ポルシェ718ケイマン(MR/6MT)
ポルシェのうま味が詰まってる 2016.12.19 試乗記 新開発の2リッター4気筒ターボエンジンを搭載する、ポルシェのスポーツカー「718ケイマン」。ワインディングロードや高速道路を走らせてみると、これまでの6気筒モデルとは違った走りのよさが見えてきた。議論を呼ぶニューモデル
あれっ、2気筒ないや(718)! と言われるのが、今度のケイマン(とボクスター)である。エンジンは新開発の4気筒水平対向ターボで、標準車が2リッター、「S」が2.5リッターに“ダウンサイジングターボ化”された。
自然吸気6気筒の旧型では、ボクスターよりも後発のケイマンにエンジンアウトプットのアドバンテージが与えられたが、718は両者、パワーもトルクも同じである。これにより、ケイマンのほうが少し安くなった。本来、高付加価値なはずのオープンモデルのほうが固定屋根より安いという“ねじれ”が、エンジンの統一でやっと解消されたわけである。
それはいいのだが、6気筒から4気筒ターボへの宗旨替えは、議論の風発するところだろう。ミドエンジンのエントリーポルシェでも、フラットシックスが味わえる。ケイマンやボクスターの大きな魅力はそこにあったはずだからだ。
思い起こせば30年前、名車「スバル・アルシオーネ」に水平対向6気筒エンジンが登場したとき、自動車趣味メディアはこぞって「あのポルシェ911と同じ!」と形容した。今回、その逆が行われたわけで、それがポルシェのようなファンカーにとって、果たしていかがなものなのか、というのが興味の的だろう。
試乗したのは2リッターケイマンのMTモデル(619万円)である。
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4気筒でもやっぱりポルシェ
長年、ポルシェのロードバイク(自転車)は愛用しているが、四輪ポルシェの所有経験はない。いつも試乗の取材で何時間か何日間か、お付き合いさせてもらうだけである。
で、今回、718ケイマンに2日間乗った。筆者の経験値では、これまでのエンジンとそんなに大きな違いを感じなかった。ひと月前、718ボクスターSのPDKに乗ったときも思ったが、6気筒時代のザワザワした金属質のサウンドは影をひそめ、かわりに低い排気音が耳につくようになった。旧型ボクスターの場合、上を開けると、メタリックなエンジン音がオープンコックピットに逆流してきて、なかなか素敵だったなあ、なんてことを思い出すと、たしかに以前ほど耳で楽しませるエンジンではなくなった。
しかし、見方を変えれば、音だってタダで出ているわけではない。そこでエネルギーを消費している。なんて“弁護”をしたくなるのは、ほかでもない。718の新型フラットフォーが総論として少しもポルシェらしさを失っていないからだ。これがポルシェのエンジンじゃなくてなんなの? というポルシェっぽさはまったくもって健在である。
強制冷却ファンを失い、水冷ヘッドを得た911(996)に初めて乗ったときには、音も含めて急に無口になったエンジンに少なからずショックを受けたが、718ケイマン/ボクスターのダウンサイジングターボ化に、あんなガッカリ感は覚えなかった。
パワーも燃費も大したもの
環境性能も動力性能も両方上げるというのが、ポルシェのモデルチェンジフィロソフィーである。
2リッター標準ケイマンの最高出力は300ps、最大トルクは38.8kgm。自然吸気2.7リッター6気筒の旧型(275ps、29.6kgm)を一蹴する。速いのは当然だ。
コーナー脱出時にパワーをかけると、ムリムリっと、路面のアスファルトがめくれるんじゃないかと思うような後輪のトラクションを感じる。そのときはさすがターボ! と思うが、ウエストゲートバルブがプシューと騒いだり、タービンのヒューンという金属音が聞こえたりするようなターボっぽさはない。ターボラグも感じない。
ただ、MTだと発進時にエンストしやすい。新型911のMTもそうである。だいぶガスを絞ってあるのだろう。ちょっと油断すると、やらかす。おかげでわかったのは、すぐにクラッチを踏み込めば再始動すること。5秒放っておくとだめだが。
約430kmを走って、燃費は9.5km/リッターだった。ワインディングロードが楽しいので、いつもは高速道路を使うルートを下道で帰ったりしたことを考えると、300psのスポーツカーとしては立派だと思う。
ちなみに、1年前に試乗した「スバルWRX STI S207」は、7.5km/リッターだった。S207も2リッター水平対向4気筒ターボである。ただし、もちろん常時四駆で、ケイマンをしのぐパワー(328ps)を出し、車重も150kg重い。しかし、今後、スバルのフラットフォーはガチでポルシェと比べられてしまうのだから、タイヘンだ。
楽しみが増すMT仕様
ポルシェスポーツカーのポルシェスポーツカーらしさとは何なのか。それは単に水平対向エンジンであることでも、6気筒であることでもない、パワートレインや足まわりやステアリングやブレーキなど、クルマ全体から伝わる「剛体感」にある。718シリーズに乗って、そのことをあらためて感じた。
6段MTは、ズボラに乗っていると、瞬速パドルシフトの7段PDKより明らかに遅い。エンジン低負荷時のコースティング機能なども省かれるから、実用燃費もPDKに及ばないだろう。だが、PDKモデルよりクルマとしてシンプルで、エンジンをよりナマで味わえる実感がある。高めのギアのまま加速してガクガクさせるような、エンジンのあられもない姿を見られるのも、MTドライバーに残された(ゆがんだ)楽しみである。
ポルシェスポーツカーのエントリーモデルとして、718ケイマンのMTは魅力的だ。試乗車は例によって300万円ものオプションが乗せられていたが、シャシーに速さと安定をプラスするPASMやPTVを付け、「ケイマンS」用ホイールをおごるくらいまでなら、なんとか600万円台に収まる。
この価格クラスなのに、いまどき電動ドアミラーがオプション(5万5000円)とはあきれるが、自分が買うなら、人力ドアミラーでもいいかなと思った。ドアからドアまでの室内幅は130cmしかない。軽自動車並みだ。コックピットがキュッとタイトで、ポルシェのなかでいちばん「ポルシェを着ている」感じが強いのもケイマンの魅力である。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=田村 弥/編集=関 顕也)
テスト車のデータ
ポルシェ718ケイマン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4379×1801×1295mm
ホイールベース:2475mm
車重:1335kg
駆動方式:MR
エンジン:2リッター水平対向4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:300ps(220kW)/6500rpm
最大トルク:38.8kgm(380Nm)/1950-4500rpm
タイヤ:(前)235/40ZR19 92Y/(後)265/40ZR19 98Y(ピレリPゼロ)
燃費:7.4リッター/100km(約13.5km/リッター、欧州複合モード)
価格:619万円/テスト車=910万3000円
オプション装備:レザーインテリア<レザーシート ルクソールベージュ>(58万円)/電動ミラー(5万5000円)/19インチ ケイマンSホイール(26万円)/PASM(26万円)/PTV<ポルシェトルクベクタリング>(23万8000円)/スポーツクロノパッケージ(30万1000円)/スポーツシートプラス(8万4000円)/コネクト プラス(19万9000円)/ライトデザインパッケージ(5万5000円)/カラークレストホイールセンターキャップ(3万円)/スポーツ エグゾースト システム(40万9000円)/レザーサンバイザー(7万5000円)/ステンレスドアシルガードパーソナルロゴ<発光式>(13万2000円)/オートエアコン(13万9000円)/シートヒーター(7万6000円)/フロアマット(2万円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:1448km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:431.3km
使用燃料:45.6リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:9.5km/リッター(満タン法)/9.1km/リッター(車載燃費計計測値)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
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