第358回:日本人選手の活躍にも注目
「GTアジアシリーズ 第8戦 富士」観戦記
2016.07.27
エディターから一言
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2016年7月17日、アジア地域のサーキットを転戦して行われる「GTアジアシリーズ」の第8戦が、富士スピードウェイで開催された。名だたるメーカーの高性能スポーツモデルが参戦するレースの様子をリポートする。
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フェラーリやポルシェがサーキットで覇を競う
「GTアジア」という名のチャンピオンシップをご存じだろうか? マカオGPのスーパーカーレースなどを主催するスーパーカー・クラブ・香港、そしてアジア各地を転戦するレースシリーズのオーガナイザーで、マレーシアに本拠を置くモータースポーツ・アジアが協力して「GT3アジア・チャレンジ」を設立したのは2009年のこと。当初は「アジアン・フェスティバル・スピード」と呼ばれるイベントの一部として開催され、上海、セパン、センチュール、マカオ、そして日本のオートポリスなどを転戦していたが、2011年にはGTアジアとして独立。2016年からはスーパーカー・クラブ・香港が運営から外れ、モータースポーツ・アジアが単独で主催するイベントに生まれ変わり、韓国国際サーキット、ブリーラム国際サーキット(タイ)、岡山国際サーキット、富士スピードウェイ、中国の上海国際サーキット、浙江サーキットの6カ所を転戦するまでに成長している。
エントリーはいわゆるGT3車両が中心で、7月16~17日に富士で開催された第7、8戦には「ポルシェ911 GT3R」「フェラーリ488 GT3」「アウディR8 LMS GT3」「ベントレー・コンチネンタルGT3」「アストンマーティン・ヴァンテージGT3」「ランボルギーニ・ウラカンGT3」などが参戦。このほか、GTCクラスとして3台の「フェラーリ458チャレンジ」が出場し、合計16台のスーパーカーが覇を競う一大ページェントが繰り広げられた。
ベントレーをドライブする日本人選手に注目
このうち、日本人ドライバーとして唯一GT3クラスに参戦したのが澤 圭太である。これまでアジアのさまざまなレースイベントにドライバーまたはインストラクターとして関わってきた澤は、昨年、ベントレー・チームアブソルートに抜擢(ばってき)されると、デビューしたばかりのベントレー・コンチネンタルGT3を駆ってシリーズに挑戦。計2勝を挙げて151ポイントを手に入れたものの、155ポイントを獲得したライバルには一歩及ばず、悔しいシリーズ2位に終わっていた。
その雪辱を果たすため、澤は今年もチームアブソルートのコンチネンタルGT3でシリーズに挑戦。開幕戦の韓国では幸先のいい2連勝を果たしたものの、その後は上位に入賞することなく、シリーズ13位で富士大会を迎えていた。
澤が苦戦している理由のひとつが、タイ大会の欠場だ。今年、彼は長年の夢だったルマン24時間参戦を果たしたものの、この日程がGTアジアのタイ大会と重なっていたためにこちらを欠場。ここでノーポイントに終わったことが響いた。そしてもうひとつ、見逃せない理由がある。
「コンチネンタルGT3は大きなボディーを活用し、路面と向き合うフロア部分で巨大なダウンフォースを発生させることで高速コーナーでのアドバンテージを生み出してきました。ところが、今年は各社がエアロダイナミクスを進化させた新型のGT3車両を投入した結果、ベントレーの強みが少し薄れてしまいました」
GTアジア独自のユニークなハンディキャップ
澤の言葉どおり、今年はフェラーリ、ランボルギーニ、ポルシェ、アウディがニューモデルを投入。空力を含めたパフォーマンスを大幅に向上させた結果、ベントレーの優位性が相対的に小さくなったのは事実である。また、GTアジアではGT3レースでおなじみの性能調整(BoP)が実施されているほか、上位入賞を果たすとハンディキャップとしてピットストップ時間が延長されるといった規則がある。さらには、今シーズンからFIAが定めたドライバーのグレードに従ってハンディキャップのタイムペナルティーが科せられることとなり、腕が立つ澤とチームメイトのジョナサン・ヴェンターの2人は、他の多くのチームより16秒も長くピットにとどまらなければならなくなった。こうしたさまざまな向かい風により、澤たちは難しい戦いを強いられているのだ。
迎えた富士大会。第7戦を手堅く6位で終えた澤は、4番グリッドからスタートした第8戦で2位入賞を果たし、久しぶりの表彰台を手に入れた。
「タイ大会を欠場した今シーズン、僕自身がタイトルを獲得できるチャンスはほとんどありませんが、残るレースではチームメイトのジョナサンがチャンピオンになれるように精いっぱいサポートしていきますので、これからも応援をよろしくお願いします」
富士大会を終えた澤は、爽やかな笑顔でそう語った。GTアジアの次戦は8月20~21日に上海国際サーキットで開催される。
(文=大谷達也)

大谷 達也
自動車ライター。大学卒業後、電機メーカーの研究所にエンジニアとして勤務。1990年に自動車雑誌『CAR GRAPHIC』の編集部員へと転身。同誌副編集長に就任した後、2010年に退職し、フリーランスの自動車ライターとなる。現在はラグジュアリーカーを中心に軽自動車まで幅広く取材。先端技術やモータースポーツ関連の原稿執筆も数多く手がける。2022-2023 日本カー・オブ・ザ・イヤー選考員、日本自動車ジャーナリスト協会会員、日本モータースポーツ記者会会員。