ダイハツ・トール/トヨタ・ルーミー/タンク 開発者インタビュー
「ありがとう」が聞きたくて 2016.12.15 試乗記 ダイハツ工業DNGAユニット
開発本部 製品企画部
CE(チーフエンジニア)
嶋村博次(しまむら ひろつぐ)さん
コンパクトハイトワゴン市場に割って入るべく、ダイハツが開発した「ダイハツ・トール」と「トヨタ・ルーミー/タンク」。コンパクトなボディーに広い室内、また数々の便利な装備には、どんな気持ちが込められているのか。開発責任者の思いを聞いた。
スズキ・ソリオは意識しなかった
コンパクトカーの取り回しのよさと、ミニバンのユーティリティーの高さを“いいとこ取り”した新型車が、ダイハツ・トールとトヨタ・ルーミー/タンクである。この兄弟の生みの親である、ダイハツの嶋村博次チーフエンジニアにお話をうかがった。
――ダイハツ・トール、トヨタ・ルーミー/タンクの“背高コンパクトカー”は、「スズキ・ソリオ」の寡占状態であったこのセグメントに新規参入したニューモデルです。開発にあたっては、やはりソリオを意識したのでしょうか?
嶋村博次氏(以下、嶋村):横に置いて見たりはしましたが、ソリオのここがこうだからウチはこうしよう、ということは考えませんでした。そういう意味では意識はしていませんね。価格は意識しましたけれど(笑)。
――では、トール、ルーミー/タンクを開発するにあたって、一番意識したことは何でしょう?
嶋村:機能ありきの開発ではなく、いろんなシーンを想像して、お客さまが笑顔になる、「ありがとう」と言えるシチュエーションに思いをはせながら開発しました。
――ありがとう、ですか?
嶋村:例えば年老いた両親を後席に導く時に、ステップは付いていますが、それでも階段よりも段差は高い。そんな時、握りやすい太さの、大きなグリップがあれば乗り込みがスムーズです。乗り込みをアシストしてあげれば、笑顔で「ありがとう」と言ってくれるのではと想像しました。また、4歳児が乗り込むには、もう少し低い位置に細いグリップが必要です。そこで高い位置と低い位置ではグリップの太さを変えたので、お子さんも笑顔で乗り込めるはずです。
――先ほど試乗しまして、確かにグリップの太さが変えてあるという、キメの細かい配慮には感心しました。やはり、子育てファミリーを念頭において開発なさったのでしょうか?
嶋村:第一に考えたのはそこです。お母さんが後席にカバンを置いて赤ちゃんのおむつを替えるシーンなどを想像しながら開発しています。もうひとつ、シニア層にも喜んでいただけるように配慮したつもりです。ご夫婦で遠出をしてちょっと疲れたなんていう時、リアシートが70度もリクライニングするので、ほぼフルフラットになります。道の駅や高速道路のサービスエリアで休憩していただけると思います。ソケットから電源を取ってコーヒーやお茶を飲んでくつろぐのもいいですね。あと、釣りをなさる方などは、早めに到着して仮眠をして夜明けを待つ方が多いと聞きまして、そういう使い方も想定しています。
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走りのチューニングにもこだわり
――シートアレンジがとても使いやすいので、大きな荷物を積む機会のある方には便利だろうなと思いました。シートアレンジについてはどんなシーンを想定なさったのでしょう?
嶋村:例えば塾へお迎えに行く場合、行きはお子さんが自転車で行って、帰りは自転車ごとクルマに積むというケースが多いとうかがいました。そこで、自転車を載せても床が汚れないように、防汚シートやデッキボードなどの工夫を施しました。
――でも、ダイハツの軽自動車は「タント」にしろ「ムーヴ キャンバス」にしろ、広くて使い勝手がいいので、わざわざ5ナンバー車を選ばなくてもいいような気もするのですが。
嶋村:ただ、軽自動車は定員が4名なんですね。3列シートまではいらないけれど、5人は乗るという需要が意外にあります。それから、遠出をする方はやはりエンジンに余裕があるほうが楽でしょう。ダウンサイジングをお考えの方も、大きな排気量のトルクを体が覚えているので、これくらい力がないとモノ足りなく感じるかもしれません。
――目線は高いのに、ハンドルを切った時の動きがナチュラルで、よくチューニングされていると感じました。
嶋村:そこは気を遣ったところで、クルマの性格からいってクイックに動く必要はないんですが、ハンドル操作に対して遅れが出るのがとにかくイヤ。乗り心地に留意しながら、詰めていきました。いつもテストをするコースに結構な山道があるんですが、下りだとかなり速いですよ。
――街なかで乗るぶんにはNA(自然吸気)エンジンで十分だと思いましたが、ターボに乗ると目移りしますね。
嶋村:エンジンとCVTの協調制御で、NAでも気持ち良く走れるようにチューニングしたつもりです。リニアな加速感が得られるように、アクセルの踏み加減とスロットルの開度の関係は念入りに煮詰めています。ただ、運転を楽しみたい、若いころに結構走ってた、なんていうお父さんにはターボのほうが向いているでしょうね。ターボ車にはリアにスタビライザーが備わるので、コーナリング性能も高くなっていますから。
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軽のノウハウが役に立った
――総じて、よくまとまっていると感じましたが、ひとつ疑問があります。タントには衝突回避支援システムの最新バージョンでステレオカメラが付いた「スマートアシストIII」が備わりますが、トールは「スマートアシストII」です。購入を検討なさっている方は、「なんで?」と思われるんじゃないでしょうか。
嶋村:まずは軽自動車から先進機能を搭載してゆく、というのがダイハツの考え方です。ただしこの手の先進技術はどんどん進化しますから、さらに性能を上げてトールにも順次採用していく、とご理解ください。
――開発にあたっては、トヨタでも売るモデルだということを意識なさいましたか?
嶋村:もちろん意識しました。ただ私も、初代「ヴィッツ」や「アイゴ(トヨタがプジョー・シトロエン・グループと共同開発した、主に欧州に向けた小型車)」、初代「パッソ/ブーン」の企画を担当しましたし、「プロボックス」のビッグマイナーチェンジもやらせていただきました。だからトヨタとの連携についてはよくわかっているつもりです。
――トールとルーミー/タンクは、中身は一緒ということでいいでしょうか。
嶋村:はい、ユーティリティーや走行性能などは同じで、デザインで差別化を図っています。ルーミー/タンクのデザインについては、トヨタの販売チャンネルの、それぞれの特徴を自分なりに考えました。トヨタ店と(トヨタ)カローラ店は王道だからルーミーのデザインで、一方トヨペット店とネッツ店はスポーティーでシャープなイメージなので、タンクのデザインで差別化を図っています。
――同一車種で見せ方を変えるというのも、大変かもしれませんね。
嶋村:ええ、そこには標準モデルとカスタムを作り分けてきた、ダイハツの軽自動車のノウハウが役立ちました。とある役員の方には、「ヘッドランプを4種類も作るんだね」とチクッと言われましたが(笑)、それだけこだわってデザインしていると理解していただきました。
(インタビューとまとめ=サトータケシ/写真=高橋信宏/編集=藤沢 勝)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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