トヨタ86 G(FR/6MT)/86 GT“リミテッド”(FR/6AT)/86 GTプロトタイプ<ブレンボブレーキ装着車>(FR/6MT)
多くのひとに乗ってほしい 2016.07.16 試乗記 デビューから4年。FRスポーツカー「トヨタ86」のエンジンや足まわり、デザインに手が加えられた。「車両の性格をより走りに特化させた」というマイナーチェンジの効果やいかに? さまざまなグレードで、その仕上がりを確かめた。空力性能にこだわり
どっちが“元祖”でどっちが“本家”なのかを詮索(せんさく)するとややこしいことになりそうなのでやめておくが、スバルが「BRZ」のビッグマイナーチェンジを発表したその直後に、トヨタも新しい86(ハチロク)を発表した。今回の仕様変更ではトヨタとしてもスバルとは異なる独自の手を加えたようで、気合を込めて、彼らは新型ハチロクを“後期型”と呼ぶことにしたらしい。
エンジンは、インテークマニホールドやエキゾーストマニホールドの吸排気抵抗を低減した結果、6段MTモデルに限られるものの、最高出力が7psアップの207ps/7000rpmに。最大トルクは、0.7kgmアップの21.6kgm/6400-6800rpmとなった。
またシャシーはV字のフロントタワーバーが集合するバルクヘッド部分のブラケットおよびミッションマウントブラケットを改良。リアホイールアーチ内部には「リアエプロンアウター」と呼ばれる補強部材を取り付け、リアピラーのスポットも増やして剛性アップを図っている。
駆動系ではトルセンLSDのファイナルギアを4.1から4.3へ変更し(6段MT)、ピックアップ性能をより高めた。
ハチロクで「BRZとは違う」と主張されるのは、最近トヨタが精力的に展開している空力性能の向上だ。リアにちょこんと付いたスポイラーこそBRZの「GT」と共通のようだが、新意匠のフロントバンパーにはノーズフィン、フォグランプベゼルフィン、カナードが組み込まれた。またフェンダーには、これまで鎮座していた86オーナメントをその下に追いやってガーニッシュを配置。さらにマニアックなところでは、フロントガラスの取り付け面や各部にこっそり貼り付けられた電極材によって、車体に通電する電子の流れを適正化。これが空気の剥離(はくり)を防ぎ、整流効果を高めるのだという。
ますますコントローラブルに
試乗したのは、“前期型”ハチロクでもサーキットテストの初舞台となった、富士スピードウェイのショートサーキット。ここで6段MTの「G」、6段ATの「GT“リミテッド”」、前期6段MT「GT」の3台を乗り比べた。
コスパという言い方は大嫌いだが、真の意味で費用対効果が最も高いと思えたのは、一番簡素なGだった。タイヤは205/55R16と、現代のスポーツカーとしてはまったく流行(はや)らない小径サイズ。17インチに比べ横剛性の低い55偏平タイヤは、普通ならステアリングのレスポンスを鈍らせるはずだが、トヨタ最小径とうたわれる362mmのステアリングホイールを少し切るだけで、そのノーズは気持ちよくリニアに追従する。
これこそが水平対向エンジンを積んだ低重心な車体の恩恵であり、今回の改良の効果だろう。ひとことで言って「アンダー知らず」だ。
対してリアタイヤは、大きな荷重が一気に掛かるショートサーキットでは比較的簡単に滑り出すのだが、その限界付近で頑張って仕事をする。一気にブレークするのではなく、滑りながらもグリップさせようというそぶりを見せるのだ。試乗車が装着していた「ヨコハマ・デシベルE70」はとりわけハイグリップなタイヤでもないから、ハチロクが目指す「タイヤを選ばない」というコンセプトは高い水準で実現されていたといえるだろう。
そしてここで役に立つのが、エンジンのピックアップ性能だった。滑り過ぎたらアクセルを一定にし、トラクションを回復させる。滑り方が足りなければアクセルを加え、スライドさせる。過渡領域を積極的にコントロールできるレスポンスの良さは、後期型の大きな武器といえる。
富士ショートサーキットのショートカットを過ぎた3コーナーは急激な上り勾配で、ハイパワー車でも失速してしまうことが多い。しかしハチロクはリアをスライドさせながらもトラクションをかけ続け、力強く坂を登り切って次のS字までドリフトし続けてしまうのである。エンジンサウンドも澄んだ音色が心地よく、これまで感じていたパワー不足がさほど気にならなくなった。
コーナーでわかるグレードの違い
今回からVSCのしきい値を引き上げる「トラックモード」を追加し、こうしたスライドコントロールをドライバーが学べる幅を増やしたらしいが、まだまだ安全方向に寄っている。ヨーモーメントが早く働いた際に強いブレーキを掛けて失速させる場面が多く、「ここからコントロールしたいのに!」という場面でお預けを食らうから、腕の立つドライバーであればVSCはオフにした方が楽しめる。それほど後期型のシャシーバランスは洗練度を増している。
もっとも、シャシーの性質上、曲がりやす過ぎる故にVSCが急激な制御を掛けてしまうと考えられなくもない。この曲がりやすさを残したまま、多くのドライバーにドライビングを段階的に学ばせたいのなら、トヨタはポルシェと同じくらい緻密にVSCの制御を行う必要があるだろう。
対して上級グレードとなるGT“リミテッド”は、この動きを一段階スタビリティー方向へと引き上げた特性だった。17インチの45偏平タイヤとオプションのザックス製ダンパーの採用によって、そのハンドリングにはどっしり感が加わり、リアグリップが少しだけ上がっていた(タイヤは「ミシュラン・プライマシーHP」)。
だが、あなたがスポーツドライビングを夢見るビギナーならば、筆者はGグレードをお薦めする。パワーではなく荷重移動でタイヤの限界付近をコントロールするハチロクにとって、ザックスはリアの伸び側ダンピングが強いのか、車両を安定させ過ぎてしまうのだ。もっと広いコースへ行けばその恩恵を受けられるだろうが、速度域も上がる。ちょっとした上級感覚をもたらす一方で「コントロールを楽しむ」という本来の目的とはズレがあるザックスに対して、Gグレードのショーワ製ダンパーは素直な特性で乗り心地もいい。別に無理してGT“リミテッド”を買う必要はないというか、素のGが素晴らしいグレードだと筆者は思うのだ。
ちなみにプロトタイプモデルとして、ブレンボキャリパーを装着した17インチ仕様のGTも試したが、どうやらこちらはショーワ製ダンパーだったようで、ブレーキ性能が高くタッチも良い反面、進入速度を高めると荷重の移動量が増え、ロールスピードが速くなった。だからこれにザックス製ダンパーを合わせれば、ちょうどよいバランスになるのではないかと感じた。というか、スバルの「GTプロトタイプ」はこの組み合わせだ。
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より対話できるクルマになった
少し残念だったのは、6ATのファイナルギアがGT“リミテッド”でも4.1のままだったこと。6MT車との7psのパワー差はさほど感じなかったから、やはりそのピックアップ性能にはファイナルギアが大きく影響しているようだ。
今回は旧型、いや前期型GTとの比較も行った。前期型は電動パワーステアリングのチューニングが重めで、自然とハンドルをゆっくり切る傾向にあるため、普通に走るとクルマが安定しているように感じる。しかしいったん滑り出すと、流れてからが速い。この特性を踏まえると、ステアフィールは軽やかながら、後期型は随分と懐が深くなったと思えた。過渡領域でのトラクション性能が高まったおかげで、クルマと対話する言葉の引き出しが増えた感じだ。
筆者は別の日に、BRZも同じ富士ショートサーキットで試した。こちらは大雨だったので厳密な比較はできないのだが、両車の違いは少しある。簡単にいうとこれまでBRZが追い求めてきたリアスタビリティーをハチロクが得て、BRZはFRの楽しさに目覚めたかのようによく曲がるようになった。ハチロクのベース(エンジンおよびシャシー)はBRZと同じなのだから、このスタビリティーこそが空力効果の差なのかもしれない。
登場から4年以上の歳月を経て、ハチロクは確実に走りの質を高め、オリジナリティーを明確にすることができた。そのキャラクターは、現状世界で一番手に入れやすく、楽しいミドルスポーツだと言ってよいと思う。もはや開発当初にベンチマークとしていた、同じ水平対向エンジンを搭載する「ポルシェ・ケイマン」と比べる必要すらない。
この高い完成度が評判を呼んで、新規ユーザーが増えてほしいと思う。そうすれば前期の中古相場は下がり、もっとたくさんの若者たちがハチロクを手に入れることができるようになるからだ。まだ前期型の相場は、修復歴なしで170万円から。乗りだし150万円くらいまで降りてくるには、この後期型が売れてくれるのが一番美しいカタチである。
(文=山田弘樹/写真=荒川正幸、トヨタ自動車)
テスト車のデータ
トヨタ86 G
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4240×1775×1320mm
ホイールベース:2570mm
車重:1210kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター水平対向4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:207ps(152kW)/7000rpm
最大トルク:21.6kgm(212Nm)/6400-6800rpm
タイヤ:(前)205/55R16 91V/(後)205/55R16 91V(ヨコハマ・デシベルE70)
燃費:11.8km/リッター(JC08モード)
価格:262万3320円/テスト車=--
オプション装備:--
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:532km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(プレミアムガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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トヨタ86 GT“リミテッド”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4240×1775×1320mm
ホイールベース:2570mm
車重:1260kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター水平対向4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6段AT
最高出力:200ps(147kW)/7000rpm
最大トルク:20.9kgm(205Nm)/6400-6800rpm
タイヤ:(前)215/45R17 87W/(後)215/45R17 87W(ミシュラン・プライマシーHP)
燃費:12.4km/リッター(JC08モード)
価格:325万800円/テスト車=--
オプション装備:--
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:835km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(プレミアムガソリン)
参考燃費:--km/リッター
トヨタ86 GT プロトタイプ(ブレンボブレーキ装着車)
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4240×1775×1320mm
ホイールベース:2570mm
車重:1240kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター水平対向4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:207ps(152kW)/7000rpm
最大トルク:21.6kgm(212Nm)/6400-6800rpm
タイヤ:(前)215/45R17 87W/(後)215/45R17 87W(ミシュラン・プライマシーHP)
燃費:11.8km/リッター(JC08モード)
価格:--/テスト車=--
オプション装備:--
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(プレミアムガソリン)
参考燃費:--km/リッター

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
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