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第459回:ただいまイタリアで増殖中!
日産のEVがイタリアのおばあちゃんを救う!?

2016.07.22 マッキナ あらモーダ! 大矢 アキオ
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大手企業がこぞって導入

イタリアでは2015年以降、「日産NV200」の電気自動車版「e-NV200」を各地でたびたび見かけるようになってきた。

背景には、大手企業の導入がある。例えば2015年1月、日産イタリアは国際宅配サービス会社のDHLに50台のe-NV200を納車した。
2016年に入ると、フランス系大手スーパーのカルフールに、20台のe-NV200を宅配サービス用として納めた。2017年までには、同社に計40台を納入する計画だ。

カルフールへの納入に際し、日産イタリアのブルーノ・マッテウッチ社長は「これは、イタリアにおけるすべての道に電気自動車テクノロジーを普及させるための、さらなる前進を象徴するもの」とコメント。同時に「われわれは、イタリアでゼロエミッションの物流を支えるリーダーになれると確信している」と述べている。

ボクが住むシエナの街でも、少し前からDHLのe-NV200を見かけるようになってきた。
でも、ボクの住むシエナには、カルフールはないからな……などと思っていたら、最近、別のスーパーマーケットチェーンであるコナードのe-NV200が走り始めたのだ。

早速店に聞いてみると、カルフール同様「買い物をしたお客さんの品物を自宅まで配送するために使っている」という。これまでも存在した「タクシーメルチ」と呼ばれるドライバー付き予約制トラック業者の協力で運営しているらしい。

シエナの旧市街を走る、DHLの「日産e-NV200」。
シエナの旧市街を走る、DHLの「日産e-NV200」。 拡大
同じくシエナ旧市街にて。DHLの「e-NV200」。
同じくシエナ旧市街にて。DHLの「e-NV200」。 拡大
「e-NV200」の祖となる「e-NV200コンセプト」。2012年のデトロイトモーターショーでお披露目された。
「e-NV200」の祖となる「e-NV200コンセプト」。2012年のデトロイトモーターショーでお披露目された。 拡大

旧市街をいつでもスイスイ

EV商用車の導入は、日本ではすでに、さまざまなかたちで試みられている。しかしイタリアにおいてはまだこれからで、e-NV200がその重要な役割を果たすと思われる。

イタリア各都市の旧市街では、1970年代から、住環境の改善や大気汚染の解消のために歩行者天国化が推進されてきた。
そうした街には、宅配のトラックやバンは午前と午後の決められた時刻しか進入できない。しかし近年では、EVの配送車に関して優遇措置を講じる自治体が少なからず出てきた。シエナの場合も、EVは2014年夏以降、通行できる時間が午前・午後とも1時間多くなった。

これは旧市街の住民にとって、大変ありがたい。例えばこんなケースだ。空港でボクのスーツケースがターンテーブルに出てこなかったときのこと。翌日、宅配業者が持ってきてくれたものの、他県の業者で規制を知らなかったため当時のわが家の前まで配達できなかった。そこで電話を受けたボクがやむをえず、エリアの境界である中世の門のところまで取りに行った。進入可能時間が長いEVが普及すれば、そのような不便が徐々に減ってゆくだろう。

これは、シエナの日産ディーラー、トゾーニ・アウトによる「e-NV200」のデモカー。
これは、シエナの日産ディーラー、トゾーニ・アウトによる「e-NV200」のデモカー。 拡大
スーパーマーケットチェーン、コナードの「e-NV200」。シエナの旧市街で。
スーパーマーケットチェーン、コナードの「e-NV200」。シエナの旧市街で。 拡大

お年寄りにも朗報!

スーパーの配送車が増えることは、宅配業者以上に、住民にとって良いことだ。

旧市街の住民は高齢者が年々増加している。それも平均寿命の男女差を反映するように、おばあちゃんが多い。にもかかわらず建物は築数百年だ。ルネッサンス時代はおろか、中世のものも少なくない。エレベーターを後付けできる構造の建物は、設計上の理由と景観保護上の理由から、ごくごく限られている。
実際、ボクが最初に住んだアパルタメントで、隣のおばあちゃんはミネラルウオーターを含む食料品を店から家の前まで両手で運び、そのあと6階までフーフー言いながら持ち上げていた。

スーパーの宅配が一般的になれば、こうしたお年寄りの苦労は軽減される。街における利便性が向上すれば、旧市街に人々が戻ってくる可能性だってある。それを後押しする鍵は、旧市街のEVに対する交通規制の緩和と、従来なかった普及型EV商用車であるe-NV200なのだ。

実際にe-NV200を使用している人にも話を聞いた。ローマ在住のアルベルト・バルダッツィさん(50歳)である。ローマ大学経済学部を卒業後、数社での会社員生活を経て、少し前に電動アシスト自転車や電気自動車のレンタル会社を起業した。

現在、レンタル用も含め、なんと6台のe-NV200を会社に導入している。
理由を聞くと、彼もまず「車両進入規制が敷かれているゾーンでも、EVは通行が許されること」を挙げた。加えて、「従来使っていた内燃機関版のNV200と使い勝手がほぼ同じであること」「ATのおかげでローマのカオス的交通状況の中でも運転が楽なこと」も決め手になるという。

筆者が最初に住んだアパルタメントの階段。6階建てだったが、エレベーターは無し。ひたすら上り下りした。
筆者が最初に住んだアパルタメントの階段。6階建てだったが、エレベーターは無し。ひたすら上り下りした。 拡大
コナードの「e-NV200」の場合、お客さんが払う配送料は1回あたり4.9ユーロ(約570円)と少々高め。それでもお年寄りは、買い物で重い荷物を運ぶ苦労から解放されるだろう。
コナードの「e-NV200」の場合、お客さんが払う配送料は1回あたり4.9ユーロ(約570円)と少々高め。それでもお年寄りは、買い物で重い荷物を運ぶ苦労から解放されるだろう。 拡大
ローマで「e-NV200」を活用するアルベルトさん。彼によると、市街地における実際の1充電あたりの航続距離は、約150kmという。
ローマで「e-NV200」を活用するアルベルトさん。彼によると、市街地における実際の1充電あたりの航続距離は、約150kmという。 拡大

e-NV200オーナーの悩みとヨロコビ

一方、インフラの問題点も指摘する。「市が設置しているチャージングステーションは交流22kWのタイプ。直流50kWのCHAdeMO(チャデモ)式ステーションはごく限られているんだ」。実際ローマを囲む環状線内と近場のチャデモ設置状況を調べてみると、日産ディーラー内の2カ所に限られてしまう。

そうした環境を少しでも改善すべく、アルベルトさんは、EVユーザーの充電ステーション設置リクエストと市の担当者をつなぐ組織の委員も務めている。近い将来、自宅にもチャデモ方式の急速充電器を設置する予定だ。

ちなみに彼のEV仲間によると、ローマではEVでないのにチャージングステーションの駐車スペースに止めてしまう一般車ユーザーや、充電完了してもひと晩置きっぱなしにするEVユーザーがいるという。こちらはイタリア屈指の“駐車場争奪バトル都市”ならではの悩みである。

それでも、前述のメリットに加え、「EV特有の加速感や、低速域でのスムーズさに満足」とアルベルトさんは語る。

そのアルベルトさん、最近ちょっとした自慢がある。e-NV200に寄せた彼のメッセージが、遠く600km離れたミラノの地下鉄駅で、この夏日産の広告として使われているのだ。 
どういうフレーズかといえば、「未来の電気自動車が今、ここに」。
EVは、乗る人のクリエイティビティーまで刺激するようだ。目下彼のSNSは「お前、レジェンドになったな」「いいぞアルベルト、いいぞNISSAN」などと、大いに盛り上がり中である。

(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>、Alberto Baldazzi)

コナードの「e-NV200」。
コナードの「e-NV200」。 拡大
愛車とともに。アルベルト・バルダッツィさんの自撮り写真。
愛車とともに。アルベルト・バルダッツィさんの自撮り写真。 拡大
ミラノ・ガリバルディ駅の一角をジャックした日産製EVのキャンペーン広告。
ミラノ・ガリバルディ駅の一角をジャックした日産製EVのキャンペーン広告。 拡大
日産の広告のひとつには、文中に登場するアルベルトさんのメッセージが。写真はその記名部分。
日産の広告のひとつには、文中に登場するアルベルトさんのメッセージが。写真はその記名部分。 拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。

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