日産GT-Rプレミアムエディション(4WD/6AT)
ニッポンにはGT-Rがある! 2016.09.26 試乗記 進化し続ける「日産GT-R」。走行性能や快適性の改良だけでなく、内外装の変更も伴う、GT-R史上最大規模の改良を受けた2017年モデル(MY17)の実力やいかに? 装備が充実した「プレミアムエディション」に試乗した。デビュー以来最大規模の改良
日産GT-Rは世界のスーパースポーツたち(特に意識しているのはポルシェだろう)と同じく、積極的に年次改良を行い、進化を示し続けている。しかしその登場は2007年と9年も前の話であり、生き馬の目を抜くかのような速さで進化する欧州勢たちに対して、これを改良し続けるにも「いささかベースが古くなり過ぎたのではないか?」という疑問は禁じ得なかった。
ちなみに筆者はwebCGでMY14を試して以来、「NISMO」といった“役付き”モデルには試乗したものの、標準グレードのステアリングは握っていない(今回試乗したのはプレミアムエディションではあったが)。つまり2015年の進化はすっ飛ばしての試乗となったのだが、GT-Rは見事なバランス感覚をもって、その進化を成し遂げていた。
まずGT-R MY17の印象について、誰もが口をそろえるのは「乗り心地が良くなった」ことだろう。しかし既にMY14の時点から、GT-Rは標準モデルをこの方向へとシフトさせている。だから取り立てて筆者は、以前は硬かった足まわりが、よりデイリーユースにふさわしくなったことに賛辞を贈るつもりはない。むしろ今回の改良は、日産GT-Rにとっての大切な岐路となりうるのではないか? という印象を持った。
MY17の進化を具体的に挙げると、その項目は「シャシー」「空力」「エンジン性能」の3つに分けられる。
まずシャシーは、その手法こそ明確化されなかったが、ベースとなるボディーの剛性を上げた。その上で新スペックのダンパーとスプリング、そしてスタビライザーを与えている。特にMY17で気に掛けたのは前後の剛性バランスを偏りなく上げることだったそうで、その結果MY15に比べ修整操舵が約30%、高速走行時におけるヨーレート変動が約20%、それぞれ低減したという。
空力性能を強化して570psへ
空力は、まずエンジン性能と密接な関係がある。MY17ではその動力性能を向上させるために、ラジエーター開口部を広げた。これはラジエーターコアを増設してフロントオーバーハングの慣性重量を増やすことよりも、走行風の増加で冷却性能を向上させる方法を選んだためだ。
しかしここでトレードオフとなるのが、フロント部の空気抵抗と揚力値。そこでMY17は、フロントバンパーごと意匠を改めた。その形状は明らかに前モデルよりもリップ形状が鋭くなり、ダウンフォースの増大を意識させる。その割にスポイラーをブラックアウトしたせいでMY17には“小顔効果”が働き、全体的に控えめながらも洗練されたイメージが与えられた。イヤーモデルとして見事なフィニッシュだ。
ちなみにこのフロントバンパーは、サイド部分にカナード効果を持たせている。そこから導かれた走行風はホイールアーチでタービュランス(空気の渦)を作り、タイヤハウス内の空気を引き抜くことで揚力を低減させ、ブレーキシステムの冷却性能を向上させる役割を持っている。そしてサイドスカートには整流効果を高めるデザインを採用し、車体後部まで空気の流れに連続性を持たせた。
エンジンはGT-R NISMOの気筒別点火時期制御を採用。これによって燃費性能はこれまで通りのまま(「ピュアエディション」および「ブラックエディション」は8.8km/リッター。取材車であるピュアエディションは8.6km/リッター)、その出力を20psアップの570ps/6800rpmまで高めた。また最大トルクはピーク値ではたったの+5Nmにすぎないが、約6割のレンジにわたってトルクが増えており、そのレスポンスアップに大きく貢献しているという。
かつ排気系には新設計の電子制御バルブ付きチタン合金製マフラーを標準化。軽量化に貢献するとともに、アクティブサウンドコントロール機構を駆使することで、騒音をまき散らすことなくドライバーにだけ心地よいサウンドを提供しようとしている。
走りの質感が味わえる
ここでようやくその走りを分析することになるのだが、まさに今回の改良は、スーパースポーツの今後を占う上で大きなひとつの分岐点になると筆者は強く感じた。
MY14以降“乗り心地の良くなった足まわり”は、よりオープンロードで(つまり合法速度域内で、という意味だ)GT-Rらしさを感じるためのダンピングへと進化しており、単にソフトなだけでなく、シャシー剛性の高さやエンジンレスポンスの素晴らしさ、もっと言えばGT-R特有の、骨っぽい頼もしさを味わえるダンパーやスプリング、そしてブッシュの硬さとなった。ピクピクと過剰に反応するのではなく、日常域で心地よいと感じるリニアリティーを得たから、普段の道路でもGT-Rを操縦している感覚が強い。
加えて遮音材や吸音構造を見直したことによって、エンジンサウンドはよりクリアなものとなり、あの車体後部でガチャガチャとうごめいていたトランスミッションの歯打ち音が、ほどよく心地よい程度のメカニカルノイズにまで消音されていた。だからMY17は、飛ばさなくてもGT-Rを味わえるのだ。
はっきり言ってしまえば、もはや一般路でGT-Rの能力を存分に試す場所は、どこにもない。しかしMY17ならば、そのストレスを感じずに公道を走ることができる。なぜならそれは、GT-Rの速さではなく質感を、味わえる仕様になっているからである。
参考までにGT-Rの全開性能は、筆者が保証する。というのも筆者は別日に袖ヶ浦フォレストレースウェイでMY17の「トラックエディション」(570ps)とGT-R NISMOを走らせる機会を得たのだ。両モデルはそのボディーをさらに接着剤で補強し、専用の足まわりを与えているものの(NISMOに至っては空力もだ)、そのオーバー500psを4輪でしっかりと受け止め、ずぶぬれのコースを悠然と走破した。ターンインではフロントヘビーが顔を出し、もう少しその回頭性に切れ味が欲しかったものの、ノーズさえきっちりイン側を向いてくれれば、そこからはGT-Rとの濃密な会話が始まった。
トランスアクスルを採用したことでその後軸荷重は高く、挙動はとても穏やかにしつけられており、高速領域下でもゆっくりとそのリアを滑らせながら旋回が始まる。そこから少しずつパワーをかけていくと、フロントタイヤのトルクが緻密に働きかけ、FRと4WDのいいとこ取りを演じながら、絶妙な姿勢でコーナーを駆け抜けてくれるのだ。
そしてクリッピングポイントからは、アクセル全開! その途方もないパワー(と快音)を、自信を持って操り切れる頼もしさは、GT-R独特のものであった。
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深まるGT-Rの世界観
だからこそ筆者は、公道仕様ともいえるプレミアムエディションを、もっとしなやかな方向へ振ってもよいと感じた。現状はタイヤの性能が乗り味に対して支配的で、このグリップに応えるために、しなやかになったとはいえ各種レートもそれ相応に高められている。これをもっと日本の速度域で追従性のよいタイヤと足まわりに整えれば、公道における快感指数がさらに高まると思う。すると「メルセデスAMG C63」や、「BMW M4」の持つ、速さだけでは推し量れない世界観が見えてくる気がする。
そのアイデンティティーがしっかりと確立された今、もはや300km/hで会話を楽しむ必要もない。極論かもしれないが日本ならそのスタビリティー保証値は、250km/hまででもよいとさえ思う。
次期モデルの登場は不透明といわれるが、筆者はもちろんこれを継続してほしいと思っている。ニッポンにはGT-Rがある! そう言えるだけの進化を、このMY17から明確化できそうな気がするのだ。トランスミッションがいまだに6段であること、エンジンが直噴化していないこと、それは次の世代まで我慢してあげよう。これらを差し引いても、2017年モデルの日産GT-Rは魅力的である。
(文=山田弘樹/写真=小林俊樹)
テスト車のデータ
日産GT-Rプレミアムエディション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4710×1895×1370mm
ホイールベース:2780mm
車重:1770kg
駆動方式:4WD
エンジン:3.8リッターV6 DOHC 24バルブ ツインターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:570ps(419kW)/6800rpm
最大トルク:65.0kgm(637Nm)/3300-5800rpm
タイヤ:(前)255/40ZRF20 97Y/(後)285/35ZRF20 100Y(ダンロップSP SPORT MAXX GT 600 DSST CTT)
燃費:8.6km/リッター(JC08モード)
価格:1170万5040円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。