ポルシェ911タルガ4S(4WD/7AT)
妙味がある 2016.06.17 試乗記 新たに直噴ターボエンジンが搭載された「ポルシェ911」シリーズに、伝統のオープントップモデル「タルガ」が登場。“スポーツカーの王道”とも称される911の走りと電動開閉するルーフのギミックが織り成す、無二の魅力に触れた。デルソルを彷彿させる
新しき「991 II」型「タルガ4S」に乗りぬ。まことに僥倖(ぎょうこう)というべし。レーシングイエローなるボディーカラー、色鮮やかにして目立つこと甚だし。然(しか)れども最大のハイライトはそのシルヴァーに輝くロールバーと後部ガラスが織りなすモダン感覚なり。あまりにフツウの感想しか出てこないゆえ、文体で誤魔化(ごまか)そうと試みしも、最後までデタラメ古文調では編集部からも読者からも怒られるべし。
ということで、新しい3リッター過給エンジンが搭載された911タルガ4Sに試乗するという僥倖に恵まれた。まことに僥倖というべし。タルガというのがいい。タルガは1965年に誕生した。あれからおよそ半世紀。より長く、より幅広く、おわん型の911を上から押しつぶした現行991型にタルガはとってもよく似合う。トラッド一辺倒だった911さんがちょっとモードなファッションを取り入れた感じがする。
しかもこれ、ご存じのように全自動で開いたり閉まったりする。その動きはさながら「ホンダCR-Xデルソル」を彷彿(ほうふつ)させた。1992年にデルソルが出た時、筆者は藤子不二雄のマンガ『黒ベエ』に登場する巨大な機械を思い出したのだった。それは単にジャンケンをするだけのマシンで、藤子不二雄はなんでも全自動化しようとする世の中を風刺していたのだと思われる(1969年の作品で、筆者は単行本で読んだ)。つまり、筆者はデルソルをそのジャンケンをするためだけの機械のようなモノだと判断したのだけれど、徳大寺有恒さんは「なかなかいい」と高く評価しておられた。
エンターテインメントな都会派
電動開閉式トップの採用はアメ車やプジョーが早いそうだけれど、筆者の記憶では1989年に登場したメルセデス・ベンツの4代目「SL」がこんにちにつながる自動化に先鞭(せんべん)をつけたのではあるまいか。デルソルはその2年後ということになるけれど、ボディー後半のトランクリッドに当たるパネルが持ち上がって変身ロボットのような動きをするデルソルは新しすぎたのだ。
21世紀の現在、911タルガ4Sは記憶の中のCR-Xデルソルをよみがえらせながら、しかし四半世紀前の技術とは明白に異なるスムーズさと静かさでもって、タルガルーフ部分のみを閉じたり開けたりするためだけに、大仰にもリアのガラス部分をガバッと開く。開閉に要す時間は20秒。人っ子ひとりいない山の中でボタンを押していると、なんと申しますか、この間、無の境地。虚心坦懐(たんかい)。ただじっと待つ。カブリオレより7秒長い。わずか7秒。絶対的には短いけれど、長く感じる。木や風を相手に開閉を見せていても虚(むな)しい。鹿や熊や猿がいればまだしも……。その意味で、タルガはカブリオレよりもエンターテインメントな都会派なのだ。
リア部分が残るため、両サイドのウィンドウを下げていても、リアからの風の巻き込みがない分、乱流に髪を乱されるということがない。初夏の一番いい季節である。山間の空気はやや冷たい。清涼感を味わいながらワインディングロードをぶっ飛ばす。
ターボラグを感じさせないエンジン
ポルシェ・トルク・マネージメント(PTM)と呼ばれる電子制御の4WDシステムの恩恵もあって、911特有の後輪から蹴っ飛ばされる加速感がほとんどない。車検証の前後重量配分は前620kg、後ろ1020kg、つまり38:62と明瞭に後ろが重いのに、どこにエンジンがあるかわからない感覚。じゃあ、どこにあるの? と自問自答すれば、う〜、ミドシップというよりフロントエンジンのメルセデス・ベンツかも。スタビリティーが高くて、安心感がある。
全力加速すると空を飛ぶような、フルタイム4WD 特有の浮揚感とも無縁だ。前後トルク配分50:50のフルタイム4WDではないことも影響しているだろう。
試乗車は車検証で1640kgある。カタログ数値だと、タルガ4Sは1600kgで、「カレラ4Sカブリオレ」より20kg重いにすぎない。もちろん20kgなぞ、爪切りで切った方の爪ほどとも感じぬパワーとトルクを3リッターのフラット6ツインターボは軽々と紡ぎだす。スポーツクロノのスイッチをスポーツにすると、エンジンのサウンドが明瞭に野太くなる。過給エンジンなのにほとんどラグを感じさせず、7500rpmの高回転まで回り切る。
VANに対するJUN
めったに回し切れるものではない。回し切ったとしてもお釈迦(しゃか)様の手のひらの中にある。このクルマでスポーツカー911の本当の快楽を味わうためには現状のままではいけない。少なくとも筆者の場合、スポーツドライビングを学びに行かねばならない。そのためにはタルガでなくともよいだろう。いやしかし、あえてタルガで行くところに妙味がある。王道911の外し、それがタルガである。
なにしろ価格は1913万円で、カレラ4Sカブリオレと同額である。これは悩ましいようで、そうでもないともいえる。なんとなれば、カブリオレがオーセンティックなトラッドであるのに対して、タルガはモードだからだ。VANとJUNみたいに、好き嫌いがはっきりわかれるのではあるまいか。
テスト車は前述のマホガニーをはじめとするオプションを合計すると、総額2129万7000円に達する。まことに贅沢(ぜいたく)な911なのだ。1309万1000円の「911カレラ」で十分なのに、その高性能版の「カレラS」に4WDを加えて全天候型に磨きをかけ、さらにガラスとクロームでオシャレ度をアップしている。晴れた日には直接太陽光を浴びることもできる。クローズ時の静粛性と堅牢(けんろう)性は屋根が開くクルマであることをすっかり忘れる。
不思議なのは、最高性能版の「ターボ」のタルガが現行ラインナップにないことである。カブリオレにはあるのに……。もっとも、いまのポルシェなら出しかねない。それはもちろん、タルガのファンにとって歓迎すべきことであるにちがいない。
付け足し。伊豆スカイラインからの帰り、燃料計の針が残り4分の1を切って赤く点灯した。車載コンピューターが示した残りの燃料で走れる距離は65km。これだとガソリンを入れねばならない。小田原厚木道路を順法精神で走っていると、燃費を示す数字が6km/リッター台から8km/リッター台になり、航続距離が90kmに伸びた。過給エンジンの燃費は走り方でかくも変わることにあらためて驚いた。
(文=今尾直樹/写真=田村 弥)
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テスト車のデータ
ポルシェ911タルガ4S
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4505×1880×1295mm
ホイールベース:2450mm
車重:1600kg(DIN)
駆動方式:RR
エンジン:3リッター水平対向6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:420ps(309kW)/6500rpm
最大トルク:51.0kgm(500Nm)/1700-5000rpm
タイヤ:(前)245/35ZR20 91Y/(後)305/30ZR20 103Y(ピレリPゼロ)
燃費:8.0リッター/100km(12.5km/リッター、欧州複合モード)
価格:1913万円/テスト車=2129万7000円
オプション装備:ボディーカラー<レーシングイエロー>(0円)/インテリア<ナチュラルレザーインテリア/ナチュラルレザーシート/エスプレッソ>(87万3000円)/電動可倒式ドアミラー(5万5000円)/ポルシェ・ダイナミック・ライトシステム(12万8000円)/自動防眩ミラー(10万円)/マホガニー・インテリアパッケージ(29万円)/シートベンチレーション(19万3000円)/カラークレスト ホイールセンターキャップ(3万円)/スポーツクロノパッケージ(37万9000円)/シートヒーター<フロント左右>(8万6000円)/フロアマット(3万3000円)/911ロゴ(0円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:1855km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(4)/山岳路(5)
テスト距離:396.5km
使用燃料:59.2リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.7km/リッター(満タン法)/6.7km/リッター(車載燃費計計測値)
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今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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