フォルクスワーゲン・ゴルフトゥーランTSI Rライン(FF/7AT)
ビジュアルだけのクルマにあらず
2016.09.30
試乗記
フォルクスワーゲンのコンパクトミニバン「ゴルフトゥーラン」に、新たな最上級グレード「TSI Rライン」が登場。スポーティーな装いの内外装が特徴とされている同車だが、注目すべきはむしろ走りの方だった。
18インチホイールはRラインの“特権”
「Rライン」とは、フォルクスワーゲンが展開するスポーツ風味の定番高付加価値モデルで、「フォルクスワーゲンR(GmbH)社」が開発した専用内外装パーツを標準装備した最上級グレードである。公式プレスリリースによると、R社とは「『ゴルフR』やラリーカーなどの本格的なレースマシンの企画、開発などを一手に引き受ける社内チューニングメーカー」だそうだ。
モータースポーツや量産スポーツモデルを、専用子会社、もしくは本社と独立した別ユニットにまかせる……という商品企画開発の手法は、最近の欧州メーカーでよく見られるものだ。R社の象徴的な市販モデルはゴルフRだが、ドレスアップに重心を置いたライトなスポーツ風味の高付加価値モデルに「○○ライン」という名前をつけるのも、昨今のハヤリである。
このゴルフトゥーラン(以下トゥーラン)初のRラインも、これまでのRライン同様に、基本的には内外装ドレスアップが主眼。標準の17インチホイールのサイズは、タイヤサイズともどもトゥーランでは「TSIハイライン」と共通なので、Rラインといっても走りに特別なところはない。事実、公式プレスリリースにも、このモデルのねらいどころについては「国内ミニバン需要でも人気の高いドレスアップ系ミニバン意向者にアピール」と書かれている。
ただ、走りにかかわる純正アイテムで、Rラインでしか手に入らないものがひとつだけある。それは18インチホイールだ。トゥーランRラインではリアルタイム可変ダンパー(DCC)とセットでオプション設定される。今回の取材車もその18インチ+DCC装着車だった。
普段はノーマル、ときどきコンフォート
最近はタイヤ技術も進歩した。ひと昔前のスーパーカー級のタイヤを普通の乗用車に履かせても、市街地の乗り心地や柔軟性、直進性などが悲惨なことになる例はほとんど見られなくなった。
そうはいっても、背の高いトゥーランは「パサート」や「ゴルフヴァリアント」のRラインよりは快適な乗り心地づくりに不利。そこをうまく補っているのが優秀なDCCである。コロンとしたコンパクトミニバン形状にワル目立ちする45偏平の18インチタイヤ……ということで、当初はそれなりに明確な犠牲を覚悟したトゥーランRラインだが、それはまったく不要な心配だった。
トゥーランのDCCも、他のモデルのように「コンフォート」「ノーマル」「スポーツ」という3つのモードを切り替えることが可能だ。
DCCをもっとも柔らかいコンフォートモードにしたトゥーランRラインの乗り心地は、素晴らしく快適である。ちょい昔の「トヨタ・クラウン」ばりに路面の凹凸を柔らかに吸い込みながらも、上下動はほどよく抑制されて、カーブで腰くだけになるようなことはない。状況に応じて減衰力をリアルタイム制御するDCCなので、速度やGの上昇につれてダンパーも引き締まっていく。少なくとも日本の法定速度内であれば、高速道も含めてコンフォートだけで事足りるだろう。
ただ、そのコンフォートのフワリとした上下動には、同乗した子供がクルマ酔いする、特有のユラユラ感が自分の運転スタイルに合わない……といったケースもありえる。その場合は、ひとつ硬いノーマルモードにするだけで、ほぼピタリと安定したフラットライドとなる。そのぶん、路面からのアタリは増えるが、せいぜい“コツコツ”程度で“ゴツゴツ”ではない。市街地を流すときのコンフォートモードはちょっと感動的なくらい快適だが、クルマのビジュアルとフラットライドのバランスは、冷静に考えると中間のノーマルがベスト。あとは2、3列目に座る乗員の要望に合わせて、ときおりコンフォートを緊急的に使う……といった感じだろうか。
スポーツモードで実感する基本性能の高さ
トゥーランRラインを“ちょっと背高のスポーツワゴン”と割り切れば、もっとも硬いスポーツモードでも乗り心地は悪くない。低速でのアタリをあえて他車と比較すれば「ゴルフGTI」を思わせるくらいに快適で、それよりコツコツ成分ちょい多め……といったところだ。
ただ、このスポーツモードのちょっと無視できないうれしい驚きは、山坂道でのハンドリングだった。積極的に曲がるほど引き締まるDCC効果もあって、ロールらしいロールはせず、しかしロードホールディング能力も高い。普通のトゥーランと共通のエンジンではまるで物足りなく思えるほどで、思わず「トゥーランGTI!?」と呼びたくなった。
これだけの機動性を与えても、快適性や安定性にまるで破綻がないのは、車体剛性やサスストローク、基本的なロール剛性など、トゥーランの基本フィジカルの高さゆえだろう。タイヤやサスチューンを問わず、快適性や運動性能がハイレベルで両立するのは、このトゥーランをはじめとしてMQBを採用するクルマに共通する美点でもある。
スポーツモードの走りを一度でも体験すると、それまでは不満を感じなかったコンフォートやノーマルでは、山坂道で反応が1、2テンポ遅れてしまい、ちょっと運転しにくいな……と感じてしまうようになる。
ただ、ドライバーズカーとしてはすてきなスポーツモードも、家族サービス用途には絶対的に硬すぎるのも事実ではある。よって、個人的にこのクルマを所有するなら、基本はノーマルモードをデフォルトで固定しつつ、乗り心地にうるさい同乗者がいるときにはコンフォートで黙らせる。そしてスポーツは、ひとり乗車用もしくは、なにかしらの理由で山坂道を急ぐ必要にかられたとき用の、とっておきの隠しメニュー……となるだろう。まるで絵に描いたように説明書どおりの使い方だが、この種の可変機構をコンセプトどおりに使って素直に納得できるのは、それだけ優秀であることを意味する。
走り系ミニバンの最右翼
トゥーランは非スライドドアのローハイト・コンパクトミニバンである。国産ミニバンで似たコンセプトを探すと「トヨタ・ウィッシュ」がもっとも近い。ご想像のとおり、この種のミニバンの国内マーケットは急激に縮小しているのだが、このRラインを含めて、トゥーランは日本仕様でも4グレードという豊富なラインナップを取りそろえる。
トゥーランのライバルになりそうな競合車をさらにあげるとすれば、国産なら「ホンダ・ジェイド」に「スバル・エクシーガ クロスオーバー7」、そして輸入車では「プジョー5008」と「シトロエン・グランドC4ピカソ」ということになる。現実的には収納サードシートがついた小型SUVも選択肢となる。
スライドドア付きワンボックス型が全盛の国内ミニバン市場で、あえてこの形状を採るミニバンはどれも走り自慢だが、そのなかで最新商品でもあるトゥーランは間違いなくトップのデキと断言したい。全身にみなぎる剛性感やドライバーズカーとしての完成度もさることながら、ミニバンのキモであるサードシートも、空間がもっとも広い……とまではいわないが、その着座姿勢はもっとも健康的で、ガッチリと守られた安心感は圧倒的である。
事実、「どうしてもこういうミニバンが必要」という頑固一徹層には、日本でもトゥーランがいちばんの定番商品になりつつある。定番だからこそ、Rラインのようなハズシの商品も存在価値がある。
コスパも含めて普通に考えれば、トゥーランでは300万円台前半の「TSIコンフォートライン」が安定の推奨株だ。しかし、Rラインも“ただのビジュアル商品”と切って捨てるには惜しいくらいの効能はある。ほしがっている人には「せっかくだからDCCもフンパツしてね」と加えつつ、その背中を素直に押してあげたい気持ちである。
それにしても、フォルクスワーゲンにかぎらず、欧州メーカーのこの種の商品が総じてデキが良くなっている……と痛感してやまない今日このごろである。冒頭のようにスペシャリストを子会社化・別ユニットとすることで、開発チームの能力をうまく使いこなすノウハウが浸透したせいかもしれない。
(文=佐野弘宗/写真=宮門秀行)
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テスト車のデータ
フォルクスワーゲン・ゴルフトゥーランTSI Rライン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4540×1830×1670mm
ホイールベース:2785mm
車重:1560kg
駆動方式:FF
エンジン:1.4リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:150ps(110kW)/5000-6000rpm
最大トルク:25.5kgm(250Nm)/1500-3500rpm
タイヤ:(前)225/45R18 95W/(後)225/45R18 95W(ピレリ・チントゥラートP7)
燃費:18.5km/リッター(JC08モード)
価格:397万4000円/テスト車=448万1600円
オプション装備:ボディーカラー<ハバネロオレンジメタリック>(3万2400円)/“Discover Pro”パッケージ<純正インフォテインメントシステム“Discover Pro”[SSDナビゲーションシステム+FM-VICS内蔵+DVD/CDプレーヤー+MP3/WMA再生+AM/FM+地デジTV受信+Bluetoothオーディオ/ハンズフリーフォン+MirrorLink]+ETC2.0対応車載器+MEDIA-IN[iPodおよびUSBデバイス接続装置、センターコンソール/2列目]>(25万9200円)/DCCパッケージ<アダプティブシャシーコントロール“DCC”+225/45 R18モビリティータイヤ+7J×18アルミホイール[10スポーク]>(21万6000円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:4729km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:558.3km
使用燃料:53.8リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:10.4km/リッター(満タン法)/11.5km/リッター(車載燃費計計測値)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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