日産セレナ ハイウェイスターG(FF/CVT)
完成まであと一歩 2016.10.26 試乗記 日産の人気ミニバン「セレナ」がフルモデルチェンジ。最上級グレード「ハイウェイスターG」に試乗して見えてきた、最新型の実力とは? 走りの質に燃費、各席の乗り心地など、項目ごとに詳しくリポートする。【総評】ミニバンの完成形だが、先進装備には不満……★★★☆☆<3>
“5ナンバーサイズミニバン最強モデル”を自任するだけに、さすがにきっちり仕上げてきたという印象である。室内空間、ユーティリティー、質感、乗り心地、燃費、運動性能など、いずれの項目でもライバルたちに負けていない。
限られたサイズの中では、スタイルも似通ってくる。価格の競争も激しく、どの項目を優先させるかが商品力を左右する。平均点を取りながら、どこかで突出した魅力を見せなければならない。デュアルバックドア、ハンズフリーオートスライドドアといった利便性を高める装備は、選択のカギを握る奥さま層からの支持を得そうだ。
シートアレンジも完成の域に達している。フロアには縦横にレールが走り、シートの位置を自由に決めることができる。かつて3列目はエマージェンシーの扱いで、ペラペラのシートにガマンして乗らなければならなかった。セレナの3列目シートは見事な出来栄えで、虐げられた席というイメージは払拭(ふっしょく)された。
ライバルたちを研究し尽くしただけのことはあり、このクラスのミニバンの中で確実なアドバンテージを得ていると思う。ただ、ひとつ残念なのが鳴り物入りで採用された「プロパイロット」だ。“同一車線自動運転技術”と称されるが、まだまだ熟成の余地は大きい。
高速道路での巡航と渋滞走行の負担軽減を目的としているが、長距離を走行してみるとむしろ疲労感が増した。高速コーナーでのハンドル支援はぎこちなくて心配になるし、渋滞時の追従走行はレスポンスが悪くて任せる気がしない。夕暮れ時に西に向かって走ると、たびたびカメラが動作しなくなった。「これはいいよ」と他人に勧めるのはためらわれる。ソフトウエアのアップデートで改善されることを期待したい。
<編集部注>各項目の採点は5点(★★★★★)が満点です。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
5ナンバーサイズミニバンとして1991年に「セレナ」が誕生。商用車ベースの「バネットコーチ」が独立する形で、当初は「バネットセレナ」の名で販売された。2005年に3代目となると広い室内やシートアレンジの多彩さがファミリー層から高く評価されて人気が上昇。ミニバンの年間販売台数ナンバーワンの座を何度も獲得する。
2016年にフルモデルチェンジされた5代目は「家族」がテーマ。室内長は先代に比べてプラス180mmの3240mmで、クラストップに。空間を広げた上に、2列目のシートベルトを内蔵型にして3列目の乗降性を高めた。2列目シートは690mmのロングスライドに加えて横スライドも可能で、多様なアレンジを実現する。
荷室には「デュアルバックドア」を採用。テールゲートを2段階にしてリアウィンドウだけを開閉できるようになった。狭い場所でもハーフバックドアを開けて荷物を出し入れでき、軽いので小さな力で扱える。ボディーの下に足を差し入れるだけで動作する「ハンズフリーオートスライドドア」、給油時にキャップを回さずに済む「キャップレス給油口」などの便利装備も充実させた。
パワーユニットは、エントリーグレードが2リッター直列4気筒エンジン。それ以外は、このエンジンをベースとする、「スマートシンプルハイブリッド」と名付けられたマイルドハイブリッドシステム「S-HYBRID」を搭載。いずれもCVTが組み合わされる。FFモデルではクラストップとなる17.2km/リッター(JC08モード)の燃費を記録する。
新たな先進装備として、同一車線自動運転技術をうたうプロパイロットが設定された。高速道路上の一定の条件下で、アクセル/ブレーキ/ステアリングの操作を自動化するシステムである。
![]() |
(グレード概要)
法人向け仕様の「B」を除くと、「S」「X」「G」「ハイウェイスター」「ハイウェイスターG」の5グレード。ベーシックな「S」以外はS-HYBRIDを装備し、「X」「G」「ハイウェイスター」にはFFのほか4WDモデルが選べる。試乗した「ハイウェイスターG」は最上級グレードにあたる。期間限定生産の特別仕様車「プロパイロットエディション」も用意される。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
【車内&荷室】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★☆☆<3>
エアコン吹き出し口の位置を変更するなどして、メーターパネルを低く抑えた。天地方向は狭いが、表示がくっきりとしているので見やすい。9インチモニターを中央に据えたセンタークラスターはピアノブラック調で高級感がある。スタートボタン、パーキングブレーキ、シフトセレクターがまとまって配置されていて使い勝手は良好。
プロパイロットの操作スイッチはステアリングホイールの右スポーク部に備わっており、指先で直感的にセッティングができる。レバー式よりもはるかに優れたユーザーインターフェイスだろう。
(前席)……★★★★☆<4>
移動式のセンターコンソール「スマートマルチセンターシート」を前席に配置すれば、肘掛け&物を置くスペースとして活用できる。Aピラーの後ろ側をブラックカラー化したことは、開放感を得るための安上がりなアイデア。フロントガラスは上下左右ともに拡大しているので、実際に視界は広がっている。サンバイザーにパンチングを施したのは信号が見えにくいという声に応えた工夫だが、恩恵を受ける機会はそれほど多くはない。
3列目に人が乗ったり荷物を多く積んだりして後方視界がさえぎられたときは、「スマート・ルームミラー」に切り替えればOK。ワンタッチでリアのカメラが捉えた映像を映し出すことができる。
(2列目シート)……★★★☆☆<3>
2列目には前席と同じ「ゼログラビティシート」が採用されていて、中折れ形状の背もたれパッドが使われている。サポート性は上々だ。スマートマルチセンターシートを前方配置した状態なら、前後ロングスライドとサイドスライドが可能で、アレンジの自由度は高い。乗員同士の関係性によって配置を変えることができる。
パーソナルテーブルの質感はあまり高くないが、カップや小物を置くスペースと考えれば十分。USB電源ソケットが左右2つ用意されているのはありがたい。2列目はミニバンで最上のポジションといわれるのもよくわかるが、悪路で振動の影響が最も大きいのも事実。3列目が進化した結果、無条件で選ばれる席とは言えなくなった。
![]() |
(3列目シート)……★★★★☆<4>
パーソナルテーブルとUSB電源ソケットが2つずつ備えられているのは2列目と同じで、おもてなし度合いは変わらない。フラットでサポート性には欠けるものの、パイプ椅子並みだった過去のミニバンに比べれば飛躍的に快適なシートになった。一段高い位置にあるので、2列目と前席を見下ろしながらフロントガラスからの風景を眺められるのは気持ちがいい。2名以下の乗車を前提とすれば、開放感は一番だ。
![]() |
(荷室)……★★★★☆<4>
2段階のテールゲートは目新しい装備ではないが、間違いなく大幅に利便性をアップさせている。ハーフバックドアの操作に慣れてしまえば、とてもバックドア全体を持ち上げる気にはならない。これまでよくガマンしてきたと思うほどだ。
3列目シートの収納は跳ね上げ式で、操作は簡略化されているもののそれなりに力が必要だ。荷室として使うようになると、固定したままになることが多いのは理解できる。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★☆☆<3>
発進時や加速時には少々もどかしい気持ちになることがたびたびあった。クラストップの燃費を実現するためには、加速性能を優先することはできなかったのだろう。ECOモードを解除するとこころもち力強さは増すが、比例して騒音も大きくなる。うるささから逃れるという意味でも、3列目のアドバンテージは大きい。
プロパイロットを使うと、加速はさらにのんびりしたものになる。自動ブレーキをかけるのはギリギリなのに、いざ前が空いてもなかなか加速への反応をみせないのは、アンバランスな印象だった。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★☆☆<3>
5ナンバーサイズといってもずうたいは大きく、凹凸を乗り越える際にはどうしてもフロアに振動が発生する。ただ、シートの具合がいいので、2列目や3列目からも大きなクレームの声はあがらないだろう。
ハンドリングはしっかりしていて、ワインディングロードでもそれなりのペースで走ることができた。家族を乗せて乱暴な運転はしないだろうが、急ぐ時に高速道路での安定した走りはありがたい。問題は、プロパイロットを作動させたときのハンドル支援である。小刻みに修正舵が入り、極端な言い方をすればジグザグ運転のよう。運転初心者よりも落ち着きがないのにはいささか閉口した。前項とこの項目は、プロパイロットの出来を考慮に入れると星をひとつ減らさざるをえない。
(燃費)……★★★☆☆<3>
セレナの燃費は最高17.2km/リッター(JC08モード)で、クラスナンバーワンをうたう。ただし、試乗したハイウェイスターGは16.6km/リッター。高速道路を中心に400km余り走った結果、得られた燃費は満タン法で11.6km/リッター、燃費計で11.5km/リッターだった。7割弱という歩留まりはまずまずというところ。ほとんどが1人乗車だったので、ファミリーで乗ればもう少し悪化するかもしれない。
燃費低減のために使われているS-HYBRIDは、いわゆるマイルドハイブリッドシステムだ。減速時に電力を蓄え、エアコンや加速時の補助動力として利用する。コンパクトなシステムだが、アイドリングストップ時にもエアコンが強力に効いていたのは効果があるということなのだろう。
(文=鈴木真人/写真=峰 昌宏)
テスト車のデータ
日産セレナ ハイウェイスターG
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4770×1740×1865mm
ホイールベース:2860mm
車重:1700kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:150ps(110kW)/6000rpm
最大トルク:20.4kgm(200Nm)/4400rpm
タイヤ:(前)195/60R16 89H/(後)195/60R16 89H(ブリヂストン・エコピアEP150)
燃費:16.6km/リッター(JC08モード)
価格:301万1040円/テスト車=388万0504円
オプション装備:日産オリジナルナビ取り付けパッケージ<ステアリングスイッチ[オーディオ]+6スピーカー+TVアンテナ+GPSアンテナ+リアビューモニター用プリハーネス>(2万7000円)/セーフティーパックB<SRSカーテンエアバッグシステム&サイドエアバッグシステム[前席]+踏み間違い衝突防止アシスト+インテリジェントパーキングアシスト+進入禁止標識検知+アラウンドビューモニター[移動物検知機能付き]+ふらつき警報+フロント&バックソナー+スマートルームミラー+電動パーキングブレーキ+オートブレーキホールド+プロパイロット+LDP[車線逸脱防止支援システム]+ヒーター付きドアミラー>(24万3000円)/前席クイックコンフォートヒーター付きシート(3万2400円)/特別塗装色<マルーンレッド×ダイヤモンドブラック>(7万5600円)/寒冷地仕様(3万9960円) ※以下、販売店オプション 9インチナビツインモニタースペシャルパック<日産オリジナルナビゲーションMM516D-L[9インチ大型モニター メモリータイプ]+通信アダプター+後席専用モニター[11インチワイドVGA液晶モニター]+ナビゲーション連動ETCユニットBM12-D[ビルトインタイプ]>(38万8000円)/フロアカーペット<エクセレント>(6万3504円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:3800km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:423.2km
使用燃料:37.3リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:11.6km/リッター(満タン法)/11.5km/リッター(車載燃費計計測値)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。