」というイメージですね。それらの国々では、例えばクロムパネルを追加するなどの配慮が求められます。一方で日本では、「もっとうんぬん」ではなく、シンプルな完璧性が求められるのです。キャラクターラインの数が減り、シンプルなラインになったとしても、パーフェクトなデザイン、プロポーションを保たなければならないのです。

今回、モダンラグジュアリーという言葉を使っていますが、背景にはこの日本のような考え方、あるいはドイツのバウハウスが体現するようなものを示していきたいという考えがあります。それがモダンラグジュアリーの定義です。

メルセデス・ベンツ Sクラス の中古車

足し算ではなく引き算で完成度を高めていく

――モダンラグジュアリーでは、「情熱と知性、ラグジュアリーとモダン、官能(センシャル)と純粋(ピュリティー)という異なる両極端な要素を、それぞれのモデルラインナップの性格に合わせ、プロポーションや面構成、ディテールで表現していく」とありますが、具体的にはどういう表現になりますか。

バドシュトゥブナー:そうですね。まず大事なのは、相反する概念をどのような形でコントラストさせながら、完全に融和させるかということです。非常に光沢のある表面や、純粋性の高い、完成度の高いラインで構築し、突き詰めていくことを考えています。
これはもちろんインテリアでも同様です。例えばダッシュボードにスイッチを数多く付けるのではなく、少なくすることで印象がクリーンになる。この方向性もモダンラグジュアリーを目指しているからなのです。

モダンラグジュアリーを実現するための一例をご説明しましょう。われわれのデザインスタジオにP1(プレゼンテーションホール1)があります。そこで新たなデザインを評価する際に、モデルを展示します。デザイナーたちはそのモデルの運転席側に立ち評価をします。これでいいかな、いいよと全員が評価したら、そこから1本ラインを取るのです。その結果をまた評価し、それもOKになると、さらに削減する。そのような方向で、純粋性の高い、完成度の高いデザインを進めていくのです。ただし、取ってしまったがために、あまり良くないという評価になった場合にはその時に取ったものを戻します。

完璧なデザインであったならば何も追加的なラインは必要ありませんし、トリミングも不要です。人体で例えるなら、太った人を格好良く見せるためには、やせて見せるようにしたりと、いろいろな工夫が必要でしょう。しかし、パーフェクトボディーを持っている人であれば、洋服など必要ない。裸体でも美しいと思うものです。
つまりラインを、完璧でないものをカバーする、あるいはごまかすために使わないようにするのです。

発表会では「HOT」と「COOL」など、相反するテーマの両立が「モダンラグジュアリー」のキーとして語られた。
発表会では「HOT」と「COOL」など、相反するテーマの両立が「モダンラグジュアリー」のキーとして語られた。 拡大
「S550カブリオレ」のインストゥルメントパネルまわり。
「S550カブリオレ」のインストゥルメントパネルまわり。 拡大
「Sクラス カブリオレ」のサイドビュー。
「Sクラス カブリオレ」のサイドビュー。 拡大

ドリームカーに共通するデザイン、異なるデザイン

――今回、ドリームカーの頂点ともいえるSクラス カブリオレが日本でもデビューしました。そこで、同時にフェイスリフトしたオープンモデルであるSLやSLCとの共通点、そして、あえて異なるデザインを採用したところを教えてください。

バドシュトゥブナー:まず共通点ですが、ヘッドランプです。2つのランプや、眉のようなLEDのポジションランプが組み込まれているところは共通です。これはメルセデスファミリーの特徴です。また、AMGではバンパー下部の形状が「Aウイング」と呼ばれるブレード状になっており、すぐにAMGとわかるようなデザインを採用しています。

サイドではプロポーションに共通性があります。プレステージメジャーメントと申しますか、フロントホイールからAピラー側のドアのラインまでの長さで高級感を醸し出しています。またノーズの長さやキャビンが相対的に小さいことも共通です。

違いとしては、キャラクターラインが挙げられます。SLとSLCはウエッジラインを使っているのに対し、Sクラス カブリオレはドロッピングラインを使っています。また、SLのフロントグリルは1952年の「300SLパンアメリカーナ」のオマージュです。エアアウトレットの有無によってもスポーティーさの違いを出しており、SLの方がスポーティーで、Sクラス カブリオレの方がクラシカルです。そのほかにも、テールランプがSクラス カブリオレは2ピースであるのに対し、SLは1ピースで形状も違います。ナンバープレートの位置も異なっています。

――ではなぜSクラス カブリオレは後ろに行くにしたがって徐々に下がっていくドロッピングラインを採用し、SLとSLCは逆に上がっていくウエッジラインを採用したのですか。

バドシュトゥブナー:SLは長い歴史のあるクルマで、それぞれの世代ごとにユニークな特徴を持っています。例えば、「300SL」にはあるエアアウトレットはパゴダルーフの「280SL」にはありません。そして、もちろん踏襲しているデザインも持ち合わせています。いずれにしろ、ほかのメルセデスとは一線を画したデザイン理念を持っているのです。そして、SLCはSLと兄弟関係にあるということも忘れてはなりません。

その点を踏まえ、ドロッピングラインとウエッジラインについて考えましょう。SLとSLCは2シーターで、全長が短く、ウエッジラインの方がスタイリッシュになると考えています。一方全長が長い4シーターのSクラス カブリオレは、ドロッピングラインの方がエレガントで高級感を醸し出せます。つまり、ドロッピングラインは全長が長い方が見栄えが良くなるのです。

「S550カブリオレ」のフロントまわり。
「S550カブリオレ」のフロントまわり。 拡大
「SL」のフロントグリルは、往年のレーシングカー「300SLパンアメリカーナ」のそれをモチーフにデザインされた。
「SL」のフロントグリルは、往年のレーシングカー「300SLパンアメリカーナ」のそれをモチーフにデザインされた。 拡大
1952年の「カレラ・パナメリカーナ・メヒコ」で活躍した「300SL」のレーシングカー。
1952年の「カレラ・パナメリカーナ・メヒコ」で活躍した「300SL」のレーシングカー。 拡大
ドアパネルを通るプレスラインに注目。「SL」には、リアに行くほど高さが増していくウエッジラインが用いられている。
ドアパネルを通るプレスラインに注目。「SL」には、リアに行くほど高さが増していくウエッジラインが用いられている。 拡大

大工からカーデザイナーへ

さて、最後に1987年にカーデザイナーとしての道を歩み始め、2014年より現職に就いたバドシュトゥブナー氏のプライベートについて少し伺ってみよう。

――これまでフォードやベルトーネ、オペル、アウディなどを経てメルセデスのデザイナーになったそうですが、そもそもなぜ、カーデザイナーになろうと思ったのですか。

バドシュトゥブナー:ドイツでの“キャリアパス”は2つに分かれています。高学歴でさらに教育を続けるか、あるいは徒弟奉公、マスターについて技術を学ぶという道があります。私は最初、大工になるべくマスターについて実際的な知識や技術を学んでいました。その途中で、クルマのデザインの教育を受ける機会を得ることができたのです。これは私の願いがかなったと思いました。もともとクルマのデザイナーになりたかったのですが、そのキャリアに向かうことは難しかったからです。

その後、さまざまなステップを踏んで、メルセデスのデザイナーになれました。本当に願ってもいなかったような、素晴らしい夢の実現です。メルセデスは130年というクルマの歴史を体現化している会社です。これからも続くであろう自動車の歴史の中の、1章とは言わない、1部、1ページ、1センテンスであっても、私が何か寄与することができたら、本当に素晴らしいことだと思っています。そのうえ、これだけのドリームカーをラインナップとして持つことができる会社は世界広しといえどもメルセデスしかない。そこに職を得たことは本当にうれしく思っています。
実は、子供のころからクルマもバイクも好きでした。特に「カワサキZ1000」は大好きなバイクで、子供時代は学校のノートに落書きばかりしていたんですよ……。

バイクの話を喜々として語るバドシュトゥブナー氏。一方で、クルマの特徴を伝える時は、ミニカーを手に、時に真剣に、時に冗談を交えながら細部にまで説明を加える。そのしぐさにはメルセデスに対する深い愛情と畏敬の念が込められており、なによりも、いま自分が自動車の歴史を作ったメルセデスのデザイナーであることに対する喜びと誇りが感じられた。

(文=内田俊一/写真=内田俊一、メルセデス・ベンツ日本、webCG)
 

発表会にてメルセデス・ベンツ日本の上野金太郎社長と談笑するバドシュトゥブナー氏
発表会にてメルセデス・ベンツ日本の上野金太郎社長と談笑するバドシュトゥブナー氏。 拡大
発表会の会場には、往年のメルセデス・ベンツのオープンモデルも展示されていた。手前から、1963年式「190SL」、1984年式「380SL」、1970年式「280SE 3.5カブリオレ」。
発表会の会場には、往年のメルセデス・ベンツのオープンモデルも展示されていた。手前から、1963年式「190SL」、1984年式「380SL」、1970年式「280SE 3.5カブリオレ」。 拡大
1987年にカーデザイナーとなり、以降さまざまなメーカーをわたり歩いてきたバドシュトゥブナー氏。ダイムラーでは、2014年から現職を務めている。
1987年にカーデザイナーとなり、以降さまざまなメーカーをわたり歩いてきたバドシュトゥブナー氏。ダイムラーでは、2014年から現職を務めている。 拡大
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