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トヨタC-HR Gプロトタイプ(FF/CVT)/C-HR S-Tプロトタイプ(4WD/CVT)

トヨタの本気 2016.11.14 試乗記 渡辺 敏史 成長著しいコンパクトSUV市場に、トヨタが満を持して送り出すニューモデル「C-HR」。そのプロトタイプにクローズドコースで試乗。“攻め”のスタイリングと入念にチューニングされたシャシー&パワーユニットに、トヨタの意気込みを感じた。

成長マーケットでの存在感を回復するために

世界の自動車市場において最も伸び幅著しいカテゴリーといえば、Cセグメント以下のクラスで構成されるコンパクトSUVであることは疑いの余地がない。これは日欧だけの傾向ではなく、中国にロシアそしてアメリカと、大型車を嗜好(しこう)する市場においても同様だ。中には20年ごろには200%の成長を遂げるだろうという見立てもあるほどで、各メーカーはこのカテゴリーの覇権争いに心血を注いでいる。

そんなホットマーケットにおいて明らかに存在感が薄まっていたのがトヨタだ。このカテゴリーのひな型をつくったともいえる「RAV4」はニーズに合わせてリファインを繰り返した結果、ずぶずぶのマーケットイン商品として個性を失ってしまった。現在、RAV4とそのロングボディー版ともいえる「ヴァンガード」は日本市場では販売されていない。

満を持して投入されるC-HRに託されるのは、活況市場での後れを取り戻すとともに、トヨタのブランドイメージを若返らせることだ。当然、世界のマーケットに展開することを前提としており、欧米およびロシア向けの車両はトルコで、日本向けの車両は岩手で生産される。中国向けの展開や生産は現在検討中というが、早晩の投入となることは間違いなさそうだ。

トヨタ久々のコンパクトSUV「C-HR」。車名は「Compact High Rider」ならびに「Cross Hatch Run-about」の頭文字をとったもの。
トヨタ久々のコンパクトSUV「C-HR」。車名は「Compact High Rider」ならびに「Cross Hatch Run-about」の頭文字をとったもの。拡大
インストゥルメントパネルは横基調のデザインとしつつ、センタークラスターを運転席側に傾けることでスポーティー感を表現。内装色には「ブラック」と「リコリスブラウン」の2色が用意される。写真は「G」グレードのインテリア。
インストゥルメントパネルは横基調のデザインとしつつ、センタークラスターを運転席側に傾けることでスポーティー感を表現。内装色には「ブラック」と「リコリスブラウン」の2色が用意される。写真は「G」グレードのインテリア。拡大
グレード構成はハイブリッド車の「S」「G」、ターボ車の「S-T」「G-T」の4種類が設定される予定。写真はターボ車の「S-T」。
グレード構成はハイブリッド車の「S」「G」、ターボ車の「S-T」「G-T」の4種類が設定される予定。写真はターボ車の「S-T」。拡大
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欧州で戦うために必要なもの

C-HRのアーキテクチャーは現行「プリウス」に次いでの採用となる「TNGA」。満を持して……と記したのはこの辺りにも理由がある。流行に同調すべくスピード重視で従来のアーキテクチャーを土台にこね回したデザインをかぶせて……というクルマ作りといえば、それこそトヨタの十八番だ。が、C-HRはその開発に十分な時間が与えられ、さまざまな試行錯誤が重ねられている。推するにそれはグローバル商品ゆえの入念なコンセプトワークであったことに加えて、とにかく脆弱(ぜいじゃく)な欧州市場でのシェアやプレゼンスを高める起爆剤としての役割も期待されてのことだろう。WRC参戦も控える2017年は、久しく守り一辺倒に見えたトヨタの欧州戦略が攻めへと一転することになるのではないだろうか。

そして、その欧州であまたのライバルと対峙(たいじ)しつつしっかりと名声を得るために必要なのは、走りのクオリティーだ。C-HRのシャシーはプリウスと主要部品を共有化しつつ、仕様によっては690mmという大径タイヤを収めるために、サスペンションのサブフレームやキャリアをかさ上げした上で対地キャンバーなどのアライメントを入念に調整し、大容量のスプリング&ダンパーや大径スタビライザーなどで車格に応じたチューニングを施している。ダンパーは全車欧州製のザックスを使用。リアサスのアッパーマウントには快適性側への効果が大きいウレタン材を用いて細かな振動や突き上げなどを吸収する。ウレタンは熱変形や加水分解など悪環境に弱いが、経年変化の検証を重ね、外因の少ないリア側にトヨタとして初めて採用するに至ったという。

タイヤサイズは仕様に応じて17インチと18インチが設定されており、17インチはミシュランとダンロップとブリヂストンが、18インチはミシュランとブリヂストンが標準装着銘柄となる。これほど供給元が多岐に亘る新型車というのは近年ではまれだが、それが物語るのは仕向け地や想定台数の多さだろう。ちなみに18インチに装着されるブリヂストンはポテンザの「RE050」で、これは開発主査からの強いリクエストがあってのチョイスだという。

「TNGA」とは「Toyota New Global Architecture」の略。モジュラー戦略が積極的に取り入れられており、各コンポーネンツの共有化により生産効率の改善、コストの低減が見込まれている。
「TNGA」とは「Toyota New Global Architecture」の略。モジュラー戦略が積極的に取り入れられており、各コンポーネンツの共有化により生産効率の改善、コストの低減が見込まれている。拡大
メーターは2眼式で、速度計に加えてターボ車ではエンジン回転計が、ハイブリッド車ではパワーフローメーターが装備される。
メーターは2眼式で、速度計に加えてターボ車ではエンジン回転計が、ハイブリッド車ではパワーフローメーターが装備される。拡大
「C-HR」の足まわりには、SACHS(ザックス)のショックアブソーバーが標準装備される
「C-HR」の足まわりには、SACHS(ザックス)のショックアブソーバーが標準装備される。拡大
今回試乗した「G」には、225/50R18サイズの「ミシュラン・プライマシー3」が装着されていた。
今回試乗した「G」には、225/50R18サイズの「ミシュラン・プライマシー3」が装着されていた。拡大

日本仕様に用意される駆動系は2種類

搭載されるエンジンは現行プリウスと同じ、1.8リッター4気筒アトキンソンサイクルを軸とするハイブリッドシステムの「THS II」と、現行「オーリス」に搭載される1.2リッター4気筒直噴ターボだ。前者のシステム出力は120ps、後者は116psとハイブリッドの方がパワフルにみえるが、ターボの側は1500rpmから最高点に達する18.9kgmのトルクが活発なレスポンスをもたらすという。

海外仕様ではこのターボユニットにシフトダウンブリッパーが備わる6段MTが用意されるが、日本仕様のトランスミッションはCVTのみ。そして駆動方式もメカニカル4WDのみとなる。このシステムは舵角等からあらかじめ駆動配分を演算するフィードフォワード制御を織り込んだオンデマンド式で、最大でリア側に50%の駆動配分を行うというもの。一方のハイブリッドユニットの側は、プリウスで採用された「E-Four」は用意されず、FFのみとなる。燃費は現時点で不明とのことだが、車格や駆動方式等を勘案すればハイブリッドで30km/リッター、ターボで16km/リッター辺りが目標値ということになるだろうか。ちなみに車重はハイブリッドで1450kg付近、つまりプリウスに対しては70kg前後重い仕上がりとのことだ。

内外装のデザインについては個々の判断に委ねられるものだが、個人的印象としてはその演出に「DS」の影響が若干ながら感じられた。ちりばめられたダイヤ形のモチーフやニードル針の形状といった分かりやすい比較物もあるが、要するにコスパで縛られがちなコンパクトカーでもデザインコンシャスでなければ先端的なユーザーの気は引けないという焦りはトヨタの側にもあるのだろう。前後ドアを貫くキャラクタープレスの彫りの深さなどは、生産技術との折り合いに悩むライバルに歯ぎしりさせるトヨタのパワープレイぶりを感じさせる。

ハイブリッド車のパワーユニットは基本的に「プリウス」のものと共通。1.8リッターのガソリンエンジンとモーター、ジェネレーターを動力分割機構で制御し、システム全体では120psの最高出力を発生する。
ハイブリッド車のパワーユニットは基本的に「プリウス」のものと共通。1.8リッターのガソリンエンジンとモーター、ジェネレーターを動力分割機構で制御し、システム全体では120psの最高出力を発生する。拡大
「S-T」「G-T」には「オーリス」のターボ車と同じ、水冷式インタークーラーを備えた1.2リッター直噴ターボエンジンが搭載される。
「S-T」「G-T」には「オーリス」のターボ車と同じ、水冷式インタークーラーを備えた1.2リッター直噴ターボエンジンが搭載される。拡大
インテリアでは、天井やドアの内張りなど、各所にダイヤ形の模様が施されている。
インテリアでは、天井やドアの内張りなど、各所にダイヤ形の模様が施されている。拡大
エクステリアデザインは、張り出した前後フェンダーやコンパクトなキャビン、緩やかに傾斜したリアウィンドウなどが特徴となっている。
エクステリアデザインは、張り出した前後フェンダーやコンパクトなキャビン、緩やかに傾斜したリアウィンドウなどが特徴となっている。拡大

乗れば分かる入念なチューニングの成果

外見のハッチャケぶりからは想像できないほどしっとりとした掛け心地のシートに身を任せて走り始めると、その動的なキャラクターもまた想像を覆す冷静な仕上がりであることに驚かされた。日常的な速度域で扱う限り、その振る舞いは発進からして穏やかで、ステアリングやスロットル、ブレーキといった操作系の細かなタッチにもじんわりと反応するなど、いい意味でのおうようさを大事にしていることが伝わってくる。

かたやTHS II、かたやCVTと、リニアリティーを追求するにはむしろ障害となるようなドライブトレインを用いていながら、微妙な速度の上下管理はプリウスやオーリスよりもストレスが少ない。それでいて、しかるべき入力にはレスポンスよく応える。完璧とは言わずとも、相当ネチネチとチューニングを重ねてきたなということはディーラーでの試乗でも恐らく伝わることだろう。

そして速度を上げれば、C-HRが何を目指したのかがより明確に伝わってくる。ポテンザ装着を熱望した主査が目指したもののひとつは“コンシステンシー”、意訳すれば粘りということになるだろうか。あらゆる状況でも可能な限り破綻のないフィードバックを示すということだ。それは当然、クルマへの信頼や運転への自信につながる。

「S」と「S-T」にはファブリックのシートが、「G」と「G-T」には本革とニットのコンビシート(写真)が装備される。
「S」と「S-T」にはファブリックのシートが、「G」と「G-T」には本革とニットのコンビシート(写真)が装備される。拡大
「G」のシフトセレクター。「C-HR」ではターボ車、ハイブリッド車ともにストレートゲートのレバー式で、ターボ車では手動変速も可能となっている。
「G」のシフトセレクター。「C-HR」ではターボ車、ハイブリッド車ともにストレートゲートのレバー式で、ターボ車では手動変速も可能となっている。拡大
コースを走る「C-HR G」のプロトタイプ。デイリーユースにおける使いやすさにも配慮しており、最小回転半径は同クラスのハッチバック車並みの5.2m。FFでは、全高も立体駐車場に駐車可能な1550mmとなっている。
コースを走る「C-HR G」のプロトタイプ。デイリーユースにおける使いやすさにも配慮しており、最小回転半径は同クラスのハッチバック車並みの5.2m。FFでは、全高も立体駐車場に駐車可能な1550mmとなっている。拡大

目標に対する見識がうかがえる

C-HRのコーナリングマナーはより軽量・低重心なプリウスをも上回るほど粘り強く、例えばロール量の推移ひとつとっても、その過渡特性は比例的だ。あえてひたすら舵をこじりアクセルをバカ踏みしてもアンダーの兆候はめったにうかがわせず、下り坂のコーナリング途中でフルブレーキをぶっ込んでもリアサスはやすやすと脚を地面から離さない。重量と重心が圧倒的に不利であるがゆえに、敏しょう性という点でははっきりプリウスに譲るものの、コーナリングスピードはむしろC-HRの方が高いのではないか。さらに言えばそこで頑張ってプリウスまがいの敏しょう性をお手盛りに演出していないところに、目標へのしっかりとした見識が感じられる。

結果的に、C-HRはワインディングは無論、なんとあらばクローズドコースまでも相当気分よく走れるキャラクターに仕上がった。一方で、高速直進時のスタビリティーやライドフィールにみるフラット感などもまったく犠牲になってはいない。長いフットプリントを生かしてだろうが、乗り心地や音振などはプリウスに勝るところも多々あるほどだ。

燃費と同様、この時点で正式な価格は判明していないが、恐らくはプリウスよりちょっと高い250万円辺りからと考えればC-HR、比べられるのは「マツダCX-3」や「ホンダ・ヴェゼル」、あるいはそのデザイン性から「日産ジューク」の上級バージョンも比較対象に入ってくるかもしれない。が、C-HRはプリウスと同じくグローバルスケールでいえばCセグメントに相当するクルマだ。ホイールベースはプリウスより60mm短いが、居住性の面でも相応の広さは備えている。もちろん、ダイナミクスばかりではなくコンフォートの面でもCセグメントのど真ん中相当と見繕って問題はない。色物と侮ることなかれ。思えばこのクルマは、「iQ」以来久々に見るトヨタの本気ではないだろうか。何に本気かといえば欧州攻略という点がちょっぴり悲しいが、そういう狙いどころのトヨタ車が、走りに必ず一家言もってきたのもまた史実でもある。

(文=渡辺敏史/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)

「C-HR」の開発に際しては、2013年よりドイツのニュルブルクリンクサーキットで性能評価を実施。また欧州各国の道を走りこんで仕様を決めたという。
「C-HR」の開発に際しては、2013年よりドイツのニュルブルクリンクサーキットで性能評価を実施。また欧州各国の道を走りこんで仕様を決めたという。拡大
4WD車では、メーター内のマルチインフォメーションディスプレイで四駆システムの作動状況を確認できる。
4WD車では、メーター内のマルチインフォメーションディスプレイで四駆システムの作動状況を確認できる。拡大
ラゲッジルームの容量についてはアナウンスされていない。リアシートには4:6の2分割可倒機構が備わる。
ラゲッジルームの容量についてはアナウンスされていない。リアシートには4:6の2分割可倒機構が備わる。拡大
充実した運転支援システムも「C-HR」の特徴。コンパクトクラス用の「トヨタセーフティセンスC」ではなく、より高性能で機能も充実した「トヨタセーフティセンスP」が標準装備される。
充実した運転支援システムも「C-HR」の特徴。コンパクトクラス用の「トヨタセーフティセンスC」ではなく、より高性能で機能も充実した「トヨタセーフティセンスP」が標準装備される。拡大
トヨタC-HR Gプロトタイプ
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テスト車のデータ

トヨタC-HR Gプロトタイプ

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4360×1795×1550mm
ホイールベース:2640mm
車重:--kg
駆動方式:FF
エンジン:1.8リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:98ps(72kW)
エンジン最大トルク:14.5kgm(142Nm)
モーター最高出力:72ps(53kW)
モーター最大トルク:16.6kgm(163Nm)
タイヤ:(前)225/50R18 95V/(後)225/50R18 95V(ミシュラン・プライマシー3)
燃費:--km/リッター
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--

テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:4283km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

トヨタC-HR S-Tプロトタイプ
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トヨタC-HR S-Tプロトタイプ

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4360×1795×1565mm
ホイールベース:2640mm
車重:--kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:CVT
最高出力:116ps(85kW)
最大トルク:18.9kgm(185Nm)
タイヤ:(前)215/60R17 96H/(後)215/60R17 96H(ダンロップ・エナセーブEC300+)
燃費:--km/リッター
価格:--万円/テスト車=--円
オプション装備:--

テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:4358km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
 

渡辺 敏史

渡辺 敏史

自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。

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