シトロエンDS4シック(FF/6AT)【試乗記】
どこまでも個性的 2011.10.30 試乗記 シトロエンDS4シック(FF/6AT)……309万円
2011年9月に発売された、シトロエンの新顔「DS4」。DSシリーズの第2弾は、個性的な見た目同様、乗り味もキャラが立っていた。
デザイナー・スペシャル
「DS3」に続く新たなDSシリーズが、「DS4」である。歴史的シトロエンの名を取ったDSとは“different spirit”の略とされるが、「DS3」や「DS5」(日本未上陸)をシリーズとして見通して、ぼくは勝手に“デザイナー・スペシャル”と解釈している。つまり、「C4」をベースに、シトロエンのデザイナーがさらにいっそう腕によりをかけたのがDS4である。「ゴルフ真っ向勝負」という路線を鮮明にしたやに思える新型C4は、シトロエンにしてはわりと保守的なデザインだ。それだけに、猫背の5ドアクーペ風ボディは魅力的に見える。
スポーツモデルのくせに、というか、四駆でもないのに、C4より最低地上高を25mm上げた。全高も45mm高い。全長は55mmカットされたが、ファットなフェンダーフレアのために全幅は20mm広がって1810mmに達する。異星から来たラリーカーみたいな迫力がある。
デザイナー労組要求貫徹のシトロエンだから、リアシートや荷室の空間はC4より多少狭くなった。いちばんびっくりしたのは、後席の窓ガラスが“はめ殺し”であること。サッシュを延長してガラスの後端を延ばしたため、開けようにも開けられなくなった。このクラスでも、最近のヨーロッパはエアコン装着率が上がったのだろうか。
「C4ピカソ」や「C3」と同じく、フロントガラスが天井まで大きく伸びているのはうれしい。前席は上空まで見えて、採光は抜群だ。10月初旬、朝5時半から走り出しても、DS4の室内はすっかり夜が明けていた。晴天の昼は直射日光がキツイので、前後スライド式の大きなサンバイザーが付く。
さすがの乗り心地
試乗したのは「シック」。2グレードあるうちの安いほう(309万円)である。といってもスポーティーモデルだから、C4の高いほうと同じ156psユニットが載る。エンジンはおなじみの1.6リッター4気筒ターボ。日本仕様のシトロエン/プジョーでは、今やこれがないと夜も日も明けない直噴過給ユニットである。
走り出すと、DS4シックはスポーティーモデルというよりも高級車である。アイポイントが高いために、C4より少し大きなクルマに感じる。サスペンションにスポーツ足的な硬さや荒さはなく、乗り心地はゆったりしていて快適だ。もちろん金属バネだが、上質な乗り味は「C5」のハイドロ・ニューマチックを彷彿(ほうふつ)させる。
車重は、同じエンジンの「C4エクスクルーシブ」より10kg軽い1360kg。それを引っ張る1.6リッターターボは、パワフルというほどではないにせよ、十分以上の“快速”をもたらしてくれる。回転は滑らかで、音も静かだ。
ただ、惜しいのは6段セミオートマの「EGS」である。変速マナーがフォルクスワーゲンのDSGほどパーフェクトではない。シフトアップでは微妙に息をつくし、シフトダウンでは場合によって軽くつんのめる。スロットル系は電子制御のバイワイヤーだが、アクセルペダルに不感帯があるため、なにかいつも右足に欲求不満感がつきまとう。こういうところのチューニングは“残業したもん勝ち”なのだろうなと、フランス国の労働環境に思いを馳(は)せた。
まさかのカックンブレーキ
最新のツインクラッチ式自動MTほど洗練されていないEGSにも、うまく使いこなすコツがある。Dレンジの完全自動変速に頼らず、常にパドルシフトで変速するのだ。そうすると、シフトスピードが速くなって、こちらの期待値に近づく。ラテンのクルマは、やはり前のめりに運転するに限る。快適に走るならこれだなと気づいてから、ぼくはずっとパドルシフトのマニュアル変速で走った。
これにて一件落着と言いたいところだが、もうひとつ気になったのはブレーキである。停止直前のサーボが強すぎて、「検定中止!」みたいなカックンブレーキになりがちだ。駐車時の速度調整で強めにペダルを踏んだりした際も、食いつくように効いてしまって具合が悪い。これは2ペダルのC4系に共通する弱点である。昔のイタフラ車のような、全体にネジがユルんだ、雰囲気で愛されるクルマならいいが、ここまでハードが立派になってくると、こうした欠点が看過できなくなる。乗り心地はいいし、高速巡航性能は高いし、ボディも楽しいし、と、美点が多いだけに残念だ。「ゴルフって、つくづく円満にできてるなあ」なんてことを言わせないでほしい。
だから、このカタチに惚(ほ)れた人には「スポーツシック」をお薦めしたい。200psまでチューンした1.6リッターターボを搭載するDS4だ。今の「ゴルフGTI」にはないマニュアルで乗れて、GTIより安い。
(文=下野康史/写真=郡大二郎)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
-
BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
-
ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(FF/6MT)【試乗記】 2025.8.30 いまだ根強い人気を誇る「ホンダ・シビック タイプR」に追加された、「レーシングブラックパッケージ」。待望の黒内装の登場に、かつてタイプRを買いかけたという筆者は何を思うのか? ホンダが誇る、今や希少な“ピュアスポーツ”への複雑な思いを吐露する。
-
BMW 120d Mスポーツ(FF/7AT)【試乗記】 2025.8.29 「BMW 1シリーズ」のラインナップに追加設定された48Vマイルドハイブリッドシステム搭載の「120d Mスポーツ」に試乗。電動化技術をプラスしたディーゼルエンジンと最新のBMWデザインによって、1シリーズはいかなる進化を遂げたのか。
-
NEW
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
NEW
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
NEW
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。 -
NEW
第926回:フィアット初の電動三輪多目的車 その客を大切にせよ
2025.9.4マッキナ あらモーダ!ステランティスが新しい電動三輪車「フィアット・トリス」を発表。イタリアでデザインされ、モロッコで生産される新しいモビリティーが狙う、マーケットと顧客とは? イタリア在住の大矢アキオが、地中海の向こう側にある成長市場の重要性を語る。 -
NEW
ロータス・エメヤR(後編)
2025.9.4あの多田哲哉の自動車放談長年にわたりトヨタで車両開発に取り組んできた多田哲哉さんをして「あまりにも衝撃的な一台」といわしめる「ロータス・エメヤR」。その存在意義について、ベテランエンジニアが熱く語る。 -
第83回:ステランティスの3兄弟を総括する(その1) ―「ジュニア」に託されたアルファ・ロメオ再興の夢―
2025.9.3カーデザイン曼荼羅ステランティスが起死回生を期して発表した、コンパクトSUV 3兄弟。なかでもクルマ好きの注目を集めているのが「アルファ・ロメオ・ジュニア」だ。そのデザインは、名門アルファの再興という重責に応えられるものなのか? 有識者と考えてみた。