DS 4クロスバック(FF/6AT)
デザイン至上主義車 2016.05.20 試乗記 「DS 4」のマイナーチェンジを機に、新たにラインナップに加えられた派生モデル「DS 4クロスバック」。個性的なのは見た目だけなのか、それとも……? そのドライブフィールや乗り心地、燃費データを報告する。ムードがポイント
DS 4に加わったクロスオーバーモデルが、クロスバックだ。
おさらいすると、「フォルクスワーゲン・ゴルフ」クラスのシトロエンが「C4」。C4から派生したビジュアル系コンパクトがDS 4。そのDS 4にSUV風味を添えたのが、クロスバックである。
DSシリーズをプロデュースするのは、2014年にシトロエンから独立して別組織になったDSオートモビルズである。
DSと聞いて、古いシトロエンファンなら、宝物殿からついにあのビッグネームを出してきたか! と思っただろうが、新しいこのブランドは“different style”の頭文字と説明されている。
ちなみに1955年から75年まで生産されたヒストリックシトロエン、DSはとくになにかの頭文字ではなく、フランス人の発音する“デエス”が「女神」を連想させるところに意味があったらしい。
クロスバックに話を戻すと、DSシリーズ初のクロスオーバーモデルは、最低地上高をノーマルDS 4より30mm上げ、専用のバンパーやホイールアーチモールやルーフモールなどを備える。FFの駆動方式は変わらず、エンジンにも変更はない。フォルクスワーゲンの「クロスポロ」と同じような“雰囲気SUV”である。
338万円の価格は、同等の装備を持つDS 4より12万円高い。
見ても乗っても男っぽい
試乗車のボディーカラーは、オランジュトルマリンという新色の深いオレンジだった。専用のバンパーは、フロントグリルと同じ幅で黒く塗られ、全体が大口のワッペングリルのように見える。
本国には19インチモデルまであるDS 4は、ホイールハウスが大きい。クロスバックはそこを黒いアーチモールでさらに強調し、ブラックの17インチアルミホイールを履かせている。車高は歴然と高い。5ドアボディーのタテヨコは同寸でも、DS 4より大柄に映る。なかなか迫力のあるルックスである。
外観の印象同様、走りだしてもかなり男っぽかった。
まずアシが硬い。サスペンションのストローク感は十分にあり、スピードを上げるにつれて、乗り心地はだんだんよくなる。そういうところは、よく言えばラリーカー的だが、タウンスピードだと215/55R17のミシュランがゴツゴツしたショックを伝えてくる。ボディー全体も揺すられがちだ。
もともとDSシリーズは、「DS 3」にしても「DS 5」にしても、かなりスポーティー仕立ての足まわりが特徴だ。そこへ加えて、クロスバックは車高をリフトアップしたため、さらに突っ張り感が強くなった。乗り心地のいいクルマではない。
軽やかなエンジンと重いステアリング
エンジンはPSAグループとBMWが共同開発した1.6リッター4気筒ターボ。シトロエンでは「C5」やDS 5にも使われているおなじみの直噴エンジンである。クロスバック用は156psから165psに向上した最新チューン。アイシン・エィ・ダブリュ製の6段ATも新世代の「EAT6」だ。
1370kgの車重はDS 4と同じ。ひとクラス上のシトロエンを動かしているエンジンだから、パワーは申し分ない。というか、十分パワフルである。
ボア×ストローク=77.0×85.0mmのロングストロークユニットだが、トップエンドまで滑らかに回り、回すと気持ちいい。本当にこのエンジンは、どのクルマに積まれてもいい仕事をする。
ワインディングロードでひとつ気になったのは、ステアリングだ。最近のクルマとしては、操舵(そうだ)力がかなり重い。エンジンからのトルクのキックバックも大きめだ。そのため、ちょっと古いFF車、の感じが否めない。
ステアリングホイールそのものも直径39cmと大きい。いまのハンドルは、エアバッグだけでなく、各種ステアリングスイッチも埋め込まれるなど、大にぎわいだ。大きなセンターパッドを持つクロスバックの革巻きステアリングホイールも、これ自体、重そうで、軽快なハンドリングを少なからずスポイルしているように思えた。
デザインは大事だけれど
標準のシートは革とファブリックのコンビネーションだが、試乗車にはオプションのクラブレザーシートが付いていた。複雑な縫製でデザインされたDSエンボス入りのフルレザーシートだ。LEDヘッドランプとセットで38万円。こういうものにお金をかけているのがDSシリーズの真骨頂である。
ドアはサイドに4枚あるが、リアドアは短く、ドアノブはハメゴロシのガラスの後ろに隠されている。センターピラーはブラックアウト。そのため、側面観はピラーレス2ドアクーペのように見える。
ただ、DS 4を試すといつも思うのだが、後席の乗り降りのとき、後ろに尖ったリアドアが体にぶつかりそうでコワイ。同じウィンドウグラフィックを持つDS 5もそうだ。でも、デザインのためにそれを押し通すのが“DS”なのだろう。個人的には、デザイナーズ・スペシャルの略だと解釈している。
とはいえ、見た目も大事だが、乗り味も大事である。バンカラに過ぎる乗り心地は改善の余地ありだ。“DS”と聞くと、いまでもあの雲に乗ったようなハイドロシトロエンを思い浮かべてしまう年寄りにとって、乗り心地のよくないシトロエンはナットクがいかない。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=峰 昌宏)
テスト車のデータ
DS 4クロスバック
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4285×1810×1530mm
ホイールベース:2610mm
車重:1370kg
駆動方式:FF
エンジン:1.6リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:165ps(121kW)/6000rpm
最大トルク:24.5kgm(240Nm)/1400-3500rpm
タイヤ:(前)215/55R17 94W /(後)215/55R17 94W(ミシュラン・プライマシー3)
燃費:14.9km/リッター(JC08モード)
価格:338万円/テスト車=402万7300円
オプション装備:メタリックペイント<オランジュトルマリン>(5万9400円)/クラブレザーシート(38万円) ※以下、販売店装着オプション カーナビゲーションシステム(19万7640円)/ETC車載器(1万260円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:2283km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(5)/高速道路(4)/山岳路(1)
テスト距離:311.0km
使用燃料:31.7リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:9.8km/リッター(満タン法)/10.6km/リッター(車載燃費計計測値)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。