第467回:イタリア式「子供乗せてます」ステッカーが個性的すぎる!
2016.09.16 マッキナ あらモーダ!ステッカー大好き、イタリア人
収拾がつかなくなったさびの穴隠しも含め、イタリア人はクルマにステッカーを貼るのが大好きである。1990年代に流行したものといえばスキューバダイバーのシルエットを模したものであった。スキューバダイビングが人気だった時代を象徴している。
いっぽう、その後流行したものといえば、島しょ部に渡るフェリーのステッカーだった。サルデーニャ島、シチリア島、そしてエルバ島などに行くフェリーに乗ると、航行中に船員が船倉に載せられたクルマをまわって、ペタペタと貼り付けてまわるのである。
フェリー会社としては宣伝になるし、クルマのオーナーとしては「俺はフェリーで移動してバカンスを過ごしたんだぜ」という自慢になるという一石二鳥だった。つわものはウィンドウに何枚も貼っていた。それをまねて筆者などは、いやしくも路上に落ちていたステッカーを拾って、自分のクルマに貼ったりしたこともあった。なおこのブーム、最近は格安航空会社(LCC)の台頭とともに、ちょっと落ち着いてきた感がある。
跳ね馬は永遠のシンボル
いっぽう、イタリアで永遠の人気ステッカーといえば、ずばりフェラーリである。跳ね馬マークを、フィアット系・外資系にかかわらず、どんなクルマにでも貼りつけてしまう。ランボルギーニやマセラティのステッカーを貼っている人は、ボク自身は20年もイタリアに住んでいて見たことがない。フェラーリ一強である。
「ダカールラリー」のシンボルマークを貼る人もいる。たとえ数年前から戦いの舞台が南米大陸に移されてしまっても、ヨーロッパではダカールに郷愁を抱く自動車ファンにたびたび出会う。理由を聞くと「昔はちょっと改造すれば、誰でも参加できたからさ」と答えるエンスージアストが少なくない。つまり「自分でも、もしかしたら参加できるかもしれなかった」感が背景にあるのだ。
名前入りで家族をアピール
イタリアには「高齢運転者マーク」のステッカーは存在しない。いっぽう、家族を大切にする国柄を反映して、「子供乗せてます」ステッカーは、さまざまな変遷を遂げてきた。なお、それらのステッカーには、大抵「Bimbo al bordo」と記されている。bimboとは「貧乏」ではなくイタリア語で「子供」の意味である。
1990年代末までは既製の量産品や、チェーン系子供用品ショップの景品が大半を占めていた。続いて「ダビデ乗ってます」といった、普及した名前を多数そろえたステッカーがお目見えした。それらがサービスエリアなどでずらりと並んで売られているさまは、日本の文具店における三文判のごとくであった。
2010年前後からはプリンターを用い、本物の子供の写真をステッカーに印刷するサービスがみられるようになった。
それに続く最新モードは「家族全員の名前入りステッカー」である。自宅のパソコン上で、自分、家族、さらにはペットの名前を入力して送信すると、企業がそれをイラスト入りのステッカーにして送ってきてくれるサービスである。
気がつけば後方視界不良に!?
この家族ステッカー、早くもひそかなブームらしい。筆者自身も先日、立て続けに2例を発見した。そのうちのひとり、オペルのMPV「メリーバ」に乗る女性オーナーは、筆者に「結構かわいいでしょ」と自慢げに話しながら、撮影を許してくれた。
このステッカー、たとえ名字が明記されていなくても、個人情報保護に気を払う今日の日本では普及し得ないだろう。キリスト教の聖人にちなんだ名前が多いため、個人が特定しにくいイタリアならではのブームといえる。
ただしイタリアでも近年ではサッカー選手や外国人名など、今までの慣習にあやからない子供の名前が少しずつ増えている。不思議な名前が書かれているステッカーをこれから度々目撃するようになるのかもしれない。後続車両からステッカーの文字を読むのは、それなりに面白くなるだろう。
同時に、イタリア人は自他ともに認めるジェローゾな(嫉妬深い)国民だ。しゅうとめをはじめ、さまざまな親族から「なんで私の名前も書かないんだ」などど言われ、気がつけばリアウィンドウ全体が家系図になっているという悲劇だけは、後方視認性のうえからも避けたい!
(文と写=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>)

大矢 アキオ
コラムニスト/イタリア文化コメンテーター。音大でヴァイオリンを専攻、大学院で芸術学を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナ在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストやデザイン誌等に執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、22年間にわたってリポーターを務めている。『Hotするイタリア』、『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(ともに二玄社)、『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり】(コスミック出版)など著書・訳書多数。