スバル・レヴォーグ2.0STI Sport EyeSight(4WD/CVT)
まだまだ盛れる 2016.10.17 試乗記 スバルのワゴン「レヴォーグ」に、「STI Sport」を名乗る最上級グレードが登場。一体、どんな走りを見せるのか? 排気量の異なる2タイプのうち、よりパワフルな2リッターモデルで、その実力を試した。ちょっと違ったSTI
メルセデス・ベンツならAMG、BMWならM、アウディならアウディスポーツ、キャデラックならV。モータースポーツも視野に入れてハイパフォーマンスカーを開発する部門が、高級・高性能仕様車を開発するのが世界の自動車メーカーのトレンドだ。
この手のモデルは利幅がデカくていい商売になるし、ライバル他社にブランド力で差をつけることもできる。だからこの流れは、さらに加速するだろう。
けれども、どんなメーカーでもこの戦略を採れるわけではない。モータースポーツで結果を残していないと、説得力がないからだ。「F1やってます」「DTMで総合優勝しました」「ルマン24時間ではこの10年で7回優勝しています」ぐらい言われると、「ははぁ~」とひれ伏してしまう。
でも、「レースはじめました」程度の看板だとしたら、中華料理屋の「冷やし中華はじめました」の看板の方がまだ注目を集めるだろう。
自信を持って看板を出すことができる国産メーカーの最右翼が、STI(スバルテクニカインターナショナル)だ。3度のマニュファクチャラーズチャンピオンを獲得したWRC(世界ラリー選手権)での名声は言うに及ばず、ここ最近でも過酷なニュルブルクリンク24時間レースで2年連続でクラス優勝を遂げている。
ただ、お世辞にも商売上手とはいえないスバルは、これまでSTIのブランド力をあまり上手に使ってこなかった。STI仕様もあるにはあったけれど、それは高級・高性能仕様というよりはバリバリの武闘派仕様で、限られた好事家たちの方を向いていた。
そうした方針を転換して、STIというブランドが持つ資産を有効活用しようという流れで生まれたのが、このスバル・レヴォーグ2.0STI Sportである。台数限定車だった「tuned by STI」とは異なり、れっきとしたカタログモデル。レヴォーグのSTI Sportは1.6リッターモデルもラインナップするけれど、今回試乗したのは最高出力300psを発生する、2リッター直噴ターボエンジンを搭載したモデルだ。
平和過ぎて拍子抜け
スバル・レヴォーグ2.0STI Sportに乗り込む瞬間、昔からのスバルファンほど「おっ」と驚くはずだ。しゃれた色合いのボルドーの本革シートが出迎えてくれるからだ。ただきれいな色を使っただけでなく、じっくり見るとステッチまで気を配っていることから、「上質なクルマを作ろう」というスバルの本気度が伝わってくる。いままでのSTIが汗臭い体育会系の部室だったとすれば、今度のSTIはOLやマダムもやってくるスポーツジムを目指している。
ほかに、ヘッドレストやメーターなどにSTIのロゴが配されていて、“STI推し”の気合が伝わってくる。
変わったのは、内外装の見てくれだけではなかった。
STIと聞くと、体はかつての武闘派だった頃のSTIを覚えているから、路面からの突き上げがびしびし響くんじゃないか、ターボがドカンとさく裂するのではないかと身構えてしまう。
ところが走り始めてから数十秒で、拍子抜けしてしまった。2リッター直噴ターボエンジンはアイドル回転からトルキーで、滑らかに回転を上げる。タウンスピードでも扱いにくさとか気難しさは皆無で、音も静か。乗り心地も至って平和だ。サリーちゃんのパパが出てくると思っていたらリカちゃんのパパだった、ぐらいの違いがある。
エンジンが従順なのは当然で、パワートレインはエンジンのスペックやスポーツリニアトロニックと呼ばれるCVTも含めて、標準モデルと共通だ。
では何が違うのかといえば、乗り心地と操縦性だ。路面から伝わるショックが、角の取れたマイルドなものになっているけれど、ただそれだけではない。STIの技術とノウハウは、足まわりのチューニングに顕著に表れている。
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身のこなしに驚かされる
乗り心地がただマイルドなだけでないというのは、高速道路に入って速度が上がるにつれてはっきりする。まず凸凹を乗り越えた後のボディーの上下動が、ぴしっとおさまる。ぼよよよよ~んというイヤな余韻が残らないから爽やかだ。
カーブを曲がる時は、どんなクルマでも車体は横方向への傾き、いわゆるロールを発生する。スバル・レヴォーグ2.0STI Sportは、「直進状態」→「横に傾く」→「コーナリングを終えて直進状態に戻る」という一連のプロセスが実にスムーズで、無駄な動きがない。
つまり、どんな場面でも車体の身のこなしがすっきりと洗練されている。だから、ただ乗り心地がいいというだけではなく、道路の摩擦抵抗が低くなったと感じるほど滑らかに走る。やさしい飲み口と滑らかな喉ごし、そしてすっきりした余韻という、手間暇かけて造られた日本酒のような乗り味である。
これを実現するあたりがSTIの技術力ということになるけれど、具体的なパーツに理由を求めれば、専用に開発されたダンパーとスプリングに行き着く。
ダンパーはビルシュタインの「DampMatic(ダンプマチック)II」で、ざっくり言うと負荷が低い時はしなやかに、負荷がかかるとしっかりする、減衰力可変タイプ。このダンパーをうまくチューニングしたのが勝因とお見受けした。
「キレ」と「ハレ」が欲しくなる
ワインディングロードに入ると、STIのノウハウがさらに奥深いことを思い知らされる。自信を持ってステアリングを切ることができるのは、クルマと路面の関係を事細かに伝えるステアリングフィールのおかげだ。ちなみに、ステアリングギアボックスの取り付け剛性を高める工夫が施されているという。
300psのダッシュ力に負けないブレーキは、ただ利くというだけでなく、ブレーキを踏んだ瞬間のしっかり感や、ブレーキの踏み加減で制動力を調整するコントロール性にも優れている。このあたりは、実戦経験のたまものだろう。
といった具合に、STIがいい仕事をしているのはよくわかった。マル秘メモ帳には、「アシのいいやつ」と記されている。これはチューニングカーではなく、プレミアムなコンプリートカーだ。
ただし、素性がいいだけに、もっと高望みをしてしまう。300ps以上のパワーは要らないけれど、アクセルペダルを踏んだ瞬間にパシッと反応する、俊敏なレスポンスが欲しい。「SI-DRIVE」を「S♯(スポーツ・シャープ)」モードに入れさえすれば、回転が上がってから速度がついてくる、かつてのCVTの悪癖を感じない。普通のスポーティー車としては十分だ。
けれども、欧米の列強の触れれば切れるような鋭いレスポンスに比べると、まだ改善する余地はある。
インテリアも、センスがよくなったのは認めるとして、乗り込んだ瞬間にドキドキワクワクするぐらいのスペシャル感があっていい。
ちなみにベースとなる価格は394万2000円。安いとは言わないまでも、この内容にしてはお値打ち価格。でも、もしこれが600万円でも納得できる仕上がりになれば、ドイツのハイパフォーマンスカー開発部門と肩を並べられるはず。STIには、それくらいのポテンシャルがあるはずだ。
(文=サトータケシ/写真=田村 弥)
テスト車のデータ
スバル・レヴォーグ2.0STI Sport EyeSight
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4690×1780×1490mm
ホイールベース:2650mm
車重:1570kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター水平対向4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:CVT
最高出力:300ps(221kW)/5600rpm
最大トルク:40.8kgm(400Nm)/2000-4800rpm
タイヤ:(前)225/45R18 91W/(後)225/45R18 91W(ダンロップSP SPORT MAXX 050)
燃費:13.2km/リッター(JC08モード)
価格:394万0200円/テスト車=406万0800円
オプション装備:ボディーカラー<クリスタルホワイトパール>(3万2400円)/サンルーフ<電動チルト&スライド式>(8万6400円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:1854km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:232.8km
使用燃料:23.0リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:10.1km/リッター(満タン法)/10.8km/リッター(車載燃費計計測値)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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