ホンダ・アコード ハイブリッドEX(FF)
革新性にかげりなし 2016.06.13 試乗記 誕生から40年を迎えた今年、「ホンダ・アコード」が大幅なマイナーチェンジを受けた。よりパワフルかつトルクフルに進化したパワーユニットの出来栄えはいかに? 変更されたエクステリア、インテリアの印象と併せて報告する。今年はアニバーサリーイヤーなのに……
ホンダ・アコードがデビューしたのは1976年。今からちょうど40年前のことだ。その記念すべき年に今回のマイナーチェンジは行われた。だからこそ不思議に思った。なぜ作り手自身が、アニバーサリーを祝わないのだろうか。
ひと足先に登場した「シビック」は、いまや日本では「タイプR」が限定販売されるだけ。軽トラックに「アクティ」という名前が与えられたのは1977年のことだ。二輪の世界では1958年発表の「スーパーカブ」という大先輩がいるけれど、四輪車ではアコードが、ホンダで最も長い系譜を保つ。
しかもこのアコード、最近はおとなしいセダンというイメージになっているけれど、かつては革新的なモデルだったことを、1962年生まれの筆者に近いか、より上の世代の人なら覚えているはずだ。
初代は、当時の1.6リッターとしては異例の3ドアハッチバック、しかも前輪駆動というパッケージングだった。叔父が購入した一台に乗せてもらうと、室内は広く、加速は滑らかで、乗り心地はしっとりしていて、今風に言えばクラスレスカーだった。
リトラクタブルヘッドランプに4輪ダブルウィッシュボーンサスペンションを備えた3代目も「エアロデッキ」という個性的な派生モデルともども印象に残っている。続く4代目で、ワゴンを北米生産の輸入車として販売したことも当時としては新鮮だった。
5代目で北米市場の要求に応えて3ナンバーボディーに拡大したものの、6代目では日本専用の5ナンバーに戻り、7、8代目では今度は欧州仕様と同一になるなど、迷走していた時期もある。でも、北米仕様と共通に戻った2013年発表の現行型が積むハイブリッドシステムは燃費性能が高く、革新性は受け継がれている。
だからこそ、「なぜお祝いしないの?」という気持ちを抱きながらの試乗となった。
落ち着きを増した内外装
新型アコードのラインナップはマイナーチェンジ前と同じで、「LX」と「EX」の2タイプがある。40年前の初代にも存在したグレード名だ。今回は上級のEXに乗った。
エクステリアは、フロントマスクがすっきりした。従来のアコードは、同じホンダでは「S660」や「ヴェゼル」と同じように、フロントグリルを下に伸ばし、ライセンスプレートをその中に入れるタイプだった。それが新型ではシンプルな横長となり、バンパーも横一線に伸びるというオーセンティックな造形になっている。
さらにホンダは、これまでハイブリッドカーらしさの演出としてブルーをアクセントに使うことが多かったけれど、新型ではそれが控えめになった。こうしたリファインによって、このクラスのセダンにふさわしい落ち着きが増した。
インテリアも大人っぽさがアップしている。ステアリングやセンターコンソールの木目調パネルをやめ、インパネとドアトリムにとどめたことが効いている。飾り立てることが高級ではないことに、ようやく気付いたようだ。
一方で、センターコンソールにあったセレクターレバーは「レジェンド」や次期「NSX」に似たボタン式に置き換わった。先の2台で慣れていたせいもあるけれど、使いやすいし、電動パーキングブレーキを一体化したデザインはスマートで、かつてのアコードの革新性を継承するディテールだと感じられた。
シートは前後とも、かつてのアメリカ車を思わせるふっかりした掛け心地だ。室内空間は広大で、身長170cmの僕なら後席で足が組める。しかもソファのような着座姿勢なのでリラックスできる。後方のトランクは、リチウムイオンバッテリーの小型化で奥行きが広くなっていた。
より“電気自動車っぽさ”が増した
発電用と走行用の2つのモーターを持ち、低中速では2リッター直列4気筒エンジンは発電に専念するが、高速ではクラッチがつながって駆動を担当するというハイブリッドシステムの原理は従来と共通。ただし、先に「オデッセイ」に搭載されたアップデート版をコンバートすることで、モーターの最高出力、最大トルクは向上している。
アコードのハイブリッドはいままでも、一般道ではほぼ電気自動車だったけれど、車両重量が30kg軽くなったうえにモーターが力強くなったことで、その印象がさらに強まった。静粛性も従来以上に高く、エンジンがいつ回っているか、即座には判別できないほどだ。
今回のマイナーチェンジでは「スポーツモード」とステアリングパドルが追加されているが、前者は選ばなくても十分な加速が手に入るうえに、エンジンが回り気味になるのであまり使いたいと思わなかった。ありがたかったのは後者だ。アコードはギアボックスを持たないので、このパドルは回生ブレーキの強さを4段階から選ぶためのもの。エネルギー回収の促進にもつながるこちらは、山道で重宝した。
EXグレードのタイヤサイズは旧型の225/50R17から235/45R18になった。そのため乗り心地は段差や継ぎ目のショックが強めだが、基本的にはシート同様、かつてのアメリカ車を思わせるソフトライドだった。にもかかわらずハンドリングは相変わらず素直で、ロールの出方も違和感がない。
長距離移動のベストチョイス
タイヤが太くなったことで気になったのは、最小回転半径が5.7mから5.9mに拡大したことである。実際に運転していても、他車なら一発で曲がれる場所で切り返しを要することが何度かあった。
もうひとつ、「Honda SENSING(ホンダセンシング)」と呼ばれる運転支援システムは、現在の水準ではセンサーの精度は並で、また世界初といわれる光ビーコンを使用した「信号情報活用運転支援システム」は、残念ながら僕の運転中は反応する信号に出会わなかった。
その代わり燃費は素晴らしかった。普通に走っても車載燃費計は簡単に20km/リッターをマークするし、下り坂が連続する道ではカタログデータの30km/リッターを超えることさえあった。
近年のアコードは、日本製アメリカ車と呼びたくなるキャラクターの持ち主だ。アコードだけではない。「トヨタ・カムリ」や「スバル・レガシィB4」など、このクラスの国産セダンの多くはアメリカを向いていて、乗り味もそれっぽい。
ヨーロッパ車を基準と考える人が多いわが国では、こうしたクルマはあまり評価されないけれど、大人4人が快適に長距離移動をこなすなら、このあたりがベストチョイスだと自分は考えている。
その中でもアコードは、最も安楽志向が高く、最も燃費が良い。北米大陸の人々に愛され続けてきたクルマの、40周年を飾るにふさわしい姿だと思う。
(文=森口将之/写真=向後一宏)
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テスト車のデータ
ホンダ・アコード ハイブリッドEX
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4945×1850×1465mm
ホイールベース:2775mm
車重:1610kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ
エンジン最高出力:145ps(107kW)/6200rpm
エンジン最大トルク:17.8kgm(175Nm)/4000rpm
モーター最高出力:184ps(135kW)/5000-6000rpm
モーター最大トルク:32.1kgm(315Nm)/0-2000rpm
タイヤ:(前)235/45R18 94W/(後)235/45R18 94W(ブリヂストン・レグノGR-EL)
燃費:30.0km/リッター(JC08モード)
価格:410万円/テスト車=443万1131円
オプション装備:ボディーカラー<ディープオーロラ・メタリック>(4万3200円)/レザーインテリア+チルトアップ機構付きフロント電動スモークドガラスサンルーフ(23万円) ※以下、販売店オプション フロアカーペットマット<プレミアム+カラードライン[ブラック×グレー]フロント/リア用セット>(5万7931円)
テスト車の年式:2016年型
テスト車の走行距離:977km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:461.2km
使用燃料:24.1リッター
参考燃費:19.1km/リッター(満タン法)/19.7km/リッター(車載燃費計計測値)
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森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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