ダイハツ・トールG“SA II”(FF/CVT)/トヨタ・ルーミー カスタムG-T(FF/CVT)
金脈はここにあり 2016.12.13 試乗記 ダイハツが持つ軽のノウハウを投入して開発されたコンパクトハイトワゴン「ダイハツ・トール」と「トヨタ・ルーミー/タンク」。これまで“一強”が支配してきた市場で、存在感を発揮できるのか? その使い勝手と走りをリポートする。ソリオの牙城を崩す!?
ご存じのように軽自動車は規格でサイズが決まっていて、幅と長さはすでにいっぱいいっぱい。空間を広くするにはまだ余裕がある高さで稼ぐしかないということで、にょきにょきと背が伸びた。それでいま、軽自動車は背の高いハイトワゴンと呼ばれるタイプが主流になっている。
軽自動車以外の乗用車もミニバンやSUVなど、背の高いタイプが主流になっているから、総じて日本のクルマは高層化が進んでいる。
高層化が進むなか、いくつかの例外はあるにせよ、そこだけぽっかりと取り残された一画がコンパクトカー市場だった。
なぜコンパクトカーは背が伸びなかったのか? おそらく、多くのメーカーにとってコンパクトカーがヨーロッパ市場を向いた商品であるからだろう。向こうじゃ背の高いコンパクトカーはウケない、だからそれほど熱心に開発しなかったと推測する。
ところが「スズキ・ソリオ」が、少なくとも日本では背の高いコンパクトカーが売れることを証明した。軽自動車を除いた乗用車の2016年上期(1~6月)の販売台数を見ると、ソリオは2万4573台で16位に入っている。ちなみに「マツダ・デミオ」が3万1823台で12位、「トヨタ・ヴィッツ」が3万6771台で9位だから、ソリオは大健闘と言っていいだろう。
そこに金脈があったのか!
という流れのなかで、ダイハツ・トール、トヨタ・ルーミー/タンクという背の高いコンパクトカーが発表された。ちなみに「スバル・ジャスティ」も合わせた4兄弟で、開発はダイハツが担当した。
今回はダイハツとトヨタの合同試乗会に参加、ダイハツ・トールとトヨタ・ルーミー カスタムの2台を試した。
後席の広さにびっくり
まずはダイハツ・トールG“SA II”から試す。トール4兄弟には排気量996ccの直列3気筒自然吸気(NA)エンジン(最高出力69ps)と、同じ排気量の直列3気筒ターボエンジン(同98ps)の2種類が用意される。試乗車が搭載していたのはNAエンジン。また、“SA II”とは「スマートアシストII」の略で、カメラとレーザーレーダー、ソナーセンサーを組み合わせた衝突回避支援システムである。
スタートする前に、トール最大のウリである室内の広さやユーティリティーをチェック。後席に乗り込もうとしてハッとする。乗り込む時につかむグリップが大きくてつかみやすい上に、大人が握るであろう高い位置は太くなっている一方で、お子さんが握るであろう低い位置は細くされているのだ。なんとキメ細やかな心遣い。
後席に乗り込むと、だれもがその広さに驚くはずだ。天井が高くて余裕があり、足元にも余裕があるから足を組んでもいいし、伸ばしてもいい。
ちなみに後席は240mmもスライドして、後ろに大人が3人乗車した状態でも、荷室には機内持ち込みサイズのスーツケースなら4つ積むことができる。
さらにスペースが必要であれば、後席のシート座面をダイブイン。荷室と後席スペースがフルフラットになり、さらに空間を広げることができる。手順は簡単で力も必要ないことから、気楽に使える。この種の機構は、どんなに凝っていても操作がメンドくさかったり腕力が必要だったりすると使わなくなってしまうけれど、トールのシートアレンジメントはインターフェイスまで気配りが行き届いている。
ほかにも、スマートフォンがズレないように置ける一方で、引き出せば1リッターの紙パックまで収納する回転式カップホルダーや、センターコンソールの大きなボックスなど、収納部分にも工夫が凝らされている。センターコンソールの大きなボックスにいたっては、内側にビニール袋を引っかけるフックが付いている。「ゴミ箱としてもお使いください」ということのようで、ここまで行き届いているのかと驚愕(きょうがく)する。
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1リッターでも不足なし
いざ試乗をスタートすると、「1リッターのNAでちゃんと走るかな……?」という懸念はすぐに払拭(ふっしょく)された。信号待ちからの発進加速は、力強いとはいえないまでも不足はない。しかも3気筒の安っぽさも感じさせず、スムーズに回る。
今回は市街地のみで行われた試乗会であり、高速巡航こそ試すことはできなかったけれど、ストップ&ゴーや、速度調節のため、頻繁にアクセルをオン&オフするようなシチュエーションがあった。
こうした状況でもアクセル操作に対するレスポンスは良好で、聞けばドライバーの感性に寄り添うような走りを実現するためにトランスミッション(CVT)の制御を最適化しているという。その効果は確かに感じられた。
タウンスピードなので、当然ながら背の高さに起因するグラつきなどは感じなかったけれど、それでも車線変更や交差点での右左折時のハンドル操作に対する反応はナチュラル。ハンドルを回すとしばらくしてから曲がり始める、というような鈍さはないから、イライラしたり疲れたりすることはない。
ひとつ気になったのは、1人乗車+空荷の状態だと凸凹を通過した時に、路面から軽く突き上げるようなショックが感じられること。あるいは4人乗車+フル積載の状態で、もう少し高い速度域でも安定して走るようなセッティングなのかもしれない。そのあたりは、いずれ条件を整えて再確認してみたい。
やはりターボは楽しい
もう1台の試乗車が、ターボエンジンを搭載するトヨタ・ルーミー カスタムG-T。ダイハツ・トールとトヨタ・ルーミー/タンクには、それぞれギラッとしたグリルで存在感を示すカスタムが用意されるが、試乗車がその“コワモテ”仕様だった。
ちなみにトールとルーミー/タンクはデザインが異なるだけで中身は一緒とのことなので、試乗車のフィーリングはトールのターボモデルと同じはずだ。
パワーは麻薬みたいなもんだと申しますが、ターボに乗ると、「NAで十分」だと思っていたのが、「ターボのほうが楽しい」へとキモチが転がる。高速道路や山道に入ればその差はさらに広がるだろうから、運転を積極的に楽しみたい向きには、NAとターボの両方を試乗してみることをお勧めしたい。
不思議なのは、こちらのほうが乗り心地がいいと感じたこと。NAエンジンのダイハツ・トールのタイヤサイズは165/65R14。一方カスタム仕様のこちらは175/55R15。より薄くて幅広いタイヤを履くルーミー カスタムのほうが乗り心地が硬くなりそうなものだけれど、そうではなかった。フラットで引き締まった乗り心地は、ルーミー カスタムG-Tのほうが好ましく感じた。
ターボモデルにはNAモデルには備わらないリアスタビライザーが装備されるので、そのあたりのセッティングによる違いだろう。
試乗を終えて心に残ったのは、やはり室内の広さと使い勝手のよさ。乗車定員が4人の軽自動車のハイトワゴンと違って5人乗れるし、背の高いコンパクトカーにはやはり需要があると感じた。軽自動車やコンパクトカーのユーザーだけでなく、これだけユーティリティーが高いと、ミニバンからのダウンサイジングをお考えの方にも響くかもしれない。
(文=サトータケシ/写真=高橋信宏/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
ダイハツ・トールG“SA II”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3700×1670×1735mm
ホイールベース:2490mm
車重:1070kg
駆動方式:FF
エンジン:1リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:69ps(51kW)/6000rpm
最大トルク:9.4kgm(92Nm)/4400rpm
タイヤ:(前)165/65R14 79S/(後)165/65R14 79S(ダンロップ・エナセーブEC300+)
燃費:24.6km/リッター(JC08モード)
価格:168万4800円/テスト車=230万9451円
オプション装備:LEDヘッドランプ<オートレベリング機能・LEDクリアランスランプ付き>(6万4800円)/LEDフォグランプ<LEDイルミネーションランプ付き>(2万1600円)/コンフォートパックA(2万2680円)/イルミネーションパック(1万6200円)/14インチアルミホイール(4万3200円)/パノラマモニター&純正ナビ装着用アップグレードパック(4万5360円) ※以下、販売店オプション ETC車載機<ビルトインモデル>(2万0455円)/カーペットマット<高機能タイプ>(2万7713円)/9インチメモリーナビ(25万8293円)/後席モニター<天井つり下げ式>(10万4350円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(10)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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トヨタ・ルーミー カスタムG-T
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3725×1670×1735mm
ホイールベース:2490mm
車重:1100kg
駆動方式:FF
エンジン:1リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:CVT
最高出力:98ps(72kW)/6000rpm
最大トルク:14.3kgm(140Nm)/2400-4000rpm
タイヤ:(前)175/55R15 82S/(後)175/75R15 82S(ダンロップ・エナセーブEC300+)
燃費:21.8km/リッター(JC08モード)
価格:196万5600円/テスト車=253万0764円
オプション装備:ボディーカラー<ブラックマイカメタリック×レーザーブルークリスタルシャイン>(8万6400円)/SRSサイドエアバッグ<運転席・助手席>&SRSカーテンシールドエアバッグ<前後席>(4万9680円)/パノラミックビュー<ステアリングオーディオスイッチ>(4万5360円)/イルミネーションパッケージ(1万6200円)/コンフォートパッケージ(2万2680円) ※以下、販売店オプション ETC2.0ユニット<ビルトイン・ナビ連動タイプ>(3万2400円)/フロアマット<デラックスタイプ>(2万7000円)/T-Connectナビ 9インチモデル DCMパッケージ(28万5444円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(10)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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