ポルシェ718ケイマン(MR/6MT)/718ケイマン(MR/7AT)/718ケイマンS(MR/6MT)/718ケイマンS(MR/7AT)
似て非なる最新型 2016.08.19 試乗記 エンジンをフラット6からフラット4ターボに積み替え、車名も新たに再スタートを切った「ポルシェ718ケイマン」。“似て非なる最新型”はやはり最善なのだろうか。スウェーデン南部のマルメで試乗した。981から982へ
3桁の数字で表される、ポルシェ車のコードネーム。それが変更されるのは、一般にはフルモデルチェンジのタイミング。それ以外の場合、モデルライフ半ばで実施されるいわゆる“マイナーチェンジ”を境目として、前期型/後期型、もしくはバージョンI/バージョンIIと、かように表記されるのがこれまでの常だった。
ところがケイマンの最新モデルには、1950~60年代にモータースポーツシーンで活躍した、水平対向4気筒エンジンをミドマウントするモデルにあやかって「718」のサブネームが加えられ、社内コードネームもこれまでの「981」から「982」へと変更されている。
外観上の化粧直しの範囲も、確かに小さいものではない。一方で、軽量さと強靱(きょうじん)さの両立を狙い、アルミニウムなどが多用されたマルチマテリアル構造が売り物のボディー骨格そのものは、まだ4年足らず前の2012年末に発表された、従来型からの踏襲となる。
こうして、本来であれば“後期型”、もしくは“バージョンII”と、かように呼ばれるのが順当なまだライフの途中であるにもかかわらず、コードネームの変更までが敢行されたのは、そのリファインが通常のマイナーチェンジをしのぐ規模であると同時に、“生粋の新型車”に匹敵するニューモデルであることをことさらに主張しているようにも思えるものだ。
フラット4ターボに換装
ハードウエア部分に施された変更はもとより、前述“化粧直し”の手法に至るまで、基本的なリファインの内容は先行してプログラムが実施された、「718ボクスター」の場合とおおよそ同様。
すなわち、これまでの981型に対する最大の変更ポイントは、完全新開発が行われたターボ付き4気筒エンジンへの換装。ただし、これまでのように、ボクスター用を上回る出力値が与えられ、それを根拠にクーペであるケイマンの方が、オープンボディーの持ち主であるボクスターよりも価格が上、という戦略は改められている。ベースグレード用は300ps、「S」グレード用は350psという最高出力値は全く同一とされた上で、全モデルにボクスターの同等仕様を下回る価格が与えられることとなったのだ。
基本骨格に変更はなく、ルーフラインも踏襲ゆえ、“パッと見”の雰囲気に981型からの大きな変化は感じない。とはいえ、前後バンパーやサイドのインテーク周りなどの樹脂部分、さらには、ライト類のグラフィックなどには新たなデザインを採用。それらによって、確かに一部のイメージは変化した。どちらの見栄えがお気に入りか、人によっての好みが分かれる可能性はありそうだ。
中でも、面積が増したリアスポイラーの下部にレイアウトされた、PORSCHEのバラ文字ロゴが入れ込まれたブラック地の“アクセントストリップ”は、ボクスター同様982型ならではの見せ場のひとつ。
また、結果としてミドシップらしさを強調する、以前よりも大型化されたサイドのインテークは、これまでの自然吸気エンジン時代には存在しなかったターボのチャージエアクーラーに大量の外気を導く目的も兼ねた、機能上必然のデザインでもあるはずだ。
使い勝手も着実に進化
最新ポルシェ車の例に漏れず採用された「918スパイダー」用をモチーフとしたとうたわれる3本スポークのステアリングホイールや、突出量を増したダッシュボード上の空調ベントなどが新たな特徴の、718ケイマンのインテリア。ようやく日本仕様にも、本社開発によるインフォテインメントシステム、“PCM”が採用されるというのも、最新の「911カレラ」シリーズ以降に登場するモデルに共通する見どころだ。
視線を大きく落とす必要があるため、操作性に疑問あり……というよりも、走行中は「探してプッシュ」という行為そのものが危険ですらあった、センターコンソール上のスイッチ数が減少方向にあるのは歓迎すべき事柄。例えば、オプションである“スポーツクロノパッケージ”の走行モード切り替えスイッチは、これまでのコンソール上からステアリングホイール上に設けられたダイヤルの回転で行う方法へと変更された。これにより、ブラインド操作も可能となった。
前車追従機能付きのアダプティブクルーズコントロールや、ドアミラーの死角をサポートするレーンチェンジアシストといったドライバーアシスト機能や、ブルメスター製オーディオが新たに選択可能になったのも見逃せない変更点。
「4気筒エンジンへの載せ換え」ばかりが話題となりがちな718シリーズだが、実はかくも見どころは多いのだ。
意外に大きな動力性能の差
スウェーデンの都市、マルメ近郊の一般道とサーキットを舞台に開催された国際試乗会で乗った718ケイマンには、全モデルに走行モードを可変とする“スポーツクロノパッケージ”や、低速域の操舵(そうだ)力を低減させる“パワーステアリングプラス”、20インチのシューズなどがオプション装着されていた。
かつての不等長排気システム採用時代のスバル車をほうふつとさせる、低音ビートが強調された独特なエンジンの鼓動を背中に感じつつ、まずは2リッターエンジンを搭載するベースグレードでスタート。
MT仕様で5.1秒、ローンチコントロール機能が付加されるスポーツクロノパッケージ付きのDCT仕様では4.7秒という0-100km/h加速タイムも示すように、フルアクセルの際の絶対的加速性能に、文句は全くない。
DCT仕様で緩(かん)加速をしていくと、80km/hほどで7速ギアに入り、1400rpm付近でロックアップされるのは、いかにも“低燃費意識”を感じさせられるチューニング。
ただし、その瞬間のこもり音は耳障り。MT仕様でも、街乗りシーンでの1→3→5速といった“飛ばし”のシフトが行いづらいのは、やはりアップシフト後の低回転域でのこもり音が気になってしまうからだ。
一方、2.5リッターユニットに可変ジオメトリー式のターボチャージャーを組み合わせたSグレードでは、ベースグレードに対するパフォーマンスの向上が予想を上回った。
MT仕様では、ベースグレードではつらかった例の“飛ばし”のシフトもストレスなくこなしてくれる。DCT仕様では、アクセルの踏み増しに対してキックダウンに頼らず、即座にトルクがビルドアップされる感覚が圧倒的に高まるのも好印象だ。
2つのグレード間の動力性能の差は、こうして思った以上に大きい。特に、「MT仕様は、ぜひともSグレードで乗りたい」と、個人的には強くそう思えることとなった。
“死角”があるとすれば……
先に紹介した“走り”に関係するアイテムに加え、今回用意された試乗車にはやはり全モデルに、標準仕様比で10mmのローダウンが図られる電子制御式の可変減衰力ダンパー“PASM”か、もしくはさらに10mm、すなわち標準仕様比では20mmのローダウンが実現され、よりスポーティーなセッティングが施される、Sグレードに初設定された“PASMスポーツシャシー”のいずれかが、オプションで選択されていた。
そんなモデルたちを一般道とサーキットのいずれで乗っても、いかにも俊敏でシャープな“快哉(かいさい)を叫びたくなるハンドリング感覚”は、基本的に共通のイメージ。自在に操れるというテイストがボクスターにも増して高く感じられるのは、さらに高剛性なボディーの獲得を前提に、「よりスポーティーなシャシーのセッティングを施すことができた」とエンジニア氏が語ることと当然関係が深いはずだ。
そして驚いたのは、同時に高い快適性も実現していることだ。最もスポーティーであるはずのPASMスポーツシャシーがセットされたSグレードで、サーキットから一般道に乗り出してすら、その乗り心地は時にしなやかさをも演じ、ほとんど不快感を覚えないのだ。
この仕様で気になるとしたら、むしろ乗り味の硬さよりも、減少したグラウンドクリアランスの方といえそう。いずれにしても、そもそもの従来型の美点に対して、さらに磨きが掛けられたのが718ケイマンのフットワークであることは間違いない。
かくして、サーキットで高回転域まで引っ張った際の伸び感を犠牲にしないまま、(特にSグレードでは)日常シーンでのトルクの太さがグンと上乗せした心臓を新搭載した718ケイマン。そこに“死角”があるとすれば、それはやはりパワーユニットが発する「情感」に、失われた部分が認められることだと思う。
回転の上昇に連れて、澄んだサウンドとレスポンスのシャープさが増していく、自然吸気ユニットならではの高揚感。アイドリング状態から絶え間なく続く、6気筒ならではの緻密な回転フィールは、比べてしまえば718がいくばくか見劣りするに違いない。
だからこそその評価は、得たものと失ったものをどう判断するかによって、大きく変わってくるはず。異なるコードネームは、実はそんなキャラクターの変化をも示唆しているのかもしれない。
(文=河村康彦/写真=ポルシェ)
テスト車のデータ
ポルシェ718ケイマン(6MT)
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4379×1801×1286mm
ホイールベース:2475mm
車重:1335kg
駆動方式:MR
エンジン:2リッター水平対向4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:300ps(220kW)/6500rpm
最大トルク:38.7kgm(380Nm)/1950-4500rpm
タイヤ:(前)235/45ZR18/(後)265/45ZR18
燃費:7.4リッター/100km(約13.5km/リッター、欧州複合モード)
価格:619万円/テスト車=--円
オプション装備:--
※諸元は欧州仕様のもの。車両本体価格は日本市場でのもの。
テスト車の年式:2016年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードおよびトラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
ポルシェ718ケイマン(7AT)
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4379×1801×1286mm
ホイールベース:2475mm
車重:1365kg
駆動方式:MR
エンジン:2リッター水平対向4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:300ps(220kW)/6500rpm
最大トルク:38.7kgm(380Nm)/1950-4500rpm
タイヤ:(前)235/45ZR18/(後)265/45ZR18
燃費:6.9リッター/100km(約14.5km/リッター、欧州複合モード)
価格:671万4000円/テスト車=--円
オプション装備:--
※諸元は欧州仕様のもの。車両本体価格は日本市場でのもの。
テスト車の年式:2016年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードおよびトラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
ポルシェ718ケイマンS(6MT)
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4379×1801×1284mm
ホイールベース:2475mm
車重:1355kg
駆動方式:MR
エンジン:2.5リッター水平対向4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:350ps(257kW)/6500rpm
最大トルク:42.8kgm(420Nm)/1900-4500rpm
タイヤ:(前)235/40ZR19/(後)265/40ZR19
燃費:8.1リッター/100km(約12.3km/リッター、欧州複合モード)
価格:813万円/テスト車=--円
オプション装備:--
※諸元は欧州仕様のもの。車両本体価格は日本市場でのもの。
テスト車の年式:2016年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードおよびトラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
ポルシェ718ケイマンS(7AT)
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4379×1801×1284mm
ホイールベース:2475mm
車重:1385kg
駆動方式:MR
エンジン:2.5リッター水平対向4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:350ps(257kW)/6500rpm
最大トルク:42.8kgm(420Nm)/1900-4500rpm
タイヤ:(前)235/40ZR19/(後)265/40ZR19
燃費:7.3リッター/100km(約13.7km/リッター、欧州複合モード)
価格:865万4000円/テスト車=--円
オプション装備:--
※諸元は欧州仕様のもの。車両本体価格は日本市場でのもの。
テスト車の年式:2016年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードおよびトラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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