ダイハツ・ムーヴ キャンバスG“メイクアップ SA II”(FF/CVT)/ムーヴ キャンバスX“リミテッド メイクアップSA II”(FF/CVT)
見た目だけでも好きになる 2016.10.07 試乗記 ダイハツから、“新感覚スタイルワゴン”をうたう新型軽「ムーヴ キャンバス」が登場。試乗してみると、愛らしいルックスの向こうに、ユーザーの生活を考え抜いた真面目で地道なクルマ作りが見えてきた。総子化時代のクルマ
またしても社会学由来のクルマである。近居の親戚や友人までを家族とみなすようになってきた日本社会の傾向を反映したという「日産セレナ」に続き、「ムーヴ キャンバス」も生活様式の変化を分析して作られたモデルなのだという。キーワードは「総子化」だ。2012年に博報堂が提唱した概念で、子供の高齢化を意味している。平均寿命が延びたことで、20歳以上になっても親が存命なのが当たり前になってきた。かくして、中年独身女性が両親や一人親と同居する大人世帯が増えていく。ムーヴ キャンバスは総子化時代のクルマなのだ。
クルマを作るのに社会学かよ、と思うかもしれないが、これは今に始まったことではない。「フォード・マスタング」は、ベビーブーマーをターゲットにしたモデルである。戦後生まれの若者の性向を分析し、コンパクトで低価格、スポーティーなクルマを開発した。思惑どおり若者から支持を集め、ポニーカーというジャンルを構成するに至った。ルノーが「4」から「5」に移行する際に5ドアから3ドアに変えたのは、核家族化による生活様式の変化に対応したからだ。売れ筋のクルマを作るには社会学の知識が必要である。そのうち古市憲寿監修モデルなんてものが現れても不思議ではない。
技術説明会では、コンセプトを決めるために使われたデータが提示された。30代から40代の未婚女性は1995年に17万8000人だったのが、2016年に39万4000人に増加。逆に20代の未婚女性は62万7000人から45万7000人に減少している。未婚女性の親同居比率は約8割。彼女たちがクルマを購入する際には54%の親が資金援助をしている。1台のクルマを親子で共有するわけだ。親が利便性を重視するのに対し、娘は見た目が大事。結論として「オシャレで使い勝手がいいクルマ」を作ることになった。
男性ユーザーでも乗れそう
「オシャレ」の部分は、バスっぽいレトロな意匠とカラーリングが担当している。ワンボックスの軽自動車をベースに「フォルクスワーゲン・バス」風に改造したモデルをよく目にするが、メーカーが本気を出して作るとさすがに別物に仕上がった。レトロ感だけでなく、今風の女子的な愛らしさがある。水平を基調にしたシンプルな造形なので、子供っぽいファンシーさはほとんど感じられない。
ボディーカラーはモノトーン9色に流行のツートーンを加えた17色。「ストライプスカラー」と名付けられたツートーンは、ルーフだけを違う色にするよくあるパターンではない。ベース色を上下から挟み込むようにしていて、フロントとリアにも差し色が大きく使われている。差し色にはホワイトとグレーがあり、組み合わせによってかなり印象が変わる。濃色とグレーのコンビネーションなら、男性ユーザーでも乗れそうだ。
インテリアも外観と同じで、水平&シンプルな造形。メカっぽさを極力抑えた、リビングルーム系の空間だ。「メイクアップ」グレードではダッシュボードやドアトリムにアクセントカラーが加わり、メッキ加飾も施される。オプションでは内外装ともにメッキパーツに人気があるそうで、“自分仕様”を演出するためには大事なアイテムなのだ。
「タント」がベースになっていて、全高は「ムーヴ」より25mm高い1475mm。もちろん十分な室内空間が確保されていて、後席にはゆったりと座ることができる。シートは左右別々にスライドとリクライニングができるので、乗員の数と荷物の量に応じてアレンジが可能だ。このあたりは常識的な装備だが、ムーヴ キャンバスには娘と母に向けたアピールポイントがある。「置きラクレイアウト」だ。
合わせ技で利便性が向上
“お気楽”をもじったネーミングからわかるように、言ってみれば横着を決め込むための工夫である。クラス初という両側スライドドアと「置きラクボックス」の組み合わせで、荷物を積んでから運転席に乗り込む動作を最小限にしたというわけだ。置きラクボックスとは、後席シート下収納のこと。スライドドアを開けて、置きラクボックスに荷物を積み、ドアを回り込むことなく運転席へ。ひとつひとつは目新しい装備ではないが、“合わせ技1本”で利便性を向上させたことになる。
助手席下にも収納があり、こちらには靴を入れておくのが一般的だ。それで十分ではないか、と思うのは男の浅はかなところで、女性は履き替え用の靴を何足もクルマに積んでおくのが当たり前なんだそうだ。今までトランクに入れるしかなかったことを考えると、ありがたい装備らしい。
置きラクボックスは引き出し状になっているので、小さなものなら入れたまま隠しておける。中には折りたたんだユーティリティーボックスが備えられていて、広げれば倒れやすいものを積めるバスケットモードに。これまでは、買い物をして荷物を後席に載せると、落ちてしまうのが心配だった。かといって、食品などは床に置くのがはばかられる。娘も母も喜ぶ装備だろう。制限重量は5kgなので、大容量ペットボトルを置くときは注意が必要だが。
バスケットモードを見て、「私ならここにずっと荷物をおいておく」と話していた女性がいた。後席は、実際の使われ方としては荷物置き場なのだ。人を乗せるより、物を置くことのほうが多い。置きラクボックスは合理的なソリューションなのだろう。
街乗り用の技術もしっかり
ムーヴ キャンバスに用意されるパワートレインは1種類。自然吸気エンジンにCVTの組み合わせである。街乗り用のクルマなので、ターボは必要ないとの判断だ。試乗したのも街なかだけで、普通に走る分には不足は感じなかった。正直に言えば、発進は少々もどかしい。CVTが加速より燃費重視の設定になっているようで、このルックスに乱暴な走りは似合わないということなのだろう。
街乗り重視だからといって、技術開発に手を抜けるわけではない。フラットな乗り心地を得るために、フリクションコントロールダンパーを採用し、バルブ応答性の改善を図ったという。ブレーキフィーリングをよくするために、キャリパー剛性アップなどでロスストロークを低減。ステアリングホイール内部にダンパーを仕込んで振動を抑えることまでやっているという。スピードや敏しょう性も大切だが、足代わりに使って快適に乗れることもクルマにとって大事な性能なのだ。
きめ細かいチューニングの成果か、ステアリングもブレーキもフィールは自然だ。微低速でのコントロールがしやすく、タウンユースではありがたい。両側スライドドアはボディーの強度を保つ上で厳しい条件となるが、剛性不足は感じなかった。ダイハツはもっと背の高いタントで経験を積んでいるのだから当然だろう。
衝突回避支援システムのスマートアシストIIは、ほとんどのグレードに装備されている。ステアリング連動ヘッドランプは、軽自動車としては初採用だ。ユーザーが一番有用だと感じるのは、おそらく「パノラマモニター」だろう。前後左右に備えられたカメラを使い、クルマのまわりを6つのモードで表示する。切り替え操作は簡単で、特に「レフト&ライトサイドビュー」は縦列駐車時に便利だった。軽自動車でも、先進安全装備や便利機構は必須のものになりつつある。
CMでは“とと姉ちゃん”こと女優の高畑充希が「私、見た目だけで好きになるほど子供じゃないのよ」と言ってイケメンをソデにする。若い女性は見た目重視という分析とは相反するようだが、スタイルと機能がどちらも充実しているものしか売れないということだろう。社会学の助けはあっても、真面目に地道にクルマ作りをするしかないのだ。
(文=鈴木真人/写真=峰 昌宏)
テスト車のデータ
ダイハツ・ムーヴ キャンバスG“メイクアップ SA II”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1665mm
ホイールベース:2455mm
車重:920kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:52ps(38kW)/6800rpm
最大トルク:6.1kgm(60Nm)/5200rpm
タイヤ:(前)155/65R14 75S/(後)155/65R14 75S(ブリヂストン・エコピアEP150)
燃費:28.6km/リッター(JC08モード)
価格:154万4400円/テスト車=184万3366円
オプション装備:ストライプカラー<パールホワイトIII×ファインミントメタリック>(6万4800円)/パノラマモニター対応純正ナビ装着アップグレードパック(5万4000円) ※以下、販売店オプション ワイドダイヤトーンサウンドメモリーナビ(14万7593円)/ETC車載器<エントリーモデル>(1万7280円)/カーペットマット<グレー>(1万5293円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:581km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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ダイハツ・ムーヴ キャンバスX“リミテッド メイクアップSA II”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1665mm
ホイールベース:2455mm
車重:920kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:52ps(38kW)/6800rpm
最大トルク:6.1kgm(60Nm)/5200rpm
タイヤ:(前)155/65R14 75S/(後)155/65R14 75S(ブリヂストン・エコピアEP150)
燃費:28.6km/リッター(JC08モード)
価格:147万9600円/テスト車=185万0407円
オプション装備:ストライプカラー<スムースグレーマイカメタリック×ファイアークォーツレッドメタリック>(6万4800円)/パノラマモニター対応純正ナビ装着アップグレードパック(5万4000円)/ブラックインテリアパック(2万1600円) ※以下、販売店オプション 8インチメモリーナビ<ブラック>(19万7834円)/ETC車載器<エントリーモデル>(1万7280円)/カーペットマット<グレー>(1万5293円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:515km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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