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日産GT-R NISMO(4WD/6AT)

究極の嗜好品 2016.11.03 試乗記 渡辺 敏史 日産の高性能スポーツモデル「GT-R」の中でも、特に動力性能を突き詰めた「NISMO」。クローズドコースはもちろん、一般道でも感じられる標準車との違いとは? NISMOだけが持ち合わせる“研ぎ澄まされた気持ちよさ”をリポートする。

アルティメイトなスピードジャンキー御用達

ニュル7分なにがし秒のポテンシャルを、すべての国のすべての店舗のすべての顧客に等しく頒布する。それも、「ポルシェ911ターボ」の半額近い値札で。

“お、ねだん以上。”にも程があるだろうというえげつない戦略は、世界に目を向ければGT-Rという、名ばかりはいかにも速そうでもよく知らんという銘柄がスーパースポーツのショッピングリストに食い込むための最も即効性の高いブランディングでもあったわけだ。そこにポルシェでもフェラーリでもない強烈なアピアランスも加わり、映画や漫画における前世代の存在感も追加燃料となり、今やGT-Rは世界市場において確たる知名度を築いている。

……とあらば、最速最安を全量で担保する必要はなく、喧嘩(けんか)上等は精鋭部隊に任せるが筋だろう。というのが14年モデル以降のGT-Rのスタンスだ。標準車系ではライバルの状況や多様なニーズに応える柔軟性をもって“GT”を表現し、それをベースに“R”の側を際立てるキャラクターを別立てする。その後者を体現したのが初代GT-R NISMOであり、さらにエアロパーツや足まわり、膨張や脱落を防ぐ強化インタークーラーパイピングなどで構成される「Nアタックパッケージ」を装着したモデルにより、ニュル7分8秒台というハチャメチャなレコードが刻まれた。ちなみにそのパッケージの価格は約900万円。当時のNISMOの車両代金と合わせると約2400万円というあ然とするような数字になるが、僕の知る限り、日本の路上にも3台はこの仕様が存在している。いや、実際はもう少し多いのかもしれない。なにせ初代NISMOは注文が殺到し、生産能力との兼ね合いから注文を止めざるを得なかったほどの争奪物件になったわけである。つまり、日本だけをみてもGT-Rを最速への最短とするアルティメイト・ジャンキーが少なからず……なのか、いらっしゃるということだ。恐ろしい話である。

2017年モデルの「GT-R NISMO」のフロントビュー。エンジンの冷却性を高めるため、カーボン製フロントバンパーの形状が変更された。
2017年モデルの「GT-R NISMO」のフロントビュー。エンジンの冷却性を高めるため、カーボン製フロントバンパーの形状が変更された。 拡大
「日産GT-R」のさらなる高性能版として登場した「GT-R NISMO」。2013年11月にお披露目され、翌年発売された。
「日産GT-R」のさらなる高性能版として登場した「GT-R NISMO」。2013年11月にお披露目され、翌年発売された。 拡大
標準車の改良に伴い、大幅に意匠が変更されたインストゥルメントパネルまわり。ダッシュボードの上部やステアリングホイール、センターアームレストにはアルカンターラレザーを使用している。
標準車の改良に伴い、大幅に意匠が変更されたインストゥルメントパネルまわり。ダッシュボードの上部やステアリングホイール、センターアームレストにはアルカンターラレザーを使用している。 拡大
「GT-R NISMO」に装備される、レカロ製のカーボンバケットシート。表皮は、黒のレザーと赤のアルカンターラの組み合わせとなる。
「GT-R NISMO」に装備される、レカロ製のカーボンバケットシート。表皮は、黒のレザーと赤のアルカンターラの組み合わせとなる。 拡大
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予想外の乗り心地のよさ

この道筋さえ受認されれば、後の進化の方向性は明確だ。標準車はより安楽に、NISMOはより徹底的に速さを求めていくのみである。そして今回、その徹底的に速い側のNISMOを、いよいよ日本の路上で乗る機会をいただいた。クローズドコースで幾度か走っての印象では、珠玉と評したくなるパフォーマンスの一方で生半可な入力ではびくともしないその足腰に、こりゃあ公道は厳しそうだわという印象を抱いていただけに、その容赦ないドSぶりに興味津々である。

試乗車を受け取った地下の駐車場からスロープを上がって晴れてシャバへ。その坂道のアプローチでもアゴや腹を擦るんじゃないかという場面があるわけだが、NISMOの場合はサーキットスペックでありながら常識的な地上高も確保されているから、日常的な取り回しにまつわる心配は軽減される。
まぁそれもこれも含めて、このクルマの公道適性は余技的性能だ。そう思いながらも敷地と路面との段差をソロッと斜めにはわせていくと、覚悟していたバネ下のはね返しは思いのほかしっとりとしている。
えーっ、NISMOだよなぁこれ。

撮影現場へと向かう道すがら、そんな思いで幾度かバックミラーに目をやるも、そこにはそそり立つ羽根が大写しになっている。首都高速の目地段差でも、幹線道のうねりや掘られたわだちでも、NISMOのライドフィールはそのサスペンションレートがうそのようにしなやかだ。恐らくは初期の標準車にも近いくらいの快適性は確保されているのではないだろうか……と思いきや、深掘りのジョイント段差やマンホールのくぼみなど、明確な凹凸、特に凹に対してはパンと鋭いショックが乗員に降りかかる。

フロントまわりでは、バンパーそのものの形状変更に加え、その左右にカナードを追加。局所的な渦流を発生させることでホイールハウス内の空気を吸い出し、冷却性能の改善とフロントダウンフォースの強化を図っている。
フロントまわりでは、バンパーそのものの形状変更に加え、その左右にカナードを追加。局所的な渦流を発生させることでホイールハウス内の空気を吸い出し、冷却性能の改善とフロントダウンフォースの強化を図っている。 拡大
足元は「GT-R NISMO」専用タイヤの「ダンロップSP SPORT MAXX GT 600 DSST CTT」と、同じく同車専用のレイズ製鍛造アルミホイールの組み合わせとなる。
足元は「GT-R NISMO」専用タイヤの「ダンロップSP SPORT MAXX GT 600 DSST CTT」と、同じく同車専用のレイズ製鍛造アルミホイールの組み合わせとなる。 拡大
「GT-R NISMO」に標準装備されるカーボンリアスポイラー。リアに強力なダウンフォースを発生させる。
「GT-R NISMO」に標準装備されるカーボンリアスポイラー。リアに強力なダウンフォースを発生させる。 拡大
空力デザインはSUPER GTのレース車両を手がけた空力エンジニアが担当。300km/hでの走行時には、標準車を100kg上回るダウンフォースが発生するという。
空力デザインはSUPER GTのレース車両を手がけた空力エンジニアが担当。300km/hでの走行時には、標準車を100kg上回るダウンフォースが発生するという。 拡大

官能性すら覚えるモノコックの出来栄え

恐らく15kg/mmを軽く超えるだろうバネやバキバキに固められたスタビライザーなど、レーシングカーばりのセットアップはそうやって時折感じることになるが、とはいえその乗り心地は望外に洗練されている。少なくとも、サーキット走行の帰りに疲れを倍加させるような拷問ではないはずだ。この進化は標準車と同様、フロントウィンドウ周りを中心に加えられた補強によるアコースティック環境の変化が大きいのだろう。それは音・振動関係についても同様で、NISMOはこの手の武闘派につきものの微振動やタイヤハウスから反響する小石などの跳ね上げ音もよく整理されている。

こういったノイズ成分を極力感じさせず、ドライバーの入力にひたすらクリーンに応えるボディーのいいモノ感はハンパではない。この点は先日登場した「ホンダNSX」や、標準車のライバルである911ターボなども見事なものだが、NISMOがすごいのは乗用車との混流生産のラインで主工程が進められながら、それらに匹敵するクオリティーをかなえていることだ。ゆえに凹凸でのきつい突き上げが瞬時に収束するそのサマすら、ドM的にいえば相当に気持ちいい。減衰感にある種の官能性を覚えるモノコックなんて、そうはないだろう。

エンジンの応答性は標準車に比べればトルクの立ち上がりが遅く、パワーの山谷もはっきりとしている。具体的には2000rpm以下からでもグイグイとレスポンスしてガッチリと駆動力が伝わる標準車に対して、NISMOの側は3000rpm手前までの領域のトルクがはっきりと薄く、応答もヌルい。とはいえ、イニシャルのキャパシティーが3.8リッターと大きく、日常的なドライビングに差し支えることは皆無だ。そのぶん、想定以上に加速が有り余ることもなく、2000rpm余りの付近を用いる高速巡航でもアクセルオフでのエンジンブレーキも適切に働くなど、むしろ日常速度は保持しやすいという印象だ。この辺りの感触は14年型と同じである。

サスペンションにはモード設定型電子制御式ショックアブソーバーの「ビルシュタイン・ダンプトロニック」を採用。今回、ボディー剛性の向上に伴いショックアブソーバーやスプリング、スタビライザーのチューニングが変更された。
サスペンションにはモード設定型電子制御式ショックアブソーバーの「ビルシュタイン・ダンプトロニック」を採用。今回、ボディー剛性の向上に伴いショックアブソーバーやスプリング、スタビライザーのチューニングが変更された。 拡大
エンジンフードは剛性を大幅に強化し、高速走行時の変形を抑制。空力性能の向上に貢献している。
エンジンフードは剛性を大幅に強化し、高速走行時の変形を抑制。空力性能の向上に貢献している。 拡大

最高出力600ps、最大トルク66.5kgmを発生する3.8リッターV6ツインターボエンジン。シリンダーヘッドの前面には、エンジンを組み立てた“匠”のネームプレートが貼られている。


	最高出力600ps、最大トルク66.5kgmを発生する3.8リッターV6ツインターボエンジン。シリンダーヘッドの前面には、エンジンを組み立てた“匠”のネームプレートが貼られている。
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「GT-R NISMO」では車両剛性を高めるために、構造用接着剤を使用した「ボンディングボディー」を採用。2017年モデルではフロントウィンドウフレームの強化により、さらに剛性を高めるとともに、フロントまわりとリアまわりの変形量の差を抑制している。
「GT-R NISMO」では車両剛性を高めるために、構造用接着剤を使用した「ボンディングボディー」を採用。2017年モデルではフロントウィンドウフレームの強化により、さらに剛性を高めるとともに、フロントまわりとリアまわりの変形量の差を抑制している。 拡大

オーナーの所有感をくすぐる走り

600psの破壊力は、クローズドコースで標準車と厳密に走り比べれば実感するだろうが、一般道でそれは望むべくもない。従ってその差はトップエンドに至るまでのパワーの伸びやかさやシャープな回転フィールなどで体感することになるだろう。3000rpmを超えてグングンとパワーバンドに乗る感覚はいかにも高性能エンジンらしく、そこにもまた一種の官能性を感じ取ることはできるが、サーキットは時にたしなむ程度という一般的な用途においては標準車のフラットな570psの方が当然使いやすく、恐ろしいほどの力強さも十分に堪能することはできる。

言い切ってしまえば、山道を常識的に気持ちよく走るくらいの使い方であれば、NISMOと標準車のパフォーマンスの差は無に等しい。標準車の倍に近い価格を鑑みれば、はっきりと、宝の持ち腐れである。ただしクローズドコースを走れば、鋼の体幹と強烈な空力特性が相まっての、肢体が一回り小さく軽くなったかのような振る舞いの精緻さに標準車という選択肢を忘れてしまいそうになるのも確かだ。体幹だけでいえば「トラックエディション」という中央値のような選択肢もあるが、その走りの純度には少なからぬ差がもたらされている。

ではやっぱり真の武闘派御用達なのかといえば、公道でもなんとかなってしまう適性とともに、極限まで作り込んだがゆえの銘品的な所有感にビタビタに浸れてしまうところがNISMOの厄介なところだ。万人には決して薦めるものではない。が、究極の嗜好(しこう)品を求める向きにとって、このクルマが醸し出す研ぎ澄まされた気持ちよさは、ちょっとくせ者だろうと思う。

(文=渡辺敏史/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)

ボディーカラーはテスト車に採用されていた「ブリリアントホワイトパール」を含む全5色。このうち「ダークマットグレー」は「GT-R NISMO」の専用色となる。
ボディーカラーはテスト車に採用されていた「ブリリアントホワイトパール」を含む全5色。このうち「ダークマットグレー」は「GT-R NISMO」の専用色となる。 拡大
赤い文字盤が目を引くエンジン回転計。下部がインフォメーションディスプレイとなっており、燃費などの走行情報が表示される。
赤い文字盤が目を引くエンジン回転計。下部がインフォメーションディスプレイとなっており、燃費などの走行情報が表示される。 拡大
ダッシュボード中央の8インチディスプレイには、カーナビゲーションやインフォテインメント関連の機能に加え、ブースト計や油圧計、水温計などのメーター表示、タイムロガーなど、さまざまな機能が備わっている。
ダッシュボード中央の8インチディスプレイには、カーナビゲーションやインフォテインメント関連の機能に加え、ブースト計や油圧計、水温計などのメーター表示、タイムロガーなど、さまざまな機能が備わっている。 拡大
リアバンパーを飾る「nismo」のロゴ。
リアバンパーを飾る「nismo」のロゴ。 拡大

テスト車のデータ

日産GT-R NISMO

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4690×1895×1370mm
ホイールベース:2780mm
車重:1740kg
駆動方式:4WD
エンジン:3.8リッターV6 DOHC 24バルブ ツインターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:600ps(441kW)/6800rpm
最大トルク:66.5kgm(652Nm)/3600-5600rpm
タイヤ:(前)255/40ZRF20 97Y/(後)285/35ZRF20 100Y(ダンロップSP SPORT MAXX GT 600 DSST CTT)
燃費:--km/リッター(JC08モード)
価格:1870万0200円/テスト車=1888万1640円
オプション装備:ボディーカラー<ブリリアントホワイトパール>(4万3200円) 以下、販売店オプション NISMO専用フロアマット<nismoエンブレム付き>(13万8240円)

テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:1661km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:267.5km
使用燃料:49.4リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:5.6km/リッター(満タン法)/6.0km/リッター(車載燃費計計測値)
 

日産GT-R NISMO
日産GT-R NISMO 拡大
渡辺 敏史

渡辺 敏史

自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。

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