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第438回:この値段でホントにイースか!? 230円牛丼もビックリのダイハツ・コストカット計画!

2011.10.28 小沢コージの勢いまかせ! 小沢 コージ
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第438回:この値段でホントにイースか!?
230円牛丼もビックリのダイハツ・コストカット計画!

美味くて安いにヒミツあり

いやはやクルマもスンゴイ時代に入って参りましたわ。そ、先日発売されたばかりの「ダイハツ・ミラ イース」! 第3のビール……じゃなくって第3のエコカーともいわれるヤツだが、まずは燃費がヒジョーにヨロしく、「コンパクトカーより実は燃費を削るのがキツい」といわれる軽自動車でJC08モードで30km/リッター! 10・15モードで32km/リッター!! を達成。コレは第1のエコカーハイブリッドや第2のエコカー(?)のマツダ・スカイアクティブ並みの超低燃費で、しかもより厳しいJC08での大台達成だからエライ!!

だが、もっと驚異的なのは「お値段」で、なんと、一番安いのだと79万5000円! それも基本的には質感はともかく、燃費性能を上げての達成だからやんなっちゃう。
まさに、味をよくして価格を下げた人気メニューみたいなもんで、肉量を落とさず(実は落としてる?)で値段200円台キープ! の牛丼の世界に近くなってきた。しかももともと1台当たりの利益が1万円とか2万円とかいわれる軽の世界でだからたいしたモンよ。

でも骨身を削るというか、渇いた雑巾(ぞうきん)を絞るにも限界がある。果たしてどーやって削ったのか。聞いてまた驚いた。

「ダイハツ・ミラ イース」。2011年9月20日に発売された。
「ダイハツ・ミラ イース」。2011年9月20日に発売された。 拡大

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クルマを造る組織が違う

「実は、人事権から変わってるんですよ」とは担当エンジニアの弁。

ダイハツは今回から新しい組織システムを採用している。いわゆる日産でいうクロスファンクショナルチーム、昔のホンダによくあったプロジェクトチームみたいなもんで、要は「ミラ イース」に関しては、デザイナーから設計屋から実験屋からヘタすると広報マン!? まで「ミラ イース専属」になって一体で作ってるわけだが、今回はさらに“その先”があった。

「決裁権まで一任されてるんです」
実は今回のミラ イースに関しては、完全にイチからチーム編成がなされている。どういうことかというと、過去のプロジェクトチームは、いわば“仮編成”で、「基本的な所属は車両実験部だけど、開発期間中は『ミラ』のチームに行ってる」とか、「所属はデザイン局だけど、今だけは『タント』のデザインをする」とか、そういう短期的なスペシャリストの集まりだった。だが、今回はスタッフ全員が社長直々指名のヤリ手、福塚執行役員の元に集約され、人事、決裁権まで管理してきたというのだ。

これが果たしてどういう“化学変化”を起こしたのかというと……?
「いままでできなかったことが、できるようになったんです」(前出のエンジニア氏)。

今までのプロジェクトチームでは、現場で思い切ったアイデアが出て「やろう!」ってなっても、いざ画期的パーツなり、斬新デザインを実行に移そうという時になって、所属ボスに「なに言ってんだ! 誰がこの価格でできるっていうんだよ!」とか「無理だよ無理、やるんならオマエひとりでやんな!」的に反対されてポシャることも多かった。

いわば民主党の事業仕分けみたいなモンだ。仕分け現場では、蓮舫(れんほう)議員よろしく「2位じゃダメなんですか?」となってカッコ良く決断されても、いざ削る現場になると所属省庁等の反対や、巧妙な抜け道を使われて実行されない。ま、スパコン開発に関しては実行されなくってもよかったとは思うが(苦笑)、すべてにおいて現場と、最終決裁の場が離れている場合、本当の改革は行われない。だが、「ミラ イース」は違ってたワケだ。

インテリアの様子。一部グレードのインストゥルメントパネルは、ごらんのようなツートンカラーになる。
インテリアの様子。一部グレードのインストゥルメントパネルは、ごらんのようなツートンカラーになる。 拡大
ミドル級セダン並みの前後座席間距離も自慢だ。実際に後席に腰掛けてみると、ニールームはこんな感じ。
ミドル級セダン並みの前後座席間距離も自慢だ。実際に後席に腰掛けてみると、ニールームはこんな感じ。 拡大

そして、発想の転換

「このクルマ以降、ウチの体質は変わったと思いますよ」と広報マンも言うように、今までできなかったことができた。一番のポイントがコストカットだ。

「基本的に開発目標は『すべてのパーツの性能を3割上げて、コストは半分にしろ!』ですから。でもそれくらいじゃないと、燃費を良くしつつ全体で価格を3割下げるなんてできない。最初はみんなが『えーっ!?』ですよ(苦笑)」

エンジニア全員が頭を抱えたそうで、その結果生まれたのが「発想の転換」と「設計素質という考え方」だ。発想の転換は文字通り、今までの常識を捨てて考えることで、設計素質はいわばその延長。パーツの軽量化とか、素材の変更ではなく、「曲がってた複雑なメンバーを、太く1本で通すようにする」とか「今まで二つに分けてたパーツを一つにする」とか、そういう“素質”にまで目を付けることだ。

具体的にはライト類。「LEDを使いつつ、価格を半値にした」。「LEDを使わないというやり方もありますけど、それだと燃費が達成できない。そのためにユニット全体のサイズを小さくしました」。実はそこが本質的な値段に効くそうな。ただ一方、そうすると見栄えが悪くなるので「サイズを落としても目立つカタチに」とデザイナーにはオーダーしたそうな。

そのほかツートンカラーのインパネも実は一体成形だし、例のアイドルストップにしてもそう。
「今までのやり方だと限界があって、『もう1割よくしろ』と言われて」。そして生まれたのが、減速中に車速が7km/h以下に落ちるとエンジンが止まるシステムだ。

リアシートの背もたれは一枚板ながら、前方に倒すことで荷室容量を拡大できる。
リアシートの背もたれは一枚板ながら、前方に倒すことで荷室容量を拡大できる。 拡大
サイズを小さくしながら目立つデザインにしたというヘッドランプ。いかが?
サイズを小さくしながら目立つデザインにしたというヘッドランプ。いかが? 拡大

みんなのお手本「ミラ イース」

「今までのダイハツではあり得ないやり方だったと思います。でも、それくらいしないと目標が達成できないし」。結果、おのずと生まれたのが「タンデムスターター」だ。要するにこれは、通常エンジンが止まった状態で、スターターのギアがミッションに飛び込み再始動させるものを、エンジンが回った状態でもつなげられるようにしたもの。
「こんなの考えたこともなかったですわ」と担当者は笑う。

また、今までダイハツのデザイナーは基本的にはいいデザインを考えるだけで「原価なんか考えたことなかった」のが「初めて工場やパーツメーカーを見学して“原価”を考えるようになった」という。

素材にしてもシート生地なんかは中国製だそうで「今までのしがらみを取り払って、オープンフェアで全世界から選びまくった」。ま、徹夜もしたことなかったお嬢さまが、いきなり中国内部の工場に行って、ガビーン!! と来るようなもんだろうか。ちょっといい比喩(ひゆ)浮かびませんが(苦笑)。

しかしまあとにかく、いいクルマ、常識ハズレのクルマには、いいアイデアは当然、いい組織が必要ってわけよ。ホントに政治経済から外交、社会と問題山積みの政治家や官僚にミラ イース開発担当者のツメのアカでも煎じて飲ませたいくらいだよね。
っていうか翻ってオレもそう? 悠長に毎日昼飯食ってるヒマがあったら、毎週『webCG』に原稿入れろ!? とかいう話だったりして(苦笑)。
ま、人生、人のふり見て我がふり直せ……ですよねホント。

(文と写真=小沢コージ)

メーターのアップ。写真上部に見えるブルーのラインは、エコな運転をするとグリーンに色を変える。環境にやさしいドライブを促すための工夫だ。
メーターのアップ。写真上部に見えるブルーのラインは、エコな運転をするとグリーンに色を変える。環境にやさしいドライブを促すための工夫だ。 拡大

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小沢 コージ

小沢 コージ

神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 YouTubeチャンネル『小沢コージのKozziTV』

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